【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
『織斑、篠ノ之、凰、無人機体は天狼のデッドコピーと言うことだ。以前銀が戦闘した際のデータがあるが、それよりも強化されていると思っていい』
「分かった、所詮なんて言わないし手加減もいらないんだな?」
「人乗ってたら気遣う必要あったけど…ボッコボコにしてやるわ!」
「鈴、油断するなよ?偽物とは言え、引っ掻き回される可能性がある」
一夏達は背後で起きる戦闘音を聞きながら、千冬から送られてきたスペックデータに目を通していく。
詳細なデータはスコール達にも知らされておらず、あくまでも目安としてのデータでしか渡されていない。
しかし、それでも敵の全貌が掴めるというのは一夏達にとって不安を払拭するに十分な材料となるし、何より今まで狼牙と軽いトラウマになるまで対超高速機動戦闘訓練を行ってきたのだ。
きちんと互いが出来ることを把握して補い合う事さえできれば恐いものはない。
《目標、白式、紅椿確認…排除、開始≫
以前の戦闘で強化改修された『F』は、背面のジェットエンジン型の大型スラスターから高機能ウィング・スラスターを二対装備し、高速機動戦闘における小回りが利くように改善されている。
また、無人機ゆえに絶対防御機能はAIコアに集約することで燃費の改善に成功。
ある意味で…天狼白曜に近づくことができたと言えるだろう。
炎を噴き上げる空母の甲板の上に佇んでいた『F』は一夏達の反応を確認すると、二対のウィング・スラスターを背面に集中させて甲板を蹴り砕きながら瞬時加速で飛び出していく。
やはり速度は天狼に匹敵するものがあるが、天狼白曜には程遠い…一夏達はまだ視界の端に機影を捉えることができて、僅かばかりの安堵を覚える。
狼牙であれば、まだ遊んでいるレベルの速度なのだから。
「箒、鈴、面制圧で抑え込んでくれ。俺が一気に近寄って叩き切る!」
「オッケー!行くわよ箒!!」
「任せろ!」
飛び出してきた『F』を見た箒と鈴は二手に分かれて雨月によるエネルギー弾の拡散射撃と龍砲による拡散射撃を行って『F』の退路を断とうとするが、それらの攻撃は悉く綺麗に逸れていく。
まるで見えない壁に阻まれる様に、だ。
「馬鹿な!実弾じゃないんだぞ!?」
「インチキ使ってるわね!!一夏、接近戦で追い詰めるわよ!!」
「一番手もらうぜ!!」
一夏は左腕に装備された『雪羅』にエネルギーを溜め込みつつ瞬時加速、真っ直ぐに突っ込んでくる『F』へと一気に肉薄して左腕を突き出す。
その攻撃は狼牙にインスパイアされた攻撃方法。
一夏は自身に射撃を上手く行うだけの才能が無いことを知っている。
上手く当てられないのならば、無理やり当ててしまえば良い。
では、どうするのか?
