蛇は刃と翼と共に天を翔る   作:花極四季

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LoVAとイシュガルドのダブルパンチで、次回更新は絶望的だって、はっきりわかんだね(おめめぐるぐる


第九話

「ここが生徒会室だよ」

 

布仏さんに連れられて、私は離れにある生徒会室の入口前まで足を運んでいた。

 

「生徒会室や校長室もですが、どうしてこう人目に付きにくい場所にあるんでしょうね」

 

「ここに来ての第一声がそれって……まぁ、業務上の関係だと思うよ?」

 

「それは分かりますが、生徒会も校長もそのせいで遠い存在だと勘違いされている気がします。私も生徒会に所属していた身だからこそ言えるのですが、生徒の為に働く為の組織が生徒と疎遠になるなんて本末転倒じゃないですか?確かに生徒会のメンバーなら生の声を聴くのは難しくないかもしれませんが、それでも遠い存在だと思われることに変わりはありません。そんなことではいけないと私も常々頭を悩ませて粉骨砕身していたのですが……」

 

「ああ、はいはい。分かったからそろそろ行くよ」

 

以前の高校での副会長としての思い出を語っていると、背中を軽く押されてそのままの勢いで生徒会室に乗り込むことに。

立ち止まる気はなかったのですが、やはり連れてこられた事情が事情だけに少し緊張しているのでしょう。

いや、違う。きっと、端役とはいえまた生徒会に携われることが嬉しいのだ。

第二の男性操縦者、IS学園への入学、女性ばかりの環境、軍隊のような訓練――どれをとっても非日常で、充実してはいたけれど、どこか物足りなかった感じは確かにあった。

急激な日常の変化に、私自身未だに追い付けていないからこそ、生徒会という日常の残滓に惹かれている。

二度と取り戻せない日常への回帰を望む反面、理性はどこまでも現実を見据えている。

心と身体が互い違いだったという事実にさえ、今になって気付く程に自分が見えていなかったのかと思うと、情けないとしか言いようがない。

 

「あら、慌ただしい登場ね」

 

布仏さんが体重を掛けてくるものだから、たたらを踏みながら部屋に入ると言う愚を犯してしまった。

しかし、目の前に現れた――彼女からすれば私達が現れた側なんでしょうが――毅然としつつも笑みを浮かべる女性は、微笑ましいものを見るようにそう呟くだけに終わる。

 

「あはは……申し訳ありません」

 

「ユウ君がずっと動かないのがいけないんだよ?」

 

悪びれもしない布仏さんを取り敢えず背中から引き離し、背中を伸ばして目の前の女性と向き合う。

 

「初めまして、でいいかしら。私は更識楯無。二年生でこの学園の生徒会長を務めているわ」

 

「そして、私が生徒会会計の布仏虚、そこの不肖の妹の姉です」

 

――ぬるり、と這いよるような音が錯覚で聞こえた気がした・

錯覚の先に視線を向けると、この場にいなかった筈の眼鏡の女性が綺麗な礼と共に挨拶をした。

 

「お姉ちゃん、それは酷いよー」

 

「曲がりなりにも生徒会の一員であり、先輩でもある貴方がいきなり馬鹿をやらかさなければ、普通の紹介で済んだのだから自業自得よ」

 

締まりのない雰囲気に些か茫然とするも、どうにか話題を元に戻そうと咳払いで注目を集める。

 

「えっと、お初にお目にかかります。名前だけ知れ渡ってはいるでしょうが、改めて自己紹介させていただきます。狭間祐一と申します。一応、二人目の男性IS操縦者という肩書を持っていますが、実際それだけです」

 

「ええ、よろしく」

 

楯無さんと握手を交わす。

虚さんの値踏みするような視線が多少居心地悪く思えたが、新参者でしかも良い情報を持たない相手ともなればこれでも生温い方だと納得する。

 

「それにしても謙虚ね。まぁ確かに、織斑一夏君のように特別な話題性がある訳でもなければ、専用機もない訳だし、そう思ってても不思議じゃないけど」

 

「別段有名になりたいとも思ってもいませんし、彼の影に隠れるならそれはそれでいいかと」

 

「……だから、彼の補助に回っていたの?セシリア・オルコットの時や、襲撃事件のように」

 

「別に彼を矢面に立たせて隠れ蓑にするとか、そんなつもりはありませんよ。彼は望む望まざる関係なく、時の人となる存在となります。しかし彼はこの時代にまるで追い付いていない。覚悟もなければ信念もなく、ただ巻き込まれただけの一般人に毛が生えた程度の温い思考しか持ち合わせていません。だからこそ、共感できる立場の自分が、彼を支えていかなければならないんです。たとえそれが、どんなに一夏さんにとって苦しいものであろうと、逃げることが出来ない以上、立ち向かう力を与えなければなりません。それが、彼よりも大人であり、同じ目線に立てる私の役目です」

