多重世界の特命係   作:ミッツ

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今エピソードにおいて、SAO側の設定に関し年代など幾つか変更点があります。
あくまでこの作品は相棒メインなのでご了承下さい。

あと、登場人物等に違和感がありましたら、感想欄などでご指摘ください。


プレイデータ 2

 ところ変わって警視庁サイバー犯罪対策課の執務室にて、専門捜査官 岩月彬(いわつき あきら)巡査部長は不機嫌な表情を隠そうともせず突然現れた訪問者2人を胡散臭げに見ている。

 

「それで?特命係は今日はどんな厄介事を持ち込んで来たんですか?」

 

「いや、別に厄介事を持ってきた訳じゃ無いですよ。ただ、ちょっと岩月さんに聞きたいことがあってですね。」

 

「特命係が話に聞きたいって言ってくる時点で厄介事じゃないですか。」

 

 そう言って岩月は小さくため息をつく。

 それを了承と判断し、杉下は用件を切り出す。

 

「SAO事件について教えて頂きたいのですが。」 

 

「よりによってそれですか…」

 

 岩月の目が細くなり、執務室には剣呑な雰囲気が立ち込める。

 

「岩月さんなら、あの事件にも何かしら知っているのではと思ったものでして。」

 

「まあ、この部署で働いている以上、無関係では要られませんでしたよ。それに、僕自身あやうく巻き込まれるところでしたから。」

 

「…もしや岩月さんも」

 

「予約してました。けど、緊急の仕事が入ったんでゲーム内に閉じ込められずに済んだんです。あれっきりですよ、残業になって良かったと思ったのは。」

 

「それはまた、幸いでしたね。」 

 

「でも、其処からが本当の地獄でしたよ。毎日毎日ナーヴギアを装着した被害者の元を訪れて調査するんですけど、時折ブツッて音がするんです。ゲーム内で死んだプレイヤーの脳が焼き切られる音でした。」

 

 そう語る岩月の顔には影が落ちる。その表情は一人の警察官としての岩月の無念が伝わってくるものだった。彼は間違いなく地獄を見たのだろう。

 

「正直、あの時は本気で警察を辞めようと思いましたよ。こんな時なにも出来ないじゃ、警察にいる意味なんてないって。」

 

「あの事件において警察は完全に無力でしたからねぇ。家族が亡くなった事を遺族に伝えることしか出来ませんでしたから。」

 

「だから事件が解決した時は喜び半分、無力感半分って感じでしたね。そんな感じたったんで特命にはあまり有益な情報は話せないと思いますが。」

 

「では、一つだけ。これを見ていただきたいのですが。」

 

 そう言って杉下は笹本の家から回収したファミスフィアを岩月に手渡す。

 

「これは、アミュスフィアですか?」

 

「ご存知でしたか。」

 

「まあ、僕も家に1台持ってますし。」

 

「では、これを装着した人間の意識をゲーム内に閉じこめ、その間に殺害することは…」

 

「不可能です。」

 

 即答だった。反論の余地もなく岩月は杉下の推理を両断する。これには杉下も思わず閉口する。

 

「理由を教えていただけませんか?」

 

「SAO事件後、ナーヴギアは全て回収され、生産も中止されました。その後継機として作られたアミュスフィアには事件の反省を踏まえ、徹底的に安全性を追及すると共にログアウト機能が統一され仮想空間内に精神が閉じこめられない様に工夫がされています。更に外部から刺激を受けた場合すぐにプレイヤーに異常を知らせる機能を着けることが法律で義務化されています。それらが正常に作動するかチェックをクリアしたものしか市場には出回らないのでプレイヤーがゲーム内に閉じこめられる事は現状ではあり得ません。」

 

「でも例えば改造されてそういった安全機能が解除されていたら…」

 

 たまらずカイトが反論するが岩月はそれを鼻で笑う。

 

「メーカーもそれを見越して対策をとってますよ。もし改造を施したとしても調べればすぐに解ると思いますけど?」

 

 岩月の説明にカイトぐうの音も出せず黙り込む。こうも分かり易く説明された以上、当初の考えを改めなければならないのでは、とカイトが思い始めていると、その横から杉下が岩月に詰め寄る。

 

「ではもし、製品の安全チェック前、例えば試作品などが会社の人間によって持ち出されたとしたらどうでしょう?」

 

「それなら確かにゲーム内に閉じこめられる様に改造出来るかもしれませんけど…まさか、制作会社を調べに行く気ですか!」

 

「そうする価値は十分にあると思います。」

 

 そう言って杉下は悪戯っぽく笑う。それを見た岩月とカイトは、そこはかとなく嫌な予感を感じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 特命係に岩月を加えた3人はその日の内にアミュスフィアを制作、販売をしている『レクト』の本社ビルを訪れていた。

