アーマード・アイドルっていいね(違
織斑君が神妙な顔で戻ってきてからは、あれよあれよと話は進み、結局接近して一撃を叩き込む「この距離ならバリアは貼れないな!」作戦で行くことになった。因みに名前の発案は布仏さんです。
実際、こちらには足りないものが多すぎて、選択の余地がまるでない以上、こういった単純な作戦になってしまうのは致し方ないこと。
しかし、朗報もあった。とはいえ、問題付ではあるが。
どうやら織斑君には専用機が与えられることになったらしい。
その発注される時期が、模擬戦に間に合うかどうかというギリギリのラインでなければ、諸手を挙げて喜ぶところですが……。
専用機には
専用機という名は伊達ではなく、完全に自分用に最適化される仕組みである以上、そのポテンシャルを発揮できるかどうかは個人の技量に左右されるだけに終わる。
量産機では、その都度武装が違ったり機体性能そのものに差が出たりと、どうしても違和感以上の何かを覚えてしまう。
そういった意味でも、専用機の存在はこれ以上とない戦力として見込める。
しかし、今回ばかりは例外だ。
形態移行が一度も行われていない所謂素組の状態だと、量産機にさえ性能が劣るという問題があった。
専用機は間に合うか間に合わないかの瀬戸際。つまり、間に合っても届いたのは
ぶっつけ本番に専用機を使うか否かの判断は、織斑君に一任することにした。
外野がどうこう言ったところで、悩ませるだけだという織斑君を除く三人の総意に基づいた結論だ。
丸投げしたようにも見えるが、織斑君は優しいから、三人の意見すべてに応えようとしてしまうのだ。
優しさは美徳だが、今回ばかりは悪手になってしまう。という訳で、厳しいながらも突き放す形となった。
肉体面に関しては篠ノ之さんに、IS操縦に関しては布仏さんに一任している。
同門で剣道を習っていたという二人なら相性は抜群だろうし、布仏さんはちょっとした事情でIS操縦は私達以上には経験があるとのこと。
私はもう少し情報を集めたいということもあって、必然的に役割が決まったのだった。
アリーナの貸し出しはそう簡単に出来るものじゃないと聞いていたが、布仏さんの鶴の一声でどうにかなってしまった。流石ですね。
そうして、情報を集めていたのですが――
「――貴方ですわね、織斑一夏に加担しているもう一人の男性操縦者というのは」
セシリア嬢にバレました。ですよねー。
風の噂程度の認識でしたが、何やら織斑一夏が私との戦いの前に協力者を募り対策を立てているという話を聞きました。
座して時を待つ、なんて体たらくにならず少しだけ安堵した。嬲るだけのワンサイドゲームなんて、美しさの欠片もない。
それよりも気になったのが、もう一人の男性操縦者もその対策立案に一役買っているという内容だ。
私自身、もう一人の男性操縦者に興味はあったが、別段足を運んでまで会う価値があるとは考えていなかった。
しかし、運命の悪戯と言うべきか。目の前には偶然にもその男性操縦者――狭間祐一がいた。
話しかける道理はない。織斑一夏と違い、バックボーンもなければ経歴にも乏しそうな男にかまけている暇なんて微塵もない――そう思ってはいました。
こちらも戯れの心が芽生えたのでしょう。気が付けば話しかけていました。
「――貴方ですわね、織斑一夏に加担しているもう一人の男性操縦者というのは」
振り向いた彼の表情は、眼球も見えないような細目のなよなよとした雰囲気を醸し出しており、ほんの僅かの好奇心もすぐに萎えていった。
どこにでもいる――いや、それ以上に情けない男。その認識で固定されていった。
「おや、貴方は――セシリア・オルコットさんですね」
「そういう貴方は狭間祐一でよろしくて?」
「はい、その通りです。いやぁ、まさかイギリス代表候補生に名前を憶えてもらっているだなんて、光栄です」
「曲がりなりにも二人目の男性操縦者ですもの。耳に入るのも当然ですわ」
鼻を鳴らし、にべもなく告げる。
尊大な態度を取っているにも関わらず、彼は一切不快そうな表情を見せない。
意外と肝が据わっているのか、それとも自らに向けられた感情さえ認識できないほどに鈍感なのか。
「聞くところによると、貴方はこそこそと私について色々調べまわっているそうですわね。姑息な男」
「これも立派な戦略ですよ。敵を知り己を知れば百戦危うからず、なんて言葉もあります。少しでも貴方を倒せる確率が上がるなら、藁にでも縋りますよ」
