【完結済】インフィニット・ストラトス 〜狼は誰が為に吼える〜   作:ラグ0109

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狼、取材を受ける

さて、楯無の…と言うより黛 薫子のお願いでインフィニット・ストライプス出版社であるネバーラップ出版へと赴く事になった訳だが、約束の時間までかなりあるので簪には申し訳ないが駅前集合と言う形を取らせてもらった。

ぶっ倒れた後、千冬さんと束さんにまだ挨拶していなかったからな…一応、顔くらいは見せたほうが良いだろう。

話によると、束さんは地下に潜っていると言うことなので学園地下区画へと向かう。

 

[ロボ、土砂降りさんの方なのだけど…本当にスカウトしに来ただけみたいよ?]

「…なめられていると思っても構わんだろうな」

 

幾度も侵入を許しているのだ…最早仕掛けるまでも無いと言う意志の表れだろう。

腹立たしいが反論できないのがキツい所だ。

警備関連に関しての見直しは早く詰めていかなければならんな…。

此処のところのトラブルは、男性操縦者と言う稀少存在を巡っての事もあるのだろう。

嫌な星の下に生まれてしまったものだ。

 

[その…本当にごめんなさい、ロボ…反省しているわ]

「構わんよ…限界が知れたと思えば儲け物だろう。戦闘中では命取りだったわけだし」

 

昔ほどタフではない…その事実が分かっただけでも本当に良かった。

ロボと同じようには振舞えない…セシリアや楯無、簪もラウラもいるのだ…本当に頼っていかねばな。

地下区画に辿りつき、何やら工事しているような騒音の響く方向へと向かう。

改造しているのか…自由だな相変わらず。

 

「あ、ろー君おはよー」

「おはようございます、銀様」

「おはよー、ではない。何をやっているんだ、たーさんや」

 

ウサ耳の生えた黄色いヘルメットを着けた束さんとクロエに近づき、無数の銀のリスがせっせせっせと働いている謎の光景を眺める。

良く見るとリスは金属を食べて別のものを作り上げているようだ…と、言うか…このリスどこかで…?

 

「なにってラボ建設?」

「学園側と協議して、地下区画の一部を譲り受けたので、改造をしている最中です」

「今までの隠れ家もこうやって地道に作っていたのか…」

「良い感じの洞窟探して快適不法占拠生活だぜぃ」

 

束さんはブイサインを掲げながら笑みを浮かべている。

自由に生きているなぁ…本当に。

まぁ、おかげで居場所が特定できなかったのだろうが。

束さんの隣でぼけーっと工事を眺めていると、束さんに思い切り抱きつかれる。

 

「へっへ…大丈夫なの?」

「まぁ、見ての通りだ…心配されるとは思わなかったが」

「ろー君も大概酷いね!ちーちゃん、箒ちゃん、いっくんと同じくらいには大事に思ってるんだけどな~」

「もう少し胃に優しい行動をしてくれ」

 

抱きつく束さんの頭をヘルメット越しに撫でてやると、嬉しそうに笑みを浮かべられる。

どうにも、大きな子供と言った感じがするな…。

暫く撫でていると背後から千冬さんがやってくる。

 

「体はもういいのか、狼牙?」

「迷惑をかけた」

「いや、あそこで見捨てた私も問題だったな…許せ」

「お~、ちーちゃんはろー君には甘いねぇ」

 

千冬さんは俺の隣に立つと此方に軽く頭を下げる。

千冬さんにしか束さんを上手く御せない…今後はしっかりと面倒を見てもらいたいものだ。

 

「更識も昨夜は相当うろたえていたからな…」

「たっちゃんはね~まだまだ子供だからね~」

「たっちゃん…?」

 

…バカな…束さんが他人を認識しただと?

