【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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偽りの夢を抱くもの  夢の終わりに

試合開始のブザーと共に俺はほんの少しだけ『後方』に瞬時加速をかける。

距離にして一メートルにも満たない、そんな距離だ。

幾度も繰り返し行ってきた多様な瞬時加速のおかげで、歩くように自在に操れるまでになっている。

自分でも化け物じみていると理解はしている。

さて、何故後方に瞬時加速をしかけたのか…だな。

 

「馬鹿な!?」

「くっ!狼牙のやつ!!」

 

両サイドから瞬時加速で第四世代機を駆る一夏と箒が、同時に斬撃を仕掛けてきたからだ。

回り込みが大分上手いな…これは、寝ている間にみっちり特訓してきたようだ。

…これで追いつかれては天狼の名が泣くと言う物だ。

 

「斬り込みご苦労、吹き飛べ」

 

足裏に境界を作りだして、文字通り踏み込んで回し蹴りを叩き込む。

一夏の首を刈るように叩き込まれる回し蹴りは六基のバーニアが一斉に噴き出して圧倒的な加速を持って叩き込まれる。

しかし、それを防ぐかのように双天牙月が差し込まれ受け止められる。

 

「っ!しっかりしなさい!」

「わりぃ!!」

「動きが止まりましたわ!!」

「皆、一斉射!!!」

 

将冴の号令と共に、俺を取り囲むようにして展開していたセシリア、ラウラ、シャルロット、簪が飽和砲撃を行う。

受ける訳には行かない俺は双天牙月を蹴り飛ばした反動で左に飛び出し、さらに境界面を蹴って直角に将冴の元へと向かう。

通常のラファールと舐めてかかってもらっては困るからな。

俺の背後にはセシリアの偏向制御射撃と簪のホーミングミサイルが追いかけてくる。

やはり、帰って来た時も思ったが…動きに無駄がない。

では、少しばかり驚かせるとしよう。

 

「はああああ!!」

「っく!やるね!?」

 

飛び蹴りを将冴に叩き込むと、将冴はビームランチャーを盾にして受け止める。

この一瞬だけで良い…俺は其処から壁を蹴るようにして後方宙返りしながら迫りくるセシリアと簪の攻撃をやり過ごす。

行き場がなくなった攻撃は真っ直ぐに将冴へと降り注ぐ。

 

「うわああああ!?」

 

あの程度で墜ちる訳もないだろう…だが、これで将冴の動きを一時的に止められた。

背後に殺気が迫るのを感じた俺は素早く体を捻り、シャルロットのシールドピアースによる攻撃を脇を通すことによってギリギリで避けて脇を締め上げる。

 

「ラウラ!!」

「父様、漸く捉えたぞ!!」

 

背後に隠れる様にしていたラウラが瞬時加速で此方の背後に回り込み、AICによる拘束でシャルロットごと俺の動きを止める。

恐らく、範囲を上手く絞り切れなかったのだろう…それだけ俺に対して余裕がないのだと思うと嬉しく思える。

 

「チィッ!!」

「銀ぇっ!」

「今度こそ!!」

 

箒と一夏はAICの範囲に入る訳にも行かず、雨月によるエネルギー弾と雪羅の荷電粒子砲を寸分違わずに俺へと撃ち込んでくる。

それと同時に、土煙から重装甲の機体…件のゲーム風に言えばライデンが飛び出しながら此方に両肩の装甲を展開…バイナリー・ロータスと呼ばれる戦艦クラスの砲撃を行うビームキャノンを低出力ながら此方に撃ち込んでくる。

流石に巻き込まれると判断したラウラはAICを解除、シャルロット共に離脱する。

AICの拘束が解けた瞬間に俺も瞬時加速を使って離脱するが、バイナリー・ロータスが機体の表面を掠めていき、ガリガリとシールドエネルギーが削られていく。

 

「織斑先生!圧倒的に俺が不利なんだが!?」

『お前の天狼ではあっという間に形成が逆転するだろうが』

 

ぐうの音も出んがな…ましてや、紅椿と同じ本格的な第四世代となっているからな…天狼は。

だが、流石に装甲の表面が炙られるだけでダメージを受ける様では拙い…時間にして五分も経っていないのだからな。

一夏達も俺を墜とせなかった時の特別訓練が恐ろしいのか、必死だ。

 

「まったく、とんでもないやつだ…」

「気に入ってもらえたかな?皆でタコ殴りにする様で悪いけど…銀君には負けてもらう!」

「タダでは負けてやれ…っ!?全機散開!!」

 

