【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
将冴が此方の世界に来た翌日。
手持ち無沙汰にする訳にもいかないと言う事で、将冴は俺の居た孤児院から束さんの推薦を受けて一日だけ学園を見学をする事になった。
例のごとく質問責めの嵐となったが、千冬さんが見事にカットしてくれたので今はナリを潜めている。
さて…午前の授業を終えて、今は昼休み。
皆で学食で美味しそうなランチを囲んでいる。
あぁ、本当に皆美味そうなものを食べているな…。
「銀君…その…おかゆ、美味しそうだね?」
「ありがとう、嘘でもそう言ってもらえると少しばかり救われる」
学園中の視線が将冴に集まり注目されている最中、皆和定食だの洋定食だのラーメンだのと頼んでいるにも関わらず、俺はと言うと白粥に梅干し…たったこれだけである。
肉が食べたい…牛牛牛豚鶏牛牛牛の順番で炭火焼にしてやりたい。
具体的にはバーベキューとかどうだろうか?
搾りたてのパインジュースを使ったバーベキューソースに肉を漬ける事で消化にも優しくなるはずなんだ…誰か、俺に肉を…ウゴゴ…。
「狼牙さんは胃の調子がまだ優れませんから…」
「ある意味自業自得よねぇ…」
「一人で飛び出すから…仕方ない、かな?」
愛しい三人の嫁は慈悲無く現実を俺に突き付けてくる…事実その通りなんで仕方ないが。
将冴は不思議そうな顔で此方を見てくる。
「一体、銀君は何をしたの?」
「なに、皆より早くガガーリンの気分を味わっただけだ。目が覚めたら青より青い地球…中々爽快だったぞ?」
「この間襲撃があったって話はしたろ?その時に手強い奴を俺たちから遠ざける為に、単騎で宇宙に上がってたんだよ狼牙は」
白粥を一口入れてゆっくりと噛む…とにかく消化によくせんと戻してしまうそうだからな。
約二週間に及ぶ生命維持は体調こそ維持しつづけたが、やはり人間らしい活動を行わなければ弱るところは弱る様だ。
まぁ、筋力自体は落ちてなかったので俺としては何も問題は無いのだが…。
この学園に来てから内臓を痛めない日など無かったからなぁ…。
「実際、銀が来なければ私たちはペシャンコにされていたな…」
「そうだね。広範囲に及ぶ重力操作…日本は地震大国だから影響が出なくて良かったよ」
しみじみと箒が頷きながら言うと、シャルロットも胸を撫で下ろしたかのようにホッとしている。
海外では地震が然程起きないからな…多少の揺れでも感じると不安になってしまうのだろう。
実際、以前地震が起きた時にはセシリアが腰を抜かしてしまって動けなくなってしまったことがあったくらいだ。
…あぁ、涙目で俺を見上げて来た時は不覚にもドキりとさせられたものだ。
シチュエーション萌えとでも言うのだろうか…?
「あんな物を作り出す組織があると言う事の方が私は驚きだったがな」
「まぁ、ね…いくらISがトンデモだって言ってもアレはやりすぎよね?」
俺の隣に座ることで膝の上に座らないと言う事を妥協したラウラは、したり顏でサンドイッチを頬張っている。
鈴も軽く身震いしつつ軽くため息を吐く…戦闘データを見たが、甲龍のスペックを活かした戦闘は目を見張るものがある。
鬼ごっこともなればラウラに次いで注意しなければならんな…きっと俺が使うISはラファールだろうし。
午後の授業は、試作ISと言う事になっている将冴のV型機を交えた
無論天狼を使う事はご法度となっているので、ラファール俺カスタム(仮称)の久々の出番だ。
公開されているデータを見る限りではV型機込みでの戦闘となると、確実に俺が不利だ。
性能差をテクニックで補おうとしても数がな…1:7の戦力差…酷い話だ。
これが三機くらいならまだどうとでもなるんだが…。
「なんだかこっちはこっちで大変みたいだね…」
「ある程度カタは付いているんだろうがな…根本的な部分はこれからだろう」
例えば今の女尊男卑。
例えば宇宙開発の国境を越えた協力。
…もっと言えば亡国機業の根絶か。
欲を言えばキリがない。
俺たちは、今ある平和を噛み締めて生きていくべきだろう。
学生が学生らしく漸く学園生活を送れそうなのだからな。
「あぁ、いたいた…銀君、次の授業で使うISの事なんだが」
「あぁ…デュノア先生…やはりラファール用の追加パックに悪戯を?」
「悪戯とは失敬な…ロマン溢れる仕様と言ってもらいたいものだね。それで、良ければ授業前に説明したいのだけど…」
アランさんが小走りで此方へと駆け寄ってくれば、タブレット型の端末をちらつかせながら笑みを浮かべている。
シャルロットはアランさんに小さく手を振って笑みを浮かべている。
将冴は…何故かアランさんとシャルロットを見て若干顔を綻ばせている。
確か、彼方では束さんがMARZとか言うダミー会社を立ち上げていて、そこに吸収合併されていたのだったな。
此方では、アランさんがより近い位置に居るからな…いや、父親が同じ名前とも限らんのだが。
「すまんが、次の準備もあるんで俺は先に…頼むからお前たちはそんな目で見るな…」
「「「……」」」
「銀君、本当に三股なんだね…良くないと思うなぁ」
「我儘になった結果がこれだ…なに、愛する者が多いのもそう悪い話でもない」
セシリア達は愛していると言われただけで態度を軟化させて、ニヘラっとだらしない笑みを浮かべている。
箒達は逆にどこか達観したような顔をした後に三人で顏を見合わせている。
…お前たちで一夏の首輪をやる気か?
