ブラック・ブレット【神を喰らう者】   作:黒藤優雨

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 まだ私のストーリーを読んでくださっている方はありがとうございます。
 半年以上、年を越しての次話投稿、面目ございません。

 今後も不定期更新ですが、完結まではするつもりなので、よろしくお願いします!!


第四話【考察 後編】

 木更と延珠が優雨の服を買いに出掛けて、一時間。

 

 時計の針は13:00を指していた。

 

 夜鈴、優雨、蓮太郎の三人は事務所で二人の帰りを待っていた。

 

「遅い」

 

 夜鈴は時計を見ながら、そう言葉にする。

 

「……ごめん……なさい」

 

 そこに向かいのソファー優雨が申し訳なさそうな表情をしながら、誤ってくる。木更達が遅いのが自分の所為だと思っての言葉だろう。

 

「優雨の所為じゃない。気にするな」

 

「ああ、気にする必要はねーよ。どっちかっていうと、こっちが謝んなきゃならねぇからな」

 

「……ん。何故だ?」

 

「昨日、その子に延珠が迷惑かけたからな……」

 

 蓮太郎はバツが悪そうに目を背けながら、そう言う。昨日の優雨と延珠の遣り取りの事を言っているのだろう。

 

と、気づいたら自分のカップの中身が空になっていた。

 

 夜鈴はコーヒーの再度頼もうと、蓮太郎にカップを差し出す。

 

「……お前、まだ飲むのか」

 

「ブラック」

 

 蓮太郎はため息をひとつ吐きながら、夜鈴の手からカップを取る。

 

「これで何杯目だよ……」

 

「…………何杯目だっけ」

 

 よく覚えてなかったので、なんとなく優雨に聞いてみる。

 

「五杯……くらいです」

 

「そうか」

 

 これで六杯目、か。知らずにそこまで飲んでいたかと、思い返す。

 

 そこに六杯目のコーヒーを淹れてきた蓮太郎が戻ってくる。

 

「ほら、これが最後の一杯だ」

 

「もう無いのか」

 

 蓮太郎は首を縦に振る。

 

 夜鈴は淹れたてのコーヒーを受け取り、ふーっふーっと表面を少し冷ましてから口につける。やはり、何度飲んでも飽きないな。

 

「ん…………」

 

 コーヒーを飲んでいると、急に優雨が扉の方を向く。

 

「どうした?」

 

「あ、いや、な、なんでもないです……」

 

 優雨の言葉が徐々に小さくなっていく。何かを察した様子だったのは、気のせいか。

 

「ただいま〜。ごめんなさいね、服選ぶのに時間掛かっちゃった」

 

「ただいまなのだ!」

 

「おかえり。延珠、木更さん」

 

 手に紙袋を下げた延珠と木更が入ってくる。そして、延珠は蓮太郎の前まで来ると……

 

「さぁ蓮太郎! おかえりのちゅーだ!」

 

「まだ、昼間だぞ……」

 

「ハッ! 夜なら良いのか……」

 

「良いわけあるか!」

 

 いきなりよく分からない漫才を始めた。

 

「……随分と仲が良いんだな」

 

 夜鈴は二人のやり取りを見ていて、普通にそう思う。夜鈴の何気ない台詞に延珠が腰に右手をつけ、胸に手を当てて自信満々に返してくる。

 

「当たり前なのだ。妾は蓮太郎のふぃあんせ、なのだからな!」

 

「普通に相棒だよ……」

 

 蓮太郎が頭を抱えながら、そう付け加える。蓮太郎の言葉に納得のいっていない延珠が更に絡み、余計にややこしくなったので夜鈴はこの二人に関わるのを止めた。延珠と蓮太郎の漫才は続く。

 

「それで、どんな服を買ってきたんだ?」

 

「あ、そうそう……これよ」

 

 木更は紙袋の中から服を取り出して見せてくる。

 意外にもシンプルな物だった。

 白いTシャツに紺色のジーンズ、白いスニーカーというなんとも普通な服だった。

 

「シンプルだな」

 

「そうね。というか、まず優雨ちゃんの好みを聞くのを忘れてたわ」

 

 そういえば、この二人は聞かずに出て行ったなと、夜鈴は二時間前の状況を思い出す。

 好みが分からなければ買いようが無い。木更の判断は正しいだろう。

 

「優雨」

 

 夜鈴が呼ぶと、優雨はソファーから降りてくる。木更から衣類を受け取り、延珠と一緒に着替えに行く。

 

「飯はどうする?」

 

「近くに私たちの知り合いがやってるラーメン屋があるから、そこに行きましょ? 全員、それで良いかしら?」

 

「俺は構わねーぜ、木更さん」

 

「妾もそれで良いぞ! 優雨も良いと言っている!」

 

