【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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体育祭、開幕

澄み渡るような秋の空…本日は雲ひとつ無く青い空が今の俺には少し忌々しい。

そう、遂に体育祭がやってきたのだ。

さて…今日は学園中の女子が体操服で過ごすと言う事もあって、非常に肌色率が高い。

なんせブルマ…ISスーツがアレな事もあってか今更恥ずかしがる人間はいないが、俺や一夏の精神衛生上非常に宜しくない。

今更と言えば今更だし、あいつ等も偶に今以上に…っと、何を考えているんだ俺は…。

まぁ、こう…現実から目を逸らしたくなる状況に放り込まれているからなんだが…。

体育祭…それも外部の目を気にしなくて良いと言う状況が招いた結果が、今俺と一夏に降りかかっている。

何で…どうして…こうなった…?

 

「パパー!!似合ってる!!」

「新聞部で~す!こっち目線くださーい!!」

「織斑く~ん!がんばって~!!」

「一夏くん、手を振って~!!」

 

一夏は白式のイメージからか、侍と言った印象が強く植え付けられているようで着物に太刀を佩いている。

この学園に来てから逞しくなったお陰か、ガタイが良くなって非常に似合っている。

時折箒が『デレデレするな!』と野次を飛ばしているが、本人は状況に飲まれてそれ所ではない。

むしろ、同じ目に合っている俺にまで救いを求めてくる有様だ。

あぁ、俺たちは堕ちるところまで堕ちるしかないのだ…諦めろ。

で…俺はどんな格好をしているのかと言うとだ…。

 

[ラウラちゃんに相談した甲斐があったわねぇ]

「ホントホント…まさか許可が下りるとは思わなかったけど」

 

猫二匹がうっとりとした声で計画の成功を喜んでいる。

白の発言から察せられるだろうが、俺は今ドイツ空軍の礼服に身を包んでいる。

何でも、ドイツとしても前回の失態(VTシステム暴走事件)によるイメージ払拭…あわよくばイメージアップに繋げたいと言う事で、ラウラの父親主導で協力することになった…らしい。

らしい、と言うのは又聞きの為正確な話を聞いていない為だ。

聞いたら頭が痛くなりそうで怖い、と言うのもある。

…ナンカ、サイズガピッタリデコワイナー…就職先キメラレテソウデコワイナー。

 

「それでは!IS学園体育祭、男性操縦者争奪大会を始めます!!」

「「「「ワー!!!」」」」

 

わー!ではない…男性操縦者争奪大会って辺りに煩悩の全開さ加減が見え隠れしている。

女子はイベントがお好き…そこに欲望が絡めばヒートアップもしてしまうと言う事なのだろうな。

俺と一夏は、ただただ溜息を吐くばかりだ。

戦力比1:1000ではなぁ…。

 

「なぁ、俺たち明日の朝日拝めるのかな…?」

「月すら拝めないかもわからんな…」

 

と、言っても今日は新月らしいので拝めるわけもないのだが。

因みに、一夏は白(織斑)組で俺は赤(銀)組である。

苗字と組の組み合わせはなんと言うか…ヤの付く方々みたいだから勘弁してくれと楯無に懇願した結果である。

見返りを求められたのは言うまでもない…。

 

「選手宣誓!!」

 

楯無は楽しそうに大会運営の司会を務めている。

楯無は立場上、大会運営に掛かりきりになる為参加しない…筈。

だが、何だろうな…どこかで乱入してくるような気がするのは…。

選手宣誓を一夏と行う為壇上に上がると、アリーナ中に居る女性から黄色い声が上がる。

目に見えてナターシャさんのテンションが上がっているのが分かる…あ、千冬さんに叩かれた。

 

「せ、選手宣誓っ!!」

 

一夏は緊張しているのか、裏返った声を上げてしまう。

女子達からは応援するような声がかかる…人気者よな…良い事だ。

 

「織斑君、がんば~!」

「ふぁいと~、一夏く~ん!」

「へへー、おりむー、スマイル~」

 

一夏はそんな黄色い応援に顔を赤らめ、口ごもってしまう。

やれやれ…少し、手を貸そうか。

 

「俺たちは!正々堂々!」

「っあ…力の限り競い合うと!」

「「誓います!!」」

 

