【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
「今度の体育祭…一年生にとっては一夏君と狼牙君との同棲権及び、同じクラスになる権利をかけたものになるわ」
「「「「「ッッッ!!??」」」」」
寮のラウンジに激震、走る。
門限ギリギリまで整備作業を行ったものの、自動修復込みでの修理は難航を極める。
本格的に束さんの手を借りる事を考えないと拙そうな状況だ…今後引き起こされる事件を乗り切る為に。
とぼとぼと更識姉妹を伴って寮へと戻り、ラウンジで思い思いに過ごしていると楯無がやってきて今度の運動会の概要を説明し始めた。
同棲権は俺にとってどうでも良い…『どうせ、楯無介入で二人部屋が四人部屋になる』だけだろうからな…。
問題は同じクラスになる…と言う方だ。
これは、以前轡木さんが話していた『専用機持ちを一箇所に集中する』と言う話に関わってくる。
言わずもがなIS学園に集められた生徒と言うのは、基本的に才能がある人材ばかりだ。
原石ではあるが…それでも自身に矜持があるのは確かだろう。
専用機持ちと言うのは、その中でも抜きんでた才能の持ち主にしかなれない。
つまり…エリート中のエリートだと言う事だ。
箒も最初はソレを理解こそしていなかったが、今では名に恥じぬ様にと努力を怠らず短期間でIS適正がSになる程まで成長を見せている。
さて…では、そんなエリートが集まるクラスに専用機持ち以外の生徒が集まったらどうなるのか?
まぁ、間違いなく慢心するだろう…若さゆえにな。
そして他クラスの生徒はやる気を失ってしまう。
自身はあのクラスの人間よりも劣ってしまっていると。
無論、それで反骨精神を刺激され、努力する者もいるだろうが。
そんな訳で、今回の体育祭は専用機持ちの集まる一組の生徒を選出するための隠れ蓑の役割があるのである。
「そ、それは本当ですか!?」
「もちろんよ、箒ちゃん」
箒はやや興奮気味に楯無に詰め寄り声を上げる。
…そう言えば一学期最初の一ヶ月は同じ部屋だったな。
あの頃の失敗を取り戻すチャンスでもあるわけか…必死にもなるな。
「銀君…景品にされているのに随分と余裕だね?」
「シャルロット…企画した人間が誰だか分かっているのか…?」
「あ~…」
ラウラをモデルに俺は体育祭の話を涼しい顔で聞き流しながら絵を描いていた。
ラウラは相変わらず、俺と御揃いの作務衣を着ている…やはり女の子が部屋着にするにしてはちょっと…流石にパジャマはシャルロットの努力の甲斐もあって、猫耳フードのついた着ぐるみタイプのパジャマになったが。
そんな俺を不思議に思ったのか、シャルロットは不思議そうに首を傾げながら聞いてきたのだ。
「なら、結末もある程度読めてるんだ?」
「俺に関してはな…一夏は知らん。俺やセシリア、楯無達はお前達の恋を応援はしている」
「そ、そうなんだぁ…えへへ…ありがと」
シャルロットは照れた様に頬を赤らめて笑みを浮かべている。
シャルロットも一夏と同棲経験がある人物だったな…心の中で静かに闘志を燃やしているに違いない。
意外と強かな娘だからな…企業経営やらせても面白いかもしれん。
「よし…ラウラ、ありがとう。お陰で良い絵が描けた」
「父様の役に立てたなら嬉しいぞ」
「わ、私も描いてほしい…」
