【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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天に吼えるは神の獣

四基のロケットブースターと天狼白曜の展開装甲が生み出す圧倒的推力は、俺とフェンリルを重力の楔から解き放ち

あっという間に衛星軌道上まで押し上げる。

眼下に映る景色は蒼い宝石の様に澄んで映り、こんな時でなければ何時間でも眺めていたいと思いたくなる…。

プロペラントが空になったロケットブースターを分離、爆破してフェンリルから離れる。

思ってたよりエトワール・フィラントがもたなかったな…。

装甲に切れ目が入った瞬間バラバラに外装がパージされていき、エトワール・フィラントはその役目を終えて宇宙を漂うゴミと化す。

 

《クフックフフ!あなたとシたかった!》

「機械が随分と卑猥な物言いをするものだな…!」

 

フェンリルは俺の体を拘束するために重力結界を広げてくるが、すでにフルスペック状態の天狼白曜にその枷は意味を成さない。

俺に枷を付けられるのは俺だけだ。

俺が認めた相手だけなのだ。

一対のウィング・スラスターを羽ばたかせてフェンリルに向かって瞬時加速を行い、一気に接近して膝蹴りを胴体に

叩き込もうとするが、何時かの時の様にフェンリルは俺の攻撃に合わせて重力結界で加速された膝蹴りを合わせてくる。

衝撃の反発で互いに弾き飛ばされるが、同じタイミングでPICを操作して体勢を立て直して高速機動戦を行っていく。

地上から、俺たちの事が見えているのだろうか…?

淡く輝く星の上で、銀と灰が幾度も激突しては離れていく。

足を思い切り蹴り上げた反動で体勢を立て直し、ワイヤーブレードを射出。

先端に付いている矮星の刃がのたうち回る蛇の様にフェンリルに襲い掛かって行くが、隠すように発した群狼がフェンリルへと瞬時加速を繰り返しながら体当たりを繰り返していく。

 

《楽しい!愉しい!!私は!生きてる!!!》

「いずれにせよ、貴様は此処で死ぬ!」

 

あぁ、狩ると決めたのだ…ましてや俺の模倣品…その存在を俺は赦すつもりはない!

群狼の動きに翻弄されていたフェンリルは、しかしすぐに順応していき行動パターンを見極めてくる。

BT兵器は俺の思考通りに動いてくれるが、瞬時加速を行う場合どうしても

単調にならざるを得ない…頭痛が酷いからな。

それを捩じ伏せて行動を起こしても構わないが、今度は俺の動き自体が単調になってしまう。

セシリアは偏向制御射撃を行いながら高機動精密射撃を行っている…俺には天地がひっくり返ってもできん芸当かもしれんな。

ともあれ、対応された群狼は一基が鷲掴みにされてそのまま握りつぶされる。

人と違い、機械は冷静と言う事か?

発言は狂人のそれと言っても差し支えないが。

互いに真正面からぶつかり合い取っ組み合いの力比べを始める。

 

《理不尽に生かされ、理不尽に殺される!私はそんなの嫌だ!私は!私は!!》

「知るかよ!理不尽なんぞ其処ら辺にいくらでも落ちている!」

 

思い切り上体を反らして頭突きを見舞うと、フェンリルの頭部装甲が衝撃で皹割れる。

体勢が崩れたフェンリルの胴体に回し蹴りを叩き込んで弾き飛ばすと、一瞬で姿を消されてしまう。

恐らく重力カタパルトによる高速移動…ゾワリと背中に悪寒を感じ取り、我武者羅に横方向へと瞬時加速をかけると片翼を抉り取られる。

チッ…想定よりも動きが速い!

あの手を使えば一瞬でケリはつけられるだろう。

だが、俺は使いたくない…俺は…。

 

《ねぇ!私が!あなたの理不尽になってあげる!だからさぁ…死ねよ》

 

冷たく静かに放たれる死ねと言う言葉。

幾度かけえられた事があっただろうか?

