断罪天使   作:宜士 洸太郎

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ちょっと進展?
見直しがあまいですね、ちょくちょく修正していきます。


第二話 後

「お待たせしました。」

 

着替え終わったクザンちゃんが戻ってきた。

恐る恐るその姿を確認すると、無事寝巻を着用してくれているようだった。

安心と共に、あまりに似合いすぎている寝巻姿を観察してしまう。

何でも屋の用意した猫耳パーカーは控えめな体のラインがハッキリとではないが少しだけ分かるようで、丁度良さそうに見える。

風呂場では気にならなかったが顔立ちは整っており、格好も相まって驚くほど可愛い。

見ていて気になったのは、被った猫耳パーカーの隙間から覗く眉の位置で切りそろえられた黒髪だ。

そんな姿を以前どこかで見たような…

 

「そうか、君はあの路地裏で会った…」

 

あの時は帽子を被っていたのでよく顔が見えなかったが、今ようやく一致した。

と、同時にあの時起きた出来事が頭の中に流れ込んだ。

死のうとして、人を殺そうとして、惨劇を見て、逃げ出して、この子を見て、最後は気絶した?

思い出せばバカな話だ。

だからといってその一言で片づけていい事じゃない。

あれはいつの事なのだろう、体感的にはつい先ほどの出来事に思える。

 

「改めて、クザンと申します。

先日父様と共に地上へ降り立ちました。

右も左も分からないような新米ですのが、何卒宜しくお願いします。」

 

考え事をしていると彼女が頭を下げて自己紹介をし始めた。

そうだ、今は目の前の課題を片づけないといけない。

気持ちを切り替えて自己紹介を返す。

 

「えーと、僕の名前は亜玖楚 玖郎(あくそ くろう)。

というか僕の事をあくさま?みたいに呼んでたけど、前に自己紹介してたかな?」

 

「いえ、お名前を聞くのは初めてになります。

けれど、やはり悪様だったのですね。」

 

やはりって何なんだ。

天使だの地上だのよく分からない単語を口にするわ、妙に常識が無いわ、見ず知らずの人の家に居候しようとするわ。

僕の推測では天使系電波家出少女という新ジャンルに彼女は属するのだが、話に父が出てくる辺りよく分からない。

家出ではなく夜逃げなのか?

 

「えーと、いろいろと聞きたい事があるんだけど、質問させてもらっていいかな?」

 

「はい!遠慮なくどうぞ!」

 

立ったままの彼女に座る事を促して、コタツにお互い足を突っ込んで対峙する。

居候については後回しとして、とりあえずは彼女の事を知ろう。

 

「君はこの町の人じゃなのかい?」

 

「いえ、私は付近の天界から先日、地上に降りてきました。」

 

「……保護者の方は今どこにいるんだい。」

 

「父様でしたら、「久々の地上だーーー」とはしゃいで、どこかへ行かれました。

申し訳ありませんが、私はまだ天使としての力が弱いので、近く居ないと連絡が取れないのです。」

 

「クザンっていうのは下の名前だよね、苗字は何て言うの?」

 

「姓はありません。

父様からクザンという名のみを頂きました。」

 

「それじゃあ、父様って人の名前は?」

 

「えーと……そういえば聞いた事がありません……。

今度聞いてみますね!」

 

「ちなみに君は今いくつなの?」

 

「すみません。それが、自分でも分からないのです。

何分、父様に拾われるまでは言葉もろくにわかりませんでしたので。」

 

「父様って人は君の父親じゃないのかい?」

 

「父親?とは父様の事では無いのですか?」

 

何という事だ。

僕の質問が悪いのだろうか、これだけ聞いて全く情報が増えていない。

しかし、彼女の答えは明らかにおかしいのに、嘘を吐いているようには全く見えない。

目を合わせなかったり、汗をだらだら垂らしながらの言葉であれば早急にご退場願うのだが。

まさか天使だなんて事は現実的に有り得ないだろうし、これが本物の電波なのか。

 

