東方九竜子―瀟洒の妹―   作:竜華零

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第7回東方ニコ童祭、今年も最高でしたね!
それでは、今月の投稿です。
少しばかり遅れましたが、私もお祭りの波に乗りたいです!
では、どうぞ。


STAGE6:「懐麓宮にて」

 異変と言うものは、幻想郷にとって「脅威」である。

 特に、人間にとってはそうだ。

 妖怪の力の発現である異変は、人間達の生活に大きな影響を与える。

 時には、命に関わることもあるのだ。

 

 

「皆、大丈夫だ。でも何が起こるかわからないから、家の中から出ないように」

 

 

 紅い霧の異変、太陽が遮られて穀物が育たず、深刻な食糧難が懸念された。

 冬が終わらない異変、気温が上がらず雪深く、人里が吹雪の中に孤立しかけた。

 偽の夜の異変、妖怪達が凶暴になり、人間は里の外に出ることが出来なくなった。

 それ以外にも花の異変に怨霊の異変、どれもこれも里の人間にとっては脅威だ。

 

 

「慧音先生、それじゃあ」

「ああ。大丈夫さ、今回の異変も博麗の巫女がきっと何とかしてくれる」

 

 

 人里の北の門、そこで1人の女性が数人の村人を見送っていた。

 見送ると言っても女性は門の外にいるので、里の中に村人を押し込んでいると言うのが正しいのかもしれない。

 村人達は心配そうな顔で何度も振り向いていたが、女性――慧音が笑顔で手を振るのを見て、やや安堵したような表情で家路を急いだ。

 

 

 村人達の姿が見えなくなると、慧音は振っていた手を下ろし、物憂げに息を吐いた。

 それから、恨みがましそうな目で空を見る。

 ギラギラと輝く太陽は、我が物顔でそこにいた。

 例年に比して余りにも強く、人里の水源はすでに枯れ始めていた。

 このまま放置すれば、人死にが出かねない。

 

 

「博麗の巫女が、何とかしてくれる……か」

 

 

 そう口にすると、意外なことにそれを疑う気持ちは出てこなかった。

 先だって博麗神社を訪れた時、まるで動く気配は見せていなかった。

 それでも疑う気持ちが出てこないのは、数々の異変を解決してきた実績に対する信頼のせいか。

 あるいは単純に、慧音自身があの少女を信じたいと思っているだけなのか。

 

 

「さて、始めるか」

 

 

 慧音の全身から、青白い妖気の気配が漂い始める。

 彼女は半獣と呼ばれる存在であり、人間では無い。

 それでも彼女が人里の皆に受け入れられているのは、ひとえに彼女の人徳と言うものだろう。

 

 

「ふうぅ……!」

 

 

 慧音の妖気が人里全体を覆った時、不思議なことが起こった。

 まるで端から霞と化していくかのように、人里が消え始めたのだ。

 それは人里の全てに波及し、やがて人里の全容を覆い隠した。

 

 

 ――――歴史を食べる程度の能力。

 それが慧音の能力であり、実は本人でさえも本質の全てを理解しているわけでは無い。

 極端に言えば、過去のある事実を「無かったこと」にする力だ。

 つまり彼女は「人里がここにあった」と言う事実を無かったことにしたのである。

 

 

「ふぅ、とりあえずはこれで大丈夫だろう」

 

 

 何も無い荒野となったそこにひとり立ち、慧音は額の汗を拭った。

 彼女はこうして、過去の異変でも何度か人里を隠して守ったことがある。

 無かったことにしたと言っても、本当に消滅させたわけでは無い、隠しただけだ。

 要は認識をズラしただけなので、慧音よりも強い妖怪には普通に人里が見えたりする。

 しかし少なくとも、無差別に人を襲う力の弱い妖怪からは守ることが出来た。

 

 

「妹紅がいてくれれば、心強いんだが」

 

 

 妹紅と言うのは、迷いの竹林に住む慧音の親友のことだ。

 特別な力を持つ「人間」で、普段は竹林に住んでいるが、稀に慧音に会いに人里に来ることもある。

 こう言う異変の時には、気を遣って様子を見に来てくれたりもする。

 ついでに、人里を隠すとひとりぼっちになってしまう慧音の話し相手になってくれるのだ。

 

 

 しかし今、彼女は彼女で大変なはずだった。

 竹林周辺に住む妖怪が、陽の光と乾いた風、そして砂の山から避難してきているだろうからだ。

 今頃は、なんだかんだ文句を言いつつそれを捌いていることだろう。

 そして竹林だけでは無く、妖怪の山や他のエリアも同じような事態が起こり始めていた。

 幻想郷全体が、砂漠化しようとしていたのである。

 

 

「本当に、早く何とかしてくれ……霊夢」

 

 

