【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
車に揺られ車内にて羞恥プレイを堪能する羽目になった俺は、今晩泊まる宿に着くころには草臥れきっていた。
結局、沙耶さんの事は沙耶さんと呼ぶことで決着がついた。
まだ結婚もしていないのに、義母さん等と呼ぶわけにもいくまいよ…。
今日泊まる宿は、何でも昔の武家屋敷を改築した宿との事で全室和室、風呂も露天風呂と至れり尽くせりだ。
俺は旅の時にケチる事はしない…宿も多少高かろうが良い宿を抑えておく。
別に思い出作りをする訳でもないが、こう言った時に羽根を伸ばしておかんとな…いつものメンバーと一緒とは言え。
部屋割りは何時もの如くと言うか何と言うか…俺、セシリア、更識姉妹が同じ部屋で、沙耶さんとラウラが別の部屋に泊まる形になっている。
この部分は非常に揉めたのだが…何やら企んでいる気がしてならない。
荷物を置いた直後に、旅館の名物である山菜料理を皆で堪能し露天風呂へと向かう。
時期的にシーズン前と言う事もあってか、旅館は俺たちで貸し切り状態…。
まぁ、口酸っぱく男湯には来るなと言ってあるので来ることは無いだろう…来ない、よな?
いかんせん前科があるので何とも言えんな…。
脱衣所で衣服を脱ぎ浴場へと入ると、岩で設えられた湯船に白濁とした温泉が溜まっている。
身体を念入りに清め、髪の毛を玉結びにして上げれば湯船へと肩まで浸かる。
「…沁みるな…」
「ロボ、おっさん臭い事言わないでくれるかしら?」
「…女湯へ、どうぞ」
「いけず…偶には良いじゃない?」
肩まで浸かって温泉を楽しんでいると、すぐ隣に湯浴み姿の白が現れてその妖艶な肢体を俺に晒してくる。
正直、動揺するので止めていただきたい…。
白はそんな俺の内心の動揺を見透かしたように湯船に浸かり、見つめてくる。
「どうかしら、今の生活は?」
「気が休まらんな…なまじ、悪戯好きが多いとな…」
手で軽くお湯を掬うと、湯の花と呼ばれる結晶がちらっと視界に入る。
うむ、今後もこの宿を贔屓にさせてもらおう…。
俺は互いに触れる事にできないと分かっていても、意識せざるを得ない状況から目を逸らし、別の事に思考を巡らせる。
そうでもしないと、白の裸体と言うのは意識してしまう。
数々の男たちを虜にしてきたその妖艶さは、本当に楯無の一つ上なのかと思えるほどだ。
「でも、昔ほど血生臭くも無い…そうでしょう?」
「否定はせんよ。安息の地だと言うのは、まず間違いない。申し訳なくなるくらいにな」
「ロボ…まだ、気にしているのかしら?」
白は俺の正面に移動して、此方の顏を覗き込んでくる。
ホログラムだから当然の如く水面に波が立つことはない。
「何かを得るには何かを手から溢さなくてはならない。俺はそれが我慢ならん子供だった訳だ」
「そうねぇ…今も負い目を感じているのでしょう?特に、此方のご両親には」
「弱い事が悪とは言わんよ…仕方がない事だ…ましてや、あの事件の巻き添えだったとしてもだ」
「それは…」
両親が亡くなった日は…奇しくも『白騎士事件』が起きた日だった。
授業で幾度も習っていた事ではある…意識から逸らしてはいたかもしれんが。
撃ち漏らし…と言うよりも仕損じた破片が、とかそんな所だろう。
…恨むとしたら白蛇だろうな。
あいつが、俺の因果を弄ったとかなんとか夢の中で言っていたからな…。
恐らく、あそこがターニングポイントだったのだろう。
何もなければ、一夏がISを起動させるその日まで知り合う事は無かっただろうし、白とこうして再会する事も叶わなかっただろう。
何とも、複雑なものではある。
「まぁ、この間のミサイル襲撃事件は擁護できるものではなかったがな」
「あれは…まぁ、そうねぇ…」
大気圏突入から即時対応できる状態でなかったら、どうするつもりだったのやら…?
一夏達が居たとは言え、下手をすれば大損害も良い所だろうに…。
IS委員会のトップをやって責任とかそう言うものの大切さが…分かる訳がないか。
なまじ、IS関連の技術を独自に牛耳っている所為で国も強くは言えないのだろう…。
うむ、もしかして独裁…
「ロボ、それ以上はいけないわ」
「頼むから思考を読まんでくれんか。そんなに、分かりやすい表情をしていただろうか…?」
「えぇ、それはもう…父親の様な顔をした後に深刻な事態に直面したような顏をされれば…」
そんなにコロコロと表情を変えていただろうか?