恐らく、破綻するぞ…案外シャルロットも腹黒いところが…。
「どうかしたかな、銀君?」
「いや、なんでもない…今日も平和で善き事哉と…」
シャルロットがニコリと笑みを浮かべて此方を見てくるが、目が笑っていない。
馬鹿な…思考を読まれた?
ポーカーフェイスを気取っていた筈なんだが…シャルロット…恐ろしい娘よ…。
「兎に角、先に行く。一夏、将冴は頼んだぞ」
「おう、任せとけ」
俺はアランさんを伴ってそそくさとその場を離れる。
思考がダダ漏れ…どうにかせんとなぁ…。
次の授業もあるので、ISスーツに着替えてからピットへと向かう。
さて…俺の使っていたラファール俺カスタム(仮称)だが、漸く正式名称が決まったらしい。
その名もラファール・エルメス…あれからオプションユニットの配置と形状を変更したとの事で今実物を見ているのだが…。
「随分と脚部がごつくなったな…」
「銀君、結構足癖悪いだろう?この間の『F』との戦闘で得られた重力干渉装置を脚部に搭載してみたんだ」
「また、束さんとの合作か…俺はとんでもない人を学園に呼び込んでしまった気がする…」
「はっはっは、銀君には感謝しているよ」
タブレット端末を受け取り、ラファール・エルメスのパッケージ…
足を覆う様に付けられた六基のバーニアがパッケージに該当する部分だ。
バーニアを脚部に集約することで上半身の被弾面積を小さくしつつ、ペイロードを確保する。
と言うのは、建前である。
本来の機能は脚部に内蔵された重力境界生成能力だ。
簡単に言えば重力による境界面を作り出し、足場とする能力だ。
極小範囲…要は足の裏にしか生成できないのだが、足場を作ることで踏ん張りが利くようになる。
さて、ISと言う物は足場も何もない空中での戦いになるため、基本的には踏ん張りと言う物が利かない。
だからこそ、俺は瞬時加速による加速性能を利用して格闘戦を仕掛けていたのだが、この力があると近接戦闘や機動力に差が出てくる。
具体的には、瞬時加速を使うのを最小限に抑えることが出来る。
つまり、俺の胃に優しいパッケージとなる。
「空中で踏ん張りが利けば、某赤い彗星の様なマニューバーも可能な筈なんだよ」
「筈とか止めてくれ…もしや、今日が初めて稼働するのか?」
「データ取り、期待してるよ?」
「今すぐ外せぇっ!!!」
この人、段々束さんの様になってきていないか?
マッド・サイエンティストに片足を突っ込んでいるような気がする。
「大丈夫、シミュレーションではキチンと作動しているし、出力にもリミッターがかかっている」
「本当に勘弁してくれ…」
俺は渋々と言った感じでラファールに身を預けて装着する。
やはり、反応が若干悪いな…この辺りは天狼とは違うから文句は言えまい…。
ウェポン・ハンガーにかかっていたヴェント・ルーを手に持ち、カタパルトに乗る。
「異常があったらすぐに言っておくれ」
「もうすでに止めたい気分だがな…狼牙、出るぞ」
電磁カタパルトが展開されて機体が撃ち出され、アリーナへと飛び出していく。
軽く機能を確かめる為に足の裏に境界面を作り出し一気に蹴り出す…なるほど。
瞬時加速程ではないが、使い方次第では三倍の速度に見せかける事もできそうだな。
生憎と仮面は付けていないが。
前方に目を向けると、テムジンを中心として一夏達が布陣を展開している。
…指揮官は、将冴か。
「本当にラファールとは思わなかったよ…」
「天狼は第三次形態移行を果たしていてな…速度に攻撃力が乗ってけが人が本当に出かねん」
「初めて会った時の機体のことだね…君が敵として現れなくて本当に良かった…と思うべきかな?」
ゆっくりと槍状のヴェント・ルーを振り回し、構える…大丈夫だ…やれる。
『ルールを説明する。制限時間は十分、制限時間に到達するまでに銀が墜ちれば織斑達の勝利。逆に、銀が全機を行動不能に追い込むか逃げ切れば銀の勝ちだ』
「わかりました、織斑先生」
「今回も勝たせてもらうぜ、狼牙!」
「そうやすやすと勝たせはせんよ…なんせ…」
槍の穂先を将冴へと向ける。
まるで宣戦布告するかのように…。
何せ異界からのお客様…こんなチャンスは中々無い物だからな。
「普段居ない客人が居るのだ…強かったと思わせる程度には暴れさせてもらう」
「っ…狼牙さん、今日ばかりは攻めに来ますわよ」
「大丈夫、オルコットさん…油断なく攻めるよ」
互いに視線を交錯させ、戦いの火蓋は切って落とされた。