【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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90話 仇討

 不気味に蠢く球体。空中に浮かぶそれは液体のようで、下から見ているだけでもそれはどろりとしているように見えて気味が悪い。赤みがかった色のその中に、憎き仇であり、呪いの根源であり、何人も殺した殺人者は収まっていた。初めて会った時と変わらぬ不気味な道化師の衣装はそのままで、ただ醸しだされる雰囲気だけが凶悪さを増し、一層不気味さを掻き立てていた。

 

 ドルマゲス。大国トロデーンの国宝の杖を盗み、茨の呪いでほんの一部を例外に国中を眠らせた大罪人。自らの師匠、ゼシカの兄、ククールの恩人で親代わりのようなオディロを殺した悪人。

 

 それ以外にもリーザス地方とトラペッタ地方を繋ぐ関所の兵士を殺し、オセアーノンを狂わせたように把握できていない罪の多数あるだろうとされている。ギャリングの部下が来ているということはギャリングの死はドルマゲスによるものだと簡単に推測できた。

 

 扉を開き、武器をめいめい構えて突入した五人はそれぞれ胸のうちに押さえ込んでいた感情をぶつけ、彼を討たんといきり立った。

 

 先頭にいるのはエルト。リーダーにしてトロデーンの兵士。故郷は分からぬものの、育った城を、育ての親い等しい者たちを呪いの深い眠りにつかせ、主君を痛ましい姿に変えられたことは許せることではない。槍を構え、しかし同時に魔法を唱えられるように油断なく構える姿はまさに勇者というところだろう。厳しい表情に普段の温厚な青年は鳴りを潜めていた。

 

 その半歩ほど後ろでその背ほどもある大剣を抜き放っているのはトウカ。同じくトロデーンの兵士。守ってきた国を、育ての両親を呪われた恨みに加え、王族の守護の使命を今果さんと正義感と半ば狂ったほどの闘争心を剥き出しにして薄らと笑ってさえいた。両手で剣を構えているものの腰には二本の剣が、手袋には封じられた大量の武器が、まとった服には数多の刃が仕込まれていてどんな体勢、状況になろうとも攻撃を仕掛けるだろう。

 

 後ろの非前衛を守る如く構えるヤンガスは鋭く研がれた斧を構え、ここにいる者たちと違ってドルマゲスに個人的な恨みこそないが同じように覚悟を決めて睨みつけていた。命の恩人である二人、今度こそ真っ当な人間として生きようとする想い、そうでなくても本来人情に厚い彼は仲間たちを見捨てることをしないだろう。その激しい戦闘に耐えぬいた体、精神でこの敵を討たんとそこにいた。

 

 ゼシカ。誰よりも仇討ちの気持ちの強い少女だった。信頼し、敬愛し、慕っていた兄を突然殺された悲しみ、怒り、憎しみは彼女の持っていた魔女としての才能を引き出し、磨き上げた。それは復讐という何も生まないことへ向けられたことであり。しかし彼女は心を曇らせること無くここまでたどり着いたのだ。幾多の魔物を燃やし尽くしても消えることのなかった復讐心は今、果たされようとしていた。

 

 一番後ろに構えるククールは一見、静観するような姿勢にさえ思えた。大切な人を奪われた悲しみはゼシカと同じようにあったものの彼女ほど激情に駆られたものではなく、しかしなにもしないわけにもいかなかった。

 

 最初こそこの規格外の強さを誇る味方たちに振り回されていた彼は今、一つの想いを抱いている。それを伝えることは叶ってはいないが、この巨悪を倒すことがそれに繋がる一歩にすら思えていた。そして何よりここにいることは大切な人を守ることに他ならず、「騎士」たる姿に違いなかった。

 

 空中に浮かぶドルマゲスはおもむろに目を開ける。憎しみを、怒りを込めて睨みつける者たちを視界に収め、怒りを露わに、しかし悟ったように……それでいてニヤつきを止めることが出来ずに不気味な笑い声をあげる。悲しいなあと言いながら、戦いを受け入れ、二度と邪魔をさせるものかとその邪悪な力を解放した。杖を握り、向かってくる「銀髪の」少女に向けて複雑な気持ちを抱きながら。

 

・・・・

 

 身体が万全ではないから癒やしていた? 身体にぴりぴりと邪悪な力を叩きつけられてそんなことを言われたらちょっと私でもびっくりというか、怖いというか!

