【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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今ある幸せを…

体育祭前日…一年だけに設けられたご褒美設定に上級生が強く反発する事態となってしまった。

なんだかんだと言ってもロマンスを追い求めてしまうのが年頃の女性と言うものだ…。

楯無の機転…と言うか、用意してあった案で事なきを得る事となった。

その案とは、織斑、銀両名を一日執事として扱う事が出来る権利である。

これに約五名の女子が反発したのだが、一年のご褒美のほうが羨ましいと言う鶴の一声で沈静化する事となった。

さて…俺は俺で体育祭の翌日にちょっとしたレクリエーションを思いついた。

 

「焼き芋大会…何をやるのだ?」

「秋は落ち葉の量が凄いだろう?轡木さんを筆頭に用務員の皆さんだけで片付けるのにはホネが折れる。そこで、定員アリだが皆で掃除をして集めた落ち葉を使って焼き芋をするのだ」

 

お昼休み、腹ごなしの散歩にセシリア、楯無、簪、ラウラ(いつものメンバー)を誘い、学園内を歩いていると掲示板に俺が企画した焼き芋大会の張り紙がしてある。

肩車をしてやっていたラウラがそれに気付き、興味を持ったのだ。

 

「でも、お芋は何処から調達するのよ?」

「孤児院から段ボール箱にして三箱も届いてな…流石に俺一人では食いきれんし、折角秋なのだからそれっぽいことをしても構わんだろう?」

「昨夜、山田先生が呼んでらしたのは、孤児院からの荷物の事だったのですね」

 

不思議そうに首を傾げた楯無に答えてやると、セシリアは納得したように手をポン、と叩く。

教師からの呼び出しと言うと、あまりいい印象がないからな。

因みに、サツマイモは学園の調理室に一時保管してもらっている。

料理部にはシャルロットから話を通してもらって、焼き芋のときの下準備をお願いしてある。

石焼と違って濡れた新聞紙とアルミホイルで包む必要があるからな…その工程をお願いしてあるのだ。

 

「私は、行こうかな…お姉ちゃんはどうするの?」

「私は行けたら、って所ね。事後処理に忙しくなりそうだし」

「わたくしも参加しますわ」

「うむ、ではここに居る全員は参加するのだな」

 

ラウラは俺の肩の上で何やらドヤ顔で頷いている。

以前肩車をしてからと言う物の、ラウラはいたく肩車がお気に入りな様で時折こうして肩車をしてやっている。

俺からすればラウラは非常に軽いので、大して苦にはならない。

 

「残念だわ~、皆で楽しく過ごせると思ったのだけれど」

「お姉ちゃんは生徒会長だから仕方ない…」

「望んでなったけど、世知辛いわぁ…」

 

秋に色付く木々の合間を歩きながら、ふと思ったことを口にする。

そう…少しだけ感じていた違和感…楯無の肩書きについて…。

 

「楯無…どうしてロシアで国家代表を?」

「確かに…日本人なのですから、日本の国家代表でも構わないはずですわ」

 

俺達は立ち止まり、一斉に楯無を見る。

楯無は少しだけ困ったように笑い、考え込む…。

地雷だったろうか…慕っているとは言え、踏み込んではいけない領域と言うものがある。

 

「言いにくい事であるならば構わんさ…少し気になったと言うだけだからな」

「そう言うわけじゃないわよ…少し、恥ずかしいだけ」

「私は…知りたいかな。お姉ちゃんはそう言うこと話してくれないし」

 

楯無はう~ん、と唸った後に深呼吸して意を決したように口を開く。

それなりに勇気のあることなのだろうか…?

 

「専用機が…欲しかったのよ」

「…日本ではその許可が下りなかったのか?」

 

ラウラは不思議そうに首を傾げ、俺も同調するように頷く。

…だが、もしかしたら…。

俺と一夏は例外中の例外なのだ…特にモルモットとして扱われてこなかったから忘れがちだが。

 

「日本はIS発祥国ではあるけど、コアの分配数って先進国の中でも少ないのよ…あまり表沙汰にはされていないけどね。確かに許可は下りたわ…けど、私が日本で代表になって専用機を得たら、簪ちゃんの目指している事を阻む事になっちゃう」

「それで…ロシアに行ったの…?」

 

簪は何処か怒った様な顔をして楯無を見つめる。

恐らく、簪と明確な溝が出来てしまった頃の話だろう…で、あれば楯無としても簪を刺激したくは無かったはずだ。

…人たらしと揶揄されていた人間は実の妹には口下手過ぎるな。

俺は簪の頭をポンと撫でて宥める。

 

