【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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誇りと想いと

試合終了後、セシリアと別れピットに戻った俺はIS用のハンガーに打鉄を預け眺めていた。

試合開始は30分後。セシリアと一夏の戦いで今日のイベントは終わりだ。

 

 

「触れている間だけは聞こえるか…」

 

装着していないせいか、白からの声は聞こえない。

寂しいものはあるが、かつて愛した愛しい者が存在する事は純粋に嬉しかった。

 

「負けちまったな、狼牙」

「あぁ、完敗だ…悔しいが満足はしている」

 

打鉄を眺めていた俺の隣に一夏が現れた。

付きまとうように一緒に居るはずの箒の姿がない。

 

「箒はどうしたのだ?」

「集中したいからって説得して、先に管制室に行ってもらった…シゴキがキツすぎる」

「お前には丁度良かろうよ」

 

互いに笑い、一夏も打鉄を見る。

 

「なぁ、狼牙はISに乗れて良かったと思っているか?」

「……最初は厄介なものを押し付けられたと思ったな」

「今は?」

「きっと、コレに乗れるようになったのは必然だったのだと思っている。この学園に来て一週間足らずだが充実している。ISに乗る事ができて良かったと思っているよ、一夏」

 

一組のクラスメイトとも程々には話すようになった。

時折ついていけないほどのバイタリティには苦笑してしまう。

ルームメイトの楯無には何かと世話を焼いてもらっている。

本当にイタズラさえなければと思う時もあるが。

だが、それでもこの青春を謳歌できるこの学園は良い所ではあるのだと思える。

それもこれもISに乗れたおかげなのだろう…恨む筋合いはない。

 

「一夏はどうなのだ?」

「…俺は、ずっと千冬姉に迷惑を掛けてきたと思ってた。俺の所為で代表を引退して、ドイツに渡って…それでも一人で俺を養ってくれてた。俺は強くなりたかった。強くなって千冬姉を…大切だと思えるみんなを守るんだ…ってさ」

 

一夏は真っ直ぐにISを見つめ誓いを新たにしているようだった。

一夏、きっとお前の望む力を得るには血反吐を吐くだけではすまんだろう…だが、この男はそれでも望まずにはいられんのだろうな。

力は諸刃の刃だ。

使い方を間違えれば、きっと己を切り刻む。

ならば、俺は間違えないように見守ってやろう。

この世界で数少ない、親友と呼べる男だからな…手助けしてやれんでどうする。

 

「ISが使えることが分かって俺は嬉しかった。この力で千冬姉と同じ世界に立てる、って。そうすれば、今度は俺が千冬姉を守る…誰にも負けないように強くなってみせる」

 

俺を見る一夏の目は真っ直ぐだった。

若さ故の真っ直ぐさ。

時に火に飛び込むような危うさもあるのだろう。

だが、それでも躊躇しない馬鹿さかげんが此奴にはある。

きっと強くなる。

 

「勝てよ、一夏…オルコットは強いからな」

「仇は取るぜ、狼牙」

 

互いに拳を打ち合わせ笑みを浮かべる。

 

「織斑くん、織斑くん!!来ましたよ、専用機!!」

「わかりました、すぐ行きます!!……じゃ、また後でな」

「行って伝えてこい、お前の男としての矜持を」

 

一夏が出て行くのとすれ違う様に千冬さんがやってくる。

 

「狼牙、頼みと言うのはなんだ?」

「此奴に使われているISコアを俺の専用機に使ってもらいたい」

「どうして、そんな事をする?」

 

千冬さんにはある程度正直に話しても構わんだろう。

 

「俺はコイツのコアと直接会話できる…千冬さんが行った適性検査の時の打鉄は分からなかったが、この打鉄のコアとは直接会話ができる」

「それは…本当なのか?」

 

信じられない、と言った顔で此方を見つめてくる。

だが、真実だ。

確かに俺は白と会話したのだから。

 

「どうにかならんか?俺はこのコアと共に戦っていたい」

「……」

 

千冬さんは黙し考え込んでいる。

 

「迷惑をかけることは分かっている…だが、どうにかならんだろうか?」

「……わかった取り引きはしてみるが、交渉材料に狼牙自身が含まれる事は覚悟してくれ」

「そうなれば千冬さんの親友殿が暴れそうだ」

 

一手に引き受けると言っていたのだ…この際強かに利用させてもらおう。

頑張れよ、政府の皆さん。

 

