【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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狼は誰が為に…
狼、皆に狩られる


十月の慌しさを引き摺るようにやってきた十一月。

今月は延期されていた専用機タッグマッチ・トーナメントが控えている。

このイベントを以って二学期のメインイベントは終了となる。

期末テスト…?

今回は鬼教官が三人も居るからな…手抜かりは無い。

…睡眠時間がガリガリ削られていっているがな。

だが、それに見合った対価を得る事はできている。

もう、一学期の時の様な失態は犯さないと宣言させてもらおうか。

 

「ちっ…スラスターがん積みでも重いな…!」

「いや、天狼が異常なだけだからね?」

[そうよ、単純推力でラファールの四倍以上あるんだから]

 

現在放課後、今は皆で機動訓練の真っ最中だ。

天狼白曜は新規オプションユニットとの同期改造の為に、今は束さんとアランさんに預けてある。

何でも全身に装着して使う使い捨てタイプ…との事だが…正直不安しか感じない。

全身に加速用のロケットブースターを大量に配置したとか何とか…耐G能力は人類随一と言う自負はあるが、流石にミンチになってしまう気がするんだ…。

話を戻すが、今何を使っているのかと言うと…。

 

「くっ!本当に第二世代の動きか!?」

「ラウラ!追い込むよ!!」

 

白の話に出たラファールだ。

それも前期型…リヴァイヴでは無い、ノーマルなラファール。

拡張領域内を空にして、増設ジェネレータを配置し仮設ウィング・スラスターと両肩両足にフレキシブル・スラスターを配置した所謂『俺・カスタム』である。

流石に天狼白曜の様に徒手空拳による格闘戦を常時行うわけにはいかないので、ヴェント・ルーくらいは装備させてもらっている。

ライフルの方が牽制になる?

射撃は苦手でな…狙いをつける暇があるなら、蹴り技を叩き込んだほうが早い。

ラウラとシャルロットはワイヤーブレードとマシンガンによる牽制で俺を鈴とセシリアの居る方へと追い立てていく。

 

「来ましたわね…鈴さん、タイミングはよろしくって?」

「はん!誰に物言ってるのよ!行くわよ!!」

 

俺はラウラとシャルロットの掌の上で踊らされるように鈴とセシリアの射線上に躍り出る。

示し合わせたかの様に衝撃砲と偏向制御射撃が俺へと襲い掛かってくる。

容赦が無いな…天狼白曜であれば問題なく避けられるのだが…。

四の五の言っても始まらん…。

今俺は制限時間付きの鬼ごっこをやっている。

俺の勝利条件は、制限時間まで生き延びる事。

敗北条件は誰かに捕まるか、シールドエネルギーが切れた時。

言うまでも無く千冬さん考案の俺虐めである。

BT兵器のレーザーを紙一重で避けて直上へと瞬時加速をかける。

単一仕様能力無しでの急激な加速は、俺に骨の軋む音を聞かせてくる。

懐かしい音だ…第二次形態移行をしてから中々聞けなかったからな。

歯を食いしばりながら散弾状にばら撒かれた衝撃砲の痛みに耐え、上を見上げた瞬間に刀をヴェント・ルーで受け止める。

 

「はああああ!!」

「ちぃっ…!馬力が足らん…ならばっ!!」

 

上空から奇襲を仕掛けてきたのは紅椿を纏う箒だ。

箒は性能差から来る馬力の違いを見せつけ、俺を徐々に押し始める。

で、あれば…昔からよく言うだろう?

『押して駄目なら、引いてみろ』とな。

ヴェント・ルーを蛇腹剣モードに切り替えて、鞭状にすると力を入れすぎていた箒はバランスを崩してつんのめる。その隙を逃さず素早く頭を足で挟んで捻りを加えて俺の背中の方へと投げ飛ばす。

理由?