 辟易した口調でそう言って、慧音は南の空を見た。

 熱気のあまり歪んで見えるそこに、異変の元凶がいるはずだった。

 そして、その元凶を討たんとする者達も。

 ――――太陽は、未だ強い輝きを放っていた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 門番との決闘に勝利した一行の前で、重々しい音を立てて門が開いた。

 長く開いていなかったのか、パラパラと木材の欠片や埃が落ちてきた。

 

 

「最近の人間は、とんでも無いな」

 

 

 椒図はしみじみと言う風にそう言った、視線はもちろん咲夜に向けられている。

 どうやら、普通に喋ることが出来たらしい。

 

 

「ようこそ<懐麓宮>へ、我々はお前達を歓迎する」

 

 

 門を潜ると、すぐに大きな通路に出た。

 壁は赤く紅魔館を思わせたが、血の紅よりは薄いオレンジに近い色合いだった。

 所々に金細工の装飾が見受けられ、等間隔に置かれた大理石の台の上にはエキゾチックな壷や像が置かれていた。

 空気は冷たく、外の気温が嘘のような快適さだった。

 

 

 門が、ゆっくりと閉じていく。

 椒図はどうやら中に入るつもりが無いらしい、根っからの門番なのだろう。

 どこかの門番にも見習わせたいくらいだ、咲夜はぼんやりとそんなことを思った。

 そんな咲夜に対して、椒図が声をかけてきた。

 

 

「気をつけることだ、人間。この宮では勇気ある者こそが敗北する」

 

 

 咲夜はそんな椒図に礼をした。

 言葉の意味はわからなかったが、何かしらのアドバイスだと思えたからだ。

 そして、門は再び閉ざされた。

 咲夜は小さく息を吐くと、どこかじっとりとした視線を他へ向けた。

 

 

「それで、貴女は何をしているのかしら」

(びくぅ)

 

 

 わかりやすく肩を震わせて、白夜は姉の方を見た。

 その手は調度品らしき壷に向けられていて、触ろうとしていたのがまるわかりだった。

 

 

「橙、お前も勝手に妙な物に触るんじゃないぞ」

「にゃっ!?」

 

 

 いつの間にか尻尾から出ていた式にそう注意しつつ、藍は周囲を見渡した。

 厳かな宮、漂う妖気から言っても、明らかに異変の元凶達の本拠地であることは明らかだった。

 実を言えば、藍の目的は異変の解決では無い。

 それは人間の役目であって、妖怪である藍の役目では無いからだ。

 

 

 とは言え異変の規模が幻想郷を脅かすレベルになるならば別だ、今の所はその判断のための調査と言う状態だ。

 そう言う意味では、博麗の巫女が動いていない現在、十六夜姉妹に期待しているのだろう。

 まぁ、妹の方は良くわからない所もあるようだが。

 

 

(ふぅ、危ない危ない。人の目があって良かったぁ)

 

 

 他人の目があるからか、姉もこの場では白夜を叱らなかった。

 それはつまり館に戻り次第仕置きを受けると言うことなのだが、そこまでは考えが及んでいなかった。

 それよりも、懐麓宮とか言う建物の方に興味を引かれた。

 紅魔館とはまた違った趣の建物だ、興味を引かれないわけが無い。

 

 

『う、うーん? うーん……』

(何? また何か思い出しそうなの?)

『何、だろうなぁ。やっぱり俺様、ここを知ってる気がするぞ』

 

 

 この場所を知っている。

 これは、おかしなことだ――いや、宝珠が喋って段階でおかしいのだが――魔法の森の道具屋で購入した宝珠が、どうしてこんな砂漠の城を知っていると言うのだろう。

 思えば紅魔館を襲った妖怪達も変だった、この宝珠を目にした瞬間に目の色を変えていた。

 

 

『もう少し。もう少しで、思い出せそうなんだ……って、うお!? 何だ、何も見えん! 何も見えんぞ!? こいつはいったいどうしたことだぁ――――っ!?』

 

 

 チカチカと慌しく明滅するので、とりあえず掌で握っておいた。

 

 

(……別に良いよ。思い出さなくて)

 

 

 それにしても、この宮は存外に巨大な建物のようだった。

 実は先程から幾許か進んでいたのだが、延々と同じような通路が続いている。

 もしかすると、紅魔館よりも広いのかもしれない。

 歩くより飛んだ方が早いだろうか? そう思いかけた時だ。

 

 

「あ――――っ!」

 

 

 甲高い少女の声がして、一堂が振り向いた。

 するとそこに、青白の巫女服を身に纏った少女がひとり。

 

 

「ど、どうして私より先に進んでる人がいるんですかぁ!?」

 

 

 それは、一足先に砂漠に到達していた早苗だった。

 頭の上には、黒白の魔法使いの帽子がちょこんと乗っていた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 早苗が白夜達の後ろからやって来たのには、ちょっとした理由がある。

