【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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5話 乱闘

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 経緯を説明すれば、ユリマという女の子の頼みを陛下が聞いて、そのせいで僕らはじめじめした洞窟で魔物を狩りまくっているってだけなんだけど。

 

「まるで林檎を握りつぶすみたいに雑魚ばっかりだ」

「……それは雑魚の例えなの?」

「あっしは出来るでがすよ?」

「あ、そう……。僕も出来るって便乗すればいいの?」

 

 頼りの明かりである松明を僕に押し付けたトウカは、現れる魔物がこちらに敵意を示した瞬間に切り捨てて進んでいく。

 

 ここはごうごうとした水の音が響く滝の洞窟。外よりも魔物が強く、おかしな姿の魔物も多かった。だけどそういう違いはあまりトウカには感じ取れていないようで。関係ないねという声が聞こえて来そうな勢いで狩っていくだけ。

 

 僕とヤンガスはそれを半ば傍観し、偶にこちらに向かってくる魔物を切り捨てるだけだった。それも結構瀕死の手負いばっかり。まぁ、最前線で踊るように斬りまくり、時には嵐のように暴れ回り、そしてまた乱舞するトウカをかいくぐる魔物はあまりいなかったけれど。

 

「靴とかもぐらとか、変なの」

 

 結構な勢いで振り下ろされたスコップをとっさに剣で受け止めた僕をトウカは観察する。その余裕しゃくしゃくな態度が憎い。僕は流れ玉……もとい流れ魔物を切るのですら酷く苦労していたから。瀕死なら簡単だけど、今回みたいに怪我をしていないやつなら。

 

「……んーー、エルト、ボク松明変わるよ」

「ありがとう……」

「かわりにさ、戦闘のアドバイスしてあげるからエルトとヤンガスだけで戦ってよ?」

「絶対に嫌だよ!」

「決定事項は覆らないよ?」

 

 僕の手から松明をもぎ取ったトウカは構えていた大剣を鞘に収め、片手に松明、反対の手に腰に挿していた短めの剣を引き抜いて構え、無邪気ににこにことした。

 

 駄目だ、こんな時のトウカは有言実行。……嫌だよ、あの数の魔物と戦うの……僕はトウカほど強くないのに。戦い慣れだってしていないのに……。

 

「ヤンガス、よそ見一回!」

「すいやせん!」

 

 内心嘆いている間にもトウカはヤンガスの背後に迫ったガチャコッコを蹴り落としていた。蹴りは素早すぎて目撃していたはずの僕にも見えないほど。

 

 ああ、うん……アドバイスと……怪我しそうなときの補助はしてくれるの……? それならもう、最初から戦ってよ……。

 

「それじゃあエルトが強くなれない!」

「……僕の考えを読むの、得意だよね」

「そうさ!」

 

 トウカは幼い時と同じ顔で笑う。

 

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 エルトは同世代ではかなり強い。数居る近衛兵の中でもかなり強い部類だ。近衛兵だけじゃなく、兵士全体でも結構上の方だ。だけど……魔物との実戦経験は少なめ。年若いからね……。

 

 それ以上に、トロデーンの兵士全体の弱さが伺えるね。陛下を貶す訳じゃないけどさ。一度サザンビークに行ったけど、兵士は全体的にもう少し強かったよ? 生息する魔物がぜんぜん違うっていうのもあるけど。

 

 つまり、エルトには無理にでも強くなって貰えなくちゃこれから先、辛い。ヤンガスももっと強くならなきゃいけない。ドルマゲスはあんなに強力な呪いを使える存在なんだから、実践慣れしている私も慢心できないし、下手すればこのメンバーで死ぬ人が出るかもしれない。

 

 だからいろいろ考えて今、前で戦って貰ってるんだけどね……はは、弱すぎ。笑っちゃ悪かったかな? でも、弱い。ヤンガスは悪かないけど……まだまだだ。

 

 私?私は実戦経験ならたっぷりはあるよ。父上に頼み込んでさ、沢山前線で戦ったからね。

 

 単純な強さの自己評価ではまぁまぁ。私はあのエルトよりは戦い慣れしているから強いっちゃあ強いかな。少なくとも力と素早さはあると思うけど。

 

 正直HPとかいう値はエルトの半分もないだろうし、金にものを言わせて揃えられた防具があるから守備力が高いだけで私自身は紙装甲だし。

 

 極めつけにはね、私の対魔法の防御の弱さが致命的なんだ。人並み以下、で済んでないから。むしろマイナスになっているんじゃないかな。全ての魔法が通常以上に効くんだ。常にディパインスペルがかかっているって言えばいいの?