一夏が零落白夜を発動させて俺に迫っていたからだ。

一夏に向かって放り投げられた箒は慌てて急停止するものの、瞬時加速を使っていた一夏と衝突して地面へと落ちていく。

 

「わっわりぃ!!」

「くっ!一夏!!早く捕まえないと夕飯が!!」

 

なお、今回のこの鬼ごっこ…俺のハンデが酷いと言う事で一つ罰ゲームを設けてある。

それは、俺を止められなかった場合セシリア達は夕飯抜き…と言う過酷なものだ。

ISを扱うものは肉体の鍛錬も行わなくてはならない。

パワードスーツの延長にあるものだからな…頷ける話ではある。

つまり、体育の授業と言うのはどれも体力を使う筋力トレーニングが主だったものになる。

食べ盛りの学生にこれは堪える…。

その所為かどうかは分からないが、皆俺に向ける目が若干殺気立っている。

時間にして残り五分…瞬時加速は多用していない為、シールドエネルギーにも余裕はまだある。

ただ五機の専用機を相手に改造機で何処まで保つかは…。

なんせ、さっきから無理矢理噴かしている所為で、追加スラスターの具合が非常によろしくない。

下手をすればパージする必要も…。

素早く前方に転がるようにして前進すると、下方から荷電粒子砲が飛んでくる。

間一髪で避けたは良いものの、上空からミサイルとアサルトライフルによる弾丸の雨が降り注ぎ、ミサイルによる直撃を受けてウィング・スラスターを破壊されてしまう。

 

「チィッ!パージ!!」

[アイ・サー]

「皆、今がチャンスだよ!!」

 

シャルロットは畳み掛けるように残弾を撃ちつくし、俺を一気に追い立ててくる。

更にはセシリア、鈴までも一斉射を放ってくる。

身体が軋むのを構わず瞬時加速を連続で使用し、アリーナの隅まで一気に退く。

包囲網事態は抜け出せたので結果オーライではある。

だが、ジリ貧だ…メインスラスターがやられてしまったのが痛すぎる。

 

「狼牙ぁっ!!」

「ちぃっ…!!」

 

自慢の推力にモノを言わせた一夏は必勝と見たか、瞬時加速を用いた突撃と同時に零落白夜を展開し俺を叩き斬ろうとしてくる。

一か八か…当たれば儲け物!

一夏の攻撃タイミングに合わせて、俺は回し蹴りを放つ。

足に付けられたスラスターの推力を目一杯にした、回し蹴りだ。

一瞬の交錯…俺の視界映る自機のシールドエネルギーゲージはゼロを示している。

一夏は柄をギリギリの位置で持つことによって何時もより間合いを広げて俺に斬りかかってきた。

結果、俺の蹴りは外れて一方的に斬られる展開となったわけだ。

 

「はぁっ!はぁっ!!どうだ!?」

「俺の負けだ、すっからかんになってしまった」

 

両手を上に挙げ降参の意志を示せば、ゆっくりとピットへと戻る。

皆一様に夕飯が守られたことに安堵していたが、セシリアとラウラには感づかれた様だ。

 

「父様、大丈夫か?」

「狼牙さん…」

「タフネスさがウリなのは知っているだろう?久々に吐き気が酷いだけだ」

 

ゆっくりとハンガーにラファールを掛けてISを解除すれば、その場にへたり込む。

思ったよりも肉体に対する負荷が強いな…単一仕様能力に如何に頼ってきていたのかが良く分かる。

『天狼』が無ければ良くて廃人、悪くて死人と言った所か。

…慢心はいかんな、うむ。

そんな様子を見て、セシリアとラウラは俺の体に抱きついてくる。

 

「あんな無茶はしないでください!」

「追い立てていた私達が言ってはいけないだろうが…父様に無理をしてほしくないぞ…」

「あぁ、すまんな…」

 

セシリアとラウラの頭を優しく撫でて微笑む。

慕って想ってくれる…心地の良い事だ。

何があっても彼女達が居てくれれば乗り切れる気になれるな。

 

「さて、二人とも…次の約束が控えているから離してもらえると助かるんだがな?」

「楯無さんと簪さんのISの修理でしたわね?」

「あぁ、今日終わらせておかないと面倒な事になりかねんからな」

 

…例えば、釣りが始まってしまった時…とか。

束さんに詳細を聞かせてもらおうとしたが、何処で聞き耳立てられているか分からないからと言われて未だに詳細は不明だ。

先日のゴーレムⅡとの模擬戦は、束さんの策に必要な事だったらしいが…。

案外、俺も束さんに謀られているかもしれんな。

だが、束さんは徐々にだが視野を広げ始めている。

アランさんとオートクチュールを共同開発している所からも、そのことが分かる。

束さんもまた、変わろうとしているのだろう。

 