言い出せなかった一夏と順序を入れ替え、選手宣誓を無事に言い終える。

二人同時に言った所為か何なのか…会場のボルテージは最高潮にまで上り詰める。

俺と一夏は役目を終えたので、ソソクサと壇上から降りて脇へと退避する。

俺たちと入れ替わるように、着物姿の白が壇上に上がり今後のスケジュールとルールについての説明を始める。

うむ…この学園の制服姿やら、スーツ姿やら見てきたが…着物姿の方が見慣れていることもあって、一番似合っているように思える。

 

「白蝶さんの人気凄いよなぁ…」

「面倒見も良いし、何より此処の生徒よりも大人だ…何かと相談される事も多いらしい」

「…ISコアだって言われても信じがたいよな」

「いやはや…時々その事実を忘れてしまうものだ」

 

白が説明を終え、壇上から姿を消せば体育祭開催の花火が上がる。

とは言っても先ずは準備体操から始まるし、俺たちも体操服に着替える必要がある。

 

「へへ…狼牙、優勝は白組がもらうからな?」

「そう、易々とは譲れんよ」

 

互いの拳を打ち合わせ、それぞれの所属する組へと向かう。

…懸念事項はあるものの、今日は目いっぱい楽しむとしよう。

まだまだ学生気分に浸っていたいのだからな。

 

 

 

 

開会式を終えて、クラスの女子たちの追撃を避けて急いで逃げ出した。

あまり構っていると着替える時間がなくなるからな。

いそいそと更衣室で体操服に着替えようとしていると、扉がノックされる。

 

「二人とも、体操服に着替えないでもらえる?」

 

扉越しにかけられた声の主は楯無だ。

何でだろうな…イベント時にお前に声をかけられると背筋に悪寒しか走らんのだ。

楯無は許可も無く扉を開ける。

甘いな…俺はまだジャケットを脱いだだけだ。

 

「ちぇー、狼牙君はまだ脱いでなかったかー」

「ちょ!更識さん!!着替え中!!」

「初々しいわね~、下見えてないんだから」

「そう言う問題か…?」

 

一夏は上着を脱いで上半身裸だったため、まるで女性のように体を隠して顔を赤くする。

水着の時も上半身裸だったではないか…何を恥ずかしがっているのやらな?

軽く肩を竦めてベンチに座れば、足を組んで楯無を見上げる。

 

「服着ているとは言え、余裕ねぇ…私つまんなーい」

「一緒に寝ていてそれもなかろうよ…」

「い、一緒…!?」

 

一夏は更に顔を茹蛸のように真っ赤にさせてしどろもどろにしている。

もう少しからかってやりたいところだが、この辺で止めてやらねば話が進まんな…。

 

「あら、一夏君?同じ部屋で生活している恋人ならば添い寝くらいなんてことないわよ?」

「え!いや、そうでしょうけど!!」

「からかってやるな…本題は?」

 

一夏の初々しい反応に気を良くした楯無を手で制し、話を進める。

俺には無い歳相応な反応だ…楽しくて仕方がないのだろう。

…あぁ、別に詰らんとも思っていないさ…俺は心が広いんだ。

 

「今回の体育祭って、狼牙君達男性操縦者争奪戦じゃない」

「そ、そうですけど…それがなにか?」

 

俺は先を促すように黙したまま頷き、話に耳を傾けていく。

いい加減腹を括ろう…イベントの時は最早玩具になるしかないのだと。

楯無は愉悦に笑みを浮かべる。

 

「で、景品の二人を競技に出すのもどうかと思って~…はい、これに着替えてね?」

「これは…」

「長ラン…?」

 

学ランのあのコートみたいに裾が長くなった奴…それにズボンと革靴…更に鉢巻ときた。

これは所謂応援団長的なアレか?

訝しがるように楯無を見ると、満足そうに楯無は頷く。

心の中を読むんじゃない…まったく。

 

「それに着替えてアリーナ集合ね?…拒否権、ないから」

「ま、まぁ…これくらいなら…」

「一夏…良く見ろ…シャツが無いところを見ると上裸の上にコートの様に羽織るみたいだぞ?」

「狼牙と比べたら俺貧相に見えちゃうじゃないか!」

 

違う、一夏…そこじゃぁない…そこじゃぁないんだ…。

問題は同じ格好で、汗を流しながら応援し、友情を堅く結ぶ構図を作り上げる事の方が問題だ。

腐った方々に養分をタップリとあげる形になる…そうでなくとも、一夏に恋するもの達やセシリア、簪…そして目の前の猫の養分にも…。

何と恐ろしい謀か…俺は静かに暮らしたいと言うのに!

