【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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そして、雨降って地固まる

「一夏…強かったな…」

 

試合終了後千冬にダメ出しされながらも褒められている一夏を見て、学園で久しぶりに再会した幼馴染に篠ノ之 箒は僅かばかりの疎外感を覚えていた。

自分の中に覚えた疎外感に「そんな事はない」と言い聞かせ、一夏に近寄る。

 

「フ、フン!私が剣を見ていたんだ!勝って当たり前だぞ!」

「ぐぅ…箒は厳しいな…だけど、これからも頼むな!」

「わ、分かればいいんだ!」

 

背を向け腕を組む箒は心の中で落胆していた。

褒めたかったのに素直な言葉が出ない。

歯痒さを覚える…一夏の前では素直でいたいのに素直になれない。

他の女子に話し掛けられるのを見ると、イライラして八つ当たりをしてしまう。

そんな自分の未熟さを意識していても、変えられない自分の弱さに歯を食いしばった。

 

 

 

 

俺は夢を見ているのか…。

 

彼女との出会いは遊郭だった。

薄汚い聖職者に手を引かれ、詰られているのを見て間に入った。

口汚く罵り欲を隠そうともしない聖職者にお灸を据え、俺は彼女の手を取ったのだった。

 

 

 

 

「………随分と懐かしい夢だな」

 

白と再会したからだろうか、前世の夢を本当に久々に見た…しかし、アレだな…今思えばあの時は無茶をしたものだ。

楯無とからかわれながらも試合の反省会をして、一夜明けた火曜日。

俺は前日の疲れが取れないままに目覚める。

何やら体の半分が暖かい…ま た か

 

「起きろ、おい、更識!」

 

俺に抱きついたまま眠る楯無を揺する。

昨夜寝た時は自分のベットに居たのにも関わらず、俺が気付かぬ内に布団に潜り込みあまつさえ抱き着くのだ…なんだ、くノ一かこいつは。

命を狙われてたら確実に命を落とす自信がある。

 

「なによ…まだ四時じゃない」

「やかましいぞ猫が…何で自分のベッドで寝んのだ!」

 

むにゃむにゃと両手で目を擦りながら起きる楯無は、パジャマを着崩していることもあって艶かしい。

モノが良いだけに破壊力がある。

何度も言うが俺も男だ。

考えてもみろ…この寮では迂闊に発散すらできんのだ。

男性諸君、羨ましいと思うのであれば同じ状況に立たされてみろ…泣きたくなるぞ。

 

「減るものじゃないわよ…抱き枕に丁度良いんだから…ふわぁ…」

 

欠伸をしながら扇子を開く。なんともヨレヨレな字で「寝かせろ」と書いてある。

やかましい。

減るぞ、俺の理性の隔壁がな。

 

「俺が男だと言う事を理解しろ…若いリビドーを解き放てんのだから、何時過ちがあるか分からん。あぁ、お前が美人であることを認めるとも…だからだな…」

 

深いため息と共に頭を抱える。

本当に楯無は美人なのだ…認めざるを得ん…。

もし一緒に寝ている所で部屋に誰か乱入でもされてみろ、面倒なことになる。

だが、そんな俺の思いを知ってか知らずか楯無は二ヘラっと笑い

 

「なら、いいじゃない…おやすみ〜」

 

猫が背伸びするような体勢で俺のベッドに眠る楯無…だから自分のベッドは…。

一応、弁解しておくが楯無の事は嫌いでは無い。

好感は持てる…だがな…。

俺は何度目かの溜息をついて、鍛錬の準備を始めるのだった。

 

 

 

 

 

いつものメニューを終え、拳舞を行っているとジャージ姿のセシリアがやってきた。

 

「おはよう、オルコット…すまんがこのまま鍛錬を続けさせてもらうぞ」

「おはようございます、朝から精が出ますわね」

 

