【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

111 / 152
もはや静かに暮らせない

「なー、狼牙ー」

「……」

「なー、何で俺達ここにいるんだー?」

「なんで、なんだろうな…」

 

現在、俺と一夏は一組の教室の仕切られた空間でメジャー片手に突っ立っている。

何でメジャーなのかと言うと身体測定を行うためである。

さて、良い子の皆に質問だ。

この学園はなんと言う名前だったかな?

 

[IS学園ね?]

 

そう、IS学園だ。

インフィニット・ストラトス学園。

つまり、明日を担うIS操縦者を育てるための専門の機関だ。

以前説明したような気もするが、ISが世に出てから束さんが日本人と言う事もあってか半ば責任を取る形で日本が育成機関の整備運営を行う事となった。

まぁ、各国から人の出入りがあるので観光収入やら何やらで景気が上向きになったのは言うまでもないか。

そんなこんなで出来上がったIS学園…しかし、悲しいかな最先端の技術、設備の維持費やら購入費やらはIS学園の財政を圧迫する要因となっている。

…各国の皆さん、もう少し寄付してはくれんだろうか?

この間、決算書類を覗いたら『ギリギリ』黒字だったんだが…まぁ、施設の修繕費にお金が食われているわけで…。

話を戻して、再び質問だ。

ISを基本的に扱える人間はどう言う人間だったかな?

 

[女性限定よね、ロボと一夏君除いて]

 

そうだな、女性限定だな。

この謎は束さんでも解明できていない…らしい。

兎も角ISと言う物は女性にしか反応を示さず、起動する事すらままならない。

と、なるとこの学園に女性が集まるのは当たり前の事態と言うわけだ。

まぁ、仕方ないよな…。

は、はは…ははは…

 

「ガッデム!!」

「うぉっ!?どうした狼牙!?」

「何で俺達が女子の身体測定をせねばならんのだ!?」

「ろ、狼牙が人手不足だからって言ったんじゃないか…」

 

俺は精々仕切り越しに記録する、書記的な役割だと思っていたのだ。

それが蓋を開けてみればどうだ?

身体測定をやるにあたって保険医が来たのだが、『スリーサイズ測って記録しておいてね』等と言われ、当の本人は行方知らず。

拙い…非常にこの状況は拙い…一応男なんだぞ、俺達は…。

 

「やばい…詰んだぞ…ポーカーフェイスが崩れでもしてみろ…助平の烙印は免れまい…」

「あんまりだぁ…って言うか、女子が身体測定のときにやたら張り切っていたって言うのは…」

「ある意味純粋すぎて、あいつらの将来が不安で仕方ない」

 

男性と意識しているのかいないのか…スリーサイズを測ると言う事は、必然的にボディタッチをしてしまうという事なのだ。

嫌悪されていない証拠なんだろうが…。

 

「いや、待てよ…もしかしたら千冬姉と山田先生が測るのかも!?」

「そうであって欲しいと切実に思わずにいられんのだが」

 

だって、ほら…今回の事態において、一名確実に俺に対してアピールしてくる人間が居るわけで…そんな事をされては確実に反応を示してしまう…耐えられる自信がないのだ。

 

[特定人物に対して理性の防壁柔らかすぎない?]

 

仕方なかろうよ…目の前に美味そうなものがぶら下がっていれば葛藤だってするものだ。

だが、今回ばかりはそうも行かない…公私の公の部分なのだからな。

ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせていく。

感情的になればなるほどヘマをするものだからな。

 

「とりあえず、落ち着こう…まだ、俺達が手ずから測る可能性を捨てきれないが…」

「そ、そうだな…まさか千冬姉もこんな愚行は犯さないだろうし?」

 

二人して乾いた笑い声を上げながら椅子に座り、一気に脱力する。

どうして…どうしてこんな事になってしまったんだ…。

いや…多分…きっと…楯無の仕業に違いない…俺が慌てふためくサマを見たいに決まっている…後で、たっぷりと仕置きをしてやらねば…。

 

「ろ、狼牙…顔、顔…!!」

「おっと…すまんな…凶悪な顔にでもなっていたか?」

 

俺は軽く咳払いをして顔を正す。

これから来るであろう女子を怖がらせても仕方あるまい…はぁ…。

気晴らしにでもと懐に忍ばせていた手帳に落書きを始める…まずは劇画調に一夏を描こうか…と思ったところで山田先生が教室へとやってくる。

 

「すみません、二人とも…書類を纏めるのに時間がかかってしまって遅れてしまいました」

「やった!やったぞ一夏!学園の良心が来た!!」

「良心、というかマスコットの間違いではなかろうか?」

「銀君…あんまりです…」

 

