べつじんすと~む   作:ネコ削ぎ

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あるところに

 人生は何があるのか分からない。思い通りに行く時もあればそうでない時もある。上手くいくと思えばそうでなかったり、これは無理だろと思えばそうでなかったり。神様の気まぐれが過ぎるだろと叫びたくなったのは一度や二度じゃない。

 かと言って神様に暴言を言いたいわけじゃない。当たり外れが分からないのは痛いが、決して悪いことばかりを引き当ててるんじゃないし。

 悪いことばかりじゃない。これは本心だ。

 良いことばかりじゃない。これも本心だ。

 友人とドライブに行って事故で死んだ。これは悪いことだ。

 だけど、何の因果かISの世界に転生してしまった。これは良いことだ。

 高校受験や大学受験、社会人になるための就職活動。色々と大変なことはあったけど、無事にIS学園の数学教師として採用されたこと。これは大変良いことだ。

 IS学園。物語の舞台。ヒロインたちとの出会いが楽しみだった。

 一押しはやっぱりセシリアとラウラだ。

 セシリアのチョロインっぷりは大変残念だけど、それ以外の部分ではもろ俺好みだ。と言っても嫉妬スナイパーライフルの狙撃は好みじゃないんだけど。

 ラウラはこじんまりしてるけど、あざとさのない純粋なところが大好きだ。

 とにかく二人が大好きな俺は一夏が入学してくる年を待った。高々二年だが期待しながら待った。

 結果、原作通り一夏やセシリアが入学してきた。

 入学してきたのだが……どこか違った。

 

「でだな、とりあえずあの銀髪がムカついてしょうがないわけよ」

 

 目の前で買ってきた惣菜パンを頬張るセシリアを見るとよく分かる。

 原作のセシリアは綺麗な長い金髪をドリルにしているのだが、実物のセシリアは短く切った金髪をオールバックにしていて、たれ目も獲物を狙うようなギラギラしたものに挿げ替えられてしまっている。

 原作を知っているからこその残念感。目の前のセシリアはどこをどう見ても俺の知っているセシリアじゃない。名前だけしか原型がない。

 はぁ。溜息をつくと、セシリアに蹴られる。逆らいたいけど逆らえない俺の宿命。

 

「ムカつくって言ってもまだ初日だろ。何をそんなにムカつくようになるんだよ」

 

 男性ってだけで肩身の狭い俺は、昼食の時間を校舎内の備品室で過ごしている。ごみごみしているけど誰もこなくて落ち着くのだ。

 

「分からない。全く身に覚えがない。そもそもドイツに行ったことないし」

 

「前世の縁なんじゃないのか」

 

「前の時だって、意味もなく不愉快になったことないな。態度が気に入らないとか、仕草がムカつくとかあったけど。ちなみにソイツ等はもれなくフルボッコしたけどさ」

 

 前世なんて頭の痛い発言を当然のように受けいれるセシリアは、俺とはちょっと違う立ち位置にいる転生者だ。

 どうして分かったかと言えば、俺がセシリアのあまりの違いに驚いて詰め寄ってしまったのが原因。混乱してなんでもかんでも言っちゃったが、結果は転生者仲間を見つけ出せたことでチャラだ。

 話して分かったことはセシリアは前世や転生と言った中二病な言葉を一切知らないということと、セシリアが俺の知っている日本とは別のところからやってきたということだ。

 

「お前は思い出せないだけで、向こうは覚えているかもしれないだろ。恨まれているんじゃないのか?」

 

 セシリアの前世は、健全な日本人の俺には想像できないような人種だったそうだ。ナイフや銃は当たり前の世界で、殺さなきゃ殺される、潰される前に潰せ、指の一本どころか全部切ってでも吐かせろなが常識として闊歩しているとかどうとか。

 一体どこの国だと思えば日本だと。

 日本国内でそんなルールが当たり前の都道府県なんて聞いたことないので冗談だと思って、さらに話を聞けば規制に引っ掛かりそうな内容がボロボロと出てくるので、俺のいた世界とは別と結論づけた。正直言って、同じ日本人だと思われたくなかった。

 

「ないな。アイツらは例外なく死んだ。死んだ奴らは天国に行くんだぞ。ここは日本だ。どんなに喚いたって奴らがこっちくることないだろ。バカなのかオメェは」

 

「死んだら天国っていう考えの方がけっこう馬鹿っぽいぞ。それだったらお前だって天国にいるだろ」

 

「わたくしは死んでないってみりゃ分かるだろ。死んだら天国に行くんだから」

 

 セシリアにとって死ぬことは天国に行くことらしい。バイオレンスな世界に生きてきた人間の言葉とは思えないが、コイツにとってそれが常識だった。

 よって、セシリアは自分が一度死んだという認識は持っていない。死ぬことは天国に行くことらしいから。

 

「とりあえず仲良くしておけよ。ムカつくからこそ親しくする。これが一番だ」

 

 何の一番かは知らないけど。

 

「……それってストレス溜まるだけじゃん」

 

「最初はな」

 

 気づけばそれが当たり前になる。もう自己暗示の領域だ。

 ラウラが何者なのかは分からない。だけど話を聞く限り原作通りでないことは確かだ。最初の一夏を叩くイベントがないことが証拠になる。それに遠目から見たけど、容姿もちょっとだけ違った。長かったはずの銀髪はもうバッサリ。耳を隠すことができないくらい短くなって、ボーイッシュな感じになってたし。というか低身長もあって少年だった。

 

「うーん……あんまりそーゆーのやりたくないんだけどな。だってこっちが歩み寄ってるみたいで嫌じゃん。相手がこっちに歩み寄るならともかくとして」

 

 惣菜パンに止めをさしたセシリアが喚く。惣菜パンの包装紙を俺にぶつけてきた。やめてほしい。

 

「なあよ。何かアイツについて知らねぇのかよ」

 

「知らないなー。前世のことはもうほとんど覚えてないし」

 

 嘘だ。ガッツリ覚えている。でも転生者相手だとしても下手な情報流出はさけるべきなのさ。セシリアがこんなのでも、一夏対セシリアの試合は行われたし、一夏と鈴の戦いにゴーレムが乱入してきたんだ。さらにはシャルとラウラもやってきた。

 細かい部分に差異はあれど大まかな流れは変わっていないのだ。部外者の俺が余計なことして割りを食うのだけは避けないとな。

 小者っぽく今はせいぜい大人しくしておこう。大人しく包装紙をゴミ箱に捨てよう。いずれ俺の時代が来ることを信じて。おそらく来ないだろうけど。

 来てほしいんだけど……絶対来ないよなぁ。


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