先週まで見受けられたトゲトゲしさが無く柔らかい雰囲気だ。

淑女といった雰囲気は実に彼女のイメージに合うものだろう。

 

「いつも朝は鍛錬を?」

「継続は力なり、とな…小学生の頃から、ずっとだ」

 

ゆっくりと体を動かし全身の筋肉に負荷をかける。

すでに全身は滝のように汗が流れている。

…女性相手には不快だろうな。

 

「その、わたくしも御一緒してもよろしいでしょうか?」

「好きにしろ、ついてこれるならな」

 

ニヤリと笑みを浮かべ、拳舞を終える。

セシリアはホッとしたのか胸を撫で下ろしている。

 

「そ、そうですか。では明日から…何時から行っているんですの?」

「四時からやってるが…キチンと睡眠時間を確保して来いよ。寝不足は美容の敵なのだろう?」

 

汗を拭いながら微笑みかければ、セシリアも笑みを浮かべている。

 

「フフフ、抜かりありませんわ。今後…狼牙さんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」

「好きに呼べ、俺と分かるのならばな。のほほんなんぞローローだぞ、ローロー…ギリギリアウトだと思わんか?」

 

セシリアはのほほんから俺に送られた渾名を聞くと顔を背け吹き出す。

人は変わるもの…実に良いことだが、笑いすぎだ。

どうやらムッとしてたのかセシリアは慌てて顔を正す。

 

「コ、コホン、失礼しました。では、狼牙さんもわたくしの事はセシリアとお呼びください」

「分かった…これからもよろしく頼む、セシリア」

 

セシリアはこれから走ると言うのでこのまま付き合う。

 

「タフですわね」

「長く鍛錬をしていればタフにもなる…なぁ、セシリア」

 

二人並んで走っているところをクラスメイトの女子達が驚いた顔で見ている。

まぁ、なんだ…今日からセシリアも、とっつきやすくなるぞ。

 

「なんでしょう?」

「一夏は強かったか?」

 

強くなりたいと願ってやまない一夏。

その誓いを聞いていた俺は、他人の目から見た一夏の姿を見てみたくなった。

 

「えぇ…織斑さんは、強い殿方だと思います。わたくしの全力を真っ向から受けて、諦めなかったのですから」

「フッ…そう言ってもらえるならアイツも浮かばれるだろうな」

 

昨日の試合は間違い無く、俺逹にしろセシリアにしろ必要な事だった。

セシリアからは棘が消え、一夏は望む力の一端に触れた。

実に良い結果だろう。

 

「その…狼牙さんも強い殿方だと、わたくしは思ってますのよ」

「代表候補生にそう言ってもらえるとは…光栄に思う」

 

国家代表生…国の代表になると言う事は今の御時世柄、国の顔になると言う事である。

その卵とも言える候補生は競争率が高く、生半可な努力ではなることすら難しい。

加えてセシリアの場合華々しい社交界に顔を出し、若い年齢で目の回るような忙しい日々を送っていたのだろう。

そんな人物からの賞賛は有難く受け取るべきだろう。

暫く笑いながら言葉を交わし走っていたら、すっかり時間を忘れてしまっていた。

 

「さて、そろそろ切り上げようか…また教室でな」

「はい、狼牙さん…後ほど教室で」

 

シャワーを浴びる事を考えると、時間ギリギリだった。

セシリアに別れを告げ急いで寮に戻るのだった。

 

 

 

 

教室に着き、席に座る。

 

「おはよう、一夏…晴れてクラス代表だな」

「やりたくなかった筈なんだけどな…勝ったからには、ちゃんとこなすさ」

 

軽く眉間を揉みながら苦笑する一夏。

腹を括れよ…俺は安全な位置から応援していてやろう。

 

「クラス代表になったんだ、次の代表戦に勝たないと承知しないからな!」

「箒よ…こう、もっとないのか?」

 

どうにも箒は威圧的でいかんな…素直に褒める、と言った事ができないのだろうか?

