【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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この度、相互コラボと言う事でsya-yuさんの『IS~偽りの腕に抱くもの~』とのコラボ話を書くことになりました。


彼方ではパラレルと言う事になりますが、此方ではキチンと来訪したという形で正史に組み込まれます。
無論、ただの来訪ではないのですが…この辺りは地味にアモンの方にも絡む設定がでてきます。(ダイマ)

では、狼と異界の義体の男との邂逅…その準備回をお楽しみください。


偽りの夢を抱くもの  狼と来訪者

帰還して間もなく委員会所属IS操縦者と言う何とも厄介そうなポストに付いてしまった俺は、今目の前の無駄に高いビル…IS委員会本部ビルの前に黒のスーツ姿で立っている。

事は朝にまで遡る…環境が変わったとは言えやっていることは大して変わることなく迎えた朝。

久々にラウラも含めた五人で朝の鍛錬と組み手を行い爽やかな汗を流せば、若干広くなったシャワールームでさっぱりしてさぁ、久々に登校だと言うタイミングでコアネットワーク通信が来たのだ。

お相手は束さんの下に着いて四苦八苦しているであろうスコールからだった。

 

『お久しぶり、銀君。ちょっと忙しいから簡潔に話すけど、今日の午前十時にIS委員会に出頭して頂戴。…私たちの為を思って』

「存分に振り回されているようで何よりだ。断ったら忙しい合間を縫ってお前たちの内誰かが此処に来るのだろう?」

『えぇ、篠ノ之博士は無理ばかり押し通すから困ってるの…ついでに口添えも頼むわ』

「一応学生だと言う事は意識しておいてくれ。単位足らずで留年なんぞ堪ったものではない…ただでさえ補習もあると言うのに」

 

たった二週間、されど二週間である。

二週間分の授業の内、実技を除いた部分は放課後に山田先生とのマンツーマンで熟すことになっている。

楯無?

イチャつくから却下だと楯無自身が、千冬さんにばっさりと切り捨てられたそうだ。

…安堵してしまっている自分が憎い。

 

『二、三日は拘束されると思うわ…第三次形態移行の実機稼働データを取るそうだから』

「専用機持ちの悲哀だな…承知した。…あぁ、そうだ」

『どうかしたのかしら?』

「この旨をマドカから千冬さんに伝える様に通達してくれ」

『悪い子。分かったわ…それじゃ、あとはよろしく』

 

通信が切れてホッとしたのも束の間、セシリア達が頬を膨らませて俺を睨み付けてくる。

仕方あるまいよ…社会の歯車とは時として優先順位をすり替えてしまうのだから。

 

「…今度はどちらへ?」

「IS委員会だ…天狼の実機稼働データを直で取りたいんだそうだ」

「篠ノ之博士ね…まったく、体の良い言い訳で狼牙君を独り占めしようって魂胆ね」

 

楯無はやれやれと肩を竦め、諦め顔だ。

なんせ、今はIS委員会統括責任者だ…相手をするには分が悪い。

ある意味世界を牛耳った稀代の天災なのだから。

 

「実機稼働データと言う事は…最低三日は会えない、かな…?」

「努力はするが、束さんの胸先三寸と言うやつだ…」

「ううん…今度は会いに行ける距離…宇宙よりは良い…」

 

簪は首を横に振って微笑みを見せる。

まぁ、抜け出せるなら抜け出してきてねと言う副音声が聞こえてきたわけだが。

セシリアも一先ずは納得したのか軽く咳払いをして気持ちを改める。

 

「簪さんの言う通り、手の届かない距離ではありませんし…ここは引き下がりましょう」

「そうねぇ…補填もしっかりしてくれたし?」

「んっ!楯無さん!!」

 

楯無はセシリアの背後に回ってセシリア自身もう少し大きく、等と言っている大きな胸を下から持ち上げる様にして掴む。

…やってることが中年オヤジのセクハラのソレなんだが…この学園の生徒会長は大丈夫なのか?

 

(大丈夫、問題ないわ)

(こいつ…直接脳内にっ!?)

 

いや、コアネットワークで会話しただけだが…まぁ、考えが読まれていたのは間違いがないわけで…。

とりあえず、仲裁しようとした時…簪から阿修羅の如き気配が放たれる。

 

「お姉ちゃん…私の前でそういう行動…していいと思ってる?」

「ゴメンナサイ…カンザシチャン…」

 

楯無は怯えた様にセシリアからサッと離れ、セシリアは茫然とした表情で簪を見つめている。

…どんな顔をしているのか気になり、顔を覗き込もうと近づくと簪は綺麗な笑みを浮かべて此方に振り返る。

可憐な少女そのものの笑みは、逆にさっきの気配とのギャップが酷すぎて恐く感じてしまうものだ。

 

「狼牙、終わったら、連絡ちょうだい?」

「あ、あぁ…承知した…」

 

と、まぁこんな流れで着替えていた制服を脱いでスーツに着替え、タクシーを利用して委員会本部ビルまでやってきたのだ。

実際、帰るときが恐くないと言えば嘘になるが…暫くしたら、あの独占欲も満たされるだろうか?

