【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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その後?
いいえ、直後です。
本編を完結まで読んでいただき、ありがとうございます。
ここから先はラブコメ重点なんだ…時折事件も起きるでしょうが。
それでも良いと言う方…これからもよろしくお願いします。

それではOvertime、開始です。


Overtime ~狼は未来を歌う~
狼と戻ってきた日常


さて…二週間の長い眠りから覚めたかと思えば天狼白曜は天狼神白曜皇(てんろうしんはくようおう)と、お前名前どうにかならんかったのかと言うような第三次形態移行(サード・シフト)を起こし、更に畳みかける様に束さんによるIS学園ミサイル急襲事件が起きた。

全機何とか無力化できたから良いものの、今度は心配しすぎて愛ゆえに修羅と化した…俺の愛するセシリア、楯無、簪による制裁が俺に襲い掛かってきた。

まぁ、墜ちる訳にもいかないので急いで学園の敷地に入って事なきを得たのだが…。

二週間…夢の中ではたったの数時間だけだが嘗て妙な因縁で絡むことになった白蛇との邂逅は、少しだけ俺にノスタルジックな気分に浸らせた。

事あるごとに、従者の目を盗んではシバかれていたからな…。

今もシバかれていればいいのに。

天狼を解除した俺は頭に何かしらの違和感を覚えるものの、走ってやってきた人物の怒気に意識を逸らしてしまう。

三人娘よりもある意味、恐ろしい…。

 

「狼牙…」

「遅くなったが、帰還させてもらった…」

 

そうだな、織斑 千冬(ブリュンヒルデ)だな。

…テンションがおかしいな…帰ってこれたことが相当嬉しいのは否定せんが。

千冬さんは複雑な面持ちで俺を睨み付け、俺とはと言うと何とか平静を取り繕っている最中だ。

千冬さんは、俺の身体を抱き寄せ頭を撫でてくる。

 

「よく…よく、帰ってきた…!」

「…すまんがな…離してもらえんだろうか…背後から死刑宣告の様な視線が突き刺さって仕方がないんだ…」

 

正直言って振り向きたくないが、背後には三人の気配がある。

流石にISは解除してあるようだが…。

千冬さんは、ひとしきり頭を撫でた後離れて苦笑する。

 

「無茶ばかりするからそうやって女達に睨まれる事になるんだ」

「否定はせんが、あの時は仕方あるまいよ…相手が悪すぎる」

「そういう問題じゃないわよ!」

 

やれやれと肩を竦めれば、既に堪忍袋の緒が弾け飛んでどこかに行ってしまった楯無が助走をつけた渾身の右ストレートを俺の背中に叩き付けてくる。

思わずよろけてしまった俺は、たたらを踏んで体勢を戻そうとするが横合いから体当たりの様にセシリアと簪が俺に抱き付いてくる。

 

「もっと…もっと早く帰ってきてよ!!」

「もう、もう絶対に許しませんわ!!」

「いや…すまん…」

 

結果的に体を支えられる形になった俺は、耳元で大声を出されて顔を思わず顰めてしまう。

…果報者と言うのだろうな…俺は。

楯無も背中から俺を抱きしめる様にしがみ付き、嗚咽を漏らしている。

 

「女泣かせだなぁ、狼牙?」

「言わんでくれよ…」

 

千冬さんはニヤニヤとした笑みを浮かべて俺を見つめてくるが、正直言い返すことができない。

セシリアも楯無も簪も…安心からか皆泣いてしまっている。

無理無茶無謀は控えねばな…とは言え、それが出来れば苦労しない、か。

 

「お前たち、再会を喜ぶのは良いが狼牙は一旦メディカルチェックを行う!」

「わたくしたちも付き添っては…」

「お前たちはトーナメントがあるだろう。敗北したとて観戦も勉強だ…許可はしない」

 

千冬さんは突き放す様に言って頸を横に振る。

…面倒事の匂いが若干するな。

ひとまず納得したセシリア達は渋々と言った感じで俺から離れてアリーナ方面へと向かう。

皆居なくなったタイミングで千冬さんが口を開く。

 

