蛇は刃と翼と共に天を翔る   作:花極四季

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微勘違いぐらいでちょうどいいかな、この作品。
あと、短くても投稿するのが長く続けるコツだと思った(小並感


第三話

狭間さん達と別れ、しばらくして俺達の部屋で再び集まる。

宣言通り布仏さんと共に現れ、箒を含めた四人で部屋の中心にあるテーブルを囲うように座っている。

 

「さて、先程の話の続きですが――」

 

狭間さんがひとつ咳払いをし、口火を切るも、ふと思い出したことを質問する。

 

「その前に、いいか?一組の代表候補生の話はさっきの通りだけど、狭間さんの方はどうなんだ?」

 

「ああ、そういえば話していませんでしたね。こちらの代表候補生は、専用機持ちが現在誰もいないということで、これからの授業の中で能力を見極めた上で判断するとのことです。少なくとも、男性だからという理由で立候補されたりとかはしていませんね」

 

「羨ましいなぁ、普通はそういうのが当たり前だと思うぞ。代表なんだから、そんな看板やってればいいって訳でもないんだし、強い奴がやるのが普通だろ?千冬姉も何だってあんな決め方したんだか」

 

事前他薦を問わない多数決で決める、なんて曲がりなりにも数少ないIS操縦者の代表を決める重要なことに対してやる決め方じゃない。

それとも、千冬姉からすればどんぐりの背比べでしかないのか。いや、分かるけど、それは間違ってるだろうに。

 

「過去のことをうじうじ言うのはもうやめろ。過ぎたことなんだから、これからどうすべきかを考えるのが一番建設的だ」

 

「そうだよオリムー。心配しなくても、私達も協力するから」

 

柔らかい布仏さんの笑顔が沁みる。

箒がズバズバ言ってくるせいもあって、こういう人畜無害そうな雰囲気は素晴らしく貴重だ。

思えば、俺の周囲にいた女性はこんなタイプの子はいなかったなぁ。だから余計に恋しくなるのかもしれない。

 

「布仏さん、ありがとう」

 

「でも実際どうしよう?セッシーは専用機持ちだから、オリムーなんかよりも沢山練習してると思うし」

 

「そうだな……。実際、一夏が次の月曜日までに代表候補生を打倒できるかと言えば、とても出来るとは思えない。というか無理だ」

 

「おいおい、箒……辛辣すぎだろ」

 

「戦いというのは、根性論でどうにかるほど甘くはない。ましてやお前は最低限の能力さえ持っていない状況なんだぞ。喧嘩のようにテレフォンパンチが偶然当たって勝つ、なんて甘い展開を期待しているなら、いっそ今のうちに敗北を宣言してこい。恥を晒すだけだ」

 

「くぅ…………」

 

言い返したいが、言い返せない。

家事に専念する為とはいえ、剣道から離れていた自分が戦いの何たるかを言える訳もなく。

ただ、俺は現状が如何に逼迫したものなのかを再確認することしかできないでいた。

 

「しののん、ちょっと言い過ぎじゃないかな~」

 

「そんなことはない。一夏の為を思えば、これぐらい当たり前の叱咤だ」

 

「ねぇ、ユウくんも何か言って――――ユウくん?」

 

ふと布仏さんが言葉を止める。

気付くと、狭間さんが何か携帯の機械を弄っている。

それは、学園で入学時に配られたPDAだった。

 

「いえ、ちょっと調べものをですね。――はい、皆さんの方にも送りましたよ」

 

三人のPDAから、データ送信がされた音声が鳴る。

手に取ってデータを閲覧してみる。

 

「うわ……なんだこれ」

 

そこには、セシリアの専用機の情報が事細かに書かれていた。

ISの性質、カタログスペック、そこから繰り出されるであろう攻撃の考察及び対策例などといった、狭間さんの見解も含めて書かれたそれは、今さっき調べたというにはあまりにも精密すぎた。

 

「えっと、セシリア・オルコット、IS適正:A、専用機『ブルーティアーズ』、第三世代のISで、射撃武装に特化した主に『BT兵器』の試験運用を目的に開発されたとされる……。ねぇ、こんな情報どこから手に入れたの?」

 

尤もな疑問を、布仏さんが代弁してくれる。

 

「別に難しいことは何も。このPDAにはIS関係の情報がある程度開示されています。専用機ともなれば、各国からも宣伝をする意味合いも含めてカタログスペック程度なら問題なく閲覧することは出来ます。流石に全部が全部分かるなんてことはありませんが、主武装さえ分かるだけでも大きく違いますよ」

 