絵を描き終えて軽く背伸びをすると、簪が此方へと近づいてモデルを志願してくる。
そう言えば、簪をモデルに絵を描いた事が無かったな…。
「あぁ、いいぞ。ラウラ、その席を代わってやれ」
「ありがとう」
簪は少し照れた様に笑みを浮かべて、ラウラと席を交代する。
ラウラは俺の隣に椅子を持ってきて座り、スケッチブックを覗き込んでくる。
シャルロットはセシリアと交代するようにライバルである箒と鈴の元へと向かった。
「久々に描いていますわね?」
「此処のところ余裕がなかったからな…将来的には山奥に引き篭もって延々と絵を描き続ける生活と言うのも良いな…」
「フフ、
「…やはり止めよう」
ヒモ生活…うむ、合わんな…好きな事をしたいのであれば、自分で金を稼いでやった方が良い。
セシリアとの会話が可笑しかったのか、簪は笑いを堪え様と、微妙な表情になっている。
「簪、このままだと変な顔で描かざるを得なくなるぞ?」
「そ、それは嫌!」
首をぶんぶんと横に振って簪は気持ちを改める。
残そうと思えば一生残る物だ…写真と同じでな。
丁寧に鉛筆を走らせて、スケッチブックに簪を描き出していく。
気付くと、セシリアはラウラの隣に座って何か喋っているが…内容が頭に入ってこない。
「ふぅ…いいぞ、ありがとう」
「もう、良いの?」
「色は付けないからな…疲れただろう?」
「大丈夫…ありがとう」
簪は、はにかみながら立ち上がってスケッチブックの中を覗き込んでくる。
鉛筆一本で濃淡をつけて立体感を出す、と言うのも中々骨が折れる作業だ。
点描だけで描くよりはマシだが…アレはもう二度とやりたくない。
気付いたらクラスメイト達が俺達を取り囲んでいる。
「すごーい、私こんなに綺麗に描けないよ?」
「次私も描いてほし~」
「部屋で体の隅々まd…あ、いえなんでもないです簪さん」
わいわいと楽しそうにクラスメイト達が俺に話しかけてくる。
絵を描くだけで此処まで喜んでもらえると、普通に嬉しくなる。
俺は鉛筆を筆箱にしまって、テーブルの上にスケッチブックを広げる。
「色々描いてある。消灯時間までには返してくれよ?」
「見て良いの?」
「あぁ…昔のものはあまり人に見せられたモノではないが」
ゆっくりと背伸びをして一息つくと、楯無が缶コーヒーを差し出してくる。
キチンとブラックな辺り好みを把握していてくれて嬉しいものだ。
「お疲れ様、狼牙君」
「ありがとう、楯無…いや、久々に描くと疲れるものだな」
「父様は集中していたからな…」
ラウラは、俺がこれ以上絵を描かないと見るや俺の脚の上に座って抱きついてくる。
…非常に幸せそうな顔をされるので拒むに拒めない。
拒むつもりも無いが。
「最近、ラウラさんのべったり具合が凄い事になってますが…何かあったのですか?」
「そうねぇ…いつもは寄り添ってるくらいだったのが、今は大体膝の上に座って甘えているしね」
「…まさか…」
セシリア達は不思議そうに…ただ、何かに気付いているようではある。
まぁ、お察しの通りと言う他無いわけだが。
「父様に好きだと言ったからな」
「「「ッ…!!!」」」
再度、ラウンジに激震走る。
絵を見ていた女子達は愚か、遠くで話していたシャルロット達も此方に目を見開いて見つめてくる。
…お前達、ラウラをなんだと思っているのだ?