答えは狼牙の銀閃咆哮にあった…そう、掴んでから撃つと言う射撃兵器にあるまじきあの使用方法である。
火力の関係上、掴んでから撃ってしまえば、白式とてタダでは済まない。
故にごく至近距離からの接射に留めているが、銀閃咆哮とは違い荷電粒子砲は距離を余程開けなければ余波でダメージを負う事になる。
結果として一夏にとって近接戦闘における選択肢が増える形となった。
「喰らえよ!!」
《グラヴィティフィールド、出力上昇》
一夏が荷電粒子砲を放つ瞬間、『F』の周囲の空間が『歪む』。
歪んだ空間に荷電粒子砲が触れた瞬間、一夏の放った荷電粒子砲は壁に阻まれたかのように拡散していく。
バコン、と言う音が響いた瞬間に、一夏は背後から強烈な一撃を受けて海面に叩きつけられる。
「こんのおおおお!!!」
「何をやったか知らないが…!!!」
箒と鈴は、瞬時加速を用いて挟み込むように接近して手に持った近接武器を振るうがそれも歪んだ空間に阻まれてしまい『F』に攻撃が届かない。
《クフッ!クフフフ!!アハハハハハ!!!》
「笑ってんじゃぁ…!!」
「ない!!」
箒は空裂からエネルギーの刃を発現させて横薙ぎにし、鈴は一極集中させた衝撃砲を『F』に対して叩き込むが、やはり歪んだ空間に阻まれて攻撃が届かない。
箒と鈴が仕切り直しの為に後退すると、入れ替わりに一夏が『F』の直下
から瞬時加速をかけて雪片弐型に零落白夜を纏わせて斬りかかろうとするが、それよりも早く『F』は姿を消して離れた位置に現れる。
まるで近接戦闘を嫌うかのように。
「何やってるんだかわかんないけど…今零落白夜嫌がったわね?」
「あぁ…となると…」
「俺が何とかしてあの訳のわからないのをぶった切らなきゃならないわけだな…!」
三人は『F』を睨み付け、攻略法を模索しようとする。
今手が離せない狼牙を待たずに、自分達だけでどうにかしようと。
今まで狼牙は裏で身を粉にして戦ってきたのだ…こういった時くらいは、楽をさせてやろう…それくらいの事を三人は考えていた。
「とは言え、狼牙みたいに一瞬で消えるわね…」
「あぁ…だが、頻繁には消えないところを見ると何かカラクリがあるのだろう」
鈴は牽制代わりに衝撃砲を散弾状に発射させ、『F』の周囲を周り始める。
効かないまでも、見えない弾丸と言うのはプレッシャーになるだろうと言う考えの元だ。
『F』は絶えず笑い声を上げ、嘲笑うように衝撃砲による攻撃を逸らし続ける。
箒は衝撃砲の軌道と『F』周辺の歪みのデータを記録して、姉である束の元へと送る。
天災にして天才である姉ならば何か分かるかもしれない…利用するのではなく純粋に救いの手を求めての事だった。
「箒、あのモドキ野郎から目を離さないでくれよ!」
「あぁ、任せろ!」
一夏は残りのシールドエネルギーを気にすることなく二連瞬時加速をかけて『F』へと近づいていくが、『F』は近接戦闘を嫌っているのか自身の周囲の空間を歪ませて何かを弾丸代わりに一夏へと撃ち込んでいく。
「頼む…姉さん…力を…っ」
現状、姉の目の代わりとならざるを得ない箒は歯噛みする。
しかし、姉が応えてくれたならこの紅椿と共に…その考えが過った瞬間、紅椿に変化の兆候が現れ―――
ラウラは敵の狙いにすぐ気づいた。
ファングクエイクを纏ったIS部隊は、一夏達の邪魔をすることなく素通りさせたのだ。
つまり、元から一夏と箒…この二人のISに用があったということ。
そして、恐らくはあのISは一夏達と互角以上に戦う何かがあると言うことなのだ、と。
「私とて祖国ドイツの精鋭部隊の隊長だ!
