【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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蒼い雫と銀の狼

翌週月曜日。

体調は良好、戦意は十分、パートナーは……

 

「………」

「なぁ、箒…」

「なんだ、一夏?」

「箒がイラついてても仕方ないんじゃないか?」

 

アリーナ待機室で一夏と箒と一緒に一夏のISが到着するのを待っていた。

俺の機体はバグが見つかったそうで今日は来れないとのことだ…ある意味助かった…のか?

 

「別にイラついて等いない!」

「落ち着け…しかし、女を待たせるのは男のすることでは無いな…」

「どうするんだ?」

 

備え付けの電話を使って千冬さんに連絡を取る。

 

「織斑先生、まだ一夏の専用機は来ないのか?」

『あぁ、まだ搬入されていない』

 

まだ、来ないのか…まぁ、こちらから急かしているのもあるから文句は言えんか。

 

「このままでは埒が開かん。俺が先に出ても問題無いな?」

『…まぁ、良いだろう。専用機ともなると、フィッティングも必要だからな』

「では、そのように」

 

そう言って電話を切った俺は軽く肩を竦める。

 

「前座位は務めよう」

「銀、行けるのか?」

「狼牙、勝てよ?」

「勝つつもり等と軟弱な事は言わん」

 

一夏と拳を打ち合わせ、ニヤリと笑みを浮かべる。

互いの条件をイーブンにする為、一夏は観戦する事が出来ない。

ここでお別れだ。

 

「箒、ギリギリまでシゴいてやれ」

「あぁ、もちろんだ」

 

今日、ここに至るまで箒ともそれなりに仲良くなり名前で呼ぶ様に頼まれた。

楯無?

あぁ、彼奴は苗字だ。

部屋を出てピットに向かう。

千冬さんに頼んで、俺が初めて起動させた打鉄を用意してもらった。

ただし、改造はしてもらっている。

特徴的な両肩の非固定武装である実体シールドを外し、武装を手持ちのパイルバンカーを両手に一つずつ装備させてもらっている。

打鉄の実体シールドは再生能力があるのだが、コレが微量とは言えエネルギーを食う。

で、あれば最初から外して燃費を良くした方が良い。

近接兵装に関しては、一撃必殺…それに浪漫の塊だからな…杭打ち機は。

射撃兵装は外した。量子化された武器の呼び出しの練習はできなかったし、動いている的に当てられる才能が今は無い。

宝の持ち腐れになる位なら俺は持たん。

 

「機動はぶっつけ本番になるが平気か?」

「無理とは言えんだろう?それに、オルコットには勝つと言ったのだ…動けないからやっぱり止めます、なんぞ末代までの恥だ」

「違いない」

 

はっはっは、と二人で笑いそんな様子を見て山田先生は乾いた笑い声を上げる。

 

「あはは…銀君、パイルバンカーにバックラー位は付いてますが、あまり過信はしないでくださいね?」

「承知」

「では、打鉄に体を預けてください」

 

ゆっくりと打鉄に背中から体を預けると、自身の体に打鉄が装着され…そして…

 

[行くわよ、ロボ]

 

後ろから抱かれるような感覚と共に懐かしい声が囁かれる。

あぁ…夢では無かったのか…。

突然視界がブレ、夢に見た泉の光景が広がる

 

[言ったでしょう?また会えるって]

 

あぁ、そうだな…お前が居るならば、恥ずかしい戦い方が出来るわけがない。

視界に現れた白は微笑みながらゆっくりと近付き背後から抱き締めてくる。

涙が流れる…これ程までに心が打ち震えるか。

俺は、この遠い世界で再び彼女に出会えたのだ…。

 

「狼牙、大丈夫か?」

 

視界に映る映像が、現実へと引き戻される。

この身を纏う鋼鉄は、冷たい筈なのに彼女の温もりを感じる。

涙を流す俺に、心配そうに千冬さんが見てくる。

中々レアだな。

 

[あら、ロボの新しいイイ人かしら?]