「えーと、僕には君の言っている事がどうにも理解できないんだ。

天使だとか、地上だとか。

電波って分かるかな?僕には君が少しばかり変に見えるんだよ。」

 

実のところは少しなんてもんじゃないが、こういうところは濁して置きたくなるのが僕という人間だ。

 

「そうですか。いや、それもそのはず。

天使や悪魔は地上ではめずらしいとの事。

証拠を見せていないのですから当然でしたね。」

 

と、言うや否や立ち上がるクザンちゃん。

何をするのかと疑わしい眼差しを向けていると、不意に空気が変わった。

具体的には屋内なのに風が吹き始めた。

扉を閉め忘れた……訳が無い、窓も閉まっている。

両手の指を組んで祈るようなポーズを取る彼女を茫然と見ていると、突然彼女が光り始めた。

 

「え?……え!?」

 

光度は弱く眩しいと思うほどではない、がそんな事はどうでもいい、彼女はどうやって光っているんだ?

仕掛けを探そうと辺りを見渡しながら更に感じた違和感、少しずつ彼女の顔の位置が高くなっている。

顔だけではなく体全体が、どうやら浮き始めている。

一体何が起きているんだ。

何の仕掛けが働いているんだ。

 

「んっ!」

 

彼女は瞼を強く閉じ、小さな呻きをあげた。

ぱあっっと彼女の頭の上で光が弾けたと思うと、付けていた猫耳フードが外れ、長い黒髪が跳ね上がる。

そして、彼女の頭の上に透明でいて何故かはっきりと見える輪っかのようなものが現れた。

頭の中は立て続けに起こる不思議で完全に混乱している。

確かにわかるのは目の前の女の子が絵画などでよく見る「天使」のような姿をしている事だ。

 

僕はそんな彼女の姿を呆気にとられながら見上げて数秒程してからだろうか、輝きが弱くなり一メートル程浮いていた彼女の体はゆっくりと降り、着地した。

彼女は呼吸を整えるように深呼吸をして、

 

「どうでしょう?」

 

と尋ねてきた。

 

「いや、どうでしょうと言われましても……。」

 

どう答えるべきなのだろう。

普通の人間にあんな事は出来ない。

まして手品師であろうと、こんな何の仕掛けも無さそうな部屋で、光り輝きながら浮く事が出来るのだろうか。

 

「なんてこった、て感じだよ。

僕は君の天使だっていう主張を否定できない。」

 

かといって肯定も出来ない。

本質的に天使をというもの信じるためには、まだ情報が少なすぎる。

けれど、彼女が得体のしれない存在だという事だけはよくわかった。

 

「そうですか!やはり天使に見えましたよね。」

 

「その言葉でいっきには信用に薄れてしまったのだけれど。

今君は何をしたんだい?」

 

「光輝きながら浮遊して頭上に輪を作ったのですが、見てわかりませんでしたか?」

 

ついつい頭に片手で支えてしまう。

僕が聞きたいのはその行為に何か意味があったのではないかという事なんだが。

 

「祈りをささげたとかそういうんじゃないのかい。」

 

「はて、祈りですか?

何故そのような事を?」

 

これは何というか、話が進展する気配が無いな。

何でそんな事出来るのか聞いたところで、その実手品であろうと天使の力と言われるのがオチだろう。

とりあえず彼女の正体は得体の知れない者という事で置いておこう。

まだ大丈夫、僕は昔から順応の速さには定評がある方だ。

 

「まあそれはもういいや、ちょっと質問を考えるから待ってくれるかい。」

 

「はい、不満の無いようお願いします。」

 

さて、少し考えよう。

ここまでの質問で分かった事はあまり無い。

そんな不思議ちゃんの居候など、良識のある人間であればまず受け入れないだろう。

しかし、久しく活動を停止していた好奇心のようなものが僕の心を動かしていた。

何をどう聞くのが正しいんだ?