 

「おまたせ、銀君…随分疲れ切っているけど大丈夫かしら?」

「久しいな、スコール…と言うべきか。まぁ、男にも色々あるんだ…それで、先ずは何処へ?」

 

胸元の大きく開いたブラウスを着こなし、ワインレッドのスーツを着たスコールは何処か呆れたような顔で此方を見つめてくる。

時たますれ違う男性職員の視線がスコールの胸元に集中しているのが良く分かる。

 

「まずは篠ノ之博士の所ね…その後、併設されているラボエリアに移動して…確か、天狼神白曜皇だったわね?それの稼働データを取っていくわ」

「承知した。長い戦いになりそうだ」

「同情はしてあ・げ・る」

「いらん…」

 

以前来た時と同じようにエレベーターに乗り込み、最上階へと移動。

その間、居ない間の話を色々と聞かせてもらった。

と、言っても殆どがオータムと呼ばれていたヤンキー臭が若干漂う女性とマドカの事ばかりだが。

オータムはあの乱暴そうな言動の割には書類仕事は得意らしく、スコールに褒められたくて必死に仕事に向かっているそうだ。

意外なものだが、IS操縦者と言うのはあらゆる方面に精通している人間が殆どだ。

専用機持ちも月一で稼働レポートの作成と提出が義務付けられている。

事務仕事なんぞお茶の子さいさいと言ったところか。

問題は、マドカ…。

外見が千冬そのものと言う事もあって、束さんのSPとして忙しい毎日を送っていると言う事だ。

サイレント・ゼフィルスも束さんが一度解体して新しいISとして改造されたとの事…恐らく喧嘩を売られるな。

買うかどうかは別だが。

スコールは秘書室室長として、束さんの尻拭いに奔走する毎日だと言う。

刺激は少ないものの、亡国機業に居る時よりは身が安全と言う事もあってそれなりに充実しているし、何より…世界変革の中心地に居られると言うのが愉快極まりないと言っている。

…過去に何があったのやらな?

話し込んでいると、委員会会長室の扉の前にたどり着く。

 

「篠ノ之博士、銀 狼牙をお連れしました」

「いいよ~、入れちゃって~」

「はい、じゃぁ銀君…頑張ってね?」

 

スコールが扉を開けば、無駄に広く、無駄に豪奢…そしてとっ散らかった会長室へと入っていく。

彼方此方に書類やらガラクタやらが転がっていて、とてもじゃないが委員会トップの部屋とは思えない趣だ。

 

「やぁやぁ、ろーくん!漸く会えたね!!」

「久しぶりだな、束さ…失敬、たーさんや」

 

うっかり普通に名前を呼びそうになった瞬間、スーツに白衣を着たウサ耳女性…篠ノ之 束はとても…とっっても不機嫌そうな顔になる。

まぁ、それだけ親しく思ってるからこそ他人行儀は止めろと言う事だろうが…。

隣にはクロエが相も変わらず澄まし顔で立っている。

どうやら二人とも息災なようだ。

 

「まずは、ろーくん…おかえりなさい」

「あぁ…無事に五体満足で帰ってこれたよ」

「両腕右足が潰されてるのを知ったときは焦ったけど…生体同期型コアのおかげで何とかなったみたいだね~」

「これで科学の力だと言うのだから末恐ろしいものだ」

 

魔法と言うものを知っている側からすれば、もはやこの再生能力はその領域に入ってしまっているとも言える。

ISコア側が俺と白の知識から再現している可能性も否定できない。

いずれ…化学が魔法の様に手軽に扱われる日も来るのだろう…とりあえず…。

 

「ろーくんには帰ってきて早々で悪いけど、宇宙開発の礎になってもらうよん!」

「解剖は無しの方向で」

「わ、わかってるよ~、ひっどいな~ろーくんったら~」

「白々しい…それで、今日は何をやるんだ?」

 

深くため息を吐き眉間を揉む…何も言わなかったら解剖する気だったな…マッドサイエンティストめ。

気を取り直して今日のデータ取りの内容を聞こうと先を促す。

束さんはニヤリと笑みを浮かべて立ち上がり、此方に近づけばぎゅぅっと抱きしめてくる。

 

「そ・れ・は・ね~…」

 

 

