けして、GERBに没頭していた訳ではない。
今回は、少し短めですが、楽しんで頂ければ幸いです。
「あんた、さっきの!?」
「よう。また会ったな」
扉を開けて入ってきたのは、さっきの依頼でガストレアを殺った女だった。
「里見くん、知り合い?」
「例の民警だよ、木更さん…」
「黒藤 夜鈴だ。よろしく」
木更さんの所まで歩いて、黒い腕輪が嵌められた右手を差し出した。
「ど、どうも。天童 木更です……」
困惑しながらも、木更は出された手を握る。と、木更は小さな存在に気が付いた。
「その子は、貴女のイニシエーターかしら?」
木更さんが向ける視線の先には、ボロ布を頭まで被った延寿と同い年くらいの女の子が、夜鈴の後ろに隠れるように身体を隠してくっついていた。
「イニシエーター?なんだ、それは」
「あんた、民警だろ?あんたのイニシエーターじゃないのか?」
「いや、オレは民警じゃないが……ユウはイニシエーターってやつなのか?」
夜鈴がユウと呼んだボロ布の子に目線を向ける。ユウは首をふるふると横に動かしている。違うって事だろう。
「?……まぁいいわ。取り敢えず、こちらへどうぞ」
木更がソファに座るよう促し、蓮太郎と木更も向かい側に座る。
「まず、貴女は何者なの?民警じゃないって言ってたけど…」
「フェンリル極致化技術開発局のブラッドだ。聞いたことないのか?」
「フェンリル…狼のことか?」
「まぁそうだな。そういえば、お前、拳銃使ってたよな?神機使いは居ないのか?」
「まぁな。てか、神機使い?」
「これだよ。この腕輪」
腕輪を見せてくるが、言っている意味が分からなかった。
「どうなってんだ……?」
夜鈴が右肘を左手に乗せ、顎に親指と人差し指をつけて考え込んでしまう。
木更さんが蓮太郎の耳に顔を近づけ、小さく耳打ちしてきた。
「ねぇ里見くん。この人本当に何者なの?言ってることが、よく分からないんだけど……」
「それは、俺も同じだよ木更さん」
「それに、彼女の挙動に隙が無いわ。相当の実力者と思える」
「ああ、それは間違い無い。奴の戦いを見たけど、動きに無駄が無かった。てか、木更さん奴の情報とか分からないか?」
「調べてみたわよ。所属している会社どころか性別も名前も分からなかったの。少なくとも、東京エリアの人間じゃないわね」
木更の情報を聞いて、警戒の色を濃くしながら夜鈴に目を向ける。夜鈴は体勢を変えずに深く考え込んでいるようだ。
そして、何か考え至ったのか、落としていた視線を上げ、木更に口を開いてくる。
「なぁ。今って、2074年だよな?」
そんな事を聞かれ、木更と蓮太郎は口籠った後、木更が夜鈴の問いに答えた。
「いえ、今は2031年だけど……何故?」
「2031年…」
夜鈴がキッと目を尖らせ、黙り込んでしまう。
「……ねぇ貴女……」
ピピピッ
「あ、ちょっと、失礼するわ」
夜鈴は答えず、黙ったまま動かずにいた。木更は、音の発信源である社長机の上にあるノートパソコンを開き、キーを打ち出す。
キーを打っていた手を止め、蓮太郎に叫ぶ。
「里見くん、依頼がきたわ!場所は、さっきのマンションの近くよ!!」
(またか、もし感染源ならさっさと片付けなーと!)
「分かった!!悪い、ちょっと空け……あれ?」
向かい側のソファに夜鈴の姿は無く、優雨の姿だけが残されていた。
「おい、あいつは!?」
「え、えと、夜鈴さんなら今……」
ユウの指差す先には、開け放たれたドアが力無く動いていた。どうやら、一足先に出たようだ。
「早ッ!?」
「里見くん、追って!!」
「クソッ!」
木更の号令の下、蓮太郎は脱兎の如く飛び出す。
ーーーーーーーーーー
(一日に二度もアラガミが入ってくるとは、ここのアラガミ防壁どうなってるんだ?あ、そういや、防壁無いじゃん)
夜鈴はコンクリートで舗装された地面を滑走していて、そんな事に気付く。
(だが、もしオレの考えが合っているとしたら、相当やばい事になってる。でも、情報量に欠けるな)
「ああああぁぁあ!!」
もう少し情報を集めようと考えていると、男の悲鳴が聞こえてくる。
「あっちか…?」
声の聞こえた大きさからして、結構近い。道を左に曲がって対象を見つける。
「あいつか……」
3、4メートルはあるだろう大きい胴体に、八本の長い脚、黄色と黒の体毛を生やしていた。いわゆる蜘蛛だ。
(さっきの同じタイプか……取り敢えず)
夜鈴は走りながらケースのロックを外し、開いた隙間から手を入れて神機の柄を握る。そのままケースごと神機を上空へ振り上げ、ケースを取り払う。
(走ってじゃ間に合わない、か)
神機を銃形態に変更する。今にも青い服の男を喰おうとしている"蜘蛛"の口に照準を合わせ、引き金を引く。
「キッシャァァア!!」
火炎属性の弾丸は赤い線を描いて"蜘蛛"の口に着弾し、"蜘蛛"は甲高い悲鳴を上げ後退する。
「下がれ」
男の横まで来てそう言うが、男は腰を抜かしたまま動かない。
「え……?」
「早くしろ」
「は、はい!」
銃口を"蜘蛛"に向けながら、催促する。こちらの意図が分かったらしく男は、立ち上がって後ろへ走り去って行く。
「さて、始めようか」
夜鈴は口を三日月に歪ませていた。戦闘と闘争、両方を楽しむ為に……。
今回の回は、短いので前編とさせていただきました。
中編か後編か分かりませんが、お楽しみに〜