ラウラは、数の差を覆せるだけの自信があった。
それは、僚機にセシリアとシャルロットが居るためだ。
片やBT兵器をフルスペックで扱うことができ、片や
何が言いたいのかと言えば…。
「…ッ!!」
「さぁ、わたくし達の奏でるワルツに踊りなさい!」
「余裕はないからね!出し惜しみは無しだよ!!」
セシリアはBT兵器を偏向制御射撃も駆使して、シャルロットの放つ弾幕を縫うようにエネルギー弾がファング・クエイク達に襲い掛かっていく。
ファング・クエイクは、甲龍とコンセプトを同じにした安定性と燃費の良さを重視した第三世代IS。
装甲の厚さもあってか動きがやや鈍いものの、リーダー機が優秀なのか素早く散開して被害を最小限に抑える。
「相手はヒヨコだけだ!一気に畳む!」
「ヒヨコか、ならば貴様らはそのヒヨコに敗れるのだ!」
ラウラは、回避が遅れて多く被弾した一機に瞬時加速を用いて急接近。
AICを用いて拘束すれば素早くプラズマ手刀でISの四肢で脆い関節部を切断し、回り込みながら止めとばかりに背面スラスターを手早く破壊する。
しかしラウラの攻撃は続き、ワイヤーブレードで絡めとれば
その容赦の無さはウサギ等ではなく、獰猛な狼の狩りそのものだ。
「ヒヨコと言うその認識…貴様ら全員海に沈めて改めさせてやろう」
「「ラウラ(さん)…」」
牽制のはずが当てるつもりで放たれる弾幕を一切止めることなく、獰猛な笑みを浮かべるラウラを見てセシリアとシャルロットは若干引きつつ苦笑する。
なんせ浮かべている笑みが、悪いことを考えている狼牙の笑みと瓜二つなのだ。
子は親に似るというが、どうも血が繋がっていなくとも似ていくものらしい。
ラウラは果敢に残る四機に躍りかかり、編隊を乱していく。
AICと言う切り札を早々に見せたのは、近づけさせてはならないと言う認識を敵部隊に植え付けるためだ。
効果範囲も時間も認識していない側からすれば停止結界と言う存在は厄介極まりない。
そうしてラウラを意識しすぎると…。
「鴨撃ちですわね。ラウラさんのあのイキイキとした表情…狼牙さんに見せて差し上げたいですわ」
「生き別れの兄妹なんじゃないかな…っと!」
ヒヨコと侮った部隊長は此処で早々に認識を改めることとなる。
雛は雛でも大鷲の雛だったのだと。
「重力結界?」
『そうだねぇ…出力がどれくらいあるのかはわからないけど。あの偽物は単一仕様能力も真似ようとしてるんだよ。重力を一極集中で操作することで空間を捻じ曲げて、壁にしてる。いっくんの零落白夜ならイケるよん」
天狼白曜の単一仕様能力…複数の効果の中に対エネルギー兵器の無効化と実弾兵器の軽減化能力がある。
これらは『天狼』のエネルギーフィールドに触れる瞬間に適用される効果なのだ原理は未だに解明されていない。
と、言うのも『天狼』のエネルギーフィールドは性質的にはシールドエネルギーと変わらないのだ。
しかし、ただのシールドエネルギーにそんな能力は無い。
再現のしようがないのだ。
だが…。
『瞬間移動のカラクリも、重力操作でカタパルトを作って弾き出してるんだよ。天狼白曜程小回りが利くわけじゃないし、何より終点に必ずクッションを用意しているはず。距離も限られるから予測もできる』
束はニヤリと悪い笑みを浮かべながら、消えるほどの速さで移動できる最長範囲と『クッション』の位置を紅椿のデータベースに送り付ける。
箒はすぐに予測プログラムを立ち上げ、白式と甲龍にコアネットワークを用いてデータを同期していく。
「やっぱり、所詮コピー品ね!」
「箒、鈴!行くぜ!!」
「あぁ…今度こそ私は…!!」
箒は紅椿の展開装甲を速度特化で展開させる。
その瞬間、紅椿は箒の想いに応える様に金の燐光を放ち始める。
箒の視界の隅に紅椿からのメッセージが入る。
[ようこそ わたし は あなた を かんげい します]
そのメッセージはまだ幼い子供がたどたどしく話すようで、少し可愛らしくも思う。
だが、自分はこの紅椿に認められた…そんな気持ちにもさせられる。
箒は迷わず前進する。
瞬時加速を行った瞬間、目減りするはずのシールドエネルギーが減らず…むしろ増え続ける。
まるで無尽蔵になったが如くだ。
『純粋な気持ちに応えたね…おめでとう箒ちゃん、それが『絢爛舞踏』。白に並び立つ紅。消すものと増やすもの。箒ちゃんだけのスペシャルだよ』
「行ける!この紅椿なら、皆と一緒に!!」」
箒は今まで出力を落として使わざるを得なかった雨月と空裂の出力を上げ、牽制に雨月からエネルギー弾を発射しながら肉薄。
雨月による高出力エネルギーソードで重力の壁を断ち切ろうと振り下ろす!