「あぁ、恋愛感情の好きだと言うことに気付いてしまった…だが、父様がそう言った感情で見ているのはセシリアと楯無、簪の三人だけだろう?だからな、一方的に告白して一方的にフったのだ」
「合っているからツッコミしづらいが、その言い方もなかろう?」
俺はラウラの頭を撫でながらガックリと肩を落とす。
いや、本当にツッコミしづらい…なんなんなのだ…。
ただ、ラウラの言葉を聞いたセシリア達は胸を撫で下ろし、シャルロットはシャルロットで此方に駆け寄りあたふたとしている。
「ちょっ!ラウラ!それで良いの!?」
「うむ。私は、父様にこうして甘えさせてもらえれば充分だ」
「…なんでしょう、少し負けた気分になりましたわ」
「…ラウラ、大人?」
シャルロットは、何処か納得できない様な顔で眉間に皺を寄せる。
その視線は俺に向けられる。
「銀君がフッたの?」
「フる言葉を出す直前にフられたな」
ラウラの気持ちはありがたいものがあった…だが、な。
俺はセシリア、楯無、簪と視線を移していく。
仮に、この三人が受け入れたとしても…俺はもう受け入れられんよ。
器量とかそう言う問題ではないのだ。
「やっぱり、パパはセシリアさん達だけなんだね~」
「さようなら、私の恋…これからは娘として愛でてもらうわ」
「めげないのね…」
クラスメイト達はクラスメイト達で、何故か納得してニヤニヤとした笑みを浮かべられる。
若干居心地が悪い気がするな…。
「う~ん…ラウラは、それで良いの…?」
「シャルロット…愛情と言うのは人それぞれだと思う。私はこうして父様に愛してもらえればそれで満足だ」
…ラウラが男らしく見えるな…。
子は親が見ていないところでも育つというが…ふむ。
随分と頼もしく感じるようになったな…部隊長に言う台詞ではないが。
「そっか…ラウラがそれで良いなら…良いかぁ」
「人それぞれの好きって事よ、シャルロットちゃん」
「そうなんでしょうけど…なんだか、私には理解しにくくって」
恋愛における価値観もまた人それぞれだ…それぞれが正解で、間違いだ。
結局は当人同士の問題ではあるし、その当人同士が納得していればそれで良いのだと思える。
それが歪なものであっても、だ。
「シャルロット、他人の恋愛感で悩むなんて随分余裕じゃない?これはあたしと箒の一騎討ちになるかしら?」
「む、ボクだって負けないよ!!」
鈴は、シャルロットの意識を自分に向けるように挑発する。
…鈴は優しい…口調にこそ棘がある時があるが、それは優しさの裏返しだ。
俗に言うツンデレと言うやつだろう。
まぁ、この性格が一夏との恋愛事情の発展を阻んでいるのは言うまでも無い。
箒と違って上手く気遣いが出来ているんだがな…。
箒は気遣おうとして逆の事をしてしまう。
一夏を巡る恋愛模様は侭ならんものよな…。
かつての友ならどう誘導したのだろうか…?
「あ、銀君!探しましたよ?」
「む、山田先生?どうかしたのか?」
最近千冬さんは束さんの手綱役に地下に潜る事が多く、山田先生が代理寮長として此処に居る事が多い。
思えば部屋割りを考えていたのもこの人だ…もう、交代しても良いんじゃないか?
「篠原さんと言う方から荷物が届いてまして…確認してもらえますか?」
「篠原さん?分かった、すぐに向かう。楯無、すまないが俺の荷物を部屋に持っていってもらえんか?」
「おっけ~。ほら、早く行きなさい」
ラウラを降ろして立ち上がれば、山田先生の後についていく。
篠原さんからの荷物か…何かあっただろうか…?
山田先生に連れられ、寮の入り口に向かうとダンボールにして三箱縦に積み重ねられている。
いそいそとダンボールの中身を確認すると、中には大量のサツマイモが…。
「あぁ…今年は豊作だったのか…」
「立派なお芋ですね」
「えぇ…孤児院で毎年サツマイモを育てているのだが…処理し切れなかったようだな」
量も結構あるようだ…一箱は料理部に持って行って調理してもらおうか…部費も浮くだろうしな。
残りは…ふむ…。
「焼き芋にしたら美味しそうですよね」
「焼き芋か…あぁ、妙手があるな」
「どうかしたんですか?」
山田先生は不思議そうに首を傾げている。
この学園は木が多く植えられている関係で、毎年落ち葉が凄いと轡木さんが笑いながら話していたな…。
本数も充分あるし、後日掃除ついでに焼き芋を作ってしまおう。
人数も焼き芋という餌で集まるだろうしな。
「えぇ、明日のSHRで少し提案してもらいたいのだがいいだろうか?」
「はぁ…構いませんけど」
「では――」
落ち葉で焼き芋…ふむ、体育祭が少し憂鬱だったがこう言った楽しみがあると乗り切れるかもしれん。
俺は内心浮き足立つのを隠しながら、山田先生にお願いをするのだった。
暫くは、ハートフル(ぼっこ)日常ストーリーが続くんじゃよ