「そう、怒るな…お前を思ってのことだろう?」

「で、でも…陰口言われるのはお姉ちゃんだし…私の為に其処まで…!」

「丁度、ロシアも優秀な人材を探している真っ最中だったの。チャンスだと思ったからね…御家のお仕事でもパイプは欲しかったし」

「強かですわねぇ…」

 

楯無は国家代表と言う地位と専用機…更には更識家の海外へのコネクション作りを行い、ロシアは優秀な人材を手に入れた、か。

どっちが得をしたのかと言えば、確実に楯無率いる更識家だろう。

見返りに対するリターンの旨みが凄まじい。

 

「だから、簪ちゃんが気にする様な事はないわ」

「で、でも!」

「いいの…私は故あらば身売りだってするわ」

 

簪は食って掛かるように楯無へと詰め寄るが、楯無は簪の唇に指で触れて黙らせて笑う。

その笑い方が…どうしようもなくアイツに…白に似ていて…見ていられんよ。

白も自身の体を質に入れて、事を為す事が多々あった。

その度に歯がゆい思いをしたものだ。

 

「その言い方は好きではないな…刀奈、お前は強いし優しいが、俺同様に自身を勘定に入れん。それでは簪も納得せんだろう」

「父様の言うとおりだろう。父様のストッパーが父様と似たような事をしていては説得力に欠けてしまうぞ」

 

ラウラは真剣な面持ちで俺の肩の上から楯無を見下ろす。

こう…微妙に締まらんな…肩車の所為で。

楯無に対する誹謗中傷か…内容が分かりやすいからか、俺の腹に据えかねるな。

妹思いであるが故に取った行動だと言うのに…この行動は尊いものだろう。

自身が罵倒されても妹の為にと言う一心で、他国に身売りしたわけだからな。

 

「それ言われちゃうと弱いわ…っと…簪ちゃん?」

「お姉ちゃんは…私の一番なんだから…無理しちゃ嫌だよ?」

 

楯無を抱き締める簪の姿を見ると、どちらが姉なのか分からなくなってくる。

更識家の為、妹の簪の為と楯無は自分を殺してきた…学園に来てからは生徒会長として生徒の模範に…なっているかは怪しいところだが、仮面を付けている部分はあっただろう。

自分をさらけ出せないと言うのは苦痛極まりない。

…俺も、少しは苦痛を和らげてやれているだろうか?

 

「ごめんなさい、簪ちゃん…次からは気をつけるわ」

「絶対だよ…まだ、勝ってないんだから」

「わたくし達は同志なのですから…わたくしだってできる事なら手伝いますわ」

「そうだ…父様の味方であるならば、私だって手を貸すのは吝かではない」

 

案外、首輪も馬鹿にならないか…。

俺との仲だけではなく、彼女達同士でも親交が深まっているのは良い事だろう。

これで、少しは楯無が自身の身を省みてくれれば良いのだが…な。

 

 

 

 

 

目の前に突き出された手刀を顔を逸らすようにして避け、腕を掴んで一本背負いの要領で投げ飛ばす。

相手は空中で受身をとって着地し、不敵に笑う。

完全に好敵手と見定めた顔だ…俺とて手加減をするつもりは無い…だが…。

 

「どうした狼牙…おまえの力はそんなものではないだろう?」

「ふぅ…そうだがな…気乗りせんよ」

 

俺が相対している相手…千冬さんは挑発する様に手招きをし、拳を構える。

午後の授業…近接格闘技の実戦訓練と言う事で、度々千冬さんのお相手をしてきた俺に白羽の矢が立った。

シャルロット対ラウラの方が好カードの様な気がするんだがな…。

皆の目がある以上悪戯に殺気を放つ訳にも行かず、俺は防戦一方となっている。

それでも、致命的な一撃を受ける事無く試合開始から五分が経とうとしている。

 

「授業中なんだ、真面目にしろ!」

「っ…!!」

 

千冬さんは一足飛びで踏み込み、俺の脇腹に強烈なボディブローを叩き込んでくる。

咄嗟に後方へ跳躍し威力を殺しながら脇を締めた腕を掴み、お返しと言わんばかりに鳩尾に拳を叩き込む。

 

「っくふ…!!」

「織斑先生こそ、迂闊だぞ…!!」

 

鳩尾の衝撃に体をくの字に曲げた千冬さんの隙を逃す事無く、締めた腕を掴み直し背負い投げで地面に叩き付ける。

一瞬、俺の背中に悪寒が走り本能の赴くままに千冬さんから離れる。

あの状態で潰しに来るか…俺はゆっくりと呼吸を整えて千冬さんに相対する。

千冬さんは体の痛みに顔をしかめながらも立ち上がり、体についた砂埃を叩き落とす。

 

「ふん、やればできるじゃぁないか…殺す気で来い!」

「……分かった、そうさせてもらおう」

 

