べつじんすと~む   作:ネコ削ぎ

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 あけましておめでとうございます。稚拙な文章でありますが、今年もよろしくお願いいたします。
 ではどうぞ。


はじまりはじまり

 セシリア・オルコットは綺麗に着飾った甘い食べ物が嫌いだ。あのいかにもおしゃれです、と言いたげな風貌と色々入っていて甘いんです、と自慢したげな名前がムカついてしょうがない。もっと言うと女子っぽい食べ物が嫌いだ。いちいち作り出す意味が分からない。

 次に嫌いなのは勉強だ。子供の頃もっと勉強したらよかったなんて言う奴がいるが、あの気持ちが全然理解できない。学ぶことが決して悪いことではない。それは分かっているが、勉強に身を捧げて苦労したいと思わない。だから、勉強を頑張っている奴を見ると愚か者だな、と思ってしまう。

 そして最後に嫌いなものは目の前にいる。

 

「……あのぉ、自己紹介をお願いします」

 

 一年一組副担任の山田真耶が恐る恐る声をかけたのは銀髪の少女。日本の学校ではお目にかかれない髪色と、人が人なら中二病と戦慄してしまいそうな眼帯が特徴的だった。

 真耶の催促を銀髪少女は一瞥するだけで言葉で応えようとはしない。

 教室のボス補佐と言ってもいい真耶の声を無視して沈黙を保つ銀髪少女に、視線を集中させていた生徒たちのほとんどが蛮勇と思った。この一年一組には手を煩わせてはいけない最強の教師がいるからである。少しでも邪魔立てすれば、常人を遥かに超えた一撃が頭頂部に振り下ろされるのだ。

 一年一組の担任であり、鬼だったり非道だったりと影では散々なことを言われている織斑千冬は一切の動きを見せない。

 あの冷血が動き出さないとは驚きだ。日頃の行いが悪いせいで叩かれることのあるセシリアは思った。よもや昨日今日でここまで成長するとは千冬も成長したなと。

 千冬の静観を気にしつつも、セシリアは教壇に立ったまま微動だにしない銀髪少女を見た。存在が不愉快だった。えも言えぬ苛立ちを感じていた。セシリア自身にも理解できない理不尽な嫌悪感。

 セシリアにはこれほどまで苛立ちを感じる相手に心当たりがなかった。それはもうゴキブリなんか霞んでしまうほどに沸騰しやすい理性をボコボコと熱してしまう獣。

 気持ち悪い。セシリアは銀髪少女をそう思った。

 とりあえずシャーペンでも投げつけてこの気持ちを抑えよう。

 高校生とは思えないようなしょうもない行動に出ようとセシリア。

 殺気を感じ取ったのか、それとも別の理由なのか。銀髪少女がセシリアへと視線を合わせる。

 

「不愉快な奴だ」

 

 銀髪少女が呟く。それは呟くにしてははっきりとしていて、セシリアに聴かせる気があったとしか考えられなかった。

 知りもしない相手から突然そんな挑発染みたいなことを言われ、ニコニコとはいそうですかと言えるものは少ない。それもセシリアはまだ一般的には精神的に未熟な高校生だ。そして暴力を良しとするような凶暴性を秘めている。

 

「テメェにも言ってやるよ。不愉快女」

 

 売り言葉に買い言葉。後はどちらが先に手を出すかが問題だ。

 先に手を出したのはセシリア。投擲用に準備していたシャーペンを銀髪少女の露わになっている方の瞳へと投げつけた。

 シャーペンは切っ先がぶれることなく飛んでいき、目標を捉えるかどうかの距離で銀髪少女にキャッチされてしまった。

 腕に覚えあり。セシリアは結論づけた。

 SHRの時間にも関わらず、セシリアは席から立ち上がって銀髪少女目掛けて拳を突き出す。何人ものヤンキーを叩き伏せてきた血塗られた拳。当たれば身の丈を超える相手でも沈められる自信を持った一撃をセシリアは躊躇なく繰り出す。

 コイツに居られると不愉快さが消えない。だからボッコボコよ。

 わずか数秒先の未来を思い浮かべてほくそ笑むセシリア。

 

「死ねぇ!」

 

「馬鹿か」

 

 警察官の前で言えば確実に拘束されるであろう言葉を吐きだしたセシリアを、銀髪少女の淡々とした言葉が迎え撃つ。

 迫りくる拳を受け流し、隙だらけになったセシリアの足を払って転ばせる。

 足をかけられ黒板へと身を投げ出す形になったセシリアは、いままで培ってきた経験から、半ば無意識に銀髪少女の襟首を掴んで後頭部を黒板に叩きつけた。

 第三者から見れば、かっこよく受け流したかと思ったらドジ踏んで一緒に黒板に衝突したようにしか見えない。

 実際に教室内のほとんどがそう捉えた。真実を見極められたのは教師でありながら暴力沙汰を止めずに見守った千冬と、とりあえず油断なく見つめ続けていた篠ノ之箒だけだった。

 

「何するんだ、痛いぞ」

 

「うっせぇっ! こっちも痛いんだよ!」

 

「このラウラ・ボーデヴィッヒに勝てる見込みもなく挑んだキサマの自業自得だ」

 

「偉そうに。デカい口叩く割りには黒板に頭叩きつけられるじゃねぇか。全然説得力ねぇよ」

 

 セシリアとラウラは睨み合った。互いの胸倉を掴んで一切離そうとしない。お互いに理解する気がないから敵対し合う。理由は不愉快だからの一言で片付いてしまうものだけで、その不愉快さがどうしてやってくるのか考えることはない。

 そこらのよりも強いじゃねぇか。セシリアの考えることはそれだけ。それ以外に考えることはどうやってボコボコにするかくらいだ。

 

「何発も殴らせろ!」

 

 その言葉を合図にセシリアとラウラの喧嘩は始まった。始まって数秒で千冬に鎮圧されてしまったが。

 とにもかくにもセシリアはラウラ・ボーデヴィッヒが嫌いなのだ。それは殴り倒したいくらいに。


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