【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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Sweet time

こう…なんと言うかだな…午前の部は壮絶の一言に尽きた。

兎に角、一夏がラッキースケベを発生させるのだ…。

転んだ拍子に押し倒したのは序の口として、体操服の上からの胸鷲掴みやらブルマー落とし…一体奴は誰に呪われているんだ!?

 

「ぜー…ぜー…」

「もう少し…どうにかならんかったか?」

「なるんだったら苦労しないからな!なんだってこんな目に…」

 

お昼休み、会場の隅っこに退避していた一夏の背を撫でてやりながら慰める。

ラッキースケベが発生するたびに箒、鈴、シャルロットの三人から苛烈な一撃がお見舞いされているのだ。

このままでは一夏の身体がもたなくなる。

かといって改善する術もなく、一夏に優しくするのはあの三人以外のラッキースケベ被害者達だ。

…被害者達が満更でもない辺りが、あの三人を刺激してしまうのだろう。

俺は兎も角として、一夏は未だにフリー…一夏の朴念神ぶりは分かっていても甘いロマンスを求めて止まないのだ。

 

「とりあえず、飯にしよう…腹が減っては何とやら…」

「すまんな、一夏…俺は先約がいるので此処でお別れだ」

 

爽やかな笑みを浮かべ軽く手を振ると、腰に抱きつくようにして一夏が体当たりを仕掛けてくる。

もはや必死である…俺が居ないとラッキースケベを止められない…そんな悲壮な覚悟まで見えてくるようだ。

 

「た、たた頼む!一人に!一人にしないでくれ!!」

「知るか、離せ…俺とて甘い時間を過ごしたい気分なんだ」

「薄情者~!浮気者~!子持ち~!」

「最後だけは否定させてもらおうかっ!!」

 

ラウラは娘のように可愛がっているが、断じて娘ではない。

学園中でパパ呼ばわりされていてもだ。

断じて、俺は子持ちなどではないのだ。

一夏の頭を掴み必死に引き剥がそうとしていると、他の女子の注目を集めてしまったのか女子達がワラワラと集まってくる。

 

「キャー!一夏くんがパパに告白してるー!!!」

「「違う!!!」」

 

俺と一夏は腐れた反応を示した言葉を発した女子に必死に否定し、尚も引き剥がそうとするが一夏は決して離れない。

腐った女子共に養分を与えているとまだ分からんのか!

 

「此処で離したらお前逃げるだろ!」

「当たり前だ!俺はセシリア達と昼食を摂る約束をしているんだからな!!」

「見つけたぞ!一夏!!」

 

此処に颯爽と救世主が現れた。

箒、鈴、シャルロット(一夏ラバーズ)である。

地獄に仏…早くコイツを連行してくれ…。

 

「一夏…何時まで銀に抱きついている!!」

「狼牙、アンタも早く引き剥がしなさいよ!!」

「ふ、二人とも落ち着こう?ね?ね?」

 

…シャルロットしか仏はいなかった様だ。

箒と鈴には俺と一夏がじゃれ付いているように見えるようだ。

昼の時間と言うのも無限にあるわけではない、少ない時間を駆け引きに使いたい彼女達にとっては俺とて邪魔者以外の何者ではないと言う訳だ。

 

「そこまで言うなら引き剥がすのに協力してくれんか?今なら触り放題だぞ?」

「今なら…」

「触り…」

「放題…」

 

俺の言葉を聞いた周囲の女子が、一斉に爬虫類の様に目をギョロリとさせる。

正直怖いな…男に飢えてしまった女性と言うのも…。

皆、互いに視線を交差させ頷けば一斉に襲い掛かってくる。

 

「い~ちかく~ん!!」

「ルパ○ダイブ!?」

「ほら、受け止めてやれ!」

 

力が緩んだ瞬間に一夏の頭を掴んで思い切り投げ飛ばす。

ル○ンダイブしてきた女子は嬉々として一夏へと猛進してくるが、それを箒が何処からか取り出した竹刀を振るって阻む。

 

「一夏には触れさせんぞ!」

「隙あり!!」

 

別角度から来た女子が一夏を掻っ攫おうとするが、それよりも早く一夏は駆け出して上手く避ける。

伊達に訓練は積んでないからな…この程度は抜け出してもらわねばならん。

なんせ、俺より強くなりたいらしいからな。

 

「狼牙の薄情者!!!」

「はっはっは、頑張って逃げろよ?」

 

俺は女子の包囲網をするりと抜け出し、約束の場所へと急ぐ。

遅刻もいい所だな…これは怒られるかもしれん。

この後アリーナ内に一夏の悲鳴がコダマしたのは言うまでもない。

 