千冬さんは眉間を揉んで溜息をつく。

 

「昨夜この区画に関して揉めに揉めてな…一応重要区画にVIPとは言え、部外者に好き勝手にして良いのかと…」

「まぁ…正論だな」

「イラついていたのか箒を引き合いに束をけなし初めてな…ほら、楯無も相当…アレな姉だろう?」

「その点に関しては千冬さんも…いえ、なんでもないです、はい」

 

互いにドシスコンである束さんと楯無はその後妹自慢合戦を展開したらしい。

何やってるんだかな…そう言ったキャットファイトを経て姉妹と言う点で友情を感じたらしい。

そんな友情捨ててしまえ。

 

「…話は変わるが警備関連の見直しはどうなっている?」

「芳しくないな…どうしても人手が足りず、外部から来る人間も経歴に嘘が混じっている事が多い…委員会があのザマでは…な」

「まぁ、その辺はこの天才束さんも協力するしね。あのババア共にもお灸を据えてやらなきゃだしねぇ」

「束様、顔が悪役です」

「んもう、くーちゃん!地下に秘密基地といったら悪の組織なんだから悪い顔しなきゃ!」

「簪が悦びそうなフレーズだな」

 

夏にやった四十八時間耐久アニメ、特撮マラソンは本当に地獄だった…面白かったが、退廃的だったな…若い身空の男女がやることじゃあない…。

一先ず、タッグマッチまでに警備体制が整えば良いのだがな…束さんが妙な気を起こさなければ良いが。

 

「さて、少し出かける用事があるので失礼する。束さん…悪戯は程ほどにな」

「はぁ~い」

「束…狼牙の言う事は本当に素直に聞くな…」

「嫌われたくないからね!」

 

去る前にクロエの頭を撫でてその場を立ち去る。

気が向かん…何を聞かれるのか分からんのが不安を煽るな。

とは言え引き受けたのだから、きちんとこなして見せなければ。

 

 

 

 

ネバーラップ出版の最寄り駅の改札を抜け、待ち合わせの公園へと向かう。

いつもデートと言うと学園の入り口で待ち合わせていたので、新鮮といえば新鮮だ。

白シャツ、ジーンズに黒のジャケットを着ている。

好みの問題ではあるのだがこの手の服しか持ってないのもどうかとは思うんだが…止められんのよな。

公園へと入り、目印になる噴水へと向かうと三人組の男達に囲まれている簪を見つける。

やはり学園の入り口で待ち合わせるべきだったか…。

 

「かわいいね、君。いっしょに遊ばない?」

「さっきからだんまりばっかじゃつまらないよ~」

「ちょっとお茶飲むだけでもさ?」

 

なんとも旧時代的ナンパ台詞の数々です本当にありがとう。

軽い頭痛を感じながら男達に近づくと、不安そうな顔をした簪が此方に気付き駆け寄ってくる。

 

「狼牙…」

「すまんな、待たせた。で、お前らは簪の友人か何かか?」

 

冷めた目で三人組を見ると、びくりと体を竦めさせる。

度胸も無いのか…情けの無い。

いや、度胸を見せられたところで渡すわけも無いが。

三人組は捨て台詞を吐きながらそそくさと立ち去っていく。

その様子を眺めていると両頬を簪に触れられる。

 

「狼牙…怖い顔してる」

「む…いかんな…もう大丈夫か?」

「うん…」

 

簪はにへらっと笑って手を優しく握ってくる。

すぐに手を恋繋ぎで握ってやれば、ゆっくりと歩き始める。

出版社まではそこまで歩かないので少しだけ公園を散策していく。

簪は薄い青の猫耳のフードのついたパーカーに白いミニスカートを身に着けている。

何となくフードを被せたくなって、手を伸ばしてフードを被せる。

 

「わっ…なにするの!?」

「うむ、可愛い…よく似合っている」

 

簪を素直に褒めると、顔を真っ赤にしてフードを深く被ってしまう。

嬉しいのと恥ずかしいのとの半々か…。

フード越しに頭を撫でて笑みを浮かべる。

 

「そんなに深く被るな…顔が見えん」

「見せたくないもん」

「意地悪せんでくれ」

「やだ」

 