―――

――――

―――――

 

 

IS委員会本部ビルの隣には、IS学園のアリーナと同規模のラボエリアがある。

委員会側に提出されている技術をこのラボエリアでも研究していくとの事だ。

…基本的には企業から提出されている、所謂『枯れた技術』を研究するためのもので金食い虫として鼻つまみ者扱いされていたらしい。

各国とも自国の開発技術を外には出したくなくてIS学園で試験していると言うのが実情だ。

セシリアのBT兵器、鈴の衝撃砲、ラウラのAICによる停止結界…他にもスラスター関連の特殊技術、とかな。

だが、このラボエリアも束さんが来てから一変することとなる。

束さんの夢は宇宙を開拓すること…そう、宇宙開発研究の中心地として生まれ変わったのだ。

そんな事もあってか、やさぐれていた研究員たちは生まれ変わったかのように一念発起。

様々な研究開発を独自に行い、束さんに提出しては駄目だしされ…と言うのを何度も繰り返しているそうだ。

…アランさんと同じ状況ではないか。

さて、気を取り直して。

今、俺はラボエリアにある小型アリーナの中心に立っている。

むろん、ISを展開してだ。

矮星へのエネルギー供給は十分に済ませてあるため、何時でもフルパワーで動くことができるが…今日のデータ取りはそれが目的ではない。

天狼神白曜皇は現行最速の近接格闘機であることは、すでに世界中に広まっている。

だが、もう一つ…他のISとは一線を画すもう一つの能力がある…それは…。

 

『ろーくーん!計器類、センサー問題なーっし!いつでもいいよ~ん』

「承知した…しかし、共振現象を行う旨は学園に通達してあるのか?」

『もちのロンさ!事故って計画とん挫なんて私の望むところではないしね~』

 

そう、単一仕様能力『天狼』による強制的な共振現象を引き起こす能力だ。

共振、と聞くとやはりかつての身体を思い出す。

天狼は音を支配する…故に、人々から恐れられ…

 

『ろーくん、バイタルが若干不安定だったけど大丈夫~?』

「あぁ、すまない…少し思い出に浸っていただけだ。では、始めるぞ」

『あいあ~い』

 

今回のこの実験は共振現象はコアネットワークに乗って何処まで作用するかの実験だ。

これで問題なく共振現象が学園にて稼働しているISに干渉すれば、仮に宇宙で遭難した場合の救助に役立つことになる。

重要な実験だな。

…まぁ、束さんが直に共振現象を見てみたいと言うのもあるんだろうが。

 

「白、鎖から解き放て」

[アイ・サー。モード:アンチェインド起動]

 

モード:アンチェインド…『縛るものは無い』…狼に首輪は似合わず、と言ったところか。

全身の装甲が咆哮の様な音と共にスライドし、フレームが露出。

フレームが最大稼働時の放熱フィンの役割を果たし、赤く赤熱し陽炎の様に揺らめく。

全身の矮星はリミッターが外され紅に染まり、背面のウィング・スラスターから過剰出力の展開装甲が発生される。

エトワール・フィラントと同等の推力を発揮するこの形態は、やはり制限時間があるものの全てを粉砕する彗星が如く攻撃力を発揮する。

…俺も痛い目を見るようなのであまり使いたくはないが。

ともあれ、今回は推力ではなくフルパワー時の共振現象のチェックだ。

 

「『天狼』起動…吼えろ!!」

 

『天狼』のエネルギーフィールドが弾けたかのように光の燐光となり、俺の脳裏に波紋の様に広がり…なんだ?

回転するディスク…ロボット…?

こちらに…走って…!?

俺を中心としていた波紋が燐光と共に集約され、俺の目と鼻の先でまるでCGのモデリングを行うかのように人形を形作る。

バーコードの状のリングが幾重にも重なり、それは顕現する。

爽やかなブルーを基調とした本体に、まるで大剣の様な形状をした大型ライフル。

背面には小型のバーニアユニットらしきものも見えるな…。

頭部は後頭部に伸びた短めの二本角にツーラインのバイザー…。

何というか…簪に見せたら狂喜乱舞…と言うか…簪がやっていたゲームに出てくるロボットにそっくりなのだ。

 

「あれ…ここは…?」

 

目の前のロボットはきょろきょろと頭を動かして辺りを見渡し、最後に俺を見つめてくる。

…敵意は感じられないが…声から判断するに同い年くらいの男の声か…。

ともあれ…ただの共振現象の実験がとんでもないものを呼び出したのは確かなようだ。

じくじくと痛み始めた胃の痛みに耐えながら俺はどうしたものかと思案するのだった。




コラボ先はこちら→http://novel.syosetu.org/40105/

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