「……まぁ、織斑一夏はともかく、貴方は私を正当に評価しているようで安心しましたわ。あの男は代表候補生である私に、あろうことか喧嘩を売ったのですよ?身の程知らずにも程があると思わなくて?」
「そうですねぇ、確かに彼はIS操縦だけでなく、単純な体捌きでも貴方に後れを取っている始末です。無謀だと言われれば、反論する余地はありません」
「当然ですわ」
彼の物言いに、少しだけ評価が上がる。
贔屓目で見ず、あるがままの評価を下す冷静さは悪くない。
「私の方でも貴方のことを調べましたが――いやはや、調べれば調べるほど勝てる見込みが更に薄れましたよ」
「あら、そんな弱気で私と対峙しようと言うのですか?だとすればとんだ期待外れですわね」
「いえいえ、元々勝ちの目なんて薄い戦いだと分かり切ったことですし、今更心が折れるなんてあり得ませんよ。それに、まだ貴方の戦闘データに関しては殆ど調べられていませんし、まだ可能性の芽はあります」
「……?貴方は一体何を見て私の評価をしたのです?」
「ああ、私が調べたのは――貴方の経歴だけですよ。私の考察込みの内容ですが、ね」
不自然な物言いを問いただすと、彼は黒革の手帳をポケットから取り出す。
「セシリア・オルコット。16歳女性、イギリスの代表候補生で適正ランクはA。身長156cm、体重は――流石に調べていません。そんなものに興味ないですし。家族構成は父と母共に故人。死因は両者とも事故死。性格は自信家であり努力家。精神的な強さはかなりのもので、逆境に身を置くことで力を発揮するタイプである。ただし余裕が出来ると途端に油断が生じる危うさを持ち合わせており、改善の余地ありな要素とする。戦う者としてそれは致命的だと思うんですが、よく代表候補生に選ばれましたね。それだけ貴方のスペックが高いという裏付けなのかもしれませんが。ピアノやバイオリンといった楽器の演奏が得意で、IS学園においてはテニス部に所属予定。お嬢様って多芸なイメージあるんですけど、何故ですかね。料理の腕は良いとは言えず、外見を重視するあまり味が伴っていないケースが多々見受けられている。見た目も大事ですが、やはり中身が伴っていないといけませんよ?一流はどちらも極めているのですから不可能なんてことはないですからね。名門貴族の出で、両親の死後遺産相続で私腹を肥やそうとする親族から、遺産を守るべく独学で知識を習得。遺産を守ることに成功する。その過程でIS適性試験を受け、適性の高さから遺産保護を条件に《ブルー・ティアーズ》のプロトタイプのテストパイロットを務め、後に正式なパイロットとして権利を譲渡される。努力の度合いが織斑君とはダンチですねぇ。尊敬しますよ本当に。予想以上に重い人生を送っていたのを知って少し調べたのを後悔しましたよ。まぁ、調べるんですが。現在も交流がある中では、チェルシー・ブランケットという専属メイドに唯一心を許しており、人としての憧れも抱いているとのこと。反して、女尊男卑の風潮が一般的になる以前から、卑屈な態度が目立っていた父を毛嫌いしており、それが男性に対して一層の嫌悪感を抱く要因となった可能性は高い。ただ、当初から仲が悪かった訳ではなく、習い事などで気を惹こうとした経緯があることを考慮するに、現在も存命ならば良好な家族関係を築けていたのではと推測する。いやはや、運命の悪戯と言うべきですか。悲しい話です」
――――ゾクリ、と全身の毛が粟立つ感覚に襲われる。
身内や類縁ぐらいしか知らないような情報まで当たり前のように彼の口から出てきたことで、恐怖以上の感情が私を支配する。
私の情報は代表候補生になってからは個人情報は厳重に秘匿されている筈なのに、ここまで事細かに調べ上げられているという事実が、私の危機感を一気に煽った。
「おやおや、どうしました?随分と顔色が悪くなっていますが」
「……な、んでも。ございませんわ。お気遣いは、無用です」
絞り出すような声でも、気丈さは忘れない。
ここで心に罅が入ってしまえば、一生の傷となって私を蝕む。そんな妙に確信めいた予知が私の最後の防波堤となってくれていた。
「やはり、学生生活との二足の草鞋ではこの程度しか調べる余裕はありませんね。持っていても仕方ありませんし、貴方に返します。こちらで処分してもいいですが、知らないところで情報を処分したところで気が気じゃないと思いますし」