「あれ、そうだったっけ……?」

 

そう呟く布仏さんの声は、誰に届くことはなかった。

 

「スターライトmkIII、巨大な砲門が特徴なBTエネルギーライフル、ブルー・ティアーズ、ISと同名のBT兵器、ですか……見た限りでは完全に遠距離特化型ですね」

 

「というよりも、遠距離特化型で間違いないでしょうね。ビットの試験運用を目的としている機体なら、それを最大限に活かせる性能で作ってあるのは当たり前です。この武装で実は万能機だと言われても、使う側が困るレベルですよ」

 

確かに、スナイパーライフルのようなスコープ付のライフルとビットなら、そう考えるのが自然だよな。

 

「ということは、セシリアの弱点は接近戦ってことか」

 

「7割正解、ですかね。如何に遠距離型とはいえ、懐に入られた際の対策をしていないとは思えません。対策込みで試験機と見て良いでしょう」

 

「対策か。ロボットゲームとかなら、副武装でハンドピストルとかビームサーベルとかがあるけど」

 

「強ち間違いではないかもしれませんね。拡張領域に使う容量は、主武装の質が高ければ高いほど少なくなりますからね。コストパフォーマンスを思えば、そのぐらいが打倒でしょう」

 

「少なくとも、絶対的脅威になりえる武装はないと考えれば、油断さえしなければ懐に潜り込むこと自体は戦略としては有効と判断していいのでしょうか」

 

「ええ。とはいえ、その懐に潜り込む部分が問題なんですがね」

 

そう。如何に接近戦が有効打になりえると言っても、その結果を出す俺自身の能力が足りていなければ、その段階に移行することさえできないのだ。

 

「やっぱり、オリムーの技量をどうにかするのが最優先事項になるのかな」

 

「行き着くところはそこになりますね。後は作戦を練ることぐらいですか」

 

「作戦、ですか。具体的な内容は思いついているのですか?」

 

「PDAの内容を踏まえた上で説明しますと、彼我の戦力差を埋めるにはあまりに時間がありません。やれることは、少しでもISの動きに慣れるか、剣道を通じて戦いの勘を取り戻すか、奇策を練るぐらいですかね。後は、神頼みぐらいですが、それは本当に最後の手段になります」

 

「ユウくんは作戦を練ることを重視してる感じなのかな?」

 

「身体の動かし方と作戦を練ることは別枠です。どちらも大事ですが、この場は作戦を練ることぐらいしかできないから、というだけですよ」

 

再びPDAを弄り、データが転送される。

内容は、セシリアへの対策が分かりやすく書かれているものだった。

 

「事前に得た知識だけで不格好な内容になりますが、セシリアさんは典型的な女尊男卑を尊ぶ人種のようです。そこを突きます」

 

「俺が男だから、油断して掛かってくるってことか?」

 

「ほぼ間違いなく。憶測で掛かるのは逆にこちらの動きに制約を掛けることに繋がってしまいますが、ここに来る道中の噂話だけでも、セシリアさんがどういう人かなんとなく理解しましたから、この考えはほぼ通ると見て良いでしょう。同じ組である布仏さんの話も聞けましたし、確証も得てます」

 

「セッシーの偉そうな態度も、それを裏付けする実力あってのことだから、時代が時代だし仕方ないことなんじゃないかな」

 

他人事のようにしみじみ言う布仏さんだが、彼女は女尊男卑に関してはどう考えているんだろう。

 

「布仏さんは今の女尊男卑の風潮に関して、何か思うところとかあるのか?」

 

「うーん、やっぱりISが女性にしか使えないからって男の人が昔に培ってきた努力とかを否定するのはおかしいとは思うね~。労働の基盤は男性だし、ISがなければ男性の方が肉体的には丈夫なんだから、良い所線引きをちゃんとするぐらいが打倒だと思うな。線引きっていうのは、役割分担のことね。仕事に貴賎なし、一人一人がやれることをやって初めて国が機能するんだから、私は今の価値観は間違ってると思うね~」

 

「男はひとつのことに集中するのが得意で、女は複数の物事を同時に考えるのが得意らしいですし、極端な話ISの操縦だってそういった性別による得手不得手の違いのひとつでしかありません。そのISの操縦にしても、適正という形で更なる格付けが為されていることから、あくまでISを扱えるというのは土台の有無の差でしかないのです」

 

「まぁ、ISを操縦できれば世界を牛耳れるかっていえば、そうとは思えないしな。確かに現存の兵器を簡単に打倒できる能力はあるのかもしれないけど、それだって使う人次第だもんな」