顔を見せたくないが離れたくない…という意思表示なのか、先ほどから手を繋ぐ力が凄く強い。

言うまでも無く簪は国家代表候補生…細身ではあるがそれなりに鍛えてはいるので、中々力が強い。

痛いと言うほどではないんだがな。

からかうような押し問答を繰り返していると、出版社が見えてくる。

IS関連の書籍の最大手ともあって中々大きなオフィスを構えている。

流石に簪もフードを取って、気持ちを改める。

一応お仕事で此処に来ているからな…。

出版社に入り、受付でアポイントメントの確認を取ってもらうとインフィニット・ストライプスの編集部へ通され一室で待機するように言われる。

 

「なんだか…緊張するね」

「簪はこう言った事に不慣れなのか?」

「あまり、目立たないようにしてたから…」

 

代表候補生は皆、こういった雑誌の企画やグラビアに参加しているものかと思ったのだが…どうもそうでもないらしい。

簪は美人なのだからもう少し積極的になっても…と思ったところでモヤッとしたものが胸中を過ぎる。

独り占めも悪くは無い…。

暫くすると部屋にツートーン・チェックのスーツを着た女性が入ってくる。

 

「どうも、雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長をしている黛 渚子(まゆずみ なぎさこ)よ。今日はよろしく」

「銀 狼牙だ。お手柔らかに頼む」

「更識 簪、です」

 

黛さんから名刺を受け取り自己紹介を済ませば、促されるままに席につく。

黛さんは人の良い笑みを浮かべてペン型のICレコーダーを取り出す。

 

「今日はインタビューと写真撮影をさせてもらうわね。先にインタビューから始めるわ」

「黛 薫子の姉上殿なのだろう?本当にお手柔らかに頼む」

「あはは、あの子に苦手意識持っちゃった?」

「捏造癖がなぁ…」

 

眉間を揉みながら肩を落とすと、簪が同情するように背中を撫でてくる。

簪も付き合う云々の時に質問攻めにあっていたらしく、やはり苦手意識を植え付けられたそうな。

 

「あら、それは編集者としてやってはいけない事ね。今度会ったら注意しておくわ」

 

黛さんはからかうような口調で言いながら笑っている。

これは…訂正させる気が無いやつだ…くっ…。

 

「さて…それじゃ、狼牙君に最初の質問ね?女子高に入学した感想はどう?」

「…今でこそ楽なものだが、当初は苦痛だったな」

「あら、それはどうしてかしら?」

「一夏がいたとは言え圧倒的なアウェーだからな…女性相手ともなれば何かと気を使うものだろう?」

 

あの当時は性的な発散も禁じられた状態だったので、本当にきつかったな。

なんせ、女性と同室だ…嫌でも気を使う。

 

「薫子が言っていたけど、見た目が特殊なら思考も大人びているわね」

「一応生粋の日本人だ。どうしてこんな形に生まれたのかは俺も分からん」

「いや、でも銀髪に金の瞳…おとぎの国の人みたいでかっこいいけどね」

「それは、どうも」

 

素直に賞賛してもらえるのであれば受け取るべきだな。

気味悪がられるか、からかうか…はたまた気にしないかの三通りしかなかったものだが。

 

「それじゃ、簪さんに質問ね。お姉さんがロシアの国家代表をしているわけだけど、自身が国家代表を目指しているのもお姉さんに触発されたからかしら?」

「はい…お姉ちゃんは私の憧れで…目指すべき目標です。最初は…張り合うことばかり考えて…仲は良くなかったんですけど…」

 

簪は言いよどむ事無く本心から質問に答えている。

其処に以前の頑なな姿を感じさせるものは何も無いのだ。

俺としては喜ばしい限りだ。

 

「でも、今は仲が良いんだ?」

「はい…狼牙が、仲を取り持ってくれて…」

「いや、取り持ったと言うよりは取っ掛かりを作ったというほうが正しいだろう?」

 