 

 

「まったく、一夏さんと遊んでいるから遅くなるのですわ!」

「織斑君も、観念して狼牙を解放すればよかったのに…」

「セシリアと簪は時々辛辣になるな…」

 

アリーナ近くにある緑地エリア…其処に広がる芝生の上にレジャーシートを敷いてセシリア、楯無、簪、ラウラの四人で重箱の中身をつついていく。

何でも四人で朝早くに起きて弁当を作ったと言う事もあって、中々豪勢な内容だ。

ソーセージを一つ取り口に放り込む。

パリッとした歯ごたえと共に冷めているにも関わらずジューシーな肉感が口いっぱいに広がって非常に美味だ。

 

「父様、上手に出来ているか?」

「あぁ、美味しいぞ」

 

ラウラが子犬のように目をキラキラと輝かせながら此方を見つめてくる。

優しく頭を撫でてやれば、尻尾をブンブンと振るのが幻視できるくらい嬉しそうに笑みを浮かべられる。

こうしていると本当に子共のようではあるのだが、ISバトルにおいては自身の持つ武装のポテンシャルを引き出し、確実に獲物を追い詰める狩人のそれだ。

黒ウサギと名のつく部隊の隊長だが、実際は梟等の猛禽類の類のように思える。

 

「狼牙君、アリーナで子持ちじゃないなんて叫んでたけど…強ち間違いじゃないわよねぇ?」

「ラウラを娘のように可愛がっているのは事実だがな…」

 

楯無はお茶を飲みながらニヤニヤと此方を笑い、見つめてくる。

どうもさっきの一夏との経緯を眺めていたらしい。

眺めているくらいならば助けてくれても良かろうに…。

 

「父様の事は大好きだからな。どのように思われているにしても私は嬉しいぞ」

「このまま真っ直ぐ育ってくれよ…」

「切実ですわね…」

 

ああも腐った女子どもを見るとな…趣味は人それぞれだから何とも言えんが、俺としては真っ直ぐとレディに育って欲しいものだ。

ぼんやりとお茶を飲んでいると目の前にから揚げが運ばれてくる。

 

「狼牙、あーん」

「いや、簪…取り皿に置いてくれれば…」

「あーん」

「…あー」

 

簪は、やたらとごり押しをしてくる。

出逢った時の気弱さは何処かへと霧散している…まぁ、元々こう言った正確だったのかもしれんが。

簪から運ばれるから揚げを一口で頬張ってやると、簪は満足したように笑みを浮かべる。

楯無ともほぼ互角で渡り合う少女…戦闘中にミサイル制御プログラムを書き換える胆力は見事の一言に尽きる。

誰にもできることではない事をやってのけた彼女は、自信を持って夢に向かうのだろうな。

 

「ごり押しね…」

「ごり押されましたわね…」

 

楯無とセシリアは呆れたように俺と簪を見つめ、小さく溜息を吐く。

だが、実際に美人にこうやってごり押しされると、跳ね除ける事なんぞできんよ…最後のほうは目を潤ませていたしな…。

将来男を誑かせたら楯無より凄い事になりそうだな。

いや、やらせんし誑かせるのは俺だけにしてもらうが。

 

「に、しても狼牙さんのその学ラン姿…似合ってますわね」

「体の傷もあって番長みたいになってるけども」

「言わんでくれ…そう言われる気はしていた…」

 

まさか、見せ物としてこんな格好させられるとは思ってもなかったからな。

どんよりとした面持ちで遠い目をしていると、紙コップにおかわりのお茶が注がれる。

 

「まぁまぁ、良いではないですか…格好良いのですから」

「どうにも慣れんよ…普段は肌を曝け出していないからな」

 

セシリアは穏やかな笑みを浮かべている。

変わった…と言う点ではセシリアは見違えるようだろう。

初めて出逢ったときは触れれば切れるナイフと言った印象だったのが、今では淑女そのものだ。

ISバトルにおいても、エネルギー一辺倒の武装だと言うのに効果的な戦術で天敵の白式雪羅と渡り合っている。

一夏が弱いわけではない…単純に様々な攻撃方法のあるセシリアが上を行っているのだ。

 

「さっきから口数少ないけどどうかしたのかしら?」

「いいや…良い女達に恵まれたと思ってな」

 

軽口を叩くように言ってやれば、ラウラも含めて顔を赤くし嬉しそうにニヤニヤと笑っている。

だが、事実として彼女達は良く俺を支えてくれている。

数々の事件が起きたが、彼女達が居たから頑張ってこれた様にも思えるのだ。

 

