【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
―――時は、一夏達が戦闘開始する頃まで遡る―――
束さんに天狼白曜のガワを預けた後、床に座り込んで端末に送られてくるオートクチュールと言うかオプションユニットと言うか…兎に角そんな感じの…言っては何だがロマンを詰めすぎて明後日の方向に行ってしまったもののデータを頭に叩き込む。
さっきからする頭痛はきっとこのデータのせいだと思いたい…ッ!!
「銀君、何をそんなに難しい顔をしているのかしら?」
「おい、お前!スコールから離れろよ!!」
「…あのな、馴れ馴れしいと思わんのか?」
出来ることも無いので隅に座り込んでいたのだが、スコールは俺が眺めている端末のデータが気になるのか隣に体を密着させる形で座り込み一緒に眺めている。
そんな
様子をオータムは非常に面白くないらしく、さっきから俺に殺気を微塵も隠そうとしない。
どうやらオータムは百合の娘だったらしい。
「そもそも、束さんの側に付いたと言うのならば油を売っている暇が無いのではないか?」
「篠ノ之博士に武装解除されてしまってね」
「チッ…あいつ人間かよ…!?」
どうも展開した瞬間に、束さんの携帯型ラボ『
…護衛いらなかったかも分からんな…。
軽く眉間を揉み解してため息を吐く。
因みにマドカは束さんがペロペロしている最中だ…補給とメンテをこなしながら成分補給…人間やめてるな。
「オータムとか言ったか…些事はスルーしておかんと束さんに付いて行けんぞ?」
「お、おう…」
あまりにも悲痛な表情をしていたのか、オータムは気圧されてコクコクと頷いている。
ともあれ、天狼白曜の付属品のデータに再度目を通すことにする…この際ブロンド美女は無視だ。
構っていられん。
[ロボを殺す気満々で作ったとしか思えないわよねぇ…?]
白の言葉に自然と深刻な面持ちで頷いてしまう。
オータムは、スコールを引き剥がすことを諦めたのか、忌々しそうな顔でスコールの隣に座り俺を牽制してくる。
色恋沙汰はこれ以上いらん…。
『エトワール・フィラント』…フランス語で『流れ星』と名付けられたソレは、アランさんが天狼白曜の突進力を極限まで高めたらどうなるのか?と言う疑問を解消すべく『趣味』で設計された馬鹿げた大型ブースターユニットだ。
束さん曰く
『こういうロマンが分かっている男は大歓迎だね!凡人が馬鹿げたものを考えちゃうから、天才の束さんは形にしたくなっちゃうんだよね!!』
との事だ。
まぁ、その…なんだ…そのロマンに殺される羽目になるのは俺なのだが。
エトワール・フィラントは、当初全身に追加装甲と追加ブースターを山ほど装備して直線上に居る敵機を体当たりで文字通り粉々に粉砕する『相手を絶対轢殺するマッシーン』になる予定だったそうだ。
だが、此処で束さんがとんでもないことをアランさんに言い出す。
『凡人の技術的に無理なことでも、私なら実現しちゃうよ?』
と…。
これにアランさんの技術屋としての魂に、ガスと重油を注ぎ込んだ。
後は黒煙を上げて燃え盛る炎が如く情熱を設計図に叩き込んだアランさんは、単一仕様能力を使わなければ『絶対ミンチを作り出すマッシーン(パイロット限定)』の図面を束さんに提出。
束さん更に図面に赤○ン先生が如く図面に訂正を入れ返却。
アランさん更に燃え上がり…束さんが…を繰り返していった結果、単一仕様能力を使わないと『相手を絶対に轢殺しつつ、操縦者をミンチにするマッシーン』へと究極進化を果たした。
見た目は銀色の流線型のホバーバイクと言った印象を受ける。
使用されている装甲は今回エトワール・フィラント専用に束さんが開発した特殊合金を採用。
高い剛性と硬度、軽量化を実現…しかし、軽いと言う事はそれだけ突進力が落ちると言う事になる。
しかし、此処でアランさんは考えた…軽くなって粉砕できないのならば、突き刺さる方向で行けば良いと…。
そうして考えられたのが、前方視界不良になり兼ねない大きさの盾を兼ねた大型衝角である。
アリーナ最高レベルのエネルギーシールドに対応できるように、衝角から渦巻く様に単一仕様能力『天狼』を発生できるように調整。
攻勢展開される『天狼』なんぞ零落白夜と対して変わらんがな…。
両腕両足は装甲表面に露出するようになっているため、空気摩擦による衝撃を矮星が拾う様にして『天狼』及び天狼白曜本体の展開装甲の維持を実現。
エトワール・フィラント本体後方には一面三十発、三面九十発の三角柱上のマイクロミサイルコンテナを二基。
これはコンテナ自体を投下して数秒のラグの後に三面から一斉発射、ミサイルの飽和射撃によって面制圧を実現させた。
射撃な苦手な俺でも扱えるようにと言う配慮だったらしいが、こんなの撃ち込んだら最悪人が死ぬと思う。
そして、異常な加速性を活かすために装備された爆破装備…爆道索…言ってしまえば極めて殺傷能力の高い爆竹(チャフ込)だ。
相手が反応する前に機体後方から投下、爆発させることでエトワール・フィラントの航路上を爆破しつつレーダーと通信を妨害。
編隊が乱れたところを轢殺しいていく、と…もう見ただけで頭が悪い―悪い意味で―兵器だと言う事が分かる。
そもそも束さん軍事兵器化を嫌っていた気が…吹っ切れてしまったのだろうか?
