【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜 作:ラグ0109
ある意味衝撃的だったラウラの告白の翌日の放課後。
俺は千冬さん達と一緒にアリーナの管制室に居る。
戦意を漲らせているあの姉妹にかけるべき言葉もなかろう…全力でぶつかり、全力で砕けるだけだ。
今回の試合…俺の独断で、賭け事の類は厳しい処罰を行うと朝の内に校内放送で釘を刺しておいた。
クラス内でも若干の不満の声が上がったが、誠心誠意頭を下げたら渋々ではあるが了承してくれた。
神聖な決闘だ…無粋な催し物は邪魔なだけだ。
「狼さん、結構な熱のいれようじゃない?」
「あの二人をけしかけたのは俺だからな…露払いくらいはすると言うものだ」
ナターシャさんは、俺の隣に寄り添ってニヤニヤと笑みを浮かべながら見つめてくる。
露払い…と言うのは文字通りの意味だ。
簪の邪魔をして、楯無への挑戦を台無しにしようと言う人間が少なからず居たのだ。
無論、純粋に楯無に挑みたいと言う人間が居なかった訳ではない。
上級生の中でも、楯無のことをライバル視している連中も大勢居る。
そういった人間は、俺自らが『軽く』揉んでやった。
超高速でぶん回されて、目を回していたのは少し可笑しかったな。
ともあれ…決闘は無事相成ったというわけだ。
「それで、旦那としてはどちらが勝つと思っている?」
「贔屓目無しに言って…楯無だ。今回の決闘、楯無に軍配が上がるのはまず間違いないだろう」
「ほう…てっきり、開発に関わった弐式を使う簪を推すと思ったんだがな」
「いくらなんでも、それは俺をナメすぎと言うものだろう…?勝負において甘い見通しなんぞ愚の骨頂」
確かに、打鉄弐式の武装は強力な物が多い。
近接兵装に簪が得意とする薙刀…それも刃が分子結合を狂わせる高周波振動を起こす超振動薙刀『
背面に搭載された二門の連射型荷電粒子砲『
そして、未完成とは言え目玉の武装であるマルチロックオン・システムに拠る制御で対象を爆砕する六機×八門のミサイルポッド『
確かに強力…だが、簪の技量や経験から言うと…。
しかし、簪は諦めないだろう…あの娘は強くなったのだ。
逆境に打ち勝つ勇気を得るほどに。
故に勝てずとも…一矢報いる事くらいはやってのけるだろう。
「色ボケしている訳ではないようで安心したぞ?」
「酷い言い草だな…生憎とオンオフの切り替えくらいはできる」
「そうよね、狼さんは美女にくっ付かれても動じないんだもの」
「ファイルスは狼牙を見習え」
三人で並んで管制室のモニターを眺めていると、アリーナに楯無と簪がISを纏って飛び出してくる。
二人とも鮮やかなマニューバを披露している。
緊張感はあれど…余裕はあるようだ。
コンディションも良いだろう…本当の意味での姉妹喧嘩の始まりだ。
「二人とも、ルールはISバトル国際規定に準じたルールで行ってもらう。フィールドはプレーン。制限時間は三十分。シールドエネルギー残量が多いほうが勝利だ…健闘を祈る」
『おっけ~』
『はい…』
千冬さんが管制室のマイクからルールを伝え、二人の返事が聞こえてくる。
試合開始を告げるカウントダウンが始まり…そして…。
結局、マルチロックオン・システムの開発はできなかった。
どうしても
織斑先生からのルール説明…いつもの授業と違うところは何もない…私の強さをお姉ちゃんに教えてあげるんだ!
カウントダウンが始まる…。
「簪…私と同じ舞台に上がってきてくれて嬉しいわ」
「私は今までとは違う…お姉ちゃん、覚悟してね」
お姉ちゃんは水を纏った馬上槍…蒼流旋を余裕を持って構える。
私は量子化していた夢現を実体化させ構える。
お姉ちゃんとの訓練では負け続き…それもここで終わらせる…終わらせてみせる。
私はもう…足手纏いなんかじゃ…ない!