 

「てか、良かったんですか岩月さん?俺達についてきたりして。」

 

「別に暇でしたし、貴方達を放っておくと先方にどんな迷惑が掛かるか分かったものじゃないですから。監視の意味も込めて付いていかせてもらいます。」

 

「はあ…」

 

 いまいち納得出来ない点もあるがカイト達も前科が有るため強く言えず、結局岩月を連れていく事になってしまった。

 とはいえ、納得出来ずにいるのはカイトだけであり、杉下は初めから岩月が付いてくる事に関しては特に思うことはない。

 

 身分を明かし、開発部門の人間に用件があることを伝えると杉下達はすんなりとオフィス内に入ることが出来た。

 案内係に連れられ社内を進んでいくと、やがて開発部署と表札が掲げられた、階までたどり着いた。

 その階全てのフロアが開発部門専用に使われていると案内係に説明され、カイトが驚いていると白衣を着た研究員風の男性が3人の元へ歩み寄ってくる。

 

「いやいや初めまして。ここの開発部長をしています、松永です。」

 

「どうも初めまして。警視庁特命係の杉下です。」

 

「同じく、甲斐亨です。」

 

「ご丁寧にどうも。ん?そちらの方はもしかして…」

 

 岩月の方へ目を移した松永は少し驚いた様な表情を見せ、岩月は松永に微笑みかける。それは普段の岩月を知る特命係の2人からすれば少々珍しい光景だった。

 

「お久しぶりです、松永さん。その節はどうも。」

 

「ああ!岩月君じゃないか。久しぶり!どうしたんだい今日は!」

 

「えーと、今日は此方の2人の付き添いの様なものです。」

 

「そうか、君は警察官だったね。どうも君が警察官と言うのがピンと来なくてね。今からでも此方に来る気は無いのかい?」

 

「すいません。結構いまの職場も居心地が良いもんで。」

 

「そうか…まあ、何かあったら相談してくれ。会社には私から口利きするから。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

 苦笑いを浮かべつつ岩月が謝意を示す。その様子を見ていた杉下が横から口を挟む。

 

「失礼、岩月さんと松永さんはお知り合いのようですが?」

 

「ああ、はい。岩月君とはSAO事件の後処理の時に一緒に。本当に良い人材ですよ。前も1回スカウトしたんですが袖にされてしまいましてね。」

 

「買いかぶり過ぎですよ。本職の人に比べたら…」

 

 謙遜する岩月だが悪い気はしてないらしく口元に笑みが浮かんでいる。

 

「おっと、肝心の用件を忘れてました。立ち話も何ですのでどうぞこちらへ。」

 

 そう松永は促し、杉下達をフロアの奥へと案内する。

 休憩室と記され他のフロアから区切られた場所まで移動すると、3人は椅子に腰を下ろし松永に対面する。

 

「えーと、じゃあ改めまして。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

「実は見て頂きたいものがあるのですが。」

 

 そう言って杉下は岩月に見せた時と同じように袋に入れられたファミスフィアを松永に渡す。

 

「このアミュスフィアが何か?」

 

「これはとある事件現場で発見されたものなのですが、どこか不審な点はないでしょうか?」

 

「そういわれましても、ん?ちょっと待ってください。」

 

 戸惑いがちにファミスフィアを手渡された松永だったがアミュスフィアを手にした瞬間、目付きが変わる。

 

「そんなまさか…これはライトモデルじゃないですか!」

 

「ライトモデル?」

 

「ええ。デザインは従来を踏襲しつつ、軽量化して装着時の負担を最小限に抑えた我が社の新作です。来月正式に発表する予定でまだ外部には秘匿されているこれがなんで…」

 

 松永の証言を耳にし、3人の警察官の間に緊張感が走る。

 

 外部に秘匿されている新製品なら、まだ製品審査受けておらずセーフティ機能も未実装の可能性がある。

 

 松永の証言によって図らずも杉下の推理が現実味を帯始め、殺人の疑いがより強固になった。

 

「松永さん、もしこのライトモデルを持ち出せるとしたら、どういった人なら可能でしょうか?それと、ライトモデルの存在を知っている社員はどの程度いたのでしょうか?」

 

「そ、そうですね。役員以上の社員なら全員知っていると思います。ただ、持ち出すとなると、保管室の暗証番号を知っていないと出来ないので開発部の人間か専務以上の人間でなくては…」

 

「ありがとうございます。松永さん、今のお話が本当なら非常に重要な証言になります。どうかこの話は他言無用でお願いします。」

 

「は、はい。分かりました。」

 