「今後のお前の身柄に関して少し、面倒な事になっていてな…詳しくはメディカルチェックの後、と言う事になるが…」

「承知した…ひとまず、メディカルチェックを済ませるとしよう」

 

波乱万丈の人生…白蛇の所為ではあるが、致し方あるまい。

それに、奴が弄らなければ…こんなことにはなってなかっただろうし、な…。

 

「そうだな。それはそれとしてだ…狼牙…気づいていないのか?」

「は…?」

 

千冬さんは俺の頭を指さして忍び笑いを漏らす。

まさか、また白が犬耳を…!?と、思い頭に触れるが何もない…ないが…。

頭の違和感の正体には気付くことができた。

 

「伸びてる…」

「そうだな…再生機能の弊害かもしれん。なんにせよ調べてみなければ分からんが」

 

髪の毛が腰辺りまで伸びているのだ…何だかズルをして伸ばしたみたいでいたたまれない気持ちになる。

ともあれ、検査だ…何もなければ良いのだが…。

 

 

 

 

 

「身柄をIS委員会預かりにする、か」

「あぁ…あの後色々あってな…束が委員会トップの会長に就任している」

 

寝ている間に色々と事が動いていたようだ…。

まず、IS委員会は亡国企業との癒着があり、今までのIS強奪事件と言う名の譲渡は黙認し続けていたそうだ。

強奪されていたISは各国の最先端のISばかり…これはISバトル以外の戦闘データを取る目的で譲渡されていたとの事だ。

サイレント・ゼフィルスに関してもそれは変わらず、キャノン・ボール・ファスト襲撃事件も英国からBT一号機を襲撃してBT兵器同士の戦闘データを取る目的があったそうだ。

随分と腐った話だな…相応のしっぺ返しはあっただろうが、俺には関係のない話だ。

これらはこちら側に寝返り束さんの庇護を受けたスコール、オータム、マドカの証言と証拠の書類の提出で明るみになった。

結果としてIS委員会はメンバーを更迭…各国で苛烈な裁判合戦が行われているそうだ。

更に束さんは宇宙開発を進めることを条件にISコアの増産を決定。

各国はまたしてもパワーバランスの調整に追われる事になる。

並行してエクステンデッド・オペレーション・シーカー…略してEOSと呼ばれるパワードスーツとは名ばかりの重機の改良小型化も請け負ったらしい。

もし、これで大きな発展を遂げることができれば男性の地位向上も夢では無くなるだろう…期待すべき案件ではある。

兎に角、結果としてたったの二週間で世界はまたしても変革の選択を迫られる羽目になってしまったわけだ…。

束さんという異能生存体を受け入れてしまったこの世界に強く同情せざるを得ないわけで…。

 

「IS委員会預かりとすることで、お前の国籍を自由国籍として登録することになっている。何かと実験に付き合わされる事になると思うが、そう悪い話でもあるまい?」

「そうだな…無茶振りにさえ目を瞑れば、な」

 

苦笑しながら点滴の繋がれた右腕を見る。

メディカルチェック自体は滞りなく終了した。

この点滴は栄養失調ギリギリだった体の為に施された急場しのぎの措置だ。

…久々に帰ってきたのに最初に口にするものは御粥が確定してしまった…肉とか魚とか野菜が恋しくて仕方がない。

宇宙空間と言うのは何かと問題が多い…被爆の心配もあったが、シールドエネルギーがキチンと無効化してくれていたらしい。

この辺りのデータは既に白がIS委員会に纏めて提出、ISによる宇宙空間における活動に問題がない証拠として宇宙開発を後押しするものとなるそうだ。

…あの星の海に出る可能性が高まったかと思うと期待に胸が膨らむと言うものだ。

 

「ところでだ…マドカとは話したのか?」

「…あぁ。私にそっくりで面を食らってしまった。関係は…まぁ、良好と言えるものではない」

「…時間が解決するものだと思いたいものだが…」

「気を回すな…私は大人なんだからな」

 

