断罪天使   作:宜士 洸太郎

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初投稿です。
拙い文章で読みにくいと思います。
序章のような部分なので何も物語が進展しませんが、試しで書いている感じなので、こりゃ駄目だって所をご指摘頂けると嬉しいです。


第一話

誰でもよかった。

誰でもいいから殺して、自分も死のうと思っていた。

死ぬ理由は何も無く、何も無いから死にたかった。

殺す理由は明確で、とにかく一人は嫌だった。

 

そう思い立ったのは正午過ぎ、何も無く過ぎる時間に嫌気が刺し、それを実行するために 、ショップピングモールに足を向けた。

寝不足と薬物で高揚したテンションは、今までになくハイなっている。懐に隠した包丁から伝わる無機質な冷たさも気分を高揚させる要因になっていた。

 

今から僕は人を殺すんだ。

そう思うと、笑みを抑えきれない、

鼓動がうるさく、どうしようもないくらいに気分がいい。

市街地へと繋がる細い裏路地に着く。

不安などみじんも無く、期待だけが心を支配している。

 

少しずつ足取りが速くなる。

裏路地に人影はなく、誰も僕を見てはいない。

けれどもうすぐ、誰もが恐怖する存在になるだろう。

路地を抜ける手前、突然小さな人影が目の前に現れた。

足を止めようとしたけれど間に合わず、勢い余って小さな影と衝突してしまう。

 

「いっっ」

「きゃっ」

 

だらし無く尻餅をついてしまった。結構痛い。

すぐ立ち上がり、同じく尻餅をつかせてしまった、おそらく少女であろう存在に手を差し伸べる。

 

「ごごごめん、急いでて、止まれなくて。大丈夫?」

「いえ、こちらは平気です。そちら様こそお怪我はありませんか?」

 

僕の手を取り少女は立ち上がる。その姿を、ついまじまじと見つめてしまった。

これを聞いて僕の趣味がそういうものだと勘違いはして欲しく無い。この少女を見たら10人中、もちろん10人は僕と同じように観察するはずだ。ともかく不思議だったから。

 

特に目立つのは150cmほどの少女の背を裕に超す、細長い包みを背居っていることだろう。

服装も普通とは言い難く、だぼだぼの茶色のジャケットに紺のスカート、首には引きずってしまいそうなほど長く赤黒いマフラーを巻いている。深めに帽子を被っていて、よく顔は見えないが、綺麗な黒髪が少し覗いている。そして、何故か靴を履いておらず、少し汚れた素足が目立っていた。

 

「あの……」

「っ!なななんだい?」

 

少女が不意に話しかけてくる。

不審に思われただろうか。無理もない、初対面の男性に少しの間とはいえ凝視されたら誰でも怯えてしまうだろう。

 

「お兄さんは良い人ですか?」

「へっ?」

「この街には善人が多いと父から教えられました。あなたはどちらでしょうか。」

「えーと……」

 

物怖じせずそんな質問をしてくる。

どちらと言うのは、善人か悪人かという事だろうか。

予想外な出来事だが、気分に任せ直ぐに答える。

 

「残念ながら、僕はね!悪ーーい人間だよ。君とぶつかる前まで、普通の人なら考えないような悪ーーい計画を実行しようとしているんだ。」

 

喋りも内容も胡散臭いが、嘘では無い。

これを聞いた少女の反応を愉しもうとしたのだが、

 

「そうでしたか。それは良かった。それでは。」

「え、あっ、それじゃあ。」

 

これと言って特別な反応も示さず、すーっと横を通り過ぎ少女は路地裏に消えていく。

少しくらい驚いてくれてもいいじゃないか、と一瞬思ったが、こんな変人の相手をするほどの暇人はなかなかいないだろう。

彼女の対応こそ正解なのだ。

彼女で目的を果たそうかとも考えたが、流石に若すぎるし、どうせなら人目に付きたい。

今の出来事は忘れよう、気分を戻してショッピングモールへと向かう。

 

妙に静かだと、ここへ来てそのような印象を受けたのは初めてだった。

この街一番の大きさと品揃えを提供する最大手のチェーン店舗、それも休日なのに周囲に人の気配が無い。

もしかして大物有名人でも来ていて、全ての人が中に入っているのだろうか。

もしそうなら、それは幸運だ。

そんな中で事件を起こせば、話題になる事間違い無しだろう。

どうせ死ぬなら、生きた意味を残したい。

そうだな、その有名人をターゲットにするのも、悪くないな。

そんな事を考えながら、ショッピングモールの大きな扉を押し開けながら、中に足を踏み入れる。

 

最初はよく分からなかった。

何故だか内部の灯りは点々としており、少し暗かったからだろう。

何事かと気に留めながらも進んでいると、ふと足につま先に何かが触れた。

初めはマネキンの頭かと思った。

それは涙を流し、眉は吊り上がり、目と口を大きく開かれていて、現実の生活では決して見ることの無い、芸術化が創る作品のような表情をしていたから。

悪趣味な物に少し驚き、数歩後ずさる。

すると、マネキンは僕に首の断面を見せるように転がる。

その首は、グロテスクな物に耐性の無い僕の気分、というより精神を削り取るに十分なほど精巧に造られていた。

不安になり辺りを見渡すと、闇に目が慣れて来たからだろうか、周りの状況がよく把握できた。

周囲には赤黒い液体と、マネキンの肢体が四散している。

……いや、ここまで来て散らばるそれらが作り物だと思い込む事は不可能だった。

夥しい量のそれらを目にして、遅れて胃が反応する。

足に力が入らず、僕は膝を着き、四つん這いに倒れこみながら、胃の中の物を吐き出した。

 

