【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
目の前に現れたロボット…件のゲーム風に言うとテムジンか…それにゆっくりとした挙動で近づく。
向こうも此方を警戒しているようで、俺に向けて大剣をモチーフにしているであろうライフルを片腕で突き付けてくる。
「いきなり、現れて警戒しているのでしょうが…僕に戦う意志はありません」
「で、あれば…ソレをおろしてもらいたい。束さん、解析結果は?」
『たーさんっ!ともかく、その機体から検出されるエネルギーはISによって発生されるものだねぇ』
俺は両腕を上げて戦う意志が無いことを示しつつ、束さんの解析結果を見る。
つまり、なんだ…目の前のはISでロボットゲームのプレイアブル機体と同じ外見をしたもの、と…。
うらやm…否、趣味的な機体だな。
[あら、この機体はご不満かしら?]
「不満は無いが、目の前の機体はロマンがあって非常に宜しい」
「束さん!これ、どういうことなんですか!?」
しみじみと舐めまわす様にテムジンを眺め、ライデンとかアファームドとかも機種として発展してるのだろうか?等と思いを馳せていると、テムジンの操縦者が束さんに声を若干荒げながら腕を振り回している。
…束さんの知り合い?
まぁ、若干丸くはなっているから其処まで不思議な事でもないか…?
腕を組んで首を傾げ考え込むが、どうにも何か引っかかる…。
『はぁ…?お前みたいなの知らないんだけど?初対面の奴に気安く名前で呼ばれたくはないね』
「な、何を…え…?僕です!柳川 将冴です!!」
柳川 将冴と名乗ったテムジンは、頭部のみを解除し素顔を露わにさせる。
黒髪黒曈、片目は前髪で隠していてキタローちっくな雰囲気の…何というか年上を片っ端から撃ち落とす天然ジゴロな雰囲気を纏った顔だな。
[随分具体的じゃない。確かに可愛い顔つきをしていて、からかいたくなるけど]
何というか…
顔つきとか似ているわけではないのだが。
ともあれ、将冴少年は大分焦ったような顔をしている…と、言うか束さんの名を出し尚且つ知り合いではないと言う…確定的だな。
「将冴と言ったな…少し落ち着いてもらいたい。束さん、すまないがラボから人払いを…」
『ろーくん?まぁ、いいけど…』
俺はISの展開状態を解除して、将冴へと軽く手を振る。
一先ずは安心してもらう必要があるからな…原因はわからんが、他世界からの来訪者だしな…。
白には、少し仕事をしてもらおう…調べ物は白に限る。
[人使い…いえ、コア使いの荒い人ね。まぁ、確証を得るためにも必要なことだし請け負ってあ・げ・る]
すまんな、他人よりも勝手知ったる元嫁…とな?
白に頼りきりなのは分かっているが、今みたいな異常事態は迅速な行動が求められる。
向こうも、ISを解除して不安そうに眉根を寄せて此方を見ている。
「銀 狼牙だ。IS学園では生徒会副会長、IS委員会の専属専用機持ちだ。そして…恐らくお前もIS学園所属、だな?」
「えっ…何でそれを…?」
「…昔取った杵柄と言うか…今回みたいな事件に心当たりがあってな」
頭を抱えたくなる衝動を抑えつつ、なるべく安心できるように微笑みを浮かべる。
暫くすると、人払いが済んだのか束さんがスコールを伴ってアリーナ内へとやってきた。
「ろーくん、人払いを頼むってことは…」
「スコールが居る前ではし辛い話ではあるんだが…まぁ、いい」
「スコールさんまで…僕の事がわからないんだろうか…?」
将冴は大分参ってしまったのか、特に気にも留めていない様子のスコールを見て周囲がおかしいのか、自分がおかしいのか判別できなくなっている。
だが、それも無理もあるまいな…彼は…。
「一先ず、だ…将冴…参ってしまっているところ悪いんだが、答え合わせをしたい。そのISの事も含めて今まで過ごしてきてきた生活やお前の知っている人物の事…話してもらっていいか?」
「…わかりました、それで何か分かると言うのであれば…」
そうして語られるのは、俺の知っている事実とは大きくズレ込んだ、八月までの内容だった。
まず、将冴の持つテムジン…あれは紛れもないISであり、彼の知る束さんが作り上げた次世代型の通称V型機『バーチャロン』。
先ほど見せてもらった基本形態のテムジンの他にもライデン、アファームド、フェイ・イェン、スペシネフと言った機体に変身できるそうだ。
恐らく白式、紅椿を第四世代とした時の発展形と言う事で数字の五と、Virtual Onの頭文字であるVとのダブルミーニングとして付けられてのだろう。
展開装甲よりも省エネかつ、まったく用途の異なる機体に瞬時展開可能ともなればな…束さんが目を輝かせて解体しそうになるので、折り畳むのに苦労した。
そんな様子を見て、彼が笑ってくれたのは良かったが。
そして…クラス対抗戦に現れるダイモンと呼ばれる存在、彼と関わったお蔭で態度を既に軟化させていたラウラ…そして、銀の福音戦での戦闘も撃墜する点では同じだが、其処に至るまでの流れも違う。
これから導き出される答えと言うのは…。