そう言って私に先程の手帳を渡す狭間祐一。
あまりの躊躇いのない動作に、反射的にそれを手に取ってしまう。
……白々しい。ここまで私を調べ上げた上で吐く言葉ではないというのに。
人の好さそうな笑顔も、今ではどこまでも神経を逆撫でする要因でしかない。
「では、また今度。次は恐らく模擬戦の時になると思いますが、それまで御機嫌よう」
癖なのか、今は無い帽子を外し胸の中に埋めながらお辞儀をする動作で、彼はその場を立ち去った。
胸を打つ動悸、吐き気に近い不快感で壁にもたれかかる。
時間が時間だけに、人通りもなく。運が良かったと言える。
このような醜態を他人に晒してしまえば、連鎖的に心が脆弱になってしまう。
気丈に振る舞い自己を確立していた私が、誰かに縋ってしまいかねないぐらいに不安定になっていることが自覚出来ていた。
「……狭間祐一、何者ですの?」
手渡された手帳の中を覗き見ると、先程語られた内容以外の私の情報が羅列されていた。
その情報の量は、文字通り丸裸にされたと言うに相応しいものであり、その現実がより一層の恐怖を掻き立てる。
何故、こんな重要な情報を私に手渡したのだろうか。
その気になれば警察沙汰、いや、それ以上の大問題に発展させることが出来る、動かぬ証拠になるというのに。
……それとも、下手な動きをすれば私が不利になるような第二、第三の防衛手段を持っているのか。或いは、彼のバックにはそんな手合いを黙らせるほどの権力が待機しているからなのか。
何にせよ、これだけの情報を今の今まで調べられたということに気付けなかった事実は、彼が異常なまでに情報操作能力を持つという証明になる。
恐ろしい。そうとしか言えない。
彼がその気になれば、どれだけの情報を搾り取られるのか。考えたくもない。
「……勝たないと、織斑一夏に」
織斑一夏に勝つことは、狭間祐一の敗北にも繋がる。
証明したい。私はあの男に勝ったのだと。恐怖を乗り越えたのだと。
最早、織斑一夏を屈服させるという当初の目的は頭から消え去り、ただ狭間祐一の影を拭い去るための戦いと化していた。
油断も慢心も有り得ない。本人の気付かぬ中、その瞳は強く獰猛に輝いていた。
「織斑一夏――全力で潰しますわよ」
あれよあれよと言う間に模擬戦当日。
プライベートまで調べてしまった申し訳なさから、セシリアさんとは宣言通り顔すら合わせないようにしていた。
いやー、絶対怒ってるわー。そりゃそうだわな、戦闘データならともかく、完全に関係ないことばかり調べてたんだもん。訴えられたら問答無用で負けるレベルですって。
しかし、即起訴されるかと思いきや、こうして五体満足で今日まで生き残っています。手帳を渡したことで許されたんでしょうか。
いや、きっと彼女が聖母のように器の広い方だったと言うだけです。あれだけ大変な人生を送っているのですから、精神的にも強いのは情報通りだったと言う訳ですね。
それにしても、この一度のめり込むと止まらない癖はいい加減治したいところですが、ままならないものです。
こうして本来必要のない部分にさえ力を入れてしまい、後で後悔するなんてザラなことだというのに、いつまで繰り返すんでしょうね我が事ながら。
ただ残念なのは、別のクラスの行事ということもあってその活躍を直接見ることが出来ないということでしょうか。
代表候補生を選ぶ戦いですから、戦術等が別クラスに一方的にバレても問題があるという理由から、そうなるのも仕方ないと言えば仕方ないのですが……仲間外れにされているようで少し悲しかったりもします。
そうして時間は流れ、放課後。模擬戦の終わりを見計らって織斑君達に会いに行こうとしたところで、布仏さん
「お~いたいた、ユウくん」
「布仏さん。早速なんですが、結果はどうでした?」
「う~ん、残念だけど負けちゃった」
「そう、ですか……」
なんとなく予想していた結果だけに、残念と思いながらも妥当な結果だと思う自分がいる。
「でもでも、オリムーも頑張ったんだよ。あれから専用機が間に合ったんだけど、それに乗って一次移行が発動するまで頑張って粘って、そこからあと一歩のところまで迫ったんだよ」
「ほほう、それはそれは……その雄姿を見られなかったのが残念です」
殆ど関与していないとはいえ、一応は関係者である自分が一世一代の晴れ舞台を見逃してしまったことは、本当に残念なことだ。
