【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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70話 謁見

 なにはともあれ、時間をとってしまったとはいえ先に本来の目的を達成しないといけない。

 

 ゼシカの手でスカートを履かされかけたトウカが謁見では今までどおりでいるからと震え声で言っていたし……うん。ちょっと見てみたいかもしれないなぁ、トウカのスカート姿。

 

 ……ものすごい勢いでククール、同意してくるけど君、……そういえば女ったらしだったね。え、辞める? 今から変わるって? そう、頑張って。

 

 ともかく、声も元通り変えた状態にして、武器も装備し直して、いつもどおりの勇ましい剣士の姿になったトウカは意気揚揚とサザンビークの城下町を歩く。

 

 ……いくら見てもその大剣を軽々担ぎ、普段の武器のブン回す様子を知っている僕には女の子には見えなかった。女の子扱いするべきなのかな?

 

 例えば、前線に立って守るとか、荷物持ってあげるとか……全部トウカがゼシカにやってあげてないか? それから、宿とか、同じ部屋で……寝てなかったっけ……うわぁ、今度からゼシカと同じか一人部屋にしてあげないと。同じ部屋でも気付かなかったんだから、トウカ……相当、気を張ってたんじゃ……。

 

「ねぇ、トウカ」

「なんだいゼシカ?」

「後で時間が出来たら……分かってるわよね?」

「……う、うん。でもボク、スカートなんて持ってないよ」

「髪型を変えればズボンでも可愛いわよ。ね、一緒に街に行きましょ?」

「あ、荷物持ちね。任せてね、トン単位で持てるから任せ……」

「違うわよ!」

 

 トウカは……うん。女の子で良かったんだね。これで鈍感な青年だったらいろいろ報われない人が続出するから。……ん? 報われないのは別に性別関係ないような……? まぁ、知らないや。頑張ってね。

 

 誰がトウカを好きになるか知らないけど。あのお父さんとトウカを倒せる人っているんだろうか。倒す必要はないって? いやいや、あの二人なら言うと思うよ。

 

 知らない、なんてね。僕はちょっと目を逸らしたいんだ。おおよその予想はついてるけど、まぁ、本人次第だよね。

 

「冗談だよ。ゼシカがトン単位で買い物するなんて思ってないさ」

「……そっちじゃないでがす」

「うん?」

 

 ……さて、トウカが頭を捻って意味を考え始めたところで、もう考えてても仕方ないし、さっさと行こうか。

 

「……?」

 

 考え続けるトウカ、わざとやってんじゃないのとも少し考えてしまうのだけど、あの動作であぁやって考え込むトウカが偽物じゃないのは僕が一番分かってて……余計に苦笑いするだけで終わるという、ね。

 

「トン……単位……バイキルトでいけるか……?」

「ん? ククールどうしたの?力つけたいの?」

「……あぁ」

「じゃあ一緒に筋トレする?楽しいよ!」

「……、今度、頼む」

 

 あれ、ククールなんで泣きそうなの? そこで張り合うのは間違ってるよね?

 

・・・・

 

 物怖じはするだけ無駄だと考えるようにしている。特に、貴族の名前を使う時は。……それでも怖いものは怖いし、恐れ多いことだと慄く心はあるし、実のところ赤い絨毯の真ん中を堂々と踏んでいるだなんて考えたくもないのだけど……やらないといけない時、事ってあるからね。

 

 諦めなきゃいけないのに、今でも心の底にひりひりと傷つく大昔の大昔、とか。ま、今日でそれはかなりましになったと思うけどな。

 

 分厚い絨毯の上を歩き、サザンビーク王の居られる玉座の間に向かいながら、悶々と一人考えこむ。緊張しているのは皆同じで、エルトから表情が消えてるし、ククールやゼシカの顔もどこか引きつってるぐらいだ。

 

 ヤンガスは恐る恐るといった様子で絨毯を踏んでいて、調度品に目が行ってしまうのを必死でこらえているのが分かる。彼はすごく頑張っているんだよなあ……ヤンガスの情にあつい性格は本当に尊敬する。

 

 残念なのは……堪えているのにもかかわらず、サザンビーク近衛兵に睨まれているということかな。分かってくれないんだよね……初対面じゃしょうがないけど、なんだか悔しくなってきたぞ……。

 

……さて。着いてしまった。深呼吸をひとつして、絢爛な広間に足を踏み入れる瞬間は何時だって緊張する、慣れているはずのトロデーンだって緊張するのだから、当たり前ではあるけれど……。

 

「……」

「……」

 

 すっと一礼して入れば、慌ててエルトが頭を下げたのを気配で感じる。他の皆も同様に。 

 

 さらに上質な絨毯に足首まで埋もれそうになりながら、胸を張って堂々と歩き、王の前でそっと止まる。頭を下げる気はあれど、膝を折って敬意を払う気はあれど、それを望まないなら私が頭を下げるのは本来は陛下と姫だけなのだからするつもりはない。見極め、というのが口悪く言った場合の本心だ。

 

 ……あれ? サザンビーク王……もといクラビウス王が何故かエルトの顔を凝視している……? 目をこすったりして……。

 

「……?」

「……気のせいか」

「陛下、どうなされましたか。この旅の者が何か」

「なんでもない、よく見れば全然似ていないではないか……」

 

 何だったんだろう……懐かしい人にあったような、そんなまさかと言わんばかりな、物言いたげな反応。喜びと悲しみの入り混じったような……?

 

 エルトって、八歳の時からトロデーンにいるけど、トロデーンから出たことあったっけ? アスカンタも初めてとか言ってなかった? それより遠いサザンビークに行ったなんて聞いてないし……? やっぱり人違い、だよね。名君と謳われるクラビウス王が……珍しいな。

 

「……それで、何の用があって我が国に?」

「私はトウカ・モノトリアでございます」

「あぁ、ヴェーヴィット家から話があったな」

 

 私が当主を継ぐ前に親友のエルトと旅をしていること、ドルマゲスという凶悪な殺人犯を追っていること、仲間がドルマゲスを仇としていることを真実九割五分で話す。残りの五分はトロデーンが茨に包まれているということを話さないようにしただけだから嘘じゃないんだけどね、ちょっとだけ盛った。

 

 例えば、前々から言ってたように私が旅をしているのは決して仕事ではなく私事だと仄めかすこととか。護衛がいないのを不審がられない職業で良かったよ。普通の貴族だったら多分、こうはいかないんじゃない? トロデーン近衛兵という立場がこんなところで役に立つとは。

 

 ……ちらりとエルトに顔見られたんだけど、何その考えていることは間違ってるんだよと言いたげな表情は。前々から思ってたけど器用、だね……?

 

「ふむ、言いたいことは分かった。だが、国宝をおいそれと渡すわけにはいかん。我が国は開かれているが、おいそれと王家の宝を渡すことはできん」

「はい」

「しかし、剣士トウカは我が国の兵よりも強い……であろう?」

「私の身に余ることでございます」

「ま、まさか陛下、この者たちを城の兵の代わりに使おうとお考えで?」

「察しがいいな、大臣よ。数々の危険を乗り越えてきた者たちだ、不足はあるまい」

 

 魔法がないなら百人抜きぐらいはできそうだ。もっといけるかもしれないけど、殺しちゃ駄目だからね、手加減したらそんなもんじゃないかな。ということで護衛任務かな?要人の護衛なら任せて、普段からやってるから。それぐらいで国宝が借りれたら安いもんさ。

 

 にしても、印象がなんでこんなにいいんだろう?


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