「それで、今日はV型機に搭載されているVドライブをフルドライブさせてのデータ収集をたば…篠ノ之博士としていたんです。データ取り事態は順調だったんですけど、犬…狼…なのかな?目の前に大きな狼が現れたと思ったら急に眠けが来て…」
「目が覚めたら別の場所で俺が目の前に立っていた…と言った所か」
「今調べてみたけど、しょーくんのISとはコアネットワーク繋がってないねぇ…っていうか、微妙に違ってて繋がりにくい感じ?」
俺が人払い込みで話をする機会を設けた事と、彼の話す事実とですっかり興味を持った束さんは向こうの束さんと同じ渾名で将冴を呼び始めた。
あまりにも束さんの熱い掌返しに将冴は困ったように苦笑している。
どうも、話を聞く限り向こうの束さんは此方の束さんの数倍コミュニケーション能力が長けているようだ。
「で、銀君…結論としてはそういう事なにかしら?」
「あぁ…所謂平行世界からのお客様だ。境遇を聞くに、彼は並行世界での俺と言う立ち位置だろう」
互いに両親を亡くし、大怪我を負う。
束さんとも親交があり、一夏とも親友関係である…共通点としては充分だろう。
まぁ、問題は俺が睨んだ通り彼は年上キラーだったと言う事だが…さて、より確実になる情報は…。
「お待たせ、ロボ…そして、初めまして将冴君。私は白蝶。彼のISコアよ」
「いや、丁度いい。それで、柳川 将冴はこの世界には?」
将冴のISコアとは繋がりにくいと言う事もあってか、白蝶は白い着物を着崩した姿で立体映像化して現れる。
…こんな時にからかわんでもいいだろうに…。
将冴は若干目を逸らしつつ頭を軽く下げている。
「居ないわ。三年前にご両親共々海外で事故…いえ、誘拐事件に巻き込まれて…」
「歴史の差異だな…ともあれ、存在して『いた』事はこれで確定した…問題は魔力の供給源と言う事だが…」
「魔力…?こっちには魔法があるんですか?」
必死に無い頭をフル回転させていた所為で、思わず心の中が漏れてしまっていたな…。
あまりにもファンタジーなキーワードに三人の視線――その内束さんだけが興味津々――が俺に突き刺さる…居心地悪くなるんでやめていただきたい。
「いいか、突っ込むなよ?答えていたらキリがないからな」
「「「……」」」
三人は静かに頷き、興味と疑念と期待の眼差しで俺を見てくる。
白はと言うと俺の背後で背中を向けながらプルプルと震えながら笑いを堪えている…同じ世界出身ではないか…オノレェ…。
「ふぅ…まず、だな…こう言った世界観の移動と言うものは、原則として出来ない。各々の世界には干渉を拒絶する様に鍵付きの扉があるからだ。これを無理矢理突き破ろうとするとまず間違いなく死ぬ」
「そうね…そういった扉の鍵を知っている者も居るけどごくごく一部の人間だけだったわ。裏技もあるんだけど、ね」
模倣の魔法使い…名を桜花と言うのだが、奴は正攻法ではなく裏技で他世界への出入りを可能としていた。
恐らく今も変わらずに他世界での探求に励んでいることだろう。
「そして、仮に世界移動に成功したところで安心はできない。世界が定めたルールを守る必要があるからな。これを破ると強制退去と言う形になる。誰かの手引きで来た場合はそいつにペナルティが行くんだが…まぁ、それは関係ないだろう…と、言うかあってほしい…」
桜花は悪戯でこんな世界移動を起こしたりはしない。
労力に見合わんからやらんと明言していたからな…と、なると考えられるのは白蛇の仕業だが…あいつは俺に恨みがあるからな。
蛇の如き執念で俺いじめをするのは本当に止めていただきたい…。
と、言うかそれをする度に元嫁から嫌われていくのが分からんのだろうか?
分からんのだろうなぁ…。
「ろーくん、しょーくんの話を鑑みるに…」
「恐らく、共振現象実験による共振とVドライブとの共鳴によって来てしまったのだろう。問題は…この世界に居る為に維持している燃料…魔力だな。魔法なんて存在しない状態でどうしてこんな事が起きてしまったのか…」
「ふ~ん…ふむ~ん…ろーくん!天才束さんがしょーくんの身体を調べてもよろしいでしょうか!!」
「…解剖するなよ?」
「僕の意志は反映され…」
「ないな。すまんが自分の為でもと思って諦めてくれ」
束さんは素早く将冴の襟首をひっつかんで走り去っていく。
何時か聞いたあの猛牛が駆け抜けるかのような足音をさせて、でだ。
アリーナに残ったのは俺とスコールだけだ…白は既に姿を消している。
「話を総合すると…銀君は柳川君と同じ来訪者って事かしら?」
「いや、俺の場合は前世でそういう事に関わっていた…頼むからそんな目で見んでもらえんか?」
分かってはいたが、スコールは少し痛々しい人を見る目でこちらを見つめてえくるが小さくため息を吐いて気を取り直す。
正直、三股を否定する目で見られるよりクるものがある。
三股は良いんだ…互いに納得の上でだしな…あの三人が基本的には仲が良くて本当に助かっている。
「まぁ、いいわ…それで、さっき言っていた燃料の維持ができなくなるとどうなるのかしら?」
「強制的に元の世界に戻ることになる…ただ、何か引っかかる…」
将冴の証言にあった『眠くなった』の一言…恐らく共振現象の所為ではあるのだろうが…。
言いしれぬ不安を胸に抱え、俺は深くため息を吐くのだった。