 

私の語りを、静かに三人は見守っている。

我ながら奉仕観念が強いというか、上昇志向がないと言いますか。

楯無さんも、どこか私を珍獣を見るような目で見ているのも、やはりその普通とは違う考えを当たり前に言う自分が理解できないからに違いない。

 

「自分が成り上がろうとは思わないの?」

 

「私はどこにでもいる一般人Aです。一夏さんのように知名度のある話題性がある訳でもなければ、専用機さえありません。どんなに頑張っても、彼と違って二番手でしかない私は、これからも出てくるであろう男性操縦者と同じ、その他大勢にしかなり得ません。決して一番になれないのであれば、彼を支えた者としての立場を確立した方が、まだ日の目に当たる可能性はあると思いますよ?まぁ、そんなつもりで接触したわけでもないんですけど」

 

「結局、貴方は野心があるの?ないの?」

 

「――私の夢はですね。定食屋でよくあるトンカツ定食をいつでも気兼ねなく食べられるぐらいの給料が稼げる職に就いて、平凡でも家族を大事にしてくれる女性との子供を授かり、そんな家族に見守られて老衰で逝くことなんですよ。もしその夢の妨げになるのであれば、名声なんて必要ないと思っていますし、その考えはこれからも変わることはないでしょう」

 

「……欲があるのか、ないのか分からない夢ね」

 

呆れた、というよりも毒気が抜かれたような表情で嘆息する楯無さん。

 

「欲張りだと思いますよ?何せこの中のひとつでも欠けてもいけないのですから」

 

事実、平凡というのは最も近けれど、決して手を伸ばせば容易く手に入るものではない。

仮に腕に抱けど、些細なことですり抜けていく。

私が今ここにいるということ自体が、そのすり抜けた末路であるのだから、夢はとうに破れていると言われても仕方がない。

とはいえ、そう簡単には諦めるつもりはない。

立場が変わったなら変わったなりにやるべきことをやるだけだ。

 

「取り敢えず、貴方のことは少しだけ理解出来たと思うし、話を続けましょう」

 

更識さんは手を叩き仕切り直しの合図を送り、資料を手に取る。

 

「この度貴方がここに派遣された理由は聞き及んでいるわ。けれど、それを傘に無理無茶を要求するつもりはないわ。拘束期間が明確に記されていないこともあって、一般生徒を生徒会の一存で奴隷のように利用しているという風潮が広がるのはたまったものじゃないしね」

 

「ましてや、IS学園の代表たる私達生徒会が、男性を貶める扱いをしようものなら、その流れに生徒達も乗ってしまいます。それはこちらとしても本意ではありません」

 

「予め言っておくけど、私は生徒会長でIS学園の生徒代表とはいえ、男性を見下しているとかそういうのは一切ないから。というか、そんな風潮に踊らされている人達を見下しているわね。馬鹿馬鹿しいったら」

 

「踊らされていると言うよりも、しがみついていると言った方が正しいですね。古来より続いてきた男性優位の思想からの逆転が実現したのです。その威光に縋るのも無理ないかと」

 

虚さんが溜息を吐く。

 

「やってることはハイエナそのものだけどね。適正の関係で女にも格差があるのに、あたかも男性だけが無能の烙印を押されているのを見ていると、同じ女として恥ずかしいッたらありゃしない」

 

「お嬢――会長は生徒会長だから、余計に思うところがあるんですよね~」

 

「ん?生徒会長だからとは、どう話題が繋がるのですか?」

 

「ふふーん。それはね、生徒会長は――IS学園での最強の称号でもあるからよ!」

 

楯無さんはキメ顔でそう言った。

 

「……まぁ、IS学園の頂点が弱いと面子が立ちませんからね」

 

「一部弱い部分があるのは否めませんが」

 

「あはは……」

 

「え、何その優しい目。ちょっと、虚も本音もやめて、やめてください」

 

いや、それは無理だろう。

だって、あまりにも微笑ましすぎる。

 

「ごほん!兎に角、うちはえこひいきなしのクリーンな活動をしているから、そこんところは気にしなくてオッケーよ」

 

「あ、はい。それにしても、書記二人っている意味あるんですか?」

 

「ないことはない、けど……代理なら役職無くても出来るし……」

 

「というか、副会長は不在なんですか?今更な疑問ですけど」

 

「あー……副会長はいないんだ」

 

何とも言えない表情で布仏さんが答える。

 

「はい?」

 