恐らく、俺の実力を計りたいのだろう。

生体同期型ISと化した人間は、如何程の強さなのかを。

ゆっくりと息を吸い、吐き出す。

見学しているクラスメイト達が固唾を飲んで見守る…それほどまでに、今は緊迫した空気が漂っているのだ。

『千冬さんと同じように』一足飛びで肉薄し、胴体に肘撃ちを叩き込む。

千冬さんは肘に手を添えて力を受け流して逸らし、着ているジャージの裾を掴んで俺の体勢を崩しに来る。

敢えて力には逆らわず、地に叩き付けられる寸前に片腕で体を支えて千冬さんの顎目掛けて蹴りを

叩き込む。

 

「チィッ…!!」

「っ…出鱈目な男だ!」

 

千冬さんは上体を逸らして俺の蹴りを避けて距離を開けようとするが、俺は倒立した状態で続けざまに蹴り技を叩き込んで足止めをする。

苛立った千冬さんは腕を交差させて足を受け止めて掴み、片腕で俺の体を持ち上げて地面に叩き付ける。

 

「がっは…!!出鱈目なのはどっちだ!!」

「ガキに負けるわけにはいかんからな!」

 

追撃と言わんばかりに俺の腹目掛けて踏みつけを叩き込んでくるが、俺は寸でのところで足を受け止める。

女性とは言え、筋力と重量の乗った一撃は中々に重い。

 

「んん?降参したらど・う・だ?」

「生憎と好いた女が見ているとカッコつけたくなるものでな…!」

 

少しの間拮抗上体が続くが、無理矢理脇に逸らして踏み付けを避けて体を転がして距離を開けて立ち上がる。

隙が無い…世界最強は伊達ではない、か。

喉を獣の様に鳴らし、目を細める。

無様にも、負けられんよな…チラ、と此方を見るセシリアとラウラを見て獰猛な笑みを浮かべる。

 

「はぁっ!!」

「っく!?」

 

一瞬景色を置き去りにしたかのように加速したと思えば、間合いの中に俺は飛び込んでいる。

まるで、以前の身体能力を披露したかのようだ。

無意識の内にコアを制御してPICによる突撃を行ったようだ。

千冬さんはあまりの速さに一瞬判断が遅れるものの、俺と腕を交差させてクロスカウンターを互いに決める。

 

「「ガァッ!!」」

 

同等の衝撃が互いに入り、一瞬だけ視界が明滅する。

軽い脳震盪を起こした俺達は…しかし、千冬さんのほうが早かったのか朦朧としている俺の後頭部に回し蹴りがクリーンヒットして俺は完全に視界が真っ暗になる。

がやがやと騒がしくなるが、まるで遠い世界の出来事のようだ…くっ…。

負けてしまったことを認識してしまい、内心歯噛みする…何とも情けないな…こうもあっさり意識を刈り取られると。

次第にボンヤリと視界が回復してくる。

 

「狼牙さん、大丈夫ですか?」

「う…セシ…リア…?」

 

遠くで訓練を行う声がする…どうやらまだ授業中らしい。

セシリアは俺の頭を撫でながら心配そうに顔を覗きこんでくる。

…どうも膝枕されているらしい。

 

「どれくらい、気絶していた?」

「十五分程ですわ…それにしても、体の具合は平気ですか?」

「千冬さんは容赦がなくて困る…まだ頬がヒリヒリする」

 

軽く苦笑を浮かべて溜息を吐くと、俺が目覚めたのに気付いたのか千冬さんが此方にやってくる。

 

「大丈夫か?」

「あぁ…気絶するとは思わなかったが」

「すまんな、あまりにも獣染みていて思わず本気で意識を刈り取ってしまった」

 

…ふむ…どうも、千冬さんを驚かせる事くらいはできたようだ。

こと戦闘において、千冬さんが驚くような状況になるというのも稀だからな…少し、してやったりと言う感じか。

 

「狼の面目躍如か?」

「皆の目の前で無ければな…一応誤魔化しておいたが…制御できるようにしないと、いざと言うときに困るからな?」

「承知…まだまだ人間扱いされていたいからな」

 

IS人間です等と世間にバレれば国籍のみならず、人権さえも奪われかねんからな。

…今の生活が俺は気に入っている…だから、俺は…彼女達と共に居たいのだ。

 

「オルコット、今日はコイツの様子を見ておけ」

「わかりました。このセシリア・オルコットにおまかせを」

 

千冬さんはセシリアに優しげな恵美を浮かべれば、訓練指導へと戻っていく。

体育祭前日にこの体たらくで明日生き残れるのかわからんな。




そしてやって来るスランプモード…というか夏ばて?

ちぃっとばかし筆の進みが遅くなります…申し訳ない

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