向こうで、こっちで…数えることすら馬鹿馬鹿しいかもしれんな。

だが、俺は素直に頷くことを是としない。

死ねんだろう…あいつらを置いてなど!

 

「悪いが、死神の勧誘は断る事にしていてな!!」

 

再び姿を消したフェンリルを勘を頼りに捉え、装甲を引き裂こうと伸ばされる腕を足についた二式王牙で肘部分から切断する。

三度姿を消そうとするフェンリルに密着し、重力カタパルトを『天狼』のエネルギーフィールドで破壊する。

狩場でもう好き勝手はさせんよ。

フェンリルは、俺から逃げられないのを悟り哄笑を上げながら殴り、蹴り、あるいは掴んで投げ飛ばしてくる。

俺はそれらを真正面から受け止め、同じように拳を叩き込み、蹴りを叩き込み、距離を開けられそうになる度に瞬時加速で回り込んでいき、決して逃さない。

互いの攻撃で徐々に天狼白曜の装甲が傷つき、マスク部分に至っては右半分が砕け散っている。

だが、それが何だと言うのだ…いくら傷つこうと、いくら膝をつこうと…牙を突き立て喰らいつけば決して離さん。

目の前の獲物の息の根を止めるまでは。

フェンリルとて似たような状態だ。

俺の猛攻を受けて四肢は片腕を失い、外装もほぼ消失してコアが露出している。

俺はそのコアにおぞましい物を見る…保護カプセルに覆われ、無数の電極に繋がれた剥き出しの脳髄を。

 

《死ねよ、死ねよ…お前が私をこんな風にしたんだから…ッ死ねよ!!》

「生憎と貴様に恨まれる筋合いは無いし、死ねと言われて死ねるほど身も軽くない!!」

 

いや、本当はあるのだろう。

この声を銀の福音事件の時に俺は聞いている。

恐らく、あの時の遠隔操縦を行っていた者の脳髄が目の前の…。

一瞬の躊躇が物事の明暗を分かつ…俺は動きが鈍った瞬間に左腕を潰されてしまう。

恐らく完全に触れた状態だと『天狼』でも無効化はできないのだろう…俺の左腕は装甲ごと捻りつぶされて使い物にならない。

フェンリルの行う一極集中の重力操作は絶対防御ですら無意味になる程の力技と言うわけか…!

 

「おおおおああああああ!!!」

 

痛みを誤魔化す様に瞬時加速を交えた回し蹴りを叩き込むが、フェンリルは変わらず俺の動きに合わせて同じ軌道で回し蹴りを叩き込んでくる。

まるで嘲笑うが如くだ。

 

《痛い!?痛ぁいぃっ!?私はもっと痛くてぇ!恐かったよぉっ!!》

「知るかと…言っている!!!」

 

インパクトの瞬間に更に瞬時加速をかけてフェンリルの足を粉砕するが、道連れと言わんばかりに重力圧潰で右足が潰される。

熱い、痛い、吐きたくても吐けんが、こいつは野放しにしたら皆殺しを始めかねん。

ここで潰さなければならない…なんとしても!

だが、化け物を倒すのは人間だ…俺は人間のまま此奴を倒す…!

 

《潰されちゃいなよぉっ!!!アハッアハハハ!!!》

「貴様がな!!!」

 

渾身の右ストレートをフェンリルの頭部に叩き込むと関節が限界に来ていたのか、フェンリルの頭部は宇宙の闇に消えていく。

しかし、胸部に露出したコアに繋がれた脳髄…その目が逃さないとばかりにギョロリと此方を睨み付ける。

フェンリルは残った腕で左肩を掴んでくるが、俺は慌てて腹を蹴り飛ばして重力圧潰の効果範囲から逃れる。

しかし、一足遅かったのか装甲の表面を持っていかれてしまい、生身が露出することとなる。

 