どうしたものかと思案したところで釘を刺されてしまう。

グヌヌ…困ったものだ…。

 

「あぁ、そうだ…狼牙の寮の部屋だが、場所が角部屋に変更されている。詳しくは…まぁ、娘とか嫁とかに聞いてくれ」

「…妙に不安を煽らんでくれんか?」

「~~♪」

 

千冬さんは目を逸らし口笛を吹いて立ち去る。

…遊ばれているな、確実に…。

深いため息を吐きながら点滴が終わるのを待つと、控えめに扉がノックされる。

 

「どうぞ」

「父様、入るぞ」

 

制服で身を包んだラウラが部屋に入るなり小走りに駆け寄ってくる。

顏は満面の笑みだ…帰ってきたことを喜んでくれるのは嬉しいものだな。

 

「無事に帰ってきてくれて嬉しいぞ、父様」

「心配をかけたな」

 

ラウラに微笑みながら、優しく頭を撫でると気持ちよさそうに目を細められる。

少しだけ顏を赤らめて、ソワソワとしている。

 

「その…抱き付いても…?」

「構わんさ…」

 

ラウラを受け入れる様に軽く腕を広げれば、満を持してと言った感じでしがみ付くように抱き付かれる。

優しく頭を撫でながら抱きしめてやる。

 

「あぁ、父様だ…無事で…無事で良かった…」

「なにかと迷惑をかけさせてすまなかったな…セシリア達にもしこたま怒られてしまった」

「いきなりの帰還だったからな…やりすぎだとは思ったが。そうだ、ここ二週間で色々とクラスにも変化があったんだ」

 

ラウラは頬擦りしながら此方を見上げて、二週間で起きたクラス内の変化を説明し始める。

まず、一組に専用機持ちが全員集められクラスが再編。

ただし、一組のメンバーは全員残留したとの事だ。

恐らくこれは、俺に対するフォローの様なものだろう…皆、俺がどんな存在であれ受け入れてくれている。

他クラスにも何人か居るかもしれんが、俺の事を怖がっているのも確かにいるだろう。

そして、寮の再編騒動…束さん協力の元、寮の部屋を改装…例の角部屋を『四人部屋』にしたそうだ。

…いやいや、まさか…寮長は一体何を考えている!?

 

「つまり、なんだ…?楯無だけでなく、セシリアと簪も今後一緒に…?」

「まぁ、そうなるな…私も時折遊びに行くと思う」

「それは構わんが…学生の倫理観が消し飛ぶような措置だな」

「父様は此処がな…数人で面倒見ていたほうが確実だと楯無が押し切ったのだ」

 

ラウラは俺の胸に触れ、優しく撫でてくる。

ISコアが心臓代わりになっている以上、問題は無いだろうが何があるか分からない…だから監視役を複数用意するために…か?

ごり押しも良い所だな…まぁ、セシリア達からすれば念願叶って共同生活を始められると思っているのだろうが…。

何となく生暖かく見守られ、パパラッチがネタを求めて張り込んでくる気がしてならない。

 

「…まぁ、いつも以上にセシリア達が傍にいるだけと思えば大差ないか」

「父様が居なかった間、クラスも酷く落ち込んでいたからな…鈴が居なければ大変だったかもしれない」

 

あのムードメーカーののほほんですら落ち込みきっていたと言うからな…なんとも申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

クラスの皆はあの時送り出してくれたから、多少なりとも責任を感じてしまったのかもしれん。

…やはり、帰る場所だな。

 

「ともあれ、全てが元通り…あ、でも父様は大変かもしれないな」

「ほう、それはなんでだ?」

「父様はあの篠ノ之博士の庇護下に置かれるからな…学生とIS委員会直属操縦者としての責務…国家代表並に忙しくなるな」

 

ラウラは楽しそうに笑っているが…じょ、冗談じゃ…!?