 隅の方で優雨の着替えを手伝っている延珠が手を上げながら、そう言ってくる。

 

「らーめん?」

 

 夜鈴は聞いたことのない食べ物の名前に可能な限り想像を膨らませるが、レーションばかり食べていた夜鈴の頭に浮かぶものは、「らーめん味」と書かれたレーションだった。

 

「…………美味いのか?」

 

「そりゃもちろん! ま、食べてみたらわかるわよ」

 

 木更と話している間に優雨が着替えを終え、延珠に連れられやってくる。

 

 優雨は何故か胸元を両腕で抑えていた。

 

「サイズ、大丈夫? 延珠ちゃんに合わせてきたから、一応大丈夫だとは思うけれど……」

 

「案ずるな! 妾の記憶に間違いはない!! 妾は直接触って調べたのだからな!!」

 

 自信満々である。夜鈴は昨日の優雨と延珠の事案を思い出して、延珠の謎の自信に納得がいく。

 

 優雨はそんな自信満々の延珠に対して、赤面しながら「う〜……」睨んでいることしか出来ないでいた。

 

「で、どうした優雨」

 

「え……えっと……その…………」

 

 優雨が腕で隠している胸元を見ると、何かしらの絵が描かれているらしく、その一部分が見える。

 

「恥ずかしがることはないぞ〜。ほれほれ」

 

「え…………」

 

すると、いつの間にか優雨の背後に回った延珠が抱きしめるような姿勢で優雨の両腕を掴む。

 

「それー!!」

 

 瞬間、延珠が優雨の腕を左右に開いた。優雨か一瞬固まるが、すぐに状況を理解し顔を真っ赤にする。

 優雨が必死に何かを言おうとするが、口をパクパク開閉するだけで言葉になっていない。そんな事を知らずに、夜鈴はしゃがんで優雨の服に書かれている絵柄に注目する。

 

「珍しい絵だな」

 

 向こうの世界ではあまり絵という物を見たことがなかった。外周区の子供達が地面に木の棒で書いたものくらいだろう。こんなに精巧に書かれた絵は初めてだった。

 

「良いだろう良いだろう〜? これは、天誅ガールズというアニメのキャラクターなのだ!」

 

 てんちゅうがーるず……? こっちの世界ではそういうのが流行っているのか。そういえば、コウタ隊長はバガラリーが好きだったな。それと同じものなのか?

 

「似合ってるぞ」

 

 そう言って、夜鈴は優雨の頭を撫でる。心なしか嬉しそうだ。

 

「半袖じゃ少し寒いかと思ってパーカーも買ってきたわ。どう、優雨ちゃん? 安いのこれしかなかったから、ごめんね」

 

 木更は紙袋から灰色のフード付きのパーカーを取り出して、優雨に渡した。

 優雨はパーカーに袖を通してチャックを全部締める。

 

「サイズ、どう?」

 

「ぴったりです」

 

「そろそろ行こう。腹が減った」

 

 朝から何も食っていないので、夜鈴の空腹は限界に近づいていた。

 

「そうね。なら、行きましょうか」

 

 

~十数分後~

 

 

 そうして木更の先導の元、五人はラーメン屋に着いた。

 

「本当に此処なのか?」

 

 夜鈴は店を見てから、木更に問いかけたが、結果は「そうよ」と、即答されてしまった。

 正直、美味しい料理を出すような店には見えなかった。

 扉に掛けられている暖簾(のれん)は汚れてくたびれていた。

 

「さ、行きましょ。もうお腹ぺこぺこよ~」

 

 木更がガラス戸を開けて入ると、延珠と蓮太郎も後ろについていった。夜鈴と優雨も不安になりながらも、それについていく。

 入ると中は薄暗かった。一定の間隔に置かれた六つの机にそれぞれ椅子が四つ置かれており、厨房側にはカウンター席が多数設置されている。

 

「二人ともー。ここよー」

 

 店内に入ると、夜鈴は中を見回す。

 中は暗い。ガラス戸から入ってくる太陽光が少しだけが足元を照らしていた。

 木更達はカウンター席に座っていた。カウンター席は五つしか設置されておらず、夜鈴と優雨が座ったら満席であった。木更に従って二人も席に着く。

 

「おじさん! いつものお願い」

 

 木更が注文すると、奥の方から男の声が聞こえ、調理する音が聞こえ始める。

 

「さてと。夜鈴と優雨ちゃんの寝る場所なんだけど、どうしましょうか」

 

「…………事務所で良いんじゃないのか?」

 

 最初から夜鈴は木更の事務所で寝泊まりする気満々だった。しかし、木更は許可を出さなかった。

 