「あー、えっとね。生徒会長は強さの証みたいに捉えているものだから、必然的に副会長の座は自分の認めた人じゃないと駄目みたいなことを言ってて……」

 

「ああ……」

 

チラリと楯無さんの様子を窺うと、明後日の方向を向いていじけていた。

 

「なるほど、アホの子なんですね」

 

「おいこら、聞こえているぞ」

 

「聞こえるように言いましたから」

 

何というか、彼女への接し方が少しだけ分かった気がする。

 

「はい、アホの会長は置いておいて、建設的な話をしましょうか」

 

「二度も言った!泣くぞ、しまいにゃ泣くぞ!」

 

ガチで涙目になり始めたので、そろそろ弄るのはやめておきましょう。

 

「うう……なんでこんなに乱されるの……?」

 

「流石に言いすぎました。申し訳ありません」

 

「……許す。生徒会長は誰かさんと違って心が広いからね」

 

とか言いつつ、完全に根に持っていますよね。まぁ、自業自得なんですが。

 

「取り敢えず、貴方は入りたてだから、まずは基本的な事項を学んでもらう必要があるわ。難しいことは何にもないから、一週間あれば慣れるでしょうね」

 

「そうですか。これでも以前は生徒会に身を寄せていましたので、多少は戦力になるとは思いますよ?」

 

「あらそう?ならそれなりに頼らせてもらうから、そのつもりでよろしく」

 

「お手柔らかにお願いしますよ?」

 

「はっはっは。駄目よ」

 

「そんな……この世に神はいないのですか!?」

 

「神に縋るな!大地を踏みしめ、足掻きもがくからこそ人は美しいのだ!家畜に成り下がりたくなりたくば、己が意思で未来を掴み取れ!」

 

「それは強者の理屈です!貴方の理屈では、弱き者には生きる価値がないと言っているようなものではないですか!」

 

「弱者が淘汰されるのではない、抗うことを諦めたものが消え行くだけに過ぎない。泥を啜っても、草を食んでも生きることを諦めなければ、それは確かな未来への一歩になる!」

 

「人は理屈で生きているのではない!」

 

「理に沿わなければそれこそ弱者は食い物にされるだけだ!」

 

「……なにやってんの?」

 

楯無さんと私の世界に、冷めた声で布仏さんが介入してくる。

 

「何って……ノリでなんとなく」

 

「私も」

 

「あ、そう……。まぁ、仲悪いよりはいいかもだけど」

 

今度は布仏姉妹に呆れた視線を私達二人が受ける羽目になった。

 

「止めてください布仏さん。その視線は私に効く」

 

「情けないわね、これぐらい私は慣れっこよ」

 

「寧ろ会長が一番情けないです」

 

「何故!?」

 

そんなノリが終始続き、良好な雰囲気のまま初の邂逅は終わりを告げた。

 

 

 

 

 

「……ふう、道化を演じるのも楽じゃないわね」

 

狭間祐一が本音と共に退室したのを見送り、デスクチェアに身体を預けながら天を仰ぐ。

 

「お疲れ様です」

 

虚が淹れてくれた緑茶の渋みに舌鼓を打ちながら、資料を読みふける。

その中身は、狭間の経歴が載せられた資料だ。

 

「直接話してみて感じたのは、掴みどころがないって所かしら。意図的か偶然か、初の対面があんな滑稽なスタートだったせいで、私の中にあった警戒心が確かに一瞬揺らいだわ。その後の会話にしても、人の好さそうな笑顔とどこまでも自然体な行動。何も知らない人間なら、一瞬で籠絡されそうね」

 

「事実、彼は年齢だけで言えば三年生です。一人だけの男性という相乗効果も相まって、本来なら打ち解けるのに時間が掛かると思っていたのですが……予想を上回る速度で人心掌握をしましたね」

 

「それが本来の人柄が成すものだとするなら、大歓迎なんだけどね」

 

「あの子の――本音の話を聞く限りでは、彼に悪意と呼べるものは感じられないと」

 

「だけど、あの千冬さんが未だに警戒を解いていない。どちらも信用したいけど、どちらも信じるに値するのよね」

 

「本音にはドライブがありますが、織斑先生のは完全に直感じゃないですか」

 

「あのね、直感は馬鹿に出来ないのよ?ブリュンヒルデになれたのは、あの人が単純に強かったからだけでなくて、運とか第六感とかが優れていたってことも間違いなく要因になっているわ」

 

「オカルト的な要素も含めて、最強であると?」

 

「ドライブだって、知らない人からすればオカルトよ。人間の潜在能力、という意味ではドライブもまた、シックスセンスみたいなものじゃない?」

 

「……そういえば、ドライブについてあまり考察したことはありませんでしたね」

 

