【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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72話 作戦

「あっ」

 

 しばらくみんなの作戦会議を聞きながら、腕を組んで考え込んでいたトウカは手を打つ。そして、いいことを思いついたんだと僕たちを誘導し、チャゴス王子の部屋よりも上の階へと登っていく。トカゲはまだ捕らえたままで。……いい加減、その子可哀想だし、離してあげようよ。

 

「あのさ。思いついたんだけど……トカゲを王子の上からばら撒くってどうかなぁ」

「上から? 床でもぶち抜く気?」

「まさか。ボクがそんなに乱暴者に見えるっていうの?」

「そうじゃないけど……」

 

 乱暴者には見えないと思うけど、やりかねないとは思って。まぁ、これは言わないけどね……。それにするかどうかはともかく君には可能じゃないか、一応ね。

 

「まず、壁の割れ目とか隙間とかを探すんだ。なければ作る」

「……やっぱり」

「あくまで、なければ、だよ!」

「あるものなの、そんなの? 普通……城にそんなところがあったら修繕するよ……」

「水場にトカゲがいるのに?」

 

 いやいやそれとこれは全くもって別問題じゃないの? そんな杜撰なはず、ないでしょ! サザンビークだよ?世界の王国でも指折りの国、かの竜殺しの国だよ!? 竜とは言いつつなんか聞く所によるとどちらかと言えばそれこそトカゲみたいな魔物を指すみたいなんだけど、この際いいよ!

 

「探してみないと、ね? 大体嫌ならエルトは何か案があるの?」

「ないね」

 

 ちょっとだけ意地悪な感じにトウカは言い、返事に何度か頷くとがしっとトカゲを掴んだまま、こう皆に言い放ったのだった。

 

「じゃあ、あのバ……おっと、王子の上からトカゲを落とす楽しいことをしようよ」

 

 もしかして、トウカ、それしたいだけなんじゃ……。そっぽを向いていたゼシカがこちらをちらりと見てくるけど、その目はなんとも死んでいたし、ククールは半笑いだ。ヤンガスだって流石に肯定はできないのか、だからといって否定もできずに硬直していたし。ここはガツンと言うべき、かもしれないけど。

 

 正直代案も思い浮かばないので僕は曖昧に笑うしかなかった。ヘタレ? そうだよ!

 

・・・・

・・・

・・

 

「よいしょお!」

 

 小声で威勢のいい掛け声を出して樽を押しのけているトウカ。手伝うヤンガス。僕はトカゲを預かって、手伝うか手伝うまいか困惑しているククールを横目にポケットからトーポに出てきてもらっていた。

 

 僕の家族。幼い時から一緒にいるねずみのトーポ。君しか今、頼れないんだと語りかける。

 

 仮にトウカの言うとおり隙間やヒビ割れが見つかってもトカゲをそこから押し込んでなんとかなるものじゃないだろうし、トカゲを誘導する手段が必要になるだろうし。まあ、王子の部屋の天井にも穴が開いていなきゃこの話は決行しても無かったことになるんだけど、そこのところは大丈夫らしい。トウカ曰く。

 

 曰く、王子がトカゲが嫌いなのは以前頭の上にトカゲが落ちてきた、かららしい。自室でね。だから穴はあると。……普通に修繕してるんじゃない? とも思うんだけど……まあ、そこは考えないでいよう。

 

 予想では、僕はだけど、あのチャゴス王子はそんなに後から冷静に何故そうなったのかを考えられるタイプじゃなさそう……という偏見を抱いているから……天井を直せ! とか命令してないんじゃないかな?

 

 自室のことだし、父君であるクラビウス王は何も口出ししないのが普通のはず、ひどい言い方だけど人望がない方だから……お城の人、原因に気づいてもわざわざ進言したりは、していそうにないね。

 

「あ」

「え?」

「あったよ、トカゲとトーポが入れそうな所」

 

 ……えぇ。

 

 そんな筋書き通りのことって、あるんだね。

 

 どれどれと覗いてみればなるほど入れそうな隙間。その下が王子の部屋なのは構造でわかるし……。ねぇ、もしかして王子がトカゲが嫌いになった原因らしいトカゲの落下って。……いや、邪推はやめておくよ。

 

「じゃあ、お願いしてもいい?」

 

 ぱんと手を合わせてトウカがトーポに頼み込んでいる。ちゅうと小さく鳴いた彼は了承したみたいだ。そこで僕はトカゲを隙間にそっと押し込むと、トーポをその隙間というか割れ目に入れたのだった。

 

「成功するかしら」

「賢いねずみでがすね、さすがは兄貴のポケットの存在でがす」

「期待してるからねぇ」

 

 半信半疑どころかほとんど期待してないゼシカ、ちょっとベクトルのずれたことを言うヤンガス……ペットと言わなかったことがとても嬉しい……、元気に走っていったトーポに向かって声をかけるトウカ。

 

 後ろで黙ってみていたククールはぼそぼそと、「ねずみとトウカか」とか「小動物と小動物の破壊力」とか訳のわからないことを言ってて心配だ。大丈夫かな? ……え、扱いが酷い? やだなあ、そんなわけ、ないじゃないか。

 

 程なくして、大きな悲鳴が二回ほど鳴り響いてそのかなり杜撰な作戦が成功してしまった事に気づいて、トウカって予見の目でも持ってるんじゃないかとちょっと考えてしまったりしたわけだけど。

 

 まあ、終わりよければ全てよし? 始まってもないけど。

 

 これで護衛任務が始められる。そんな安堵と、ここまでしないと出てこない王子を果たして護れるのかという不安が綯い交ぜになって胸の中を満たしていた。

 

「作戦成功!」

 

 無邪気に笑うトウカは、早くその護衛任務で剣を振りたくて仕方が無いよとひたすら脳天気で、すぐに考え込むのはよしたけどね。


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