《なんで!?っどうしてッ死んでくれないのさ!!??アハッ!!》

「死ねん身だと言った!!これで終いにしてやる…散華しろ紛い物!!!」

 

右手に全エネルギーを集中させて瞬時加速を行う。

片翼しかないウィング・スラスターから発生する筈の展開装甲はおぼろげで切れかかっている。

この一撃を決められなければ、死ぬのは俺になる。

向こうも余力はないのだろう…同じように真正面から俺を潰しにかかる。

 

《もう!シネヨォォォォ!!!》

「撃ち抜け…天狼!奴よりも速く!!!」

 

残っていた群狼を瞬時加速でフェンリルに突撃させ、不意を突かれたフェンリルは残った腕をかみ砕かれる。

俺は我武者羅にコアを掴みとり、掌から銀閃咆哮を撃ち込んでコアを消失させる。

コアを失ったフェンリルは漸く動きを停止させ力なく宇宙空間を漂い始める。

 

「はぁ…はぁ…疲れた、な…ぅ…眩しい…?」

 

天狼白曜の残存エネルギーは五%を切っている…下手に動けば心臓が止まるな…。

地球の輪郭をなぞって光が溢れれば、ゆっくりと太陽が顔を覗かせ始める…夜明けか…随分と長い夜だったように思えるな…。

漂うフェンリルの残骸を見て、脳髄…いや、AIユニットが未だに生きているのを確認する。

 

「…一人は寂しいかもしれんが…少なくとも、理不尽とは無縁になるだろう」

 

AIユニットをフェンリルの残骸から引き抜けば、ゆっくりと星の海へと押し出していく。

最初の果てなき旅へと旅立ってもらおう…もしかしたら俺の居た世界に流れ着くかもしれん…そうであったら面白いかもしれんな。

 

『狼牙さん!聞こえますの!?』

「がなるな…彼方此方が痛くて仕方がないんでな…」

『生きてますのね!?良かった…』

『狼牙!早く戻って来いよ!!』

 

セシリアの怒鳴り声に答えてやると、今にも泣きそうな声で安堵の吐息を漏らす。

いやはや…今は生きていると言った感じではあるのだが。

一夏が回線に割り込んでくるが、俺はその言葉に応えることができん。

 

「少しばかり、無茶が過ぎてな…帰るのに時間がかかりそうだ…」

『おい…どういうことだよ!?』

「残エネルギー量が足りなくてな…矮星も残っているのは片足の二式王牙の分だけだから充電に時間がかかる…」

 

最後の一撃の時に右腕はオーバーロードを起こして爆発…結果として矮星を失う形になる。

残った群狼のエネルギーを足しても、大気圏突入時に燃え尽きる可能性があることを考えると…いやはや…。

 

「無理無茶無謀は専売特許と言ったが、そろそろ特許を取り下げんと…」

『ゆ、許さないわよ狼牙君!!』

『狼牙!!』

 

更識姉妹は怒声を上げながら、俺に通信を送ってくる。

耳がキーンとして、思わず貌を顰めてしまう…。

帰らんとは言ってないだろうに…。

 

『これからテストだってタッグマッチだってあるのに!まだ!いっぱいやらなきゃいけないことがあるのよ!?』

『早く…早く帰ってきてよ…!!』

「帰らんとは言ってない…時間がかかるだけだ…」

 

いかんな…エネルギー残量が切れかかっている…そろそろ…暫しのお別れか…。

 

『…もし、帰ってこなかったら…迎えに行きますわ…迎えに行って引っ叩いて差し上げますから覚悟なさいっ!!』

「それは恐いな…セシリア…楯無…簪…それにラウラ…愛しているからな」

 

通信を一方的に切り、廃棄された衛星を見つけてそこに腰掛けるようにして身体を預けて日の出を迎えた地球を眺める。

ガガーリンは地球は青かったと言ったが…ハハ、なんとも美しいものだな…。

兎に角…エネルギーを貯めなくては…。

俺はゆっくりと眼を閉じて眠りについた。

 


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