 

そんな物、出来た覚えがない。

 

[残念半分、嬉しいわね…まだ、想ってくれてるなんて]

 

そうそう、忘れられんさ。

 

「何、嬉しいことがあっただけだ…千冬さん、無茶だとは思うが後で頼みたいことがある」

「フッ…ならば恥ずかしくない戦いをしてこい」

 

腕を組み笑みを浮かべながら俺を見上げる千冬さん。

 

「狼牙、出るぞ」

[久々に、貴方の戦いを見せて…サポートは任せてね]

 

打鉄の脚部をカタパルトに固定し踏ん張れば、そのまま弾き出される。

さぁ、始めよう…狩りの時間だ。

 

 

 

 

セシリア・オルコットは自身の専用機、ブルー・ティアーズを身に纏いアリーナの中央で考えていた。

この一週間、銀 狼牙と織斑 一夏の行動や言動を見ていて心が騒つく。

彼女は女に下手に出る男と言うものが大嫌いだった。

自身が嫌いだと思っていた父親の姿を思い出すからだ。

いつも母親に頭を下げていた情けない父親。

だが、あの二人はどうだろう?

女性に媚びへつらう事がなく、かと言って野蛮に力を誇示する訳ではない。

織斑 一夏が友人の為に怒った時の目は本気だった。

自分の発言を諭し、忠告した銀 狼牙は器が大きかった。

で、あれば見極めなくてはならない…この二人を。

見極めなくてはならない、自身の持つ価値観を。

千冬からコアネットワーク経由で連絡が入る。

 

「オルコット、織斑の専用機が未だ到着していない為、銀との対戦を先に始める。代表候補生の力、見させてもらう」

「わかりました、わたくしとブルー・ティアーズの奏でるワルツで、必ずやブリュンヒルデを楽しませてみせましょう」

「あぁ、期待させてもらう」

 

➖➖警告。シールドエネルギー感知➖➖

(機体は打鉄…本当に訓練機で来ますのね…銀 狼牙…!!)

 

機体は万全、戦意は充分……今、戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

 

「待たせたな、オルコット」

「女性を待たせるのは紳士のなさることではありませんわ」

 

オープンチャンネルで会話しながら、アリーナ中央に待つオルコットに向かって機動練習をしながら近付く。

広いアリーナの観客席は満員で、恐らく教師含め全生徒が観戦に来ているのだろう。

 

[機体の具合は良好…高揚しているわね?]

 

高揚しない訳が無い。

今まで出来なかった事がISで出来るようになる。

何せ、今は空だって飛んでいるのだ。

 

「生憎と野蛮な人間なのでな…女性の扱いが苦手ときている」

 

[子供にはやたらと好かれていたわよね?]

 

茶々を入れるな。

オルコットはクスリと笑い、手に持つライフルを構える。

 

[エネルギーライフル「スターライトMk-Ⅲ」ロックオンされてるわ]

成る程、何時でも撃てる意思表示か。

 

「嘘ばかり吐きますわね。まず、初めに謝罪させてください」

「俺はまだ自身の力を見せていない…その言葉は試合後に聞かせてもらう」

 

どう言う心境の変化なのやら…謝罪か。

 

「分かりましたわ。わたくしの本気、受け取っていただきます!」

「望むところだ…狩りと言うものを見せてやる」

 

腕は下げたまま、オルコットを注視し呼吸のタイミングを計る。

ISに積まれたハイパーセンサーは視界をクリアにし、脳に直接映像を投射し情報を与える。

二百メートルは離れていると言うのに相手の肌の産毛まで確認できる。

 

カウントスタート

さて…目の前の女の喉笛に喰らい付くとしよう。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)此処でモノにしてね]

 

期待に応えるとしようか。

試合開始のブザーが鳴る。

 

「踊りなさい!このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でるワルツで!!」

「悪いがお断りだ!!」

 

ブザーと同時に俺の脳内にアラートが鳴り響くギリギリで身を捩り装甲表面をエネルギーの塊が掠めて行く。

 

「中々やりますわね!」

「タイミングを教えておいて良く言う!!」

 

ブーストを全開にし、フェイントを混ぜ込みながら前進。

セシリアはライフルで此方を狙い撃ちにしようとするが、その悉くを紙一重で避けていく。

実体シールドを捨てたのだ…当たる訳には行かん…人の身では反応できんエネルギーライフルによる射撃。

だが、ISと白が居るならば……!!