「そもそも私達が勝手にそう呼んでいるだけで、この力が一体何なのかはっきりしていないものね」

 

「と言うよりも、更識の歴史を遡るにしても、あまりにも膨大過ぎるせいで時間が足りなさすぎます」

 

「そうなのよねぇ……」

 

更識の起源は、かなり深い。

私が十七代目当主だと言う事実だけでもそれが理解できるだろう。

たかだか高校二年程度の人生しか歩んでいない小娘では、周囲の協力があろうともそうそうこなせるものではない。

そもそも、暗部へのカウンターとして存在している更識は、信頼出来る人物以外懐に置くことはない。暗殺やスパイが介入する余地を防ぐためである。

故に、自分の手足のように使える人材は限られている。それだけの事に人材を費やせる訳もない以上、調査が頓挫するのは必然だった。

 

「初代当主なら間違いなく理解していたと思うけど、今代に至るまで分かりやすい形で纏められていなかったのは、初代以外まともに理解できていなかったか、或いは――」

 

「――確信に触れる内容に触れさせない為に、敢えてしなかったか、ですね」

 

いつの間にか空になっていた湯呑に新たにお茶を注ぎながら、虚が私の考えていたことを告げた。

 

「明らかに異常な力ですもの。それぐらい警戒していても不思議じゃないわね」

 

「そうですね。狭間さんも私のドライブ能力に多少なり驚いていたようですし、彼自身からもディスカバーコールが観測された様子もありませんし、ドライブに関しては全くの無理解だと確定してよろしいかと」

 

「それでも、色々疑念は残るけどね。それは追々分かることでしょう、私達もいることだしね」

 

「そうですね、あの子だけに負担を強いるのも流石に限界でしょうし」

 

「それにしても――」

 

ふと、彼が語った夢を思い返す。

どこまでも質素で、どこまでも欲にまみれた夢。

矛盾した理想はどこまでも人間のエゴを象徴しており、故に好感が持てる。

相手の目を窺って綺麗事ばかり吐く権力者と比べて、欲望まみれだろうが素直な人間な方がまだ信用できる。

とは言え、それも彼の言葉が真実であることが前提になるので、結局の所私達の裁量次第なのだが。

でも――私も、そんな生活に憧れを抱いたことはある。

慎ましくも幸福な生活。それは、一般人としての人生に他ならない。

暗闇を常に見続けて生涯を終えなければならない私にとって、その淡い光はどこまでも眩しく映った。

嫉妬も羨望もない。どこまでも平坦な感情だけど、ふと脳裏を過ることがあるのは、振り切れていない証拠。

更識楯無に、人並みの幸福は不要。どこまでも深淵に身を委ねる覚悟だけさえあればいい。

 

「どうしました?」

 

「何でもないわ。彼の夢があまりに普通なものだったから、ね」

 

虚の怪訝な表情を振り切るように、話題を逸らす。

 

「定食屋のトンカツって、だいたい千円ぐらいですよね。それを気兼ねなくとなると、中流階級より少し裕福ぐらいでしょうか」

 

「真面目に考えなくてもいい。――ま、兎にも角にもこれから次第ってところでしょうね」

 

「そうですね」

 

「鬼も蛇も出て欲しくないのが本音だけど……真実に至るのは時間の問題ね。せいぜい道化芝居を楽しませてもらうわ」

 

私相手に物怖じしないのは、逆に都合がいい。

距離が近ければ近いほど、本質が見えやすくなるのだから、利用しない手はない。

皮算用を立てていると、虚が読めない表情でぽつりと呟く。

 

「……でも、あの時の涙目はガチでしたよね」

 

「…………」

 

「おい、無視するな」

 

「だ、だって!私に対してあんな発言する人なんて今までいなかったんだからしょうがないじゃない!」

 

「逆切れは墓穴掘るだけですよ」

 

どこまでも冷たい虚の視線に耐え切れず、机に突っ伏す。

 

「う、うう……思い出さないようにしていたのに……。絶対に暴いてやるんだから、覚えていなさいよ狭間祐一――!!」

 

「こんな下らない私怨で絡まれる狭間さんが哀れですね……」

 

私の新たな声を上げた決意表明に、虚の言葉はかき消された。かき消されたったらかき消された。

 





Q:会長がポンコツ可愛い。
A:あの人絶対メンタル打たれ弱いゾ。

Q:会長のキャラ、コレガワカラナイ。
A:え、演技だから……(震え声)

Q:ゆで卵で例えない狭間なんて、狭間じゃない!
A:ゆで卵で例えたら、真面目なシーンに(笑)がついちゃう。

Q:作者は二次設定でキャラに影を持たせるのが好きなの?
A:大好きです。というか、まだエンジンさえ吹かせていません。

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