そして…展開装甲だけでは補うことができない重量を補うために使われる力技…プロペラント付大型ロケットブースター四基である。
これがイケない…なによりも拙い物体である。
具体的には重力を振り切って宇宙に上がれる…それだけの推力をこれだけで叩き出すのである。
展開装甲を使用することで倍プッシュ…月まで時間を掛けずに行けてしまう気がする…。
結論、こんなものを使ったらどちらかに死人が出る。
「よかったな、敵対してたらお前達は、残らず粉々にされていたかも分からんぞ…?」
「「……」」
乾いた笑いを上げながらスコール達に端末を見せると、最初は笑っていた顔が見る見るうちに蒼くなっていく。
気持ちは分からんでもない…実際運用したければ、無人機で制御すべきなのだろうが…『天狼』が無ければ空中分解待ったなしの物体なのだ。
因みにこのオートクチュール…使い捨てである。
理由は、『天狼』による防御機能でも一回の使用で中がボロボロになるから。
俺…この戦いが終わったら、束さんとアランさんを全力で殴るんだ…。
蒼ざめた顔のスコール達を放置して立ち上がってラボの奥に併設されているISハンガーに向かうと、アランさんが機体の最終チェックを行っていた。
「やぁ、銀君。機体の補修とエネルギーの補給…さらに矮星のエネルギー貯蔵状態も満タンにしてある。すぐにフルスペックで戦場に向かえるよ」
「助かる…後で憶えていろよ…?」
「はっはっは、歳なのか何のことか分からないなぁ?」
アランさんは、やり切ったみたいな顔で恍けたことを言う。
これが元経営者…やはり腹が立つな。
「銀君、エトワール・フィラントは使い潰したって構わない…『天狼』に護られてる君は無事なはずさ。けれど君に代わりはいないんだ…必ず帰ってくるんだよ?」
「女を泣かせたら恐い男が居るんでな…生き抜く約束もしている。死にに行くために戦場に出るわけではない」
「…無力な大人を許してほしい」
「許すさ…子供が許さんで、誰が大人を許すというのだ?」
天狼白曜に触れ、にやりと笑みを浮かべれば展開して身に纏う。
PIC制御のみで床を滑るようにして移動してカタパルトに向かうと、主を待ち受けるかのようにオートクチュール『エトワール・フィラント』がカタパルトに鎮座していた。
装甲に覆われた手で愛馬に触れる様に撫でれば、オートクチュールを装着してエネルギーバイパスを接続していく。
[ロボ、私は束のサポートをしなくてはならないの…それぞれの戦い…勝ちに行きましょう]
「承知した…諜報戦は白の十八番…ステゴロ格闘は俺の十八番、だ。それに応援してくれる奴らも居るしな」
『こちら学園防衛班。狼牙君…悪いけど出る前にお掃除手伝ってもらっても良いかしら?』
「楯無か…地下区画に入り込んでるのだな?」
楯無からのコアネットワーク通信が入ると、表示されたマップ上に十機分のISの反応が示される。
どうやら、一夏達は誘い込まれたようだな…手薄になった防衛を突いて束さんだけでも拘束してしまおうと。
だが…使える手札はまだある。
「束さん、クロエは居るか?」
『はい、私に何用でしょうか?』
どうやら束さんにしては珍しく、余裕が無いらしい…すぐにクロエが応答する。
「グラウンドエリアの地下に訓練場がある…『黒鍵』を使ってIS部隊を誘導。生身の連中は昏倒させる事はできるか?」
『問題ありません。すぐに取り掛かります』
クロエの通信が切れた瞬間、一斉にIS反応が移動を開始する。
一体どんな幻を見せているのやら…?