「セシリア、私達も手伝いに行こう。皆でやればそれだけ早く終わる」

「えぇ、そうですわね…参りましょうか」

 

セシリア達はすっくと立ち上がって、アリーナ内で訓練を再開した一夏達に断りを入れている。

俺も漸く吐き気が治まったので、立ち上がって更衣室へと急ぐ。

何も起きなければ良いと、そう願いながら。

 

 

 

 

 

ISの修理は、ほぼ終了した。

パーツの組み付け作業もスムーズに行き、軽い動作テストも出来たところで作業していた全員がホッと一息つく。

修復にかかった時間を考えると、如何にあの姉妹喧嘩が壮絶だったのかが分かる。

後残っている問題は、特定の兵装に関するOSの調整だ。

これは簪が一手に引き受けると頑として譲らなかった。

楯無も簪の実力を認めているのでコレを受け入れ、今日は解散となった。

 

「ISの修理が順調で良かったですわね」

「えぇ、少なくとも何か起きても充分に対処できるわ…セシリアちゃんとラウラちゃん、手伝ってくれてありがとう」

「父様の嫁だからな、手伝って当然と言うものだろう?」

「「「嫁…」」」

 

時刻は午後八時…皆が思い思いに過ごしている中、俺達はいつもの様に俺の寮の部屋に集まりお茶会を開いている。

俺は今まで知らなかったのだが、どうも定期的にこう言うお茶会は開いていたらしい。

首輪になっているもの同士で親交を深める為…と言う名の牽制か?

いや、当初は牽制だったのだろうが今では本当にただのお茶会と化している。

女性三人寄らば姦しいと言うが、四人も居ると更に騒がしくなる。

今は十六代目をネタにして楯無が色々と暴露している。

哀れ十六代目、貴方は学園で娘の玩具にされているぞ…。

 

「もう、お父さんが可哀想だよ?」

「良いのよ、何時まで経ってもガミガミと煩いんだから」

「こうして父親は娘に嫌われていく、か…」

「わ、私は何時までも父様の事は大好きだぞ!?」

 

いずれ俺も子の親となる時が来るだろう。

それを思うと、なんとも不安になるばかりだ…。

ラウラは俺を慕ってくれているので問題ないが、まだ出来ても居ない子の事を考えると言うのも何だか馬鹿馬鹿しいものだな。

…本当に馬鹿馬鹿しい。

 

「そうだな、ラウラはいい子だからな」

「ふふん」

 

ラウラの頭を撫でてやると、胸を張ってドヤ顔をされる。

その様子を見たセシリア達は、少し呆れ顔になる。

 

「狼牙さんは子煩悩になりますわね」

「そうねぇ…ま、まぁ?子供嫌いよりは良いし?」

「うん…狼牙と…えへへ…」

 

段々と未来想像図を思い浮かべて、セシリア達までトリップしはじめる。

それぞれの理想の夫婦生活みたいなものを想像しているのだろう…。

獲らぬ狸のなんとやら…。

社会人になったら頑張らねばな。

 

「さて、そろそろ消灯時間になる…千冬さんにドヤされたくもあるまい?」

「うむ…教官は怖いからな…では、父様…お、おやすみなさい」

「「「!?」」」

 

ラウラは立ち上がってベッドに腰掛けていた俺へと近づくと頬にキスをして、逃げるように立ち去っていく。

その光景をばっちり見られてしまい、セシリア達の顔色が赤くなったり青くなったり忙しい。

 

「ど、どどういう…!?」

「狼牙…首輪…増やすの…?」

「英雄色を好むと言うし…」

 

三人はゆらりと立ち上がって俺へと詰め寄ると一斉に押し倒してくる。

あぁ、これは大変なやつだ…。

 

「落ち着け、ラウラには確かに告白こそされたが、親子関係に落ち着いている…お前達の思うようなことは…」

「だったら」

「私達に…」

「分からせてほしいのよね?」

 

三人とも内心穏やかではないのか、若干狂気を孕んだ瞳で俺の服に手をかけ始める。

翌朝、げっそりとした顔をクラスメイトに見られて心配されたのは言うまでもない。


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