 

「だ~いじょうぶ!一夏君もこの学園で狼牙君と人気を二分にするくらいの人気者なんだから!」

「そんなこと言われても…なぁ、狼牙…狼牙から何か言ってくれないか?」

「…賽は投げられた、だ」

「Oh…」

 

一夏は諦めたからか燃え尽きたように項垂れ、俺は着替えを開始する…時間も迫っているし勿体無い。

今更裸を見られてどうこう思うような間柄でもないしな。

俺がいそいそと着替え始めると、今度は楯無が慌てたように顔を赤らめて背中をこちらに向かせる。

突発的な対応には弱いな…こう言う悪戯関連では。

 

「ちょっ!着替えちゃうの!?」

「あぁ、着替えるな…今更見られても減るようなものではないしな?」

「だー!!俺の前でそう言う話やめろよっ!」

 

一夏は再起動したのか立ち上がって拳を振り回し地団駄を踏む。

…からかい甲斐があるな…くっくっく…。

だが、こう言う反応ができるのに、どうして女性関係の好意に疎いんだろうか…?

いやいや、まさかな…女性に興味がないと言う訳でもないのに、な…。

 

「すまんすまん、早いところ着替えてしまおう」

「まったく…弁えてくれよ?」

「じゃ、私は外で待ってるわね」

 

楯無は軽快なステップで更衣室を出て行く。

まるで目的は達したと言った感じだ。

…恋の応援か…まぁ、劇薬に近い方法で感情を馴らしていく必要があるからな…。

ここまで鈍感だと恋を応援してやるのも難しい…。

 

「まったく…狼牙、此処にきて軟派になっていないか?」

「耳に痛いな…三人侍らせていて硬派もないだろう?」

「開き直るなよ…」

 

一夏は頬を膨らませて、俺をジト目で睨みつけてくる。

効かんなぁ、そんな視線は…。

腹にさらしを巻きながら、一夏を見つめる。

 

「お前はどうなんだ?箒と鈴とシャルロットと…好意は分かっているんだろう?」

「好意って…それは友達として…」

「そんな訳無いだろうに…本気でそう言っているのならば、流石に俺は軽蔑せざるを得んよ」

「……」

 

ほう…反応を見るに、理解はしているか。

煮え切らないところを見ると、こいつ特有の優しさが邪魔をしているのかもしれん。

しかし…それは優しさ等ではない。

ただ、想いを踏みにじっているだけだ。

 

「俺はただ、皆と仲良くしていたいだけだ…それは間違いじゃないはずだ」

「そうだな、この世に正解なんて無いだろう。もしかしたら間違いばかりかもしれん」

 

そうだ、正解なんてない…自身が思ったやり方が正解で、それを周囲が認めたのならば世間的な正解になる。

だが、それがもし他人の思いを踏みにじるものだったら?

俺は…許せんよ。

 

「だが、人が人を想うと言う事はかけがえの無いことだ。それに対して生半可な逃げ道なんぞ、誰が見ても間違いだろうよ。お前は叶わないもので彼女達を縛り付けて楽しいのか?」

「そんなことをしていない!俺は…あいつらと笑っていたいだけなんだ…」

「…まだ、若い…時間もたっぷりあるからな…しっかり悩めよ、少年」

 

学ランを羽織り翻しながら更衣室を出ると、楯無が扉の傍で立っていた。

この分だと話も聞いていたのだろう…。

 

「狼牙くん、おこなの?」

「少しな…意外にも気持ちに気付いていて宙ぶらりんでは、あの三人が可哀想と言うものだろう?」

「一夏君は狼牙君みたいに老成しているわけじゃないんだし、あんまり厳しく言ってはだめよ?」

 

楯無は俺に寄り添い腕に抱きつく。

構わず、楯無の歩調に合わせて俺は歩き始める…今は、少し一人にしてやろう。

 

「それより、この体育祭…男性操縦者争奪戦と言うより、織斑 一夏鈍感矯正の会と言う感じがするな」

「私としては箒ちゃんとくっついてほしいかしら~」

「たーさんが喜ぶからか…」

 

束さんは箒の恋を応援しているからな…やり方はやや歪んではいるが。

アリーナ会場に近づくに連れて歓声が大きくなっていく…どうやら競技は始まっているらしい。

俺は優しく楯無の額にキスをし、離れる。

此処から先は別行動だからな。

楯無は頬を赤らめ自身の唇に指で触れる。

 

「ん…終わったらこっちにもちょうだい?」

「もちろんだ」

 

背中越しに手を振りながら会場へと出る。

体育祭は始まったばかり…優勝目指して頑張ろうではないか。


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