 杉下の剣幕に押され、松永は首を縦に振って同意を示す。

 すると丁度良いタイミングで若い研究員が休憩室に顔を覗かせる。

 

「部長、まもなくテストプレイが終了します。」

 

「もうそんな時間か。分かったすぐ行く。君は先に行っててくれ。」

 

 若い研究員を下がらせた松永は3人に頭を垂れる。

 

「申し訳ありません、ちょっとまだ仕事が残っていますので今日はここまででよろしいでしょうか?」

 

「いえいえ、こちらこそ忙しい時にすいません。じゃあ杉下さん、今日はこの辺で…」

 

 カイトは重要な証言を得たことで、1度事件背景を洗い流す良い機会だと思い、杉下達と共に警視庁に帰ろうと考えていた。

 だが、杉下は微塵もそんな事は考えていなかった。

 

「もしよろしければ、松永さん達の仕事場を少し見せて頂けないでしょうか?」

 

「……はい?」

 

 杉下の申し出に困惑する松永を横目見つつ、カイトと岩月は揃って溜め息をつくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 研究室に着くと部屋には白衣姿の男性と女性が2人ずつと、私服姿の10代と思われる少女がベッドを囲んでいた。

 ベッドの上にはこれまた10代と思われる少年が体を起こし、頭に装着したアミュスフィアを取り外している。

 彼に真っ先に声を掛けたのは私服の少女だった。

 

「お疲れ様、キリト君。どう、調子は?」

 

「やっぱり徒手格闘アクションは俺には難しいな。剣の方が俺にはあってるよ。」

 

「そんな事言って、初見でコンボ使ってたでしょ。」

 

「そこは今までの経験ってやつだよ。ところで松永さんの後ろにいる人は…」

 

 キリトと呼ばれる少年の一言で他の5人は漸く松永達が部屋にいることに気づく。

 

「いやぁ、みんな、お疲れ様。こちらはある事件で捜査協力を求めてきた警視庁の刑事の杉下さんと甲斐さん、それと岩月君だよ。少しみんなの仕事場を見学させて欲しいんだそうだ。」

 

 松永から説明を受け、研究員達は動揺した様子でぎこちなく頭を下げる。そんな中、研究員の中で背の高い男性が杉下に近づき握手を求めてくる。

 

「初めまして。ソフト開発の開発リーダーを勤めさせてもらってる岡部慎吾です。あちらの眼鏡を掛けている男性がグラフィック担当の柴田政夫研究員。女性で眼鏡を掛けているのが記録管理を担当する浜中澄子研究員。銀髪の彼女が戦闘システムを担当するアンナ・ペリエ研究員です。」

 

 岡部の紹介を受け、杉下達も返礼をする。

 

「どうも初めまして。警視庁特命係の杉下です。ところで、先程から気になっていたのですが、そちらの御二人はいったい?」

 

 杉下が所在なさげにしている少年と少女に目を向けつつ問いかけると、松永がそれに返答する。

 

「ああ、女性の方はレクトの元CEOの娘さんの結城明日奈さん。そして彼は明日奈さんの友人の桐ケ谷和人君です。本日は桐ケ谷君にテストプレイヤーとして明日奈さんの付き添いのもと来てもらったんです。」

 

「テストプレイヤー?」

 

 聞きなれない単語にカイトが疑問符を浮かべていると、横にいた岩月が説明をする。

 

「テストプレイヤーっていうのは、ゲームに問題は無いか、難易度は適当か、そして何より面白いかを実際にプレイして確める人の事です。基本的には会社の人間やゲーム界隈でも名の知れたプレイヤーが選ばれるんですけど、特に優秀なプレイヤーの場合は企業から報酬を貰ってプレイする事もあるそうですよ。」

 

 岩月の説明を受けカイトがテストパイロットの様なものかと感心していると、松永がやや興奮した様子で話しかけてくる。

 

「そうなんですよ。しかも、桐ケ谷君はあのソード・アートオンラインからの生還者で、ゲームの攻略に大きく貢献し事件の解決に導いた英雄として知られているんです。」

 

「やめて下さいよ松永さん。ゲームの攻略は俺1人じゃなくてみんなの力で出来たようなものなんですから。正直、英雄なんて呼ばれるのもあんまり…」

 

 そう松永の言葉を否定する和人少年の前に杉下が素早く身を寄せる。

 

「なるほど君はSAO事件の生還者なのですね!出来ればその時の話を聞かせて頂けないでしょうか?詳しく、正確に!」

 

 中年男性から熱烈とも言える申し出を受け和人、その隣にいる明日奈が若干引いてしまったのは恐らく無理からぬ事だろう。

 

 

 


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