自分では良く分からんものだな…。
「『昔』よりは表情が豊かになっているわよ、ロボ」
「昔は昔で鉄面皮と言うほどでも無かろうに」
「穏やかな顔か怖い顔かの二択しか無かったわよ…」
白は呆れた様に肩を竦め苦笑する。
そんなに表情が乏しかったのか…変化がある分、昔よりは進歩している気分にはなれるな。
少し、逆上せそうになったので湯船の縁に腰掛けえて暗い夜空を見上げている
「―――♪」
「――!」
どうやら、女湯の方ではガールズトークで盛り上がっているようだな…。
ぱしゃぱしゃとした水音と、よく聞き取れないものの楯無達の楽しい話声が聞こえてくる。
覗くことが出来たのなら、素晴らしい景色が広がっている事だろう。
まぁ、そんな邪念を口に出そうものなら素早く此方に侵入してくるだろうがな!
「女湯の方は…まぁ、盛り上がっているみたいだな」
「あら、気になる?」
「さて、な…黙秘とさせてもらおうか」
「あら、狡い人…」
白は、やはり此方の胸の内を見透かしたように目を細めてクスリと笑う。
今も昔も、白に敵う気がせんな…これは。
温泉をしっかりと堪能した後、皆浴衣姿で部屋でくつろいでいると沙耶さんとラウラが部屋を訪ねて来る。
それも、一升瓶を携えてである。
「フフフ、教師の目も無いわけだし楽しみましょうか」
「いや、学生に飲ませるのか…?」
「父様は教官と飲み比べしていたのを私は知っているぞ」
ラウラはドヤ顔で胸を張っている。
若干顔を赤らめているな…。
「もしや…飲ませたのか?」
「だって、ラウラちゃんが物欲しそうな顔をしていたんだもの」
「蛙の子は…か…」
「あら、どういう意味かしら?」
沙耶さんの物言いに、楯無は不満なのか後ろから抱き付いてくる。
必死に意識を背中から逸らして、膝に頭を乗せているセシリアの頭を撫で続ける。
浴衣姿と言う事もあって、沙耶さん込みで皆色気が増している…非常に危険だ。
青少年の目に毒過ぎる。
[あら、人妻も勘定に入れる辺りやるわねぇ]
そんな事をすれば、十六代目に死ぬよりもつらい目にあわされる事が確定するんだが…。
軽く眉間を揉みつつため息を吐くと、セシリアが身体を起こす。
「日本のお酒ですか…付き合いでワインを少々嗜むことはありましたが…」
「ウフフ、セシリアちゃん興味ある?」
「その、少しだけ飲んでみませんか?」
セシリアは更識姉妹に目配せすると、二人ともニヤリと笑みを浮かべて頷く。
此奴ら…何を企んでいるんだ…?
簪は俺の隣に寄り添うようにして正座をし、セシリアも同じように俺の隣に座る。
「仲良しねぇ~、お義母さん嬉しいわ~」
「むぅ…止めてくれんか?」
「父様、飲んでないのに顏を赤くしているな!」
酔っぱらった所為か、ラウラは終始ご機嫌で沙耶さんの隣に座っている。
どうもすっかり出来上がってしまっているらしい…アドヴァンスドとは…。
沙耶さんはグラスを人数分用意して、それぞれにコップを注いでいく。
「今日ぐらいは羽目を外さないと勿体無いわよねぇ?」
「お母様、わかってるわねぇ~」
「「フフフ…」」
簪の隣に座った楯無は、沙耶さんと乾杯しながら一気に酒を飲み干していく。
…毒を食らわば何とやら…俺も一口酒を口にする。
アルコールの度数がかなり高いのか、かなり辛く感じる…うむ、これはこれで美味いな。
セシリアも同じように一口飲むが、すぐに眉間に皺を寄せる。
「その…香りは、いい、ですわね…?」
「あまり無理をして飲むな…そもそも未成年だろうに」
「狼牙も未成年…」
簪はボソリと呟きながら、物凄いペースでグラスの中身を飲み干していく。
そのペースたるや、飲みなれている筈の沙耶さんを凌駕する程だ。
「おかーさん、おかわり!」
「簪ちゃん…少しペース落とさないと…」
「おねーちゃん、なに?」
「いえ、何でもないです…」
楯無がペースを落とす様に警告を促すものの、簪は言う事を聞かず…かと言って母親である筈の沙耶さんも止める事はせずにグラスに酒を注いでいく。
羽目を外すにしても限度があるあろうに…。
「沙耶さん、そのくらいに…」
「お義母さん」
「そう、お義母さんと狼牙は呼ぶべき」
「保護者なのだから、何も問題ないな、うん」
そんなにも俺にそう呼ばせたいのか笑っていない笑顔で沙耶さんは俺を威圧し、それに乗じて簪ならまだしもラウラまで便乗してくる。