「全く、お前もつくづく悪い男だな」

「千冬さんとて、人の事言える訳でもないだろう?」

 

二人して悪い笑みを浮かべている。

白、専用機が来るまで暫しお別れだ…またな。

 

「狼牙も管制室で観戦するか?」

「いや、こう言う時はクラスメイト達と親睦を深めるのも悪くはないからな…観客席に行かせてもらう」

「そうか、ご苦労だったな狼牙」

 

千冬さんに軽く頭を下げ名残惜しげに打鉄を見た後、俺は観客席へと向かった。

 

 

 

観客席に移動した俺は、のほほん達を見つけた。

 

「隣の席、座るぞ」

「おー、ローローおつかれ〜」

「銀くんおつかれー、残念だったねー」

「いやはや、代表候補生は強いな」

「だから言ったでしょ、強いって」

「こうも言ったぞ、男の子だから挑むと」

 

のほほんの隣の席に座り、クラスメイト達と声を交わしていく。

 

「おりむー勝てるかなぁ?」

「どうだろうな…織斑先生の実弟だ。もしかするやもしれん」

「セシリアの第三世代兵器、かなり厄介なんじゃない?」

 

そう、攻略の糸口は其処にある。

親機と子機合わせて俺の時は五機の相手をする羽目になった。

戦いは量が質を制することが多い…だが…。

 

「弱点が無いわけでもないからな」

「弱点?」

 

興味津々といった様子でクラスメイトが聞きたそうにしているが、此処は意地悪をしてやろうか。

 

「ふむ、では試合が終わるまでの宿題としようか」

「えー!教えてよー!」

「見ることもまた戦いだ。自身が戦う気持ちを持ってセシリアの動きを良く見てみると良い」

 

思わず口元に笑みを浮かべながらアリーナへと視線を移すと、のほほんが此方を見て腕を振る。

 

「ローローは鬼教官だー」

「優しいだろう?さ、始まるぞ」

 

アリーナ中央に蒼と白が並び立つ。

何か言葉を交わしているようだが聞こえない。

俺の時と同様にライフルを構えるセシリア、対して白く甲冑を思わせる様なデザインの専用機を纏う一夏は刀の形をした近接ブレードを構える。

アリーナのディスプレイには白式(びゃくしき)と表示されている。

ブザーが鳴ると同時に、セシリアは出し惜しみをしないのか、ビットを俺の時と同じく四基展開し、射撃はせず、囮の様に動かし一夏の隙を誘う。

 

「接近を嫌ったか…やはり、射撃戦用の機体では当たろ前か」

「おりむーのISは射撃兵器積んでないのかな?」

「どうだろうか…いくらデータ集めの機体だからと言ってそれは無さそうだが…」

 

刀を構え、セシリアの攻撃を何とか避け、あるいは掠らせ徐々に距離を詰めていく一夏。

だが、ある程度の距離まで近付くとセシリアは一夏の死角からビットで攻撃し着実にダメージを蓄積させていく。

 

「さて、気付くか……?」

 

腕を組み試合を注視する。

他のクラスメイト達もセシリアとビットの動きに夢中だ。

幾度となく同じ手に翻弄される一夏の目付きがかわる。

 

「あっ……」

 

何かに気付いたようにクラスメイトが声を上げ騒めく。

 

「なになに?気付いたの?」

「あのね、セシリアがビットを使おうとすると…」

 

一夏はタイミングを合わせ、死角から来るビットを素早く刀で切り裂きセシリアへと向かっていく。

対するセシリアは驚愕の表情だ。

これがチーム戦であればカバーできた弱点だろう…だが、これはサシの決闘だ。

この弱点は今の戦いにおいて致命的とすら思える。

そう、セシリアは『ビットを集中して制御する時動きが止まる』のだ。

俺が瞬時加速で肉薄できたのも、この弱点のおかげである。

 

「おー、おりむー勝てる?」

「油断しなければいけるかもしれんな…織斑先生にシゴかれ、俺と織斑先生の見取り稽古もしてきたんだ、負けたら織斑先生に凹まされるぞ」

 

ククッと笑い一夏の戦いの行く末を眺める。

ピットであれだけの事を俺に話したんだ、勝ってもらわねば。

だが、どうにも嫌な雰囲気だ。

セシリアの表情が冷静な物なのだ…まさか、誘っている?