 彼女は白夜達よりも随分早くにここに来たのだが――椒図の「最近の人間はとんでも無い」には早苗のことも含まれていたのだ――未だに、この通路の先へ抜け出すことが出来ずにいるのだ。

 どうやら、何らかの結界で守られているらしい。

 

 

「もうず~っと同じ場所をぐるぐるしてて、流石に疲れましたよ……」

 

 

 大きな溜息を吐いて、その場にヘタりこむ早苗。

 その様子を見て、咲夜はあたりを見渡した。

 何の変哲も無い通路のように見えるが、これで早苗の能力は確かだ、進み続けても目的地に到着できないのだろう。

 流石の咲夜も結界については疎い、時空間を操っても結界本体をどうにか出来るわけでは無い。

 

 

「結界の要が見つけられれば、何とか出来ると思うんですが」

「結界の要、ね。要、継ぎ目……境い目、か」

 

 

 じっと、藍を見つめた。

 何とも真意の掴めぬ狐ではあるが、オプション程度の助力はしてくれるだろう。

 期待と言うよりは、ちょっとした圧力に近かった。

 

 

「やれやれ」

 

 

 それに苦笑して、しかし拒否することなく手を伸ばす。

 境界の妖怪の式だけあって、この手の物はお手の物だろう。

 

 

(は、話について行けない……)

 

 

 と言うか、姉達がまともに話し合っていないので、「とりあえず姉に任せておけば良いか」状態の彼女はこれからの予定について何も考えていなかった。

 唯一考えているとすれば、橙のお尻で揺れている2本の尻尾のことだろうか。

 橙も視線を感じているのかどうなのか、藍の傍を離れようとはしなかったが。

 

 

(……うん?)

 

 

 その時だ、白夜は足元に何かを感じた。

 感じたと言うより、踏んだと言った方が正しい。

 ぱしゃり、と音を立てたそれは、水溜りだった。

 

 

(え、水溜り?)

 

 

 水はおろか湿気ひとつ無い砂の湖の真ん中で、今さら水溜り?

 白夜は疑問に思った、そしてその疑問が大きくなるにつれて、水溜りは水溜りと呼べなくなる程に水量を増した。

 不思議に思い水溜りを追いかければ、それは通路の向こう側――白夜達が当初向かっていた方向だ――から、それは延々と続いていた。

 

 

 いや、ちょろちょろと水量を増してきている。

 それどころか、見えないが、通路の向こう側から何かが押し寄せてくるかのような、そんな音が聞こえる。

 それが水飛沫の音だと気付いた時には、もう何もかもが遅かった。

 

 

「――――白夜!」

(わっ、わ……わああぁ――――っ!?)

 

 

 姉の手が口を覆うのと、衝撃に身体を持って行かれる感覚を感じたのは、同時だった。

 水は、温かった。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

(がぼがぼがぼがぼがぼがぼ)

 

 

 白夜は混乱していた、それはそうだろう、陸上でいきなり濁流に飲み込まれれば誰だって混乱する。

 そもそも、白夜は濁流などと言うものを初めて見た。

 流れる水と言えば霧の湖や人里付近を流れる小川でしか見たことが無く、入ったことも無い。

 せいぜい、お風呂くらいだ。

 

 

 だが今、彼女は生命の危機を感じる程の水に囲まれていた。

 早い話が、溺れていた。

 通路一杯の水量、身体を押し流される水勢、水の冷たさを認識する暇も無かった。

 それでも溺れずに済んでいるのは、姉である咲夜が空気を吐き出さないよう白夜の口を押さえていたからだ。

 

 

(じたばたしないっ!)

(へぶっ)

 

 

 それでもじたばたと暴れるので、咲夜は妹の口を押さえたまま、同時に頭を持って斜めに傾かせた。

 ぐぎっ。

 すると大人しくなったので、ひとつ頷き、状況に対応することにした。

 

 

(と言うか、能力を使えば溺れるなんてしないでしょうに)

 

 

 気絶させてから思いつくあたり、この姉も大概である。

 とは言え、状況は芳しくない。

 濁流に飲まれた時に、藍や早苗の姿は見えなくなってしまっていた。

 

 

(罠とは考えにくいわね。おそらく、藍に結界を解かれる前に手を打ったのでしょう)

 

 

 と、なれば。

 

 

(……!)

 

 

 来た。

 視界を切り取るように、水の中を青白く輝く光線が走った。

 

 

(時よ!)