「駄目よ。優雨ちゃんの事も考えないさい? いつまでもソファーで寝かせるなんて、私が赦しません」

 

 右隣に座る優雨を見やると、「わ、わたしは大丈夫です……」と答えてくる。

 

 恐らくオレに合わせて優雨が気を使っているのだろう。確かに優雨をずっとソファーに寝かせるのも悪いだろう。

 

「しかし、部屋を用意するとして当てはあるのか?」

 

「確か……里見くんのアパート。隣の部屋空いてたわよね?」

 

「ああ、空いてたな。多分、大丈夫だと思うぞ」

 

「じゃあ、後で大家さんに連絡してみましょ」

 

 取り敢えず、寝床は確保出来そうだ。後は、ベッドや他にも必要な物があるだろう…………やはり、金がかかるな。

 そう思考していると、「へい、おまちどう!」という男の声とともに目の前に料理が置かれる。

 黒茶色の香ばしいスープにストレートの細麺。上には三枚のチャーシュー、メンマ、そして真ん中にはネギの山が作られている。下から湯気と一緒に吹き上げてくるかのような香りを嗅いでいると、腹の底からいっそう強く空腹感を報せてくる。

 木更達は各々箸を取って食べ始めている。優雨は夜鈴に箸を渡してくる。

 夜鈴は受け取り、優雨の見よう見真似で箸を割って、麺を掴んでみる。

 結果、落ちた。

 胸の高さまで上げられずにポチャンと音を立ててスープの中に落ちる。

 

「どうしたの?」

 

「いや……この道具は初めてでな」

 

「なんだ。お前さん、ハシも使えないのか。ほら、これ使え」

 

 ラーメン屋の店主が少し大きめの銀のフォークを渡してくる。夜鈴はそれを受け取って、ラーメンを食べ始める。

 

「木更さん。この娘は新人かい?」

 

「ええ、そうよ。夜鈴っていうの」

 

「ほう…………」

 

「…………」

 

 夜鈴の目とラーメン屋の男の目が線で繋がり、二人の間に言い知れぬ空気が漂う。

 二人は見つめ合うと、男の口がニヤリと笑う。

 

「ほう……いい目をしている。戦いに飢えているな。だが、いい戦士だ」

 

「…………そんなことはない」

 

「ハハッ。おっとすまない。名乗るのが遅れたな。俺はアノルド・メイトリクス。木更さんとは別の民警をしているが、たまに共同で依頼をすることもあるから、その時はよろしく頼む」

 

「黒藤夜鈴だ」

 

 二人は握手をカウンターを挟んで握手をする。

 夜鈴は食事を再開し食べ進めていると、蓮太郎が口を開く。

 

「木更さん。やっぱり、先生の所に連れてくべきなんじゃねーかな?」

 

 木更は「それもそうね」と言い、夜鈴に向く。

 

「ねぇ夜鈴。これから、菫先生っていう人の所に行こうと思うんだけど、いいかしら?」

 

「菫?」

 

「室戸菫。大学の地下に住んでる先生だ。先生なら何か教えてくれるかもしれねーしな」

 

 木更の言葉に蓮太郎が補足を加えてくる。夜鈴は情報は多いほうが良いと思い、提案を了承する。

 そのまま五人はラーメンを食べ進め、食べ終わってから少し休んで店を後にした。

 

「お、おいしかった……で、ですね」

 

 優雨が満足げに言ってくる。夜鈴は「そうだな」と返した。

 

「さて、私は会社に戻って残りの仕事終わらすけれど。里見くんは夜鈴と一緒に大学へ行ってあげて?」

 

「了解。じゃあ、また後でな木更…………」

 

「ヒュー、キミかわいいね~。ねぇねぇこれから俺たちとデートしようぜ?」

 

 夜鈴たちが木更と別れようとすると、通路を塞ぐように三人のチャラそうな男たちが木更の前に出てくる。

 

「ご、ごめんなさい。急いでるから、そこ退いてくれないかしら?」

 

「おいおい。この娘の制服あのお嬢様学校のやつじゃね?」

 

「うおっマジだ。近くで見るとやっぱ綺麗だねぇ。まぁまぁ遠慮せずにさ、ちょっとだけでも遊ぼうよ~」

 

 言って男は木更の腕を掴む。瞬間、蓮太郎が男たちの間に割って入る。

 

「おい、やめろよ」

 

 木更の腕を掴んでいた男の腕を掴み返して木更から遠ざける。

 

「あん? 野郎に用はねぇーんだ、すっこんでろ!」

 

「……くっ!!」

 

「やめなさい!!」

 

 今にも殴り合いが始まりそうな空気だった。だが、今この瞬間では殴り合いにはならなかった。第三者の介入により、全員の視線がそちらへと向けられたのだから。

 


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