《バトル・スタート》
アナウンスと同時に私はお姉ちゃんの間合いへと踏み込みながら、背面の荷電粒子砲春雷を牽制交じりに撃ち出していく。
出し惜しみなんてしない…私だってお姉ちゃんと、狼牙と鍛えてきたんだから。
お姉ちゃんは牽制だと言う事を見切っていたのか紙一重で荷電粒子砲を避け、余裕をもって蒼流旋を突き出してくる。
水は確かに手強い…けどね。
お姉ちゃんの突きに合わせて薙刀を突くと、蒼流旋の水の刃が乱れていく。
「くっ…私対策かしら?」
「それもあるよ…私は勝つ…皆と一緒に作った弐式で!」
流石にお姉ちゃんも驚いたみたい…水は確かに制御できれば柔よく剛を制す無双の刃かもしれない…けれど、夢現は剛であり柔…高周波振動がナノマシンを狂わせ、水の分子結合を狂わせて無効化する。
お姉ちゃんのラスティー・ネイルも簡単に断ち切れちゃうんだから!
お姉ちゃんは素早く後退しようとするけど、そうはさせない…距離を離したら厄介な事になっちゃう。
「逃がさない…!」
「っもう!狼牙君みたいな攻めを覚えちゃって!」
後退するお姉ちゃんに合わせて春雷を放ちながら前進、素早く薙刀を振るっていく。
薙刀はアクア・ヴェールも切り裂いてしまう…だけど蒼流旋で受けるわけにもいかない。
お姉ちゃんはラスティ・ネイルを二振り実体化させ、二刀流の手数で押してくる。
長得物の間合いと剣の間合いとでは剣が不利…けれど、踏み込まれれば逆に私が不利になる。
けれど…『それでいい』
「この距離…外さない!!」
「正気!?」
「勝つために貪欲になれって、狼牙言ってたから…!!」
私は躊躇無く山嵐を起動させ至近距離からミサイルを発射させる。
けれど、国家代表であるお姉ちゃんは判断が早い…。
「『麗しきクリースナヤ』起動!」
「っ…!速い!!」
「そう簡単に負けてあげられないの!」
ミステリアス・レイディの背面に翼が接続されれば、出力が上昇し赤色化。
狼牙程ではない…けれど、それでも目に追えない程の速度で後退して水蒸気爆発でミサイルを破壊していく。
このままではミサイルは無駄撃ち…乾いた唇をチロリと舐めて私は両足の装甲を部分解除して無防備な両足に二枚ずつ私がフルカスタムしたスフィア・キーボードを出現させる。
「行くよ!」
私は両足の指で一斉にキーボードにプログラム入力を行い、マニュアルでミサイルを操作しながら春雷でお姉ちゃんの退路を断つ様に撃ち込んで行く。
私にはこんな方法でしかマルチロックオンなんて再現できない…けれど…!
「くっ…出鱈目なら出鱈目なりに戦ってあげるわ!」
お姉ちゃんは不規則な軌道で撃ちこまれてくるミサイルと春雷の荷電粒子の軌跡を縫うように突っ込んでくる。
ミサイルは蒼流旋に積まれたガトリング砲で可能な限り迎撃されていく。
それでも私は諦めずに途中で近接信管にミサイルのプログラムを書き換えて対応。
お姉ちゃんにも被弾が目立ってくる。
此方も春雷の連射でシールドエネルギーが目減りしているのが分かる…それでも退けないんだから!
「簪!!」
「お姉ちゃん!!」
お姉ちゃんは蒼流旋のガトリング砲を此方に向け銃弾の嵐を放ってくる。
私は撃ちつくしたミサイルポッド二機を盾代わりにしながら後退し、両足の装甲を再展開。
爆炎が広がると同時に恐れず…狼牙が教えてくれた瞬時加速を使う。
二連続で使う瞬時加速を一回で行う多重瞬時加速…一瞬だけど、今のお姉ちゃんとも高速戦闘が出来る。
爆炎を突き破って私は薙刀を素早く振るうけど、そこにはお姉ちゃんはもういない。
爆炎の目くらましは向こうにも有効だった…迂闊…!
そう、迂闊にも探すために私は足を止めてしまった。
パチン、と言う指を鳴らす音が響いた瞬間に三連続の水蒸気爆発が私と弐式に襲い掛かってくる。
「きゃああああ!!」
「バトルの最中に足を止めるなんて、撃ってくださいって言ってるようなものよ!?」
下方に控えていたお姉ちゃんは瞬時加速を使いながら、私に向かって突撃。
蒼流旋を私のお腹目掛けて突き出してくる。
…いやだ…まだ…私はやれる…私は…負けたくない!!
爆発の衝撃で動かない私の体に喝を入れ、ミサイルを一発私の真横で爆発させてその衝撃を使って紙一重で避ける。
「往生際が…!」
「私は…勝つんだからぁっ!!」
夢現を実体化させ、出鱈目な姿勢で思いっきり振るう。
まだ…まだ動ける…弐式は一緒に戦ってくれる!