上空から突如出現した反応に目を見開き、アリーナ内に居る全員に離れる様に指示しつつ将冴の盾になるように前へ出る。

仮に今の状態で将冴の身に何かあった場合…彼方側の肉体が目覚める事が無くなってしまう。

それだけは避けなくてはならないからな。

将冴を真っ直ぐに狙ったアリーナのシールドエネルギーを突き破るほどの高エネルギー体は、俺が盾となる事で防ぐ。

しかしたった一撃でシールドエネルギーが底をついてしまい、俺は無様に地面に激突してしまう。

 

「銀君!」

「問題ない…それよりもだ…」

『あぁ、今更ながらバカから連絡がきた。全員、銀と柳川を残して撤退しろ!』

 

アリーナ内に地面に衝突する音が二つ…いずれも、束さんが手がけた無人機…『ゴーレム』と呼ばれる型のものだ。

まったく…戦闘データが取りたいからと無理矢理送り込むとはな…。

 

「納得いきませんわ!狼牙さんは病み上がりで…!」

「セシリア…問題ない、あの程度の木偶ではな」

 

素早くラファールから飛び出した俺は、すぐに天狼神白曜皇を身に纏い土煙から飛び出す。

背面のウィング・スラスターは殺る気充分と言わんばかりに展開装甲を発生させている。

 

「銀君、本当に大丈夫なの?」

「あぁ…それよりもだ…束さんはお前をエネルギー切れにさせるついでに戦闘データを取る算段だ。行けるか?」

「もちろん…僕だって修羅場は乗り越えてきている」

 

俺の隣までやってきた将冴は、ライデンから軍人の様なマッスルボディのアファームドを展開して拳を構える。

セシリアが簪に引っ張られながら此方を睨み付けてくるが…まぁ、後で甘やかせてやれば溜飲も下がるだろう。

 

『みんな~!聞こえてるかな~?大天才の束さんだよ~ん!』

「束さん!いくらなんでもやりすぎだと思います!」

「俺の胃を労ってくれても良いと思うんだが…?」

 

ゴーレム経由でアリーナのスピーカーが乗っ取られて束さんの声が響き渡る。

観客席の方を見ると、束さんの声が響き渡った瞬間『またか…』と言うような顔をしてホッとしている。

…俺が寝ている間に何があったのか、じっくりとっくりお仕置きしながら聞く必要があるようだ。

 

『え~、しっらな~い!それじゃね!実戦形式の模擬戦いってみよ~!』

 

束さんの宣言が終わるや否や、二機のゴーレムは腕の先からエネルギーブレードを展開しながら真っ直ぐに此方へと突っ込んでくる。

俺と将冴は左右に別れてゴーレムを誘導…一対一の状況に持ち込んでいく。

先ほどまでラファールを使っていた所為か、感覚が違って戸惑うな…鋭敏に過ぎるが直ぐに慣れるだろう。

此方に向かってきたゴーレムのエネルギーブレードを展開装甲で受け止め拮抗させる。

…箒の糧となる様に扱うとしようか…。

 

「しぃっ…!」

 

BT兵器を扱うような感覚で四基のスラスターをまるで剣の様に扱い、ゴーレムを切り刻んでいく。

ゴーレムは両手からエネルギーブレードを発生させてこれらを迎撃していく。

どうも近接格闘戦は俺のデータが流用されているようで、反応がかなり良い…以前戦った時のデータが元になっているのかもな。

些か手加減しているようで『つまらん』ので、ウィング・スラスターでゴーレムに斬りかかりながら同時に踏み込んで近接格闘戦を仕掛ける。

実質的に六本の腕を同時に扱っているような状況だ…ゴーレム側も反応が良いとは言え、手数と破壊力の差で徐々に装甲が砕け始める。

 

「結構早い…けど!!」

 

横目で将冴を見ると、実体化させてビームサブマシンガンで牽制しながらビームトンファーによる高速格闘戦を仕掛けていっている。

若干、不慣れな様だな…トンファーを振りぬく時にぎこちなさを感じる。

だが、それでも将冴は一級の戦士なのだろう…油断も慢心も無く果敢にゴーレムに躍りかかり、ダメージを蓄積させていっているように思える。

…何かを待っているようにも思えるが。

 

「将冴、タイミングを合わせられるか!?」

「大丈夫!」

「では、くだらん模擬戦も此処で終わりにさせてもらおうか!!」

 

ウィング・スラスターでゴーレムの肘関節を両断して、足にある参式王牙で胸部装甲を断ち切りつつ将冴の相手しているゴーレムに叩き付ける様に弾き飛ばす。

爆弾が爆発したかのような金属音と共に衝突したゴーレムは、バランサーがイかれたのか一瞬だけ動きが止まる。

俺や将冴の様な高機動戦が得意なIS相手には致命的な隙だ…沈んでもらおう。

 