 

 

 まるで迷路のように水中に現れたそれに対して、時間を止める。

 水中では思うように動けないが、それでも時間停止の世界で妹を抱えて泳ぐ。

 水勢を利用できずに苦労したが、無事に抜けることが出来た。

 

 

 そして、時は動き出す。

 咲夜達のすぐ後ろで完成した光線の迷路は、光線一つ一つから付属弾をバラ巻きながら爆発した。

 普通に泳いで避けようとすれば、水中と言うハンデも手伝って回避することは不可能だったろう。

 ここで脱落、と言うこともあり得たはずだ。

 

 

(どこかに、敵がいるはず)

 

 

 周囲を探る、すると、いた。

 いたと、思う。

 思うと言うのは、その相手の姿を視認することが出来なかったからだ。

 視界の端、何かが泳ぎ回っているのはわかる。

 

 

        ―――― 雨符「水路の雨粒」――――

 

 

 青白い、水滴のような形をした弾幕が波打つように放たれた。

 敵、敵の放った弾幕だ。

 直前で時を止め、再び回避する。

 回避した、弾幕は回避できる、しかしだ。

 

 

(息が……!)

 

 

 息が、保たない。

 咲夜とて人間だ、水中で息を止めていられる時間には限りがある。

 だが敵は水中での活動を得意としているのか、時間停止の世界の中でも姿を見つけることが出来ない。

 時間停止の間も、水中にいる以上は息を止めていなければならない。

 想像以上の危機的状況に、咲夜は僅かながら焦りを覚えていた。

 

 

(このままだと、少し不味いことになるわね)

 

 

 咲夜にとって、それは3つの理由で受け入れることが出来ない。

 第1に主の命令を完遂できない、第2に自分のプライドが許さない。

 そして第3に――今は、妹を抱えている。

 とは言え、このままでは、と危惧するのは当然だった。

 

 

 その時、水が青白く輝き始めた。

 再び敵の攻撃かと、妹を抱えて身構える。

 しかし次に響いた「宣言(こえ)」に、咲夜はこれが敵の攻撃では無いことを悟った。

 

 

        ―――― 開海「海が割れる日」――――

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 海が――いや、水が真っ二つに割れた。

 咲夜は飛ぶことで落下を避け、下を見た。

 すると案の定、そこには思ったとおりの人物がいた。

 

 

「うりゃあぁ――――っ!」

 

 

 海色の極太レーザーを放ち、通路を満たしていた水路を引き裂いたのだ。

 全身からは緑色の霊力が漂っている、息を荒げているのは息が続かなかったためか。 

 彼女は咲夜の姿を認めると、前髪から水滴を滴らせながら言った。

 

 

「咲夜さん! ここは私に任せてください!」

 

 

 だが、水を割っても敵の姿は見えない。

 と言うのも、敵は割れていない、水の残っている場所に潜んでいると考えられるからだ。

 どうするつもりなのか。

 咲夜がそう考えた次の瞬間、早苗が声高々に宣言した。

 

 

        ―――― 開海「モーゼの奇跡」――――

 

 

 再び、水が割れる。

 しかし今度は早苗達の付近だけでは無く、さらに強力なスペルだった。

 通路に残っている水の全てを吹き飛ばし、それどころか霊力による圧力で両側の壁に罅が生じる程だ。

 轟音と衝撃、スペルカードが輝くと同時に水は全て排除された。

 

 

「な、ななな、なんでえええぇぇっ!?」

 

 

 すると、近くから叫び声が上がった。

 思いのほか傍にいたらしいその妖怪は、咲夜の見ている前で、べしゃっと音を立てて通路の床に落ちた。

 どうやら飛べないらしいが、痛みよりも驚愕が勝っているのだろう、信じられないようなものを見る目で早苗のことを見た。

 

 

「ど、どうして!? 何で人間が私の水路を壊せるの!?」

「これこそ、守矢の奇跡!」

「そんな馬鹿な!?」

 

 

 見た目は、おかっぱの黒髪に水滴型の髪飾りをつけた幼い女の子だった。

 特徴的なのは、足先も見えないくらいの長い丈のスカートを履いている所だろうか。

 上は美鈴が着ているようなエキゾチックな青い上着なのだが、スカートは丈が長すぎて布を巻いているだけにも見える。

 スカートは本来足の無い場所がもぞもぞと動いており、中身がどうなっているのか確かめる勇気はなかった。

 

 

「う、う゛~。でも、でも、いい気にならないでよね! 私がいる限り、この先には通さないんだから!」

「え、本当?」

「当然! ここは私達の城なんだから、余所者が自由にして良い場所じゃないんだから!」

「そう! それじゃあ、仕方ないわね!」

「な、なんでそんなに嬉しそうなのよおおおぉっ!」

 

 

 キラキラとした笑顔を見せる早苗に、憤慨した声を上げる。

 後で聞き出した所によると、この妖怪少女の名は覇下(はか)と言った。

 力は「水路を造り出す程度の能力」、水を自在に生み出し、任意の場所を水路に変えることができる。

 しかし海すらも「奇跡の力」で割る早苗に対して、余りにも相性が悪い能力と言えた。

 

 

「え、だって、つまりそれって……妖怪退治して良いってことでしょ?」

「え」

「仕方ないですよね? だって異変を解決するためにはここを通らないといけなくて、そこに貴女がいるんだから、じゃあ退治するしかないわよね?」

「え、え、え?」

 