「はあああああ!!!」
《グラヴィティ…ッ出力…上昇…》
初撃で重力壁に深く食い込めば、瞬時加速を連続で使い無理矢理押し切ろうとする。
危険と判断した『F』は重力カタパルトを用いて瞬間移動を行い、箒の目の前から逃げおおせる…しかし。
「いらっしゃーい!行くわよ!一夏ァッ!!」
先回りしていた鈴が双天牙月を野球のバッドの様に構えてフルスイング。
瞬間移動直後のインターバルで重力壁を張れない『F』は、胴体に直撃を貰い無様にも上空へとかち上げられる。
「行け!!一夏!!!」
「おうよ!!!」
単一仕様能力『絢爛舞踏』は、自身に無尽蔵にエネルギーを供給する他にもう一つ利点がある。
それは触れた機体に無条件にエネルギーを供給する能力だ。
箒は空中で天地を逆転すれば一夏の足と足を合わせエネルギーを供給し、蹴りだす。
それは一夏と狼牙が学園祭の時に見せた緊急加速法だ。
漫画も中々馬鹿にできるものではない…等と胸中に複雑な思いが過るものの、
箒は精一杯の力で一夏を送り出した。
一夏は箒に蹴り出されるタイミングで多重瞬時加速を行い、トップスピードに一気に乗る。
「一夏!!これも受け取りなさい!!!」
「おおおおおお!!!!!」
鈴は一夏の背後に向けて最大出力の衝撃砲を放つ。
一夏はその衝撃砲をエネルギーとしてスラスター内に溜め込み、さらに瞬時加速。
夜空を翔る流星の如く、速度だけならば一瞬とは言え天狼と同等の速度域に入り、一夏の視界は暗くなっていく。
だが、ここで仕留めなければ箒の能力があってもジリ貧が目に見えている。
ただでさえ、自分は燃費が悪い。
だからこそ、一撃にかける必要がある。
「これが!俺たちの力だあああ!!!」
一夏は雪片弐型を振るう瞬間、居合の様に零落白夜を発現させて『F』を両断する。
零落白夜は一夏の意志をトリガーとして発現している。
では、その意志が研ぎ澄まされたらどうなるのか?
答えは単純明快…より研ぎ澄まされ、破壊力を増すのだ。
重力操作で多少の消耗があったとは言え、『F』はたった一撃でシールドエネルギーを空にされ海中へと沈んでいく。
「はぁ…はぁ…俺たちの…勝ちだ!!」
一夏は雪片弐型を血糊を振り払うように振り降ろし、鞘に納める様に左手で掴む。
もう、斬るものはないと言わんばかりに。
勝鬨を上げるように拳を振り上げた瞬間、海が割れる。
『ダメージレベル上昇。外装、パージ。グラヴィティジェネレーター始動。アハハハハ、やるなら本気でやろうよ~!その方が君たちもたのしいんでしょ!?アハハハハハ!!!』
『F』は確かにコアのシールドエネルギーが切れている。
だが、予備ジェネレーターであるグラヴィティジェネレーターをメインジェネレーターとして使用することで再稼働。
傷ついた装甲はパージし、人工筋肉むき出しとなった『F』は化け物の様に見える。
離れた位置で戦闘しているセシリア達や空母を含めて重力作用領域を展開し、一気に押し潰しにかかる。
反撃を許さないその超重力は一夏達の動きを拘束し、押し潰すような圧力がジリジリとシールドエネルギーを削り取っていく。
狂ったような笑い声と一夏達の苦悶の声が響くとき、一筋の流星が爆音と共に現れた。
パソコンの初期設定に手間取って昨夜更新できなかった…orz
ウィンドウズ8に戸惑うわ、やたらキーボードの感度は良いやらで手間取りました
そしてまさかの主人公不在である。