 

「チィッ!!」

 

打鉄は純日本製らしく防御を重点に置いて開発された鈍足の機体だ。

どうしても、後少しと言う所でセシリアはバックブーストを行い堅実に攻めてくる。

 

「これが、性能の力…思い知りなさい!」

「生憎と聞けんものでな!」

 

正確無比なライフルに徐々に自身の総エネルギー量が減っていく。

ISはただ動かすだけでも活動に必要なエネルギーを消耗していくのに、マトモに直撃でもしようものなら目も当てられん。

だが、慌てない…まだだ…油断を誘え…喉笛を噛み千切るその瞬間は必ず来る。

 

「頭の固い…ならば、早々にフィナーレと参りましょう!行きなさい!ブルー・ティアーズ!!」

 

オルコットが動きを止めチャンスと思った瞬間、オルコットの機体ブルー・ティアーズの宙に浮いた四基の非固定武装が射出され俺を取り囲む。

 

[第三世代兵器「ブルー・ティアーズ」…遠隔兵器よ!!]

「何でもアリだな!?」

 

俺を取り囲むビットが一斉にレーザーを吐き出し、その内一基のビットのレーザーが左腕のパイルバンカーの弾倉に直撃。

慌ててセシリアに向かって投げ付け爆炎で視界を塞ぎつつ急上昇する。

空中戦において何よりも重要なのは相手よりも高さを取ることだ。

 

「五対一か…なるほど、性能差もバカにできん」

[彼女に謝る?]

「冗談だろう!?」

 

パイルバンカーの爆発によって生じた煙からエネルギーライフルの弾が飛んでくる。

位置を確認した俺は弾とすれ違う形でセシリアに喰らい付く為にブーストを全開にして突撃する。

 

「さぁ、踊りなさい!」

 

セシリアは動きを止め、号令をくだすと俺目掛けて四基のビットが向かってくる。

今しか無い。

この機会を逃せばこのままビットに灼かれるだけだ。

行くぞ、白…喉笛に喰らい付く!

 

「パイル、セット!!喰らい付かせてもらう!!」

「そんなっ!?」

 

ぶっつけ本番の瞬時加速。

正面からレーザーの網を速度と言う牙で掻い潜り、左腕部装甲と左脚部装甲を犠牲にしながらも一気にセシリアの懐まで飛び込む。

 

「トリガー!!」

「キャァァァッ!!」

 

その速度のまま体当たりするようにパイルバンカーをセシリアの胴体目掛け杭を叩き込み炸薬に点火、爆発によって生じる運動エネルギーによって杭が打ち出されセシリアのエネルギーを一撃で半分まで削り切る。

 

「このまま噛み千切らせてもらうぞ!!」

「調子にのって!!」

 

ISの補助機能が優秀過ぎるのか、バイタルが安定していたセシリアは冷静に対処する。

 

「インターセプター!!」

 

ISは武装を量子化することで武器の出し入れを行う。

セシリアは音声コールでダガー状の実体剣を呼び出せばパイルバンカーを切り払い、自身ごと俺の背後から四基のビットを操作しレーザーを発射、打鉄のブースターに直撃し爆発。シールドエネルギーがゼロになり決着のブザーが鳴り響く。

 

『勝者、セシリア・オルコット』

 

会場は歓声で湧き立ち、拍手が鳴り止まない。

俺はPICを何とか操作し、地面に着陸して片膝をつく。

 

[完敗ね…でも、相変わらず無鉄砲で安心したわ]

 

白は嬉しそうに笑いながら声を掛けてくる。

次は負けんさ。

 

「完敗だ、オルコット…喉笛を噛み千切る筈だったんだがな」

「わたくしとて、代表候補生…素人に負けては名が廃りますの」

 

互いに笑い、装備を解いた状態で握手をする。

 

「数々の非礼、お許しください…わたくしは、男と言うものを侮っていました」

「元より気にしておらんよ…謝罪の言葉はクラスメイトに向けろ。長い学園生活、皆とは仲良くしたいものだろう?」

「皆が皆、敵では無いのなら…わたくしもまた、別の世界を見てみたく思いますわ」

 

目の前で微笑む少女は先週までと打って変わって柔らかい雰囲気を纏っている。

歳相応の笑み…貴族だなんだと肩肘張っているより幾分マトモだ。

 

「さて、次は一夏の出番だ…抜かるなよオルコット、ある意味奴は俺よりも牙を研いでいるからな」

「信頼なさっているのですね…ですが、貴方同様わたくしが勝利してみせますわ!」

 

自信満々にポーズをつけ勝利宣言をするセシリアは妙にサマになっていた。


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