 

 仕方ないよね? とにじり寄ってくる早苗に、覇下は凄まじく嫌な予感を覚えた。

 水棲の妖怪である彼女は陸上ではほとんど動けない、まさにまな板の上の鯉である。

 「こいつ、マジ?」とでも言いたげな視線をもう1人の敵、咲夜に向ける。

 「安心しなさい、マジよ」と、瀟洒なメイドは目線で応じてきた。

 

 

「うふ、うふふ。ここに来てからずーっと同じ場所をぐるぐるさせられて、足は痛いしお腹は空くしで、とっても辛かったですけど。でもこれも試練、巫女としての責務みたいなもの。だから巫女として、妖怪もきっちり退治しないと」

「そ、それってただの八つ当たりじゃない!」

「え? そんな酷いことを言わないでよ。そんなわけないじゃない」

「じゃ、じゃあ」

「でも結果が同じなら、ちょっとくらい気持ち良くなっても許されると思うんです」

 

 

 綺麗な笑顔を浮かべる早苗、その背後に輝くスペルカードと、通路を覆い尽くしてしまいかねないほど巨大な蛇の幻影が見える。

 唇の端をひくつかせながら、覇下は逃げるようにじりじりと後ずさりし、そして。

 

 

「さぁ、守矢の奇跡を受けてみなさい!!」

「え、ちょ、何よその蛇。ちょっ、ちょっと待っ……ぎゃあああああああぁぁぁっ!!」

 

 

 爆風に髪先を揺られながら、もはや傍観者となった咲夜は横抱きにした妹を見た。

 白夜は、実に暢気そうな顔で眠っていた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 意外に思われるかもしれないが、幻想郷の名は外の妖怪の間でも有名である。

 人の内面に拠り所を失い、消滅の危機に怯える妖怪は多い。

 そういった妖怪を最後に受け入れる場所の名は、嫌でも妖怪の世界を駆け巡る。

 

 

 気が遠くなる程に複雑で巨大な結界に覆われているとか、「月」と戦争をしたとか、いろいろと曰くつきの理想郷だ。

 その中に、特に有名な話がある。

 曰く、幻想郷は「八雲」の名を持つ妖怪に支配されている――――。

 

 

「…………」

 

 

 蛟は、自分の力に自信を持っていた。

 すべからく妖怪とはそう言うものだが、仲間達――いわゆる今回の異変の一味――の中でも、単純な戦闘能力と言う点では一、二を争うと思っている。

 しかし今、蛟は恐怖していた。

 

 

「く……っ」

 

 

 ごくり、と生唾を飲み込む。

 その視線の先には、藍がいた。

 衣服の袖に手を通し、腕を組んだ状態で蛟のことを見据えている。

 

 

「くそぉ……!」

 

 

 覇下が水路で藍達を襲った時、この妖狐は他の面々を気にも留めずに異空間へ逃げた。

 酷薄な判断だった、しかも僅かも躊躇しなかった。

 そして藍がどこへ消えたかと言えば、蛟達の本拠地「懐麓宮」の上空だ。

 砂塵吹雪くこの場所で何をするつもりだったのかはわからない、だが放っておくことは出来ない。

 

 

 それで、蛟が迎撃に来た。

 蛟の能力は「高所だと力が増す程度の能力」、高い位置に飛翔すればする程に力を増す。

 空となれば、まさに蛟のホームグラウンド。

 いかに藍が強大な妖怪と言えど、蛟が負ける道理は無い――はず、だった。

 

 

(何なんだ……何だってんだ、この化け物は!)

 

 

 蛟とてそれなりに格のある妖怪だ、しかしそれをして恐怖せしむる程に藍の力は強大だった。

 弾幕戦を挑んだ、蛟のスペルは何一つ通用せずに封殺された。

 対して藍のスペルをどれ一つとしてかわすことが出来なかった、すでに彼女の姿はボロボロで、何度も被弾し(ぴちゅっ)ていることがわかる。

 

 

 幻想郷のルールに照らせば、蛟はもう藍に対して何をすることも許されない。

 彼女にはもう、藍を止めることが出来ない。

 たった1つ、最も卑劣で最も侮蔑されるべきその手段を除いては。

 

 

「ら、藍さま」

 

 

 藍と共にいた小妖怪、橙を人質にとると言う方法を除いては。

 

 

(畜生。このオレがこんな雑魚妖怪の真似事をするハメになるとはな)

 

 

 唯一無事な左眼だけで藍と睨み合いながら、蛟はその腕に橙を抱いていた。

 首元に手を回し、少し力を込めれば首の骨をへし折れるような体勢になっている。

 本来、蛟はこう言う手段は好まない。

 紳士然とするつもりは無いが、少なくとも格のある妖怪が進んでする行為では無い。

 

 

(だが、こいつを先に進ませるわけにはいかねぇ……!)