「それとなんだけど、ユウくんはセッシーが油断してかかるって推測してたけど、全然そんなことはなかったよ。その代わり、どこか挙動不審な動作をすることがあったから、そこが穴になってはいたけど」
「あぁ、それなんですが。彼女は思った以上に高潔な人物だったようでして、今更訂正しても混乱する可能性があったので敢えて黙っていました」
「オリムーも結構いっぱいいっぱいだったしね~。いいんじゃない?」
「何にせよ、彼の著しい成長に繋がったことは喜ぶべきことですね。代表候補生との戦闘は、予想以上に彼の才能を焚き付けてくれたようですし」
「うん、凄いと思うよ。油断のないセッシーの猛攻を潜り抜け一次移行までて耐えきったんだもん。まぁ、そうなった時にはシールドエネルギーもかつかつだったっぽいけど」
「それでもそこまで迫ることが出来たのは、布仏さんと篠ノ之さんが織斑君を鍛えてくれたおかげですよ」
「そうかな~、エヘヘ」
はにかんで答える布仏さん。ああ、癒されます。
思わず撫でてしまいそうになるが、セクハラになりそうなので必死に踏みとどまる。
「そういえばその織斑君はどうしていますか?」
「初めての本格的な試合だったから、疲れて寝てるんじゃない?」
確かに、彼は今回が初めての本格的なISでの戦闘なんです。
訓練の段階でひいこらしていた彼なら、訓練で溜まりに溜まった疲労が全部フィードバックしていても不思議ではない。
「なるほど。ならば後日改めて伺うことにしましょう。セシリアさんの方は?」
「セッシーは分かんないけど、多分体力的には十分だったと思うから元気なんじゃない?」
「ふむ、それでもいきなり押しかけるのは迷惑でしょうし、そちらも改めてということで」
「セッシーに用事あるの?」
「少し失礼を働いたことがありまして、模擬戦も終わって因縁もなくなった今こそ謝罪の機会だと思いまして」
「ふ~ん」
「ともあれ、無事終わって良かったです。実質何もしていなかった私が言うのもアレですが、肩の荷が下りましたよ」
「じゃあ、その何もしていなかったユウくんは頑張ったみんなに奢るぐらいはしないとね。疲れたときは甘いものだって言うし」
「それは単に、貴方が食べたいだけでしょう」
「ソンナコトナイヨー」
視線を逸らし、わざとらしく吹けない口笛を吹く布仏さん。
「しらばっくれなくても、そのぐらいはするつもりでしたよ。当然、セシリアさん含めてですが」
「良い心がけだーよきにはからえー」
「調子に乗らない」
軽く布仏さんにチョップをする。
どこかあざといと思わせる動作も、布仏さんなら素晴らしいぐらいにマッチしており、より一層の癒しオーラを出している。
今までの私の周りには、こういうタイプの人は男でも女でもいなかった。
というか、思い返すと私の周囲には癖の強い人ばかりで、彼女のような一緒にいるだけで落ち着く存在はいなかった。
中二病が未だに抜けきっていない千葉さんを初め、常識人だけどその常人を逸した筋肉を持つ赤鋼会長、酒癖悪い上に女子生徒にナンパする睦月先生、暑苦しいことに定評のある獅子神先生、その獅子神先生に求婚されては断ってを繰り返している保険医の
一度そんな高校の常識外れな現実に対して物申したことがありますが、そうすると皆が口を揃えて「お前が言うな」と言うんですよ。おかしいですよね?
「まぁ、今ならジュースぐらいなら奢れますよ。こっちも手持ちが多い訳ではありませんし、一杯ぐらいがせいぜいですが」
「んー、でも私はお菓子の方がいいかなー」
「いつも食べているでしょうに」
「自分のお金で買ったものとじゃあ、全然価値が違うよ~」
「言いたいことは分かりますが、そういうのはもっと謙虚になるべきことでは?」
「ユウくんから言い出したことなんだから、そういう文句は受け付けません」
「それを言われたら痛いですね……。まぁ、いいですよ」
「やったー」
そんな他愛のない雑談をしながら布仏さんと放課後を過ごし、一日を過ごした。
私達の姿を監視する視線に気づかぬまま。
話が進まないけど、どうすればいいんだろう。割とマジで。
メインストーリー投げ捨ててもっとのほほんさんとイチャイチャしたい、モブ三人組も活躍させたい、早くハザマさんをヒャッハーさせたい、専用機も出したい、黒幕も出したい、他に思いついたネタが増えたけどそっちに気を取られないようにしたい。