「うふふ、そう言われると何だかもどかしいですわね…」

「うん、でも…嬉しいな…」

「そうよねぇ…私達にとって大切な人に言われて喜ばない訳ないわよね」

「あぅ…父様…」

 

気付けば、お弁当は片付けられてレジャーシートの上には何も無い。

おそらくISの拡張領域の中にしまったのだろう…便利な事この上ないな。

…ISコアのお陰なのだろうが、こう言った技術が一般に普及できれば良いと思うのだがな…いや、無理か。

手ぶらで爆弾を持てるといっても過言では無いわけだし。

ぼんやりと考え事をしていると、いきなり押し倒される。

 

「ふっふっふ…隙だらけよ狼牙君?」

「好いた女の前で位は気を緩めていたいものでな?」

 

押し倒してきた犯人は楯無だ。

よく見ると楯無の背中にはラウラまでいる…何をしているのやらな?

楯無にはいつも気を回してもらっていたか…悪戯さえなければ、と思っていたが。

今ではソレすらも愛おしいものだ。

楯無は俺の胸元に猫のように頬ずりして口付ける。

 

「お姉ちゃんずるい!」

「では、わたくしは右隣を…」

「もう!」

 

セシリアはススーッと俺の右隣へと寝転がり寄り添ってきて、簪は頬を膨らませながらも左隣に陣取って腕に抱きつく。

彼女達が密着している所為か、非常に甘い香りが鼻を刺激してくる。

心地よい香りだ…安心すると言ってもいい…。

しかし言ってはなんだが、重いし暑い。

けれども、それを言うのは我侭と言うものだろう…これは幸せの重みだ。

それを跳ね除けると言うのは些か気が引けると言うものだし、コレくらい耐えられない様では男が廃る。

 

「お昼の時間はたっぷりあるのよ?」

「お姉ちゃん、ギリギリでスケジュール変えたのは…」

「強かですわねぇ…」

「おかげで皆と居られて私は嬉しいがな!」

 

女三人どころか四人も寄れば騒音機だな…だが、仲が良い事は俺にとって喜ばしい事だ。

今更ながら、以前の…狼の姿になれんことが悔やまれる。

もし、狼の姿がとれたのならば四人まとめて包んでやれるのだが…。

 

「楯無…同棲の件、どうする気だ?」

「狼牙君は分かっているんでしょう?」

「まぁな…どうせ、四人部屋にでもする気だろう?できなければ現状維持…お前は割と欲深いからな」

 

俺が立てた推測を口にすると、楯無は満面の笑みを浮かべて頷く。

職権乱用も此処に極まれりだな…スペース的にきつかろうに…。

楯無の背中にいるラウラが唇を尖らせる。

 

「私は除け者か?」

「私達の場合四人の方が何かとね…別に除け者にする気はないわよ?何時だって寝泊りに来れば良い訳だし」

「教官の目を掻い潜るのは大変なんだぞ?」

 

ラウラは、異議ありと言わんばかりに楯無の背中をポカポカと殴っている。

 

「ラウラ、そう楯無を責めてやるな…今度一緒に遊びに行ってやるから、な?」

「絶対だからな…?二人きりでなければ駄目だからな?」

「分かった分かった…」

 

ラウラは約束が確定したと見れば笑みを浮かべて楯無を殴るのを止め、離れていく。

ふむ…どうしたのだ…?

 

「私は少し連絡する事があるので此処で失礼する!」

「そ、そうか…」

 

むふーっと鼻息荒くしてラウラは俺達に敬礼すれば、バタバタと走り去ってしまう。

…例の副官に助言を求める気ならば止めるべきだと俺は思うのだが…まぁ、信頼していると言う話しだし放置してやるのが情けか…?

 

「さ、少しお昼寝しましょ?」

「そうですわね…外でこう言う風に寝る機会と言うのもありませんし」

「簪は…寝ている…だと…?」

 

左側へと目を向けると、既に簪は夢の世界へと旅立っていた…余程疲れていたのだろうか…?

 

「簪ちゃん…最近張り切ってISの修復に励んでいるのよ…有難いけど、無理しないで欲しいわね」

「できる事で楯無さんを助けたいのでしょうね…立派ですわ」

 

セシリアが純粋に簪の事を褒めれば、楯無は嬉しそうに笑みを浮かべ頬を染める。

楯無は簪の事が大好きだからな…褒められれば嬉しくもなるか。

秋の風が優しく吹く中、穏やかな時間が過ぎていった。

 

 

まぁ、この後迂闊に外で昼寝をするものではないと激しく後悔するわけだが。




頑張って糖分を…糖分を精製するんじゃ…

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