 

 

 八雲藍、この化け物をこの場に留め置けるならば。

 蛟達の本拠地(さばく)は、じきに幻想郷全土を砂漠化させるだろう。

 それは幻想郷、ひいてはその結界によって線引かれる「場」を手中にすると言う意味を持つ。

 

 

(後少し時間を稼げば幻想郷を乗っ取れる。そして宝珠だ)

 

 

 幻想郷と、宝珠。

 この2つを手に入れることが出来れば、蛟達の目的は達成されるはずだった。

 だがそれも、この藍を先に進ませてしまえば瓦解してしまう。

 それ程までに強大な妖怪だった、藍は。

 

 

 だから蛟は、恐怖と屈辱に耐えることが出来る。

 自分が藍を進ませなかった分だけ、彼女の仲間達が目的を達する可能性が上がる。

 それだけが、蛟の心の支えだった。

 そして、そんな心の隙間(スキマ)を。

 

 

 ――――「彼女(ヤクモ)」は、じっと見つめていた。

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 どうしたものか。

 柄にも無く、藍は考え込んでいた。

 三途の川の川幅さえ演算する頭脳を持ってしても、この状況の「美しい切り抜け方」を思いつけなかった。

 

 

(たぶん、滅ぼせる)

 

 

 殺せる、では無く、滅ぼせる。

 蛟と言う名の妖怪をこの世からもあの世からも消滅させることは、正直な所、藍の妖怪としての格から言えばさほど難しいことでは無かった。

 それだけ、両者の間には隔絶した力の差が存在する。

 しかし、力にものを言わせて滅ぼすと言うのは、幻想郷の流儀から言って美しくない。

 

 

 そして、橙。

 橙は藍の式――式神である、これを見捨てて攻撃すると言うのもまた、美しくない。

 例え橙と言う存在が化け猫に憑いている式の方が本体で、身体の代えがいくらでもきくとは言っても、美しくないものは美しくないのだ。

 故に、藍は珍しく思い悩んでいた。

 

 

(別に私が異変を解決する必要は無いのだけど)

 

 

 咲夜には「手伝う」と言ったものの、彼女の主は「解決しろ」と明確に命じてきたわけでは無い。

 敵の1人を自分に釘付けにすると言うのも、広い意味では手伝っていると言える。

 ならば、別にこのままでも良いか、とも思う。

 主の命に逆らわず、そして気の進まぬことをする必要も無いこの状況は、存外――――。

 

 

『存外、悪くない――――なんて、思っているわけじゃあ、無いわよね?」

 

 

 藍、と、耳元で吐息のような声が聞こえた。

 反射的に振り向いた、9つの尻尾が毛並み豊かに揺れた。

 

 

「ゆ、紫様!」

(ゆかり? 紫、だぁ?)

 

 

 自分に対しては沈着そのものだった藍が慌てる相手、蛟は興味を引かれた。

 腕の中で橙も「紫さま」と声を上げていた、この2人の上役と言うことだろうか。

 だが、パッと見た限り、藍よりも凄い奴だとは思えなかった。

 

 

 少女だ。

 長い金髪の毛先をいくつかの束にして、束の先をリボンで結んでいる。

 はっとするような紫色のドレスに、白手袋に包まれた手には日傘を持っている。

 空中に座っているように見えるのは、少女の尻の下に不可思議な黒い霞が浮かんでいたからだ。

 

 

(だが、今、アイツ……どこから出てきやがった?)

 

 

 いつの間にか、藍の背後にいたと言う形だ。

 妖気はあまり感じない、強そうには見えない、存在感も薄い。

 なのに。

 

 

「……んぐ」

 

 

 呼吸を忘れる程に緊張するのは、何故だ。

 その瞳から眼を離せないのは、何故だ。

 

 

「藍」

 

 

 吐息を漏らすように、その名を呼ぶ。

 

 

「藍、藍――藍。何だか歌を歌っているような気分になってきたわね」

「は、はぁ」

「冗談よ、そんな「何を言ってるんだこの少女」みたいな顔をしないで頂戴」

「一部を除いてその通りですが……だっ!?」

「おだまり」

 

 

 日傘を閉じ、叩く。

 紫が、藍を、叩く。

 叩く、叩く、叩く、叩く、叩く、叩く、叩く、叩く、叩く。

 たたくたたくたたくたたくたたくたたくたたくたたくたたく――――――――。

 

 

「って、いやちょっと待てよ! 殴り過ぎだろ!?」

「あら、ごめんなさい。ちょっとした教育ですの」

「き、教育?」

「ええ、だって」

 

 

 思わず蛟がそう言ってしまう程に、紫は藍を叩きまくった。

 日傘での一撃など大したことは無いはずだが、どう言うわけか顔を上げることが出来ない程に消耗している様子だった。

 蛟が手も足も出なかった、あの藍を。

 

 