お姉ちゃんは蒼流旋の柄で受け止めるけど、超振動の刃が容易くそれを切断する。
まだ…!
私は回転する力そのままに体を回転させながらミサイルを乱射し、距離を離させる。
お姉ちゃんも被弾をしたくないのか、私から距離を開けてミサイルを撃ち落としていく。
これでミサイルはゼロ…春雷も残りのシールドエネルギーを考えると撃てない。
「まさかここまで粘るなんて思わなかったわ」
「勝つんだから粘るよ?…パージ!」
私は躊躇無く山嵐と春雷をパージして、武装の火器管制に使用していたエネルギーを本体に回していく…それでも拙いけど。
私は夢現を最速で振れる様に構える。
「でも、後がない…だから、これで終わりにするの…」
「そう…なら、私も…ここまで戦った貴女に敬意を表して最大の一撃を贈るわ」
お姉ちゃんは全身のアクア・ヴェールを解除、一点集中させて巨大な槍を作り上げる。
私の頬に冷や汗が流れる…けれど…嬉しくて仕方がない。
きっとあれは、防御すらもかなぐり捨てた捨て身の一撃…それを使わせるほどに私は戦えた。
だから…それすらも乗り越えて…!!
「はああああ!!!!」
「受けなさい!ミストルテインの槍を!!」
私は最後のエネルギーを振り絞って瞬時加速を行い、お姉ちゃんに…と言うよりお姉ちゃんの攻撃に突撃。
夢現でミストルテインの槍を切り裂こうとして……
時刻は深夜一時…壮絶な姉妹喧嘩はやはり楯無の勝利で幕を閉じた。
しかし、大健闘と言える…シールドエネルギー残量を僅かまで削ったのだからな。
今日の戦いは、観戦に来た生徒達の心に刻み込まれたことだろう。
さて…では肝心の更識姉妹はどうしたのかと言うと…。
「う~ん…」
「Zzz…すー…」
仲良く手を繋いでベットを占領している。
つまり、俺はベッドで眠れないわけで…。
ミストルテインの槍による衝撃は凄まじく、楯無、簪双方に怪我を負わせる事となった。
体中に巻かれている包帯が痛々しかったな…まぁ、それにかこつけて二人とも俺に看病をさせたわけだが。
「良く眠っていますわね」
「セシリア…寝なくていいのか?」
「あんな戦いを見て簡単に眠れませんわ」
楯無たちが起きないように小声でセシリアと会話する。
俺一人では看病は大変なので、セシリアにも付き合ってもらったのだ。
俺は穏やかに笑みを浮かべながら楯無と簪の頭を撫でていく。
「楯無も、簪も…それにセシリアも強いな」
「フフ…あの地獄の鍛錬と放課後の訓練があってこそですわ…狼牙さんのおかげです」
「皆が努力した結果だろう…そんな女性達に愛されて俺は幸せ者だよ」
優しく微笑みながらセシリアを見つめると、セシリアは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
まったく、可愛い反応を見せてくれるものだ。
「そんな…わたくし達だって…狼牙さんみたいな殿方に愛されて…幸せなのですから」
「そう、言ってくれると嬉しいよ」
セシリアへと歩み寄れば優しく抱き締めて、頭を撫でていく。
失うものが多い人生だ…だが、それでも得るものが多い人生でもある。
深い愛情、とか。
「狼牙さん…お慕いしています…ですから、笑顔でいてくださいまし」
「あぁ…そうだな…お前達の前でくらい笑みを浮かべていたい」
優しく額にキスをして、ソファーに座れば足を軽く叩く。
そろそろ寝ないと明日に響くからな。
「セシリア…そろそろ寝ないと大変だろう」
「そう、ですわね…あの狼牙さん…」
「いいから、膝枕をしてやると言うのだ…寝心地は保障せんが」
俺が笑みを浮かべながら手招きすると、セシリアは嬉しそうにソファーに横たわり、俺の脚に頭を乗せてくる。
どこか小悪魔的な笑みを浮かべている。
なるほど…セシリアのそう言う顔と言うのは中々魅力的だな。
「ふふ、確かにカチカチですわね…でも、良い匂いですわ」
「臭いなどと言われたら立ち直れんよ…」
「まさか…愛する殿方の匂いと言うのは良い物です」
くすりと笑いながら、セシリアは俺にしがみついてくる。
まるで逃さんとするようにだ…。
「おやすみなさい、狼牙さん」
「あぁ、おやすみセシリア…良い夢を」
そして…静かな夜は更けていった。
……(ノーロープバンジー決行)