「バァニングゥ…」

「これで仕舞いにさせてもらう…」

 

互いに立ち位置を変える様にして回り込み、ゴーレムに肉薄する。

こうまで察しが良いと、長い間闘ってきた友の様にも感じてしまうな…。

ともあれ…

 

「打ち抜け…!!!」

「ジャスティィィィィス!!!」

 

将冴が相手をしていたゴーレムに掌底を叩き込み、インパクトの瞬間に最大出力の銀閃咆哮を撃ち込む。

同時に将冴は、俺が相手をしていたゴーレムの脆くなった胸部装甲目がけて渾身のストレートを叩き込んで粉砕する。

二体のゴーレムとも衝撃に耐えられなかったのか粉々に吹き飛んでしまったな…。

 

「ふぅ…これで終わりだね」

「あぁ…中々楽しい模擬戦ではあった…鬼ごっこよりかはな」

 

互いにフルフェイスの奥でニヤリと笑みを浮かべて、がっちりと握手をする。

さて…これから来るであろう生徒会の書類の量を考えると…逃げ出したくなるな…。

 

 

 

「沈む夕日って言うのは何処も同じなんだね」

「ほぼ同じ世界観だ…そうそうおかしなことは起こるまいよ」

 

放課後、将冴と二人で会話がしたいと言われて夕日の綺麗な海沿いの道を車椅子を押しながら歩く。

十一月ともなれば寒くもなるので、将冴の膝にはブランケットをかけてある。

 

「…なんとなくね、そろそろ起きちゃう気がしてね。君と二人で話してみたかったんだ」

「…そうだな、俺もお前とサシで話したかった」

 

此処に至るまで会話は殆ど事務的な内容ばかりだったからな。

腹を割って…とは言わないが異なる世界の者同士…似た立場の者同士話したいと言うのはある。

 

「一夏から銀君の話は聞いたよ…いつもみんなの為に悩んで、身体を張って…そして…」

「恐い人、か?」

 

将冴は静かに頷く。

恐い、と言うのは恐らく一夏との決闘の時の事を差しているのだろう…。

あの時は手を抜くことなく威嚇したからな…。

 

「決闘騒ぎの話も聞いているようだな…。将冴、俺はな…ここではない遠く遥かな世界で血の海を作り上げていた。所謂人殺しだ」

「ッ…でも、それは銀君ではないんじゃないかな?」

 

確かに…この手を赤く染めていたのはロボと言う一匹の狼だ。

少なくとも、今はこの手を染めたことは一度もない…幸いなことにな。

だが…将冴が此処にいると言う事は…。

 

「いや…前世から背負ってしまっているものだ…人の死を覚えてしまっている。それが悪い事ではない。だが…」

「銀君は恐いんじゃなくて、臆病なんだよ。僕は、そう思う。だって、皆と楽しそうに話している人が恐い人だなんて思えないからね」

 

この男は容易く人の心理を突いてくるな…俺よりも壮絶な事故に見舞われたからだろうか?

こういっ手合いの何が恐ろしいのかと言うと…人知れず、自分の中の泥を溜め込んでいってしまうと言う事だろう。

他人を深く理解できる分、自分に大して鈍感になってしまう。

…しっかりしているようで危うい、かといって指摘もあまり実感できんだろう。

…向こう側の一夏達に期待するしかあるまい。

 

「あぁ…そうだ。俺はなによりも失う事を恐れる。失ってしまえば…コップの中の水が零れたら戻らないのと同じように…元には戻らない」

「そうだね…けれど、それで良いんじゃないかな?誰も彼もが強く居られるわけじゃない」

「もっともだな…」

 

そう、それもまた真理だろう。

完璧なものなど何処にもない…ただ、男としての意地が弱みを晒したくないと言うだけだ。

 

「ん~…なんだかぼんやりしてきた…かな」

「そろそろか…将冴…お前は、他人に気を遣うな。自分を大事にしろよ?で、なければ…取り返しがつかなくなる」

「それって…――」

「なに、爺の世迷言だ…頑張れよ、将冴」

 

はらりとアスファルトに落ちるブランケットを眺めながら…胸中に過る寂しさを噛み締める様に呟いた。

世界を越えてやってきた友人に幸あれと。




sya-yuさんのSS→http://novel.syosetu.org/40105/

コラボはこれにて終了です。
コラボ先のsya-yuさんには最大限の感謝を…。

反省としてはあまり話を広げられなかった事でしょうか…精進あるのみ。

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