 

「箒なりの激励なんだよ…な、そうだろ?」

「あ、当たり前だ!」

 

凛としていて黙っていれば大和撫子と言っても過言では無いが、言動が抜き身の刀のようだと思う。

このままでは一夏は中々振り向かんと思うが…いかんな、どうにも孫を見るような視点で見てしまって。

 

「SHR始めますから席についてくださーい」

 

山田先生が教室に入ってくる。

 

「じゃ、また後でな箒」

「あぁ」

 

箒も席に着き、出席確認を終え連絡事項を告げようとした時である。

 

「先生、少し時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、オルコットさん。どうかしましたか?」

 

セシリアが挙手し、席を立って前に来たのだ。

立ち振る舞いは堂々としている。

 

「クラスの皆様に謝罪をさせてください…わたくしは自身のプライドを優先するあまりに織斑さんや狼牙さんを始めクラスの皆様を侮辱してしまいました。大変、申し訳ありませんでした」

 

深々とセシリアは頭を下げる。

真から出た行動は必ず人に伝わる。

セシリアのそんな様子を見て、一夏は笑みを浮かべる。

 

「気にするなよ、俺たちは気にしてないし仲良くやろうぜ?苗字じゃ堅苦しいし、一夏って呼んでくれよ。俺もセシリアって呼ぶからさ」

「私達も気にしてないしねー」

「今度社交界の事教えてよ」

「あ、私も興味あるー!」

 

ざわざわとざわめき、皆口々にセシリアを迎え入れる。

そんな様子に顔を上げたセシリアは美しい笑みを浮かべている。

 

「青春っていいですね…ぐす…」

 

山田先生はクラスの様子を見て、ハンカチで涙を拭きながら微笑んでいる…涙脆いのか。

 

「山田先生、お時間をいただきありがとうございました」

「はい、では席についてくださいね。連絡事項を伝えますよー」

 

今後のIS実践訓練にあたってのスケジュールや注意事項が書かれている。

ふむ、一年は五月からなのか…専用機持ちが訓練の見本にならなければ、か…頑張ろう。

 

「そして、一年一組のクラス代表は織斑 一夏くんに決まりました〜。一繋がりでいい感じですね」

 

うむ、確かにゾロ目っぽいが大して上手い感じではないぞ山田先生。

クラスのみんなに拍手され、照れているのか一夏は頬をかいている。

 

「何を照れている、シャキッとせんか」

 

一夏の頭に出席簿を叩きつけながら後ろから千冬さんがやってくる。

…厳しすぎやしないだろうか?

 

「なんだ、銀…言いたい事があるのならばはっきり言え」

「滅相も無い、確かに一夏は少したるんでいたな」

「ひでぇ…」

 

尚、俺の発言は背後からの箒の視線の代弁である。

嫉妬深いが、素直になれん…なるほど、自分を追い込んでいるな。

 

「では、クラス代表は織斑 一夏で異論はないな?」

「待ってくれ、千冬姉!」

「織斑先生だ。くだらん事を言ったら追試を受けさせるぞ」

 

出席簿が再び一夏の頭に落ちる。

一夏、良い加減公私を分けような。

千冬さん、一夏の頭は太鼓ではない。

 

「副代表みたいなのは無いのか?」

「ある事にはあるが…?」

 

一夏は俺の方を見ながら笑みを浮かべる。

道連れだと言わんばかりに。

おい待て、止めろ…俺は面倒が…。

 

「なら、俺はクラス代表として銀 狼牙を副代表に推薦する!!」

「「「「異議なし!!」」」」

 

おのれ、民主主義めが……。

クラス全員は盤石の態勢が築かれたとか何とか言って沸き立つ。

 

「静かにしろ!ではクラス代表に織斑 一夏、副代表に銀 狼牙だ。SHRをこれで終わる」

 

仕方あるまい…粛々とその任を全うする事にしよう…。


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