セシリアはちびちびと飲んでいるお蔭か、大人しいのが救いではあるが…このままだと全員のタガが外れてしまうのは目に見えている。
俺としてはそれを防ぎたい…そもそも、こんなハメ外しに旅行をしているわけでは無いからな…。
「お、お義母さん…こ、これくらいで…」
「フフーフ…良いわねぇ…最高だわこの響き…」
「お母様、録音は?」
「ばっちりよ~?」
楯無と沙耶さんは互いに親指を出して良い笑顔で頷いている。
こいつら…。
「まさかと思うが十六代目に…?」
「もちろん、聞かせるに決まってるじゃない」
「ヤメロォッ!!」
沙耶さんは事も無げにそう言い切り、口元を隠しながらスーッと後ろ歩きで部屋から出ていく。
ラウラを置いたまま…。
ラウラはラウラで熱っぽい視線で此方に膝立ちで寄ってくる。
浴衣を着たまま膝歩きをしたせいで着崩れてしまっている。
「うむ…私はな、思い切る事にしたのだ」
「…なに?」
ラウラは俺の腰に抱き付くようにしてすり寄り、見上げてくる。
…いや、まさかな…。
セシリアへと目配せすると何故か妖艶に微笑まれる。
「わたくし達、思いましたの…いつかの時の様に」
「いやいや…お前たちが良くてもだな…」
簪とセシリアは両脇をがっちりと掴み、楯無も後ろから俺を抱きしめてくる。
ラウラは眼帯を外して隠されていた金の瞳を此方に向ける。
「確かに、あの時私は身を引いた…けど…」
「まぁ?私達としてはラウラちゃんとも仲が良い訳だし?」
「雁字搦めにしてあげる…ね、狼牙?」
楯無は耳を甘噛みし、簪は簪で耳に息を吹きかけて俺を煽ってくる。
落ち着け、ゆっくりと素数を数えれば良い…あのコミックにも書いてあったのだ。
試されている…試練の時だ…きっと、そうに違いない。
俺は理性を総動員させ、刺激に対して平静を装っていく。
「父様は…狼牙は私では駄目か?」
「いや、そう言う訳ではなく…単にちっぽけなプライドと言うか、口に散々してきた事を守ろうと言うかだな」
「狼牙さん…女性に恥をかかせるものではありません」
セシリアが頬を赤らめたまま笑顔でそう言うと、楯無が離れた瞬間に俺の身体を簪と二人がかりで押し倒す。
「三人も四人も変わらないでしょう?」
「お前らな…」
…酔った勢いと言うのは恐ろしいものがある。
本心を曝け出すのはもちろんだが、タガが外れやすい。
タガが外れた結果が今とも言える訳だが…。
「前向きに善処する方向で収まらんか?」
「意気地なし…」
「うぐっ…!?」
簪が俺の腕を押さえつけたままボソリと漏らす。
楯無が俺に膝枕をしつつ、ニッコリと笑みを浮かべる。
「娘としても、その、女としてもだな…」
「ラウラ、一時の感情に身を任せては…!?」
そうして夜は更けて――
ぼんやりと朝日を眺めながら温泉に浸かる。
夢ならばと思わんでもないが…現実と言うのは何時でも非情なものである。
いや、そう言ってはならんのだろうが…。
過ちを乗り越えていかねばなるまいな…。
「空はあんなに青いのにな…」
「青と言うより朝焼けで榛色だと思うぞ、父様」
「まて、なんで男湯に居る?」
ラウラは何食わぬ顔で、俺の隣に座って温泉に浸かる。
セシリア達は疲労と酔いで今はぐっすり夢の中…ラウラとて疲れている筈なのだが…。
「私はな…きっと、父様と同じように我儘に生きるのだ」
「いや、その結果が酒に任せてと言うのは…」
「い、言わないでくれ!少しは、申し訳ないと思う…」
「そう思うのならば踏みとどま…いや、結局身を任せてしまった時点で俺が悪いな…」
力づくで引き剥がそうと思えば余裕で出来たからな…結局はそういう事だ。
あの時『勿体ない』と思ってしまっていた時点でこの状況は充分に起こり得たのだろう。
情けない話である。
…かつての自分であれば、呆れかえっていたかもしれんな。
「父様が悪いわけではない。ただ…私は嬉しかった…拒まなかったから」
「そう、か…」
ラウラは金と赤のオッドアイで俺の事を見つめ、嬉しそうに笑みを浮かべている。
…帰った時、クラス中から白い目で見られるだろうが…それも仕方ないか。
「そろそろ、出るぞ…髪を乾かしてやる」
「本当か?そうだ、髪形も…」
重い腰を上げて湯船から出れば、ラウラへと手を差し伸ばす。
ラウラは満面の笑みを浮かべて俺の手を掴み立ち上がる。
…さて、両親と祖母の墓前で何と報告すべきか、な?
勢いで書い(以下略
しないってあれだけ言ったのにね、嘘つきですね…私…