反応の移動する速度を見る限り、相当恐い幻影を見せられているようだ。
次の一手は…。
「楯無、簪と一緒に昏倒した連中を縛って地上に叩きだせ」
『えげつない真似するわね~』
『…禁じ手に近いんじゃないかなぁ?』
そもそも、形骸化しているとは言え中立地帯に手を出す連中が悪いのだ…何かされないと思っているのは連中の想像力不足と言うものだろう。
反応が訓練場に集まったのを見て、カタパルトを強制解除して機体をその場で反転させる。
では…流星の初陣と参ろうか。
「狼牙、狩りに出るぞ」
瞬時に『天狼』及び展開装甲を起動。
更にロケットブースターに火を入れ、ゼロからトップスピードまで加速して壁を文字通りぶち抜いていく。
一々回り道なんぞしていられん…直線距離が最短なのであれば道を作ってしまえば良いのだ。
訓練場まで五秒とかからず到達した俺は、右往左往しているファング・クエイク部隊を発見する。
では、しばらく寝ていてもらおうか…。
取り囲むように敵部隊の周囲を旋回しながら爆道索を投下。
エトワール・フィラントの描く航跡に沿って爆発が次々と起きる中、マイクロミサイルコンテナを一基投下。
九十発のマイクロミサイルが一斉に発射され敵部隊を一瞬で行動不能に追い込んでいく。
…えげつないが、気にしてもいられん。
機首を直上に向けて多重瞬時加速。
天井をぶち破り、グラウンドをぶち破り一気に外へと出る。
本当に一瞬の出来事だっただろう…俺の姿も見えなかったかもしれん…だが…。
「パパー!!!!」
「何してるか、わからないけど!!!!」
「「「「「がんばってーーー!!!!」」」」」
ちら、と見た学生寮の屋上に、クラスメイト達が集まって手を振っている。
どうやら起きてしまっていたらしい…無理もないか。
マドカと派手に戦っていたし、寮の屋上から目を凝らして見れば戦闘光だって確認出来る。
何か起きているのは明白だし、地下から何か突き破ってくれば確定的だ…。
あぁ…きっと俺の帰るべきもう一つの場所は、あの友人たちが居る場所だ…。
そう思うと今から進む黒い海とて、何も怖くない。
夜闇を切り裂く流星にだって、今の俺はなれるのだ。
空中で宙返りを行って座標を確認すれば、ケツを軽く振ってから徐々に加速を行っていく。
爆音にかき消されて聞こえないが、笑ってくれた様にも思える。
すぐに気を引き締めた俺は、セシリアに状況を聞くために通信を入れる。
「セシリア、戦況は?」
『今、一夏さんが…!?!?』
『機体が…!!』
ベコン、と言う音が此方まで響いてくるのが分かる。
水平線が歪んで見えるほどの…重力場か…鉄や土よりも貫き甲斐があるな。
機体の速度をトップスピードに載せれば『天狼』のフィールドが赤熱化し、爆音と共に光り輝く。
まるで地上を翔る流星となった俺は、迷わず重力領域へと突撃。
『天狼』のフィールドが容易く重力領域を食い破り、哄笑する天狼モドキへと衝角を突き刺していく。
《きたぁ…!!!アハハハハ!!!》
「悪いが、俺たちに相応しい戦場まで付き合ってもらう」
『ろう、が…!!!』
天狼モドキ…データによるとフェンリルか…ごと機首を再び直上に向けて幾度も瞬時加速を行っていく。
目指すは
俺は天狼…天にて貴様を狩る者だ。
フェンリルは幾度も機首に拳を叩き付けて脱出を図ろうとするが、強烈な加速Gが衝角に縫い付け続ける。
逃がさんよ…貴様は元より俺が狩るつもりだったからな!!
「一夏、獲物の横取りは一匹狼の必須スキルなんでな。いただくぞ!」
『な!!待て!!!狼牙ー!!!!』
待てと言われて待つものなどいないよ、一夏…。
地上に生まれた流星は、忌子を抱えて天へと向かう。
誰にも邪魔は許さないと言わんばかりに。
エトワール・フィラント
ぶっちゃけ、ACVD黒栗が使ってたVOBがモチーフ。
書いてて馬鹿なもんアランさんに作らせたなぁと思いました(粉蜜柑
結果として出来上がったのはデルフィングでしたと言うオチ。
誤字脱字がひどくて申し訳ありません…