いや、だってなぁ…普段から小動物オーラ出されていてはそう思わずにはいられまい。

けっして貶している訳ではないが。

 

「先生、身体測定の役割なんですけど…もちろん、俺と狼牙が記録係りですよね?」

「え!?私が記録係で…」

「「は…?」」

 

…どうにも引き返すには遅すぎたようだ…俺と一夏は間の抜けた声を上げて互いの顔を見る。

山田先生は不思議そうな顔をするだけだ。

先生…なんだよな…倫理観も教える…。

なんで、この人は不思議そうな顔をしているのだろうか…普通に考えて拙いだろう?

曲がりなりにも男性が、女性の下着姿を見ると言うのは!!

 

「ばっちり記録しますから、二人とも手早く測ってくださいね?」

「「解せぬ!!」」

 

二人で抗議の意味を込めて腕を振り上げると、遅れて千冬さんがやってくる。

俺と一夏は死んだ魚の目をしながら千冬さんへと顔を向ける。

 

「コレハ…ドウイウコトカ…?」

「チフユネェ…コンゴノガクセイセイカツガァ…」

「情けない…高々身体測定で何をうろたえている?与えられた仕事くらいキッチリこなせ!」

 

俺と一夏は見放された。

がっくりと肩を落としてトボトボと所定の位置に座る。

そんな姿を見て憐れんだのか、千冬さんは俺と一夏に布キレを投げて寄越す。

 

「そんな顔をするな…目隠しをくれてやるから使え」

「ち、千冬ね…先生、ありがとう…俺、頑張るよ…」

「いや、目隠ししたら測れんだろうが」

 

しかも良く見ると、表側からは分からないが裏側からは普通に見えてしまうジョークグッズの類だ。

千冬さん…あんたって人は…。

 

「はっはっは!まぁ、頑張れよ。では、山田君…私は席を外すので後を頼むぞ?」

「はい!ばっちりこなします!」

 

千冬さんが颯爽と教室から出て行くと、入れ替わりに体操服にブルマーと言う学校指定のニッチな服装に身を包んだクラスメイト達が教室にやってくる。

皆ワイワイと楽しそうだ…役得な筈の俺たちとは対照的だな。

 

「やっほ~、おりむー、ローロー。たっちゃんさんの策が炸裂したね~」

「ほう…その話…じっくり聞かせてくれたら、アメちゃんの他にハイ○ュウもくれてやろう」

「わ~い」

「狼牙さん…その…わたくしには止められませんでしたわ…」

 

のほほんはお菓子で買収できる…もはやこの学園の一般常識になりつつある理だ。

やはりと言うかなんと言うか、あの猫めが…。

セシリアは申し訳なさそうにしながら此方に頭を下げてくる。

どうやら話を聞いて反対してくれていたらしい…まともな感性の人間で良かった…本当に。

 

「では、皆さん…出席番号の奇数は織斑君に、偶数は銀君に測ってもらってくださいね~」

「ろ、狼牙…俺、これを無事に切り抜けたら…美味いもの食べに行くんだ…」

「あからさまなフラグを立てんでもらえるか?」

 

一夏はげっそりと…しかしこれから起こる事を想像してか顔を真っ赤にしてあたふたとしている。

もう此処まできたら腹を括れ…。

 

「今日の身体測定は、ISスーツの為の厳格な測定ですから体に余計な物はつけないでくださいね~」

「まやちゃん先生!下着は脱ぎますか?」

「そ、それは着ていてください!」

 

クラスメイトの発言に皆、きゃいきゃいとはしゃいでしまっている…。

俺は意識を他に切り離し、別のことを考えて聞かなかった事にする。

 

「あー、ローローが仏様みたいな顔に~」

「父様、しっかりしてくれ!」

「狼牙さん…心労が振り切れてしまったのですね…」

 

のほほんが此方を指差して何か言っているが…気にならんな…。

皆、山田先生の指示に従って一人ずつ仕切りの中に入って、体操服とブルマーを脱ぎこちらへとやってくる。

一々服を脱いでいるからか、普段以上に女性の香りと言うのを意識してしまう。

…恐らくこの学園にきて一番戦慄している。

…轡木さんや…もうちょっと…お金を集めてくれ…。

真面目に、かつ素早く測定を行っていくと何故か隣から嬌声が上がる。

ヘマをしたな…俺は静かに胸元で十字を切り神に祈りを捧げる。

 

「一夏ぁ!貴様あああああ!!!」

「一夏のエッチ!…言ったらごにょごにょ…」

 