ほんの少しのきっかけを与えたに過ぎないからな…。

そのきっかけを元に二人が歩み寄ったに過ぎない…俺がした事なんぞ本当に些細なものだ。

 

「ううん…狼牙、くらいだったから…きちんと想いを伝えるべきだって言ったのは」

「へぇ…簪さん、狼牙君は何て言ったの?」

「『心の炉に絆をくべろ。思いは伝えて意味を成す』…あの当時は本当にお姉ちゃんとは会話が無かったから…勇気が必要だったな…」

 

何故だろうな…恥ずかしくて思わずそっぽを向いてしまう。

だが、あの言葉は真理だろう…誰しもが絆を得るために絆を代償にするものだ。

少なくとも、俺はそう思っている。

 

「へぇ…そう言った経緯もあって簪さんと狼牙君は親密な間柄になっているのね?」

「へ?」

「黛 薫子から情報は行き渡っているな…」

 

黛さんは、学園での俺達の事を知っているようだ…と、なれば俺の現在の渾名も女性関係も丸裸状態か…腹を括るしかあるまい。

 

「それじゃ狼牙君に質問するわね。学園じゃISの扱いが上手いって話だけど…どの程度強いのかしら?」

「どの程度強いのかと言われてもな…機体性能に頼る面が強くてな。性能に制限を設けないのであれば、国家代表候補生二人掛りに遅れはとらないが…。最近織斑先生から機能制限を付けられてからは大して勝ち星を上げてないな」

「でも、その制限って狼牙のISの特徴を全部殺すものだから…」

 

多重瞬時加速駄目とか、ワイヤーブレード禁止とか…鬼かと思う。

理由が分かっているだけに、強く言い返せないのもまた痛い問題ではあるが。

駆け抜けてなんぼの機体でこれらの制限は本当に苦しい。

 

「世界最強のブリュンヒルデは、授業中は鬼コーチなのね?」

「鬼ではあるが優しさの裏返しのようにも思える。決して慢心せず、一人前になるように厳しく接する。甘やかすだけが優しさではないからな」

「狼牙君って、大人ねぇ…結構モテてるんでしょう?」

「一過性の憧ればかりだ…告白されても丁重に断らせてもらっている」

 

一目惚れ…と言うのが悪いとは言わんが、こんなはずではなかったと勝手に落胆されたくもないしな。

それに、セシリア達が居る…俺にはな。

 

「一夏君と違って異性に興味あった上でその対応…中々やれることじゃないわ」

「いや、恥ずかしながら三股状態でな…後ろから刺されん様に気をつけねばな」

「刺さないもん…」

 

簪は拗ねたように唇を尖らせてそっぽを向く。

少しばかり冗談が過ぎたな…皆、基本的に仲が良いのでありがたいばかりだ。

何よりも…理解してくれている。

 

「狼牙君の名前通りの狼さんっぷりね…世の男達から恨まれるわよ?」

「知らんな…文句があるならば直接言いに来れば良い。聞くだけ聞いてやるさ」

「わぉ…男らしいわね」

「狼牙は、私のヒーローだから…かっこいいの」

 

簪は今までに見たことが無いくらいに綺麗な笑みを浮かべて、此方を見つめてくる。

いやはや…簪に恥じぬ男で居なければな。

 

「それじゃ、地下の撮影ブースに行きましょうか。更衣室があるから用意された衣装に着替えてもらって、それから撮影よ」

「サイズ、合うのがあるだろうか…?」

「大丈夫、その辺りもばっちり事前取材してあるから!」

 

黛さんはグッと親指を立てて綺麗な笑みを浮かべている。

マスコミって怖いな…本当に。

 

「行こ、狼牙?」

「承知…馬子にも衣装とならん事を祈ろう」

 

立ち上がり簪の手を握ってエスコートするように部屋を出る。

この出版社での取材もまだまだ長いものになりそうだ。




と、言うわけで獣人さんリクのインタビューネタでした。
もうちっとだけ続くんじゃ…


ちなみに一夏と箒は午前中に取材を受けている設定です。

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