【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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6話 親子

 トラペッタの街ですれ違う様々な人々に大なり小なり怯えられ、それを完全に無視して歩き通す。怯えられた原因の殆どはトウカかもしれない。

 

 そして、街の人達が怯えるのが分からないでもない僕自身がとても腹立たしいし、怯える街人にはなんでお前たちが怯えていて、一方的にトウカを悪者にするんだという怒りもある。もやもやして落ち着かないこの状況は複雑だけど、当のトウカは表情すら変えないんだから今は気にしないでおく。

 

 そのまま僕らは談笑することもなく一直線に目的地の井戸の裏の家へ急いだ。先頭を行く僕はとても後ろが気になったけれど、振り返っている暇はなかった。

 

 

「水晶、取り返してきましたよ……ユリマさん?」

 

 一抱えもある大きな水晶玉を持ったトウカは眠るユリマさんをらしくもない無表情でじっと眺めていた。

 

 ザバンの、水が伝えたというトロデーンの話を聞いてからはトウカはどうも黙りだった。トロデーンの生き残りは二人。そんな話を聞いてから。陛下や姫も生き残りと言えばそうなんだけど、呪いを受けられてしまったからから数えないのかな……。

 

 呪いといえば……僕にしてもトウカにしても、変な紋章にめいめい守られていたよね。見る限り全然種類は違うようだったけど、効果は一緒だよね。…………、僕の紋章は呪いをかき消していたけど、トウカは吸い込んでいたような……? 何だったんだろう……。

 

「……あ! すみません、すっかり寝入ってしまっていて……。取り返してきてもらってありがとうございます! これで、父も……」

 

 トウカが近寄るとすぐに目を覚まして、ばっと顔を上げたユリマさん。その言葉を遮るように、台所からぬっとユリマさんのお父さん……占い師ルイネロが姿を現す。その顔には怒りというか、悲しみというか……色んな負の感情を混ぜたようなものが浮かんでいて、壮絶だった。

 

 ……そういえば。ルイネロさんの妻はどこにいるんだろう。つまりユリマさんの母親。亡くなってしまった、とか……? でも、その割にはあまりにもユリマさんとルイネロさんの関係が二人だけで完結しているような……?  

 

 いや、人の家庭に口出ししても仕方ないし、邪推はいけない。

 

「……ユリマ。客人に何を頼んだのかね……。……その水晶玉は」

「お父さん……私。お父さんの占いが外れるようになったのは水晶玉がただのガラス玉に入れ替わったからだと思ったの。……そしたらこの人たちに頼んで、洞窟から、水晶玉を取り戻してもらえるって分かった。私ね、夢を見たから……滝の洞窟に、水晶玉があるって。旅の方が、私を助けてくれるって……」

 

 ルイネロさんはユリマさんの話を聞いているんだか、聞いていないんだか分からない顔をして強引にユリマさんを押しのけ、大きな水晶玉を、本当に残念なことに「トウカの手から」ルイネロさんは奪おうとした。

 

 ああ、うん……。そうだよね、見た目はどちらかといえば痩せていて、そんなに力も無さそうに見えるトウカから物が奪うのは、見た目だけなら簡単そうだけど……無理だよ。やるからにはでっかいボストロールを連れてこないと。

 

 それでも危ういかもしれないっていうのに。トロル何匹必要なんだろう?兵士でも戦士でもないルイネロさんならバイキルトをかけようが、豪傑の腕輪をはめようが無理な気がするな……。

 

 つるつるの水晶球をしっかと、手袋をしているにもかかわらず掴むトウカ。平然としていてとても力を込めているようには見えない。ただ持っているだけみたいだ。……でも、多分ものすごい力が加わっているんだろうけど。水晶球の強度が心配だ。かたや奪おうとするルイネロさんは顔が真っ赤だ。

 

 数十秒粘ったのち、ルイネロさんはとうとう諦めてトウカに頼んだ。眼中にないと言うかのように、話しかけられて初めてトウカはルイネロさんを見る。

 

「その水晶玉を渡して下さるか、ご客人?」

「……これは貴男の物ですか」

「そうだ。だが、……私が滝の洞窟に捨てた。今度は二度と返って来ないように粉々に砕かなくてはならん」

「……そうですか、でしたらなおさら私は水晶玉を渡す事は出来ません」

 

 トウカは相変わらず無表情で、冷たく感じる黒色の目には何の感情もない、ルイネロと対称的な風体だった。これは、結構怒っている。感情的な怒りじゃなくて、トウカのプライドに触れる冷たく静かな怒り。

 

 トウカはユリマさんに頼まれて、ユリマさんのために水晶球を取り返したつもりなんだろう。ユリマさんの手に渡った後、ルイネロさんがユリマさんの考えに反して砕いてしまってはいけないと思っている……と思う。僕は推測ばっかりだ……。

 

「私は、ユリマさん、貴男の娘さんに頼まれて滝の主から水晶玉を奪って来ました。ユリマさんは、水晶玉を砕く事を歓迎していませんから……、ボクはユリマさんに従って……貴男に水晶球は渡しません」

 

 声は低く、とても重々しかった。風もないのにトウカの髪の毛がゆらりと揺れる。「ボク」ではなく、「私」と言った以上、トウカは「トウカ・モノトリア」として渡さないつもりなんだ……。

 

「……家族って、いいですよ。時にはユリマさんの話も聞いてあげてはどうでしょうか。私は……あなたがたが、家族としての絆を取り戻すのを願っていますから」

 

 あなたはユリマさんの本当のお父さんじゃないでしょう。でも、それを知っている上でユリマさんはあなたを本気で心配しているんですから。この水晶玉をどうか砕かないであげて下さい。

 

 トウカはそう、無表情のまま、そう言い切った。僕の知らなかったことをどこで知ったんだろう……トラペッタでは一緒にいたのに……。

 

 ルイネロさんは、それからユリマさんは、互いに沈黙していた。嫌な静寂ではなかった。




ザバンの話はおおよそ同じという設定。生き残りは二人ですが。

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