 

 こんなに強者の臭いをさせながら万全じゃないなんて……万全じゃなくてよかった! 武人として、剣士として、騎士としては正々堂々一対一、それも両者万全で戦いたいところだけど今はなんとしてもドルマゲスを倒さなきゃいけないわけで。ああ、ちょっとプライドが傷つくような気がするけど良かったって思う。

 

 髪の毛は当然のように脱色し、わからないけどおそらく目も紫色に染まる。体調に問題はない。それどころかなんか、いつもより力が出る気がする! えっと……ククールの目の前で鉄格子を引き裂いた時みたいに!

 

 地面を蹴って跳躍、一気にドルマゲスに近づいて斬りこむ! いなされても溢れかえる力で地面を砕きつつ蹴ってまた突撃! なんてことが出来るわけだ!

 

 ククールから飛んできたスカラの赤い光を浴びながら隼斬りを何度も何度も繰り返す! すると……分裂?! 本体らしきドルマゲスが私を相手取り、分裂体がエルト、ヤンガスに向かうというひどい状況になってしまった。斬ったら増えるの? 水につけたら増えるとかなの? 人間かこいつ!

 

 杖で胸を刺されそうになって盾で受け止め、むしろそのまま盾をぶち当てて反撃し、足を切落……せない! 瞬間移動なのか、予備動作無しに消えたドルマゲスは不気味な笑い声をあげながらかまいたちを放ってくる!

 

 思わず剣でかまいたちをもっともっと鋭く発生させてぶつけてみれば打ち勝っちゃったけど! え、なにこいつ一瞬固まってんの、なんで気味悪く笑い出すの! 気持ち悪い!感情を抑えて討伐しないといけないのに鳥肌立ったんだけど!

 

 斬り込む、躱される、振り下ろす、躱される、突かれる、むしろ叩きこむか剣で受け止めて反撃する、かまいたちは打ち返す! 不気味だ、ダメージが私に殆ど無いんだから。でもふと気づいたらククールもゼシカもドルマゲスと戦っていて、エルトはかなり追い込まれていて、ヤンガスは壁にたたきつけられていて……どういうこと? 私だけ手加減してみんなを先に殺そうっていうんだろうか!

 

「……やはり他人と分かっていてもよく似ていますねぇ」

 

 猫なで声が私の耳元に囁かれる。瞬間的に切り捨てればなんと避けもしなかったドルマゲスは真っ二つ。そのまま魔物と同様青い光に包まれて消えたドルマゲス。……どういうこと? 何がしたいんだろう。

 

 ヤンガスの加勢に行く。ヤンガスを相手取っていたドルマゲスもすぐに倒せた。ククールを助けた。背後から切り倒すことが出来た。ゼシカはかなりダメージを受けていたけどククールがゼシカを回復している間に私がいればドルマゲスは蜂の巣に出来たし、エルトと加勢に行ったヤンガスがぼろぼろにされた時も私が叩きこめばドルマゲスは消えた。

 

 嫌な予感がする。ドルマゲスは、いくら万全じゃなくてもこんなに弱いはずがない。

 

 ククールがベホマラーを唱えて全員の傷を癒やした時……五人のドルマゲスが倒れた場所が不気味に光り始めた。みんなで背を預け合えば、自ずと追いつめられた場所は広間の中心……。

 

 ああ、嫌な予感が止まらない! 皆だって分かってるはず。でもどうすることも……。光は青から紫、紫から黒、黒はまた紫になって、気味の悪い光はどんどん、強くなっていく……!