「だって、貴女程度に足止めされるような無能を使役した覚えは無いんですもの」

「はっ、じゃあ、今度はお前が相手してくれるのか?」

 

 

 橙は放さない。

 まさかこの紫とか言う妖怪に人質が通じるとも思えないが、しかし先程の藍と同じ状況に陥らせることは出来る。

 すなわち、汚い勝利と美しい膠着、どちらを採るか。

 

 

「いいえ?」

 

 

 だが、紫の答えは意外なものだった。

 拒否、である。

 

 

「貴女と藍の戦いに、私は関係ありませんもの」

「……じゃあ、何だってご大層に登場したんだ? オレを倒しに来たんじゃないのか」

「まさか。戦いに介入して良いのは、いつだって当事者だけですわ」

 

 

 当事者と言うと、誰がいるだろう。

 まず蛟、これは間違いない。

 次に藍、しかしこれは紫が打ち据えた。

 ならば、後は誰がいる。

 

 

 まさか、と蛟は自分が人質にしている橙を見た。

 怯え、涙ぐみ、どうして良いかわからずにミーミーと泣いている小さな化け猫を。

 まさか、このチビか?

 だが紫は頷いた、蛟の考えが間違ってはいないと。

 

 

「はっ……ははは、ははははっ! 馬鹿かお前、こんなチビが、このオレに勝てると思ってんのか!?」

「ゆ、紫様。いくらなんでもそれは」

「おだまり、と、言ったはずだけれど。藍」

「っ……!」

 

 

 いくらなんでもあり得ない。

 藍ならいざ知らず、妖怪となって、あるいは式となって日の浅い未熟な妖怪に負けるものか。

 こいつらは勝負を捨てたのだ、蛟はそう思った。

 勝った、これで最大の脅威を排除したと言って良い。

 

 

「さぁ、橙。自力でその状況を何とかしてみなさいな」

「む、無理ですよぅ」

 

 

 実に情けない声で、橙は鳴いていた。

 主の主に対して情け無いとは思うが、どう頑張ってもどうにも出来ない。

 何しろ橙は、未熟だ。

 妖怪としても式神としても、経験も実力も足りない。

 

 

「わ、わたし、何も」

 

 

 藍がいないと、何をしたら良いのかもわからないのだ。

 これは使われる側である式には良くあることだが、経験の少ない橙は特にそれが顕著だった。

 救いを求めるように藍を見る、藍は困惑した表情を主へと向ける。

 紫は、その何れをも黙殺していた。

 

 

 こいつは本気だと、蛟は思った。

 確信してからは、困惑と同時に疑念が浮かび上がってきた。

 何だこいつは、どう言うつもりなのだ。

 わからない。

 この紫と言う妖怪の意図が、何一つ読めない。

 

 

「まぁ、そうは言っても」

 

 

 不意に、紫が何かを思うように首を傾げ、言った。

 

 

「流石に、少なく見積もって500年。それだけの格の差がある中、戦えと言うのも無体な話」

 

 

 美しくない。

 条件は、常に対等でなければ。

 そうで無ければ、面白く無い。

 

 

「今のままじゃ、橙がいくら頑張った所でケチョンケチョンにされて終わりだもの」

「そ、そうですよ紫様。だから」

「おだまり、藍。――――お だ ま り」

 

 

 お座り、の感覚でお黙り、と言う。

 

 

「ぎ」

「……う?」

 

 

 蛟は、腕の中で不可思議を見た。

 何と表現すれば良いのだろう、この現象を。

 橙の頭が、何かに「喰われた」。

 

 

 両端をリボンで結んだ、無数の「目」が浮かぶ不気味な空間に、頭から飲み込まれたのだ。

 怖気が走るような光景だった、まるで頭から何かに貪り食われているかのようだ。

 だが、そうでは無いことはすぐにわかった。

 蛟の目の前で、その変化は起こっていたのだから。

 

 

「500年後の幻想郷」

「は?」

「500年後の幻想郷がどうなっているか、貴女は考えたことがあるかしら。藍」

「……いえ、特には」

「つまらない子ねぇ」

 

 

 心底そう思っているのだろう、紫は心からつまらないものを見る目で藍を見ていた。

 

 

「500年後の幻想郷はね、藍。今とはまるで違うものなのよ」

「はぁ」

「同じだけれど、違うものなの」

 

 

 まるで本当に見てきたかのように、紫は言う。

 いや、もしかしたら見てきたのかもしれない。

 彼女には、それが出来る。

 

 

「さぁ、御照覧。500年後の幻想郷に君臨する、5人の大妖怪達――――」

 

 

 妖精を超えた妖精――――<霧の湖の大氷精>。

 夜歌う鳥類の女王――――<竹林の歌姫>。

 失われし蟲達の王――――<蟲王>。

 リボンを無くした闇――――<黒闇の妖怪>。

 

 

「その一角」

 

 