IS委員会は、確かにIS関連の中心になっている組織だ。

そこの直属…それもトップの束さんの庇護下ともなるとどんな無茶振りが来るか分かったものではない。

千冬さんをフィルター代わりに逃げ切るしかあるまいな。

 

「む、点滴が終わったか…父様、看護師を呼んでくる」

「あぁ…すまんがよろしく頼む」

 

ラウラが部屋を出た後、俺は居ない筈の白蛇の馬鹿にするような高笑いが聞こえたような気がした。

 

 

 

寮に戻ったら戻ったで事前に説明はあったろうが、上に下にの大騒動となった。

ただ、皆に共通して言えることは帰還を歓迎してくれていると言う事だ。

一夏達は、何やら企んでいるようで姿が見られない…ただ、コアネットワークでの電文で『おかえり』と連絡がきたのは嬉しかったものだ。

さて…。

俺は大きく深呼吸して、新たな城となる角部屋へとやってくる。

どうやら二部屋の壁を取っ払った力技で四人部屋にしたらしい。

地下区画を短期間で改造する束さんの事だ…これくらいは朝飯前と言ったところか。

現実逃避も此処までにしよう…目の前の扉の奥には三人の気配…気を引き締めねば。

ゆっくりと扉を開くと、目の前には下着姿のセシリア、楯無、簪の三名がセクシーなポーズをつけて立っていた。

 

「おかえりなさい、狼牙君」

「わたくしになさいますか?」

「わ、わたしに、する?」

「私を選んでくれるわよね?…そ・れ・と・も」

「「「全い…」」」

 

すっぱーん!と言う派手な音と共に俺は扉を閉めて何も見なかったことにする。

あぁ、そうとも…痴女なんていなかった!

俺はそそくさと屋上に上がり、冬の顔を覗かせ始めた秋の風に当たる。

一瞬で猛ってしまった俺が憎い…二週間ばかし溜り込んでるのも手伝っているのだろうが。

あの程度で猛っていたらこの先問題が起きるのは火を見るよりも明らか…心頭滅却…。

 

「何をしているんだかな…まったく…」

 

頭を冷やし切った俺は、もう一度気を引き締め直して寮の部屋の扉まで戻る。

遠巻きに面白そうなのが見れると思ったのか、クラスメイト達がニヤニヤと笑いながら眺めている。

なんだか本当に日常が戻ってきた気がするな。

意を決して扉を開けた瞬間、一斉に手が伸びて俺を部屋へと引きずり込む。

さながらホラーだ…外で惨状を眺めていた連中は俺を見捨てて自分の部屋へと戻って行ったらしい。

 

「は、恥ずかしかったのに、あの、反応はないよ!!」

「ほ、ほんとうですわよ!!」

「でも、狼牙君ぽくてよかったわ…髪の毛、伸びたのね」

 

引きずり込まれた俺は天蓋付きのキングサイズベッドに放り投げられ、両脇にセシリアと簪、腰に跨る形で楯無が俺に覆いかぶさってくる。

彼女達に囲まれるのも久々となるのか…寝ていたので久々と言う感じもしないが。

 

「いや、普通に出迎えてほしかったんだが?」

「普通と言うのはそれだけでつまらない!」

「キリッとした顔で言われてもやってることは痴女のそれだからな?」

 

呆れたように言えば、三人ともぷくーっと頬を膨らませて俺を睨み付けてくる。

まぁ、勇気は認めんでもないが。

 

「二週間ぶり…私達…寂しかったのよ?」

「うん…一緒に居る人が居ないだけで…一組も凄かった、んだよね?」

「えぇ…えーっと御通夜でしたか…お葬式のような雰囲気が…」

「勝手に殺さんでくれ…」

 

苦笑しながらため息を吐くと、部屋の電気がいきなり落とされる。

どうやら、楯無が何かをして消したようだ…便利な部屋になったものだな…。

ゆっくりとシャツのボタンが外されていくのが分かる。

 

「ね…今までの補填分…欲しいなって…」

「…うん」

「えぇ、借りは返していただかなくては…」

「…学生と言う本分は忘れるなよ?」

 

ゆっくりと唇が重ねられ、部屋に布が擦れる音が響く。

これもまた戻ってきた日常の一部だと思うと複雑だが…今は目の前の愛情達に応える事としよう。


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