 

「その通りです。どうせ戦争が起こったとすれば、使用されるのがISになるだけで、根本的な部分は何も変わっていません。寧ろ、人間という器なくして動かせないISは、兵器という枠組みで考えれば不便極まりない代物です。前時代でも、戦争は男がするものでした。その立場が逆転して、果たして同じ働きを求められるかと言えば、何とも言えませんね」

 

「代表候補生とかならまだしも、戦争というものを直に知らない私たちが、いざ戦いの場に駆り出されて満足に動けるとは嘘でも断言できないな。私だって、剣道の経験はあるがそれはあくまで試合という枠組みでのやり取りでしかないしな」

 

どんどん話題が発展していってるが、酷いレベルで脱線してないか?これ。

だけど、狭間が手を叩いて話を軌道修正してくれて、事なきを得た。

 

「兎に角、全世界でそういった風潮が広がっている以上、セシリアさんの態度が演技だとは思えません。間違いなく最初は油断するでしょう。しかし、なんであれ代表候補生ですから、そこからの軌道修正も早い筈です。なので、もしその弱点を突くとすれば、一度きり。しかも短期決戦が前提となります」

 

「難易度高いな……」

 

「前提としての実力差は如何ともし難いからね~。セッシーだってオリムーが頑張っている間に強くなっているかもしれないし、実力差を埋めて真っ向勝負を挑む方が大変だと思うよ?」

 

厳しい評価を下されるも、それが正当なものだと分かっている分、悔しさも反抗心も湧きあがらない。

問題は、これからどうするべきかだ。

 

「虚を突くにしても、量産機の武装でそんなことが出来るだろうか。セシリアは代表候補生なんだから、量産機となんて幾らでも戦闘経験がある筈だ。期待性能だって熟知していもおかしくはない」

 

「それなんですよねぇ……。個人で所有しているものでもないですし、武装の指定も難しいでしょう」

 

うーん、とみんなが頭を捻っているとき、ノックの音が部屋に響く。

応答するより早く、ドアが開かれる。

 

「一夏、いるか」

 

現れたのは、俺の姉であり担任の織斑千冬だった。

 

「千冬姉、ノックしたからっていきなり入るのは――」

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

「うおおおおお……角、角は反則だって……」

 

千冬姉だって俺のことを一夏と呼んで、あまつさえノックからの間髪入れずの侵入というマナー違反を犯している癖に、なんで俺だけこんな目に。

理不尽な姉の仕打ちに悶え苦しんでいる中、急に千冬姉の雰囲気が鋭くなったのを感じる。

千冬姉の視線は、狭間に向けられていた。それも、どこか敵意を帯びた視線をだ。

 

「狭間……か。何故お前がここにいる」

 

「お久しぶりです、織斑先生。私がここにいるのは、単に私が一夏さんとお友達だからですよ」

 

「友達……、そうか」

 

煮え切らないといった表情を隠そうともせず、今度は俺に視線を向ける。

 

「一夏、来い」

 

腕ごと身体を持ち上げられ、そのままの勢いで部屋の外に出る。

 

「なんだよ、乱暴に」

 

「狭間祐一とは関わるな、命令だ」

 

にべもなくそう告げられた言葉。

あまりにも唐突で、納得なんて出来る訳がない。

 

「何だよ命令って。それに関わるなって、いくら千冬姉でもそんなの納得できるかよ」

 

「……アイツは、お前が考えているような奴じゃない」

 

「意味が分かんねぇよ、千冬姉には何が見えているんだ?」

 

思わずムッとして返してしまう。

狭間は俺と同じ境遇の男性IS操縦者であり、これから三年間を同じくして過ごす仲間だ。

さっきだって俺とセシリアの模擬戦に向けての作戦会議を開いてくれたりと、親身になってくれている狭間を否定するような言葉は、たとえ千冬姉のものとはいえど容認することは出来ない。

 

「兎に角、私の言うことに従え。いいな」

 

「まっ、待てよ千冬姉!」

 

それだけを言い残し、千冬姉は振り返ることなく去っていく。

近寄るな、というオーラが背中越しに感じられて、呼び止めることが出来なかった。

 

「何だってんだよ、くそっ……!」

 

理不尽な姉の言葉に、ただ拳を握りしめることしか出来ない自分が、情けなくて仕方がなかった。

 





実際この作品、多少の勘違いは必須だけどそれを強要しなくても話成立するんだよね。
下手にネタ考えて更新滞るより、そっちで攻めた方がいいかもね、と読者を裏切るスタンスを堂々と宣言する屑。

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