 蛟の目の前で、「それ」は彼女を見た。

 長く伸びた髪の間から、爛々と輝く獰猛な瞳がこちらを見つめている。

 しなやかな身体を伸ばし、ぞっとする程恐ろしい形の爪をこちらの肌に突き立ててくる。

 赤い血の色をした衣装の下では、今にもはちきれそうな「若い」妖気が満ち溢れている。

 

 

「――――ひっ!?」

 

 

 てらり、滑る口内に赤い舌先を見つけた時、蛟は怯えた。

 そして足が竦んでいた気付くのは、「それ」の爪先が蛟の肌を突き破った後のことだった。

 500年の後、幻想郷の人妖は畏敬の念を込めて「それ」をこう呼んだ。

 境界を踏む凶兆――――<幻想の大化猫>。

 

 

「うわっ、うわあああぁっ!」

 

 

 反射的に「それ」の手を弾き、蛟は飛んだ。

 本能が叫ぶ。

 逃げろ、逃げろ、逃げろ!

 

 

 

        ―――― 鬼神「飛翔毘沙門天」――――

 

 

 

 くるくると、何かが回り込んでくるのを見た。 

 馬鹿な、と思った。

 今、自分は全力で飛んでいる。

 翼の無い者が、自分よりも速く飛べるはずが無い。

 

 

「そ、そん」

 

 

 視界一杯に広がる弾幕、それが全て蛟の顔を、身体を、翼を撃ち抜いて行った。

 その次の瞬間、蛟は自分の肩に何かが喰らいつくのを見た。

 激痛に悲鳴を上げて、蛟は空から墜ちていった。

 

 

「悲しいわねぇ」

 

 

 悲鳴を賛美歌に、紫は何でも無いことのように言った。

 

 

「対等な条件で圧倒される。生まれ持った才の違いは、本当に悲しいものだわ」

 

 

 呆然としている藍を放置して、紫は手近なスキマを引き寄せた。

 空間にぽっかりと開いた穴、そこへ、艶かしく唇を寄せる。

 そっと、まるで睦言を囁くように。

 

 

「貴女も、そう思うでしょう?」

 

 

 クスクスと少女のように笑んで、その名を口にした。

 

 

「ねぇ、霊夢――――……?」

 

 

  ◆  ◆  ◆

 

 

 知ったことでは無い。

 感想を述べるとすればそれだけで、それ以外の感情は何も抱かなかった。

 あるとすれば、自分の領分に足を踏み入れられていることへの違和感だろうか。

 

 

「日が、沈むわね」

 

 

 昼を過ぎ、夕焼けを失い、少しずつ朱から暗闇へと移っていく。

 そんな空を見上げながら、霊夢は博麗神社の境内にひとりで立っていた。

 水浴びでもしたのか、黒髪と肌の艶が増していた。

 巫女装束は卸したてのようにパリッとしていて、袖口に仕込まれた護符は真新しく、手には大幣を持っている。

 

 

「沈む前に、飛ぼうかしら」

 

 

 特に何かを考えていたわけでは無い、何となくそうしようと思っただけだ。

 熱を孕んだ風も、夜の空気を吸ってやや冷えたような心地がする。

 今にしても思えば、昼間に動かなかったのは単純に暑かったからかもしれない。

 スキマの向こうから、紫の視線を感じる。

 

 

 だが、霊夢はそれにいちいち何かを感じたりはしなかった。

 気にするとすれば、幻想郷の一角で人妖が集まってドンパチやっていることか。

 得体の知れない者が集まっている、それは異変だ。

 異変は、博麗の巫女の手によって解決されなければならない。

 

 

「紫、スキマを開けなさい」

 

 

 夕焼けが消え、暗い星空が見え始めた頃、霊夢がふわりと浮かび上がった。

 気にはしていないが、どうせいるなら役に立って貰おう。

 そう思っていると、霊夢がこのまま進めば通るだろう場所に亀裂が走った。

 両端に紫のリボン、スキマだ。

 

 

 

 その瞬間だった。

 

 

 

 スキマへ身を潜らせようとしたその瞬間、霊夢は言いようの無い感覚を得た。

 人によっては、それを直感と呼ぶのかもしれない。

 直後だ。

 霊夢が、緋色の「格子」に取り囲まれたのは。

 

 

「あんた」

 

 

 錫杖の音。

 見る、女がいた、いつか神社に挨拶に来た女。

 格子の向こう側で、緋色の妖怪が嗤っていた。

 

 

「確か、憲章とか言」

 

 

 まるで咎人を縛鎖するが如く、格子が少女の細身を締め上げにかかる。

 霊夢の声は、その赤い光の中に消えていった――――。

 




最後までお読み頂きありがとうございます、竜華零です。
懐麓宮、幻想郷の新たなステージの名前です。
砂漠の中の宮殿、と言うイメージでしょうか。
大体、3面まで終わった感じかな……?

それでは、また次回。

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