「うえぇぇぇ、げほっ!ぇう……うわあああ」

 

怖い、どうにか立ち上がり、ふらふらながらも出来る限り急いで入り口へと引き返す。

何が起きているかを確認する事など頭に浮かばず、ただただ自分の命が惜しかった。

 

ショッピングモールを出ると嘘のような日常風景に、少し呆気に取られてしまう。

人通りは少ないが、車道には車が走り、夕日はとても綺麗な赤色をしている。

一瞬の間を置いて、感情が足を動かし始める。

死にたくない。

よく分かった、いや、忘れていただけ。死とはこれほどまでに恐ろしい。

来た道を引き返し、路地裏へと逃げ出した。

 

 

「っはぁ、えほっ!はぁ、はぁ。」

喉が痛く、呼吸が辛い。

当然といえば当然。

嘔吐した直後、運動不足の体に鞭を打ったのだ。

久しぶりの感覚を味わいながら、壁に体を預け呼吸を整える。

しかし、あの惨状は一体何だったのだろう。

思い出しただけで吐き気がこみ上げてくる。

出来るだけあの光景を浮かべないように興味本位で思考を続ける。

 

あれだけの死体であれば何か組織的な事件なのでろうか。

死体の形状からして銃器では無く、あまり現実的で無いが大きな刃物による犯行……ぅ、これは今は考えないでおこう。

ヤクザの抗争?にしては静か過ぎる、目的は分からないがテロだろうか。

あたりに警察や野次馬の影が無かったということは、事件は近いうちに起きたのだろうか。

数時間、いや数分以内だろうか。

今もあのショッピングモールでは事件が進行しているのだろうか。

とりあえず警察に連絡するべきだろうか。

 

携帯電話を取り出した所で、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

誰かが通報したのだろう。

警察に連絡せずに済んで、少し安心する。

……?なぜ安心するんだ?

あまりに異常な事態を目の当たりにして忘れていた、本日の目的を思い出し、頭を抱えて座り込む。

「また、やった。のか僕は。」

やった。というのはとある薬物の話である。

薬物について説明すると長くなるのだが、簡単に言えば普段とは違う自分が顔を出すという、そんな危ない薬である。

初めの頃は服用してもなんとなく気分が良くなる程度だった。

だが、最近は服用後に街中で叫んだり、人に喧嘩を売ったりと、あまりにも自分の許容範囲を逸脱した行動を取り始めたため、棚の奥底に封印していたはずなのだが。

酒に酔いしれ、取り出してしまったようだ。

なんと心の弱い事……自覚はあるのだが。

しかし、今日のように人を殺そうなどと考えたのは初めてだった。

そこまで行くとは思ってもみなかった、もしあのまま人を殺していたら、そう考えると恐ろしくて身震いしてしまう。

ショッピングモールであの惨劇が起きていなかったら、などと考える自分には、薬の影響が出てきているのだろうか。

自分はそんな風に変わりたかったのだろうか。

街中の喧騒が大きくなる中、自分の事だけを考えていた、そんな時だった。

 

「お兄さん。」

「ひゃいっ!」

 

しゃがみ込んだまま体制で後ろから声を掛けられ、変な声が出てしまう。

飛び上がり、後ろに振り返ると、どこかで見た事のある少女が立っていた。

そう、前に(時間で言えばつい先ほどの事だろうが自分にとっては昨日の出来事のように感じられた)、この路地裏でぶつかってしまった少女だ。

小さな笑みを浮かべながら、その少女は口を開いた。

 

「すみません、驚かせるつもりではなかったのですが。」

「あはは、恥ずかしいところを見せてしまったね。」

 

素直に笑ったつもりだったが、乾いた苦笑いになってしまう。

一度浮かんでしまった暗い感情は、簡単に消えてくれない。

でも、今はこの女の子の相手をしないと、そう考え問いかける。

 

「僕に何か用かい?」

「はい!失礼ながら、先ほどすれ違った後から、貴方様の行動を見ていました。」

 

何故?

そう問い掛ける前に少女は続けた。

 

「結論から申し上げますと、貴方様のお家に居候させていただきたいのです。」

 

何故?

そう問い掛ける前に後ろから声がした。

 

「こいつならどうせ許可してくれるって言ったろ?だから、面倒くさい手続きはいいから行くぞ、クー。」

 

誰?

そう思い振り返る前に首筋に痛みが走り、意識が薄れていく。

 

「父様、よろしかったのですか?」

「ああ!これも正義のためだからな、この悪人にはしっかり役に立って貰おう。」

 

そこまで聞こえた所で、立て続けに起きた理不尽に何も抗う事が出来ず、僕の思考は完全に途切れた。




最後まで読んでいただき感謝、感激です。
続きは考えているので、短いペースで投稿していけるかと思います。

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