一夏が白式のスラスターを全開にし、すれ違いざまに二基のビットを破壊しセシリアへと肉薄した瞬間爆発が起こる。

セシリアはどうやら隠し球を取っておいたらしい、レーザーだけでなくミサイルを発射するビットを展開し奇襲を仕掛けたのだ。

 

「あーあ、これでセシリアの勝ちだね」

 

何処か嬉しそうな声が聞こえてくる。

甘いな、まだ一夏は諦めんだろう。

 

『うおおおおおお!!俺は!!!』

 

裂帛の気合いと共に爆炎から飛び出してきた一夏は刀を思い切り上段に構えると光が迸る。

あれが一夏の本当の力か……!

それでもめげずにセシリアはダガーを呼び出し受け止めようとするが、難なくへし折れセシリアが断ち切られる。

『勝つ!!!!』

返す刀で更にセシリアを横薙ぎに切り払いながら擦り抜けると、終了を知らせるブザーが鳴り響く。

 

『試合終了。勝者、織斑 一夏』

 

 

 

 

試合終了後、俺はセシリアの居るアリーナ控え室へ向かっていた。

プライドが砕かれた相手は放っておいた方が良いこともあるが、声くらいはかけてやりたかった。

扉の前に立ちノックする。

 

「オルコット、銀だ…今平気か?」

 

数分後、扉が開かれるとオルコットが俯いたまま立っていた。

 

「負けてしまいましたわ…」

「そうだな…だが、得るものが無かった訳ではなかろう?」

 

セシリアの声は震えている、泣いていたのだろう。

悔し涙は明日への糧となる。

きっと、セシリアは強くなれるだろう。

 

「代表候補生だと言うのに…ただの素人と侮ってはいなかったのに…わたくしは…」

「あぁ、オルコット…お前は俺の時以上に全力で向かっていたな。それは相対していた俺が断言する」

 

水が滴る音がする。

俺は見ないように、優しく頭を撫でる。

 

「オルコットは本当に強かった」

「そんな慰め…!!」

「事実だ」

 

セシリアは俺の手を払いのけ見上げるようにして赤くなった目で睨む。

 

「確かに結果を見れば、オルコットの敗北で今日は終わった。それでも素人だ男だからと侮る事なく、俺たちにぶつかって来てくれたお前を賞賛する…イイ女だよ、お前は」

 

俺は優しく微笑み再び頭を撫でる。

…よくよく考えれば、地雷ではなかろうか…まぁ、いいか。

 

「んな……っ?!」

 

顔を赤くし、再び俯くセシリア。

 

「ゆっくり休めよ、明日も授業があるからな」

 

そう言って俺は足早にセシリアの前から去っていった。

途中千冬さんとすれ違い、ニヤニヤとされたのは気のせいだと思いたい。

 

 

 

 

「……気は進まんが…」

織斑 千冬は『少々』散らかっている寮長室のベッドに横たわり、携帯のアドレス帳からとある番号へと電話をかける。

ワンコールする間も無く電話が繋がった。

 

『もすもす、ひねもす〜。やぁやぁ、ちーちゃん!こんな時間にラブコールだなんて珍しいねっ!』

「冗談を聞きたい気分ではない。束、コアと会話は可能なのか?」

 

織斑 千冬は銀 狼牙がISを装着した時や、その後の発言に嫌な予感を感じていた。

女の勘と言うものだが、無視できない直感であった。

 

『コアってISコアの事だね?前にも、ちーちゃんに言ったけど心みたいなモノがコアそれぞれに宿ってる…コアが経験を経て成長をしているんなら有り得るんじゃないかな〜?』

「訓練機のコアと会話出来たと言った奴がいてな…訓練機は定期的に初期化しているんだぞ?」

『それはアレかな?ろーくんが言ったのかな?』

「あぁ、狼牙がそのコアを専用機に搭載しろとな」

 

数瞬の間が空きクスクスとした笑い声が聞こえてくる。

 

『さっすが、ろーくんだね。束さんの扱いが普通じゃなければ、ISの扱いも普通じゃなかったか〜』

「束?」

『コアネットワークで繋がってるだろうし、こっちでもモニタリングしておくよ。だから、ちーちゃんそのコアは専用機に搭載しておいてね!」

「わかった…夜分遅くにすまなかったな」

『ちーちゃんの為だったらいつでもどこでも晒け出せるよ!さぁ!愛を育んで孕めるようn……ツーツーツーツー」

 

明日も早いと早々に携帯を切り電源も切った千冬は携帯を放り投げベッドに潜り込むのであった。


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