怒声と恥じらいの声が隣から聞こえてくるが、仕切られているのでどのような惨状になっているのか此方からは把握できない。

声からして箒とシャルロットか…許してやれ…あいつもテンパっていたのだろうから。

 

「パパ…凄い慈悲深い顔を…」

「さ、すまないが後がつかえている…協力してくれるか?」

「う、うん…お願いします」

 

この後一夏が箒とシャルロットにノックダウンさせられた為、俺一人で滅茶苦茶測定した。

 

 

 

 

 

「ハハハハ、災難だったね。…ところで、娘の裸を見たのかね?」

「見ざるを得んだろうに…文句なら生徒会長か千冬さんに言ってくれ」

「狼牙…ご苦労様…」

 

放課後、俺はげっそりとした顔でアリーナの整備室でアランさんと簪、楯無と一緒に先日の決闘で大破した打鉄弐式とミステリアス・レイディの修復作業を手伝っている。

本当に大変だった…少しでも体に手が触れようものなら嬉しそうな顔でもっと触って欲しそうな顔をされるのである。

セシリアは言うに及ばず、ラウラにのほほんもである。

好かれている証拠とは言え、何とも複雑な心境だ。

 

「あのー、狼牙く~ん…そろそろ降ろしてくれないと頭に血が…」

「暗部の長ならば縄抜けできるのだろう?」

「お、おこってゆ?」

 

肝心の楯無はと言うと、麻縄で亀甲縛りにした上で毛布で簀巻きにして整備室の天井クレーンから逆さ吊りにしてある。

楯無、許すまじ。慈悲はない。

 

「お姉ちゃん、自業自得…反省すべし」

「可哀想だけど、おかげで娘が傷物にされたからね」

「手を出した前提で言うの止めてくれんか?」

 

触れはしたが。

ともあれ、結構派手にぶっ壊れてしまった二機のISの修復作業は思ったよりも手間取ってしまっている。

最悪タッグマッチまでは使えない可能性もあるな…。

 

「簪君、君の戦闘映像見させてもらったけど…凄まじい情報処理能力だね。PICはマニュアルなんだろう?」

「はい…昔からプログラミングとかは得意…思考を分けるのは難しいですけど…」

「いやいや、技術屋でも君みたいに複数の挙動を一斉に行う事ができる人間はいないだろう。誇りたまえ」

 

アランさんが手放しで褒めちぎると簪は照れてしまって顔を赤くしながら、俯いてしまう。

照れ屋だからな…まっすぐに褒められなれていないとも言えるが。

 

「私の妹ですもの!」

「ところで、アランさん…ミステリアス・レイディのこの部分なんだが…」

「あぁ…それはね?」

「無視しないで~!!」

 

お仕置き中なので楯無は絶賛放置プレイだ。

いや、本当に反省して欲しい…来年もなんてなったら更に大変だぞ…。

なまじ、美少女だらけと言うのも考え物である。

 

「承知した。すまないがアランさんにはアクア・クリスタルの方をお願いする」

「あぁ、任せてくれたまえ」

「OS周りはまかせろーばりばりー…」

「やめて!」

 

三人で姦しく騒いでいると、寂しいのか時折楯無が突っ込みを入れてくる。

何れも無視だが。

しかし、このままだと拙いな…来月頭に起こるであろう一網打尽作戦での戦力が大幅に減ってしまう。

束さんにも協力を仰ぎたいところだが、興味を持たんだろうしなぁ…。

 

「楯無、反省したか?」

「し、した!したからぁっ!!」

 

楯無は必死に許してくれと懇願してくる…逆さ吊りにしてかれこれ一時間だ…そろそろ降ろしてやっても良いか…?

 

「二人とも、どう思う?」

「ふむ…まぁ、反省していると言っているのだし、拷問をしているわけでもないからね」

「狼牙が許すなら…」

 

二人はもう許すらしい…では、降ろすとしよう。

クレーンをリモコンで操作してゆっくりと楯無を降ろし、拘束を解いてやると体に抱きつかれる。

 

「うぅ…もうしないから…」

「頼むぞ…まったく…」

「らぶらぶだねぇ…銀君」

「昔のアランさんほどではない…だろう?」

「これは耳が痛い」

 

楯無を体に抱きつかせたまま、ミステリアス・レイディに向き直る。

せめて、動かせる程度には直さなくてはな…。

アランさんと軽口を叩き合っていても、状況は深く静かに進行していっている。

気の抜けない毎日だが…彼女達と学園の仲間が居ればきっと乗り切れると、俺はそう信じている。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。