 

 突如、ドルマゲスの赤黒い血を浴びた剣が、強い力で引っ張られる。剣は私自身のようなもの、当然その程度のことで離さなかった私は……剣ごと引っ張られることになってしまった。ククールが私の腕を掴もうとする。……叶わない。剣を離そうとする。

 

 あぁ、手が、剣から離れない! 魔法を封じる金属でできた剣が操られたってこと? そんなことって、ありえるのか! でも、ドルマゲスにはそれが出来る……?

 

 ああ、首が。古い傷の場所が熱い。見えない右目が痛い。必死の皆に手を伸ばすことも、不思議とできなくなっていた。力が抜ける。剣ごと空中に吊り下げられて、ドルマゲスの五つの光がどんどん私に迫って、あの杖が私の前に、浮かんで。

 

『ワタシニシタガエ』

 

 耳元でドルマゲスの声がする。言葉の意味が理解できない。光が私の身体に触れる。不思議と、懐かしいと思えた。不気味な紋章が呪いから身を守る時みたいに現れて光を拒絶している。ということは、見た目の通り有害な光なんだろう。

 

『私ニ従エ』

 

 不気味な高い声で繰り返される。何度も、何度も繰り返される。エルトたちは……茨に襲われている。あれ……光になったはずのドルマゲスが杖を持ってエルトたちに茨の呪いをかけて……?

 

 本能が、エルトたちを呪ったドルマゲスは分身にすぎないと告げている。さっきと同じように切り捨てられるとわかる。紋章が輝いて拒絶している光こそ、この杖こそがトロデーンの国宝の杖で、ドルマゲスなんだとわかる。

 

『私に従え!』

 

 紋章が、音を立てて砕け散った。光が私に触れる。意識が、染め上げられる。私に従えと声が告げる。陛下や姫を守る、信念で誓った忠誠心ではなく、細胞に、染色体に、DNAに組み込まれた本能が叫んでいる。

 

 お前が主のものか、と。

 

 同時に血が告げている。戦えと、戦えと、血を浴び、命を薄皮一枚で守りぬき、相手の心の臓を奪い取れと。

 

 それには、すんなり納得できた。それこそが剣士たる私の生きる道、私だと。杖を手が勝手に掴む。同時に、私はドルマゲスにめがけて落下した。剣を持ち上げる力が消えていた。……重量何キロかわからない私が、多分ドルマゲスの首の骨を折ったと思う。不可抗力で。エルトが必死で呪いに抵抗してる時に。

 

「……え?」

 

 分身にすぎないドルマゲスは青い光に包まれ……そしてその光は私をも包み込んだ。

 

 そして掴んでいた杖は、紫の光になって、私の中に吸い込まれていた。どくり、どくりとナニカが波打つ。ナニカはどんどん強くなって……弾けた。

 

 光が私の身体から追い出されていく。口からではないけれど吐き出された杖は目の前にいた。光から再構築されたドルマゲスは残念そうに私を見、次の瞬間には杖を掲げて凶悪な力を溢れさせ、人ならざる者にならんと呪術を実行していた。




呪われしトウカ戦回避。

補足として。
ドルマゲスの強化は五体に分裂ということだけではなく、HP、力、素早さなど呪文や特技こそ増えませんでしたがかなり強化されています。しかしそれ以上にヒャッハーしているトウカのほうが上でした。ちなみに一対一ではなく五対五で戦っていたら苦戦してないです。それぞれ役割を決めていたため、つまり「協力したら俺達はもっともっと強くなれる!」仕様だからです。

ちなみにドルマゲス、というかこの戦いは三戦を予定しています。(予定は未定)
二戦目は普通に第二形態です。熱い戦いを予定してます。(予定はry)

とりあえず一戦目、楽勝()。

ククール「トウカにベホマ唱えてない違和感」

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