彼女自身の事はこれ以上彼女に聞いても仕方ない。

となると、後は天使の事と居候の事だろうか。

……決めた。

 

「君がこの町に来た目的と、僕の家を居候先に選んだ理由があるなら教えてほしい。」

 

「はい。

一つ目ですが、私たちは天使としての使命、正義を執行するために地上へ降りてきました。」

 

「正義?」

 

「はい。

天使は正義を執行する事が存在理由です。

内容についてはまだ話す事が出来ないのですが、いずれ話せるかと思います。」

 

正義か、これまたありきたりで曖昧な回答だ。

重要な事を伏せるあたり、考えてないのか本当に話せないのか。

というかこれは質問が悪かったな。

僕が彼女は天使であるという事認めないからには、この質問は意味を持ちそうに無い。

 

「そして、悪様を選んだ理由ですが、三つあります。」

 

意外だった。

こっちの理由は無いだろうなあと考えていたのだけれど。

誰でもいいわけでは無いと聞くと、なんだか気分が良い。

 

「初めて会ったときあなたは自分を悪人だと仰られました。」

それが第一の理由になります。」

 

確かにそんな事を言った気がする。

あの時は薬のせいで変になってたのもあるけど、今聞かれても善人だなんて答えはあり得ないな。

しかし、そうであれば少し聞きたい事がある。

 

「正義を執行するのが目的なんだよね。

じゃあ、善い人の方がいろいろと楽だと思うんだけど。」

 

「父様曰く、「自分を善人だなんていう奴は信用出来ない」だそうで。」

 

確かに、全くの同感である。

自分を善人だと口にする人間にろくな奴はいない。

 

「単純に善人と組めない理由があるのですが、それは別の話になってしまうので。

二つ目の理由ですが、善悪の判断をするため「善性と悪性」を測らせて頂きました。」

 

「何だいそれ?

善悪の判定基準とでも言うのかい。」

 

「お察しの通り、私は未だ未熟ですが父様の協力を得られれば、その人の善悪性をある程度判断できます。

言葉と悪性から、あなた様を少しは信用の出来る悪人であると判断しました。」

 

善悪性とやらが本当なのかはいいとして、なんとも不名誉な称号だ。

というか、それで僕を悪様と呼んでいるのか。

 

「じゃあ三つめは?」

 

僕の善性や悪性とやらがどの程度なのかは知らないが、ここまではそこらじゅうの人間が当てはまりな気がする。

何か特別な理由は無いのだろうか。

 

「最後は父様の指名です。

「こいつは面白いからいろいろと学ぶにはいいぞ、悪を学んで正義を知れ。」との事です。」

 

父様さんは僕の何を知っているんだろう。

でも、この言葉はすごく嬉しかった。

褒められているわけじゃないが、僕個人を選んでくれているようで、僕に意味があるようで。

 

「以上が質問に対する答えになります。

ほかには何かありますか。」

 

すっかり気を良くしている僕は居候の件について大分肯定的になっていた。

聞いたところ父様さんは知り合いのようだし、この子を預かる心配も少ないだろうし。

 

「ありがとう。

そうだな、居候の期間と、僕のメリットがあれば教えてくれるかい。」

 

「期間は確定ではありませんが、父様が一月程で別の町に行くと。

メリットは私の出来る事であれば何でもご奉仕致します。

一応、炊事洗濯では学びました!」

 

何でも奉仕と言う言葉で揺れる男心ではあったが、僕に卑猥な事をする度胸は無いのであしからず。

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から、僕はこの居候をOKした。

金銭的な問題も無いし、父も知り合いという事でデメリットもあまり無いだろうし、彼女の正体も知りたい。

まあ一番の理由は父様さんの言葉だった。

 

ちなみに、父様とやらは「こいつは絶対に居候をOKする。」とも言っていたらしく、クザンちゃんも安心して僕の質問に答えていたらしい。

そんな僕を知っている父様は本当に誰なんだろうか。

早く会いたいが彼の消息は不明である。




週一で上げれればとか思ってたけど、そう簡単にはいかないですね。
慣れるまで二週に一回とかの更新になりそうです。

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