 

 だからメラ一発、ギラ一発で割と死にかける。それを防具が何とか軽減してくれて、かろうじて二発、本当にぎりぎり耐えれるぐらいしかない。私より素早く強力な魔法を唱える魔物がいたら私はお陀仏なんだ。

 

 つまりだよ、防具がすごいだけで私は弱いんだ。火力だけはあるつもりだけど。

 

 これまでそこまでのピンチに陥ったことがないのはさ、単に先手必勝、魔法使い系には魔法を使わせないだけであってね。駄目なんだよ、これから先に進めば進むほど魔物が強くなる地帯に行くのにこんな戦い方じゃあね。知ってるけど直せない……、何とかしたいのに。

 

 だから魔法がひどく、怖いよ。何でもね。

 

 それは私が使えないのもある。けど、得体は知れないわ、当たれば瀕死だわ、もう最悪。だけど魔法は嫌いにはなれない。何故か。嫌いではないんだ。怖いだけ。

 

 あ、エルトが攻撃を食らいそうだ。あの憎っくき靴みたいなモンスターを切り刻んでやろう。

 

・・・・

 

「……ザバン……か」

 

 罠に引っかかったふりをして水晶玉に触れ、罠にかかって嘘を吐いて、引っかかったふりを続行したら戦うことになった魔物。その名前はザバンと言うらしく、姿は赤いマーマンみたいだ。個体名があるってことはなかなか強いはず。

 

 そいつが襲いかかってきた瞬間からトウカは下から鋭く切りかかり、鋭い爪で反撃される前にさっと飛び退いた。彼が身軽でとても素早いからこそ出来る技だ。……トウカは鎖帷子を着込んでいるんだから装備は身軽じゃないけど。

 

 僕はトウカの攻撃の次にブーメランを投げ、体に命中させた。そして、ザバンが痛みに唸ったその隙にヤンガスが丈夫な木槌を頭に当てた。ゴっと痛そうな音が洞窟に反響する。

 

 そこでザバンはキレる。怒り狂って、奥の手を出してきた。

 

「ぬぬぅ……これでも食らえい!」

 

 そして怒りに任せて攻撃を仕掛けてくる! そう思って僕は糧を構えた。でも、宛は外れた。

 

 パンッ!

 

 ザバンが鋭く手を打ち鳴らす。その瞬間に地面から涌き上がった禍々しい霧が、僕ら全員に降りかかる。慌てて身をよじって逃げかけたヤンガスは、霧に当たった時から体を震わせているだけになってしまう。

 

 そして、僕の前で剣を構えたトウカは……突如、トウカの目の前に現れた禍々しく大きな紋章が、その霧を取り込むかのように消し去っていくのを半ば呆然として見ていた。

 

 それから僕は。トウカと同じく目の前に守るかのように現れた紋章……、まるで蝙蝠のような、ドラゴンのモチーフのようなそれにびっくりした。見覚えは、多分無い。こんな魔法は覚えていない。トウカは魔力がないんだからなおさらだろう。

 

 全員が一瞬、固まる。その隙は……ザバンは痛みにうめいただけだった。ここで攻撃されていたら、と思うと背筋が凍る。トウカが躱した一撃は鋭く空気を切り裂いていたから。

  

 それからその霧を浴びてから、最初に動いたのはトウカだった。

 

 普段は腰に差している短めの双剣をさっと引き抜いたと思えば同時に鋭く投げつけ、自分をかすめて地面に突き刺さるのをかわすのに必死になったザバンを、凶悪なほど強烈な力を両手にこめて大剣で切り捨てたのだった。

 

・・・・

 

 水はささやくように伝える。

 

 かの王国、生き残りは二人、姿は人間にあらず。生還した二人、共に人間に有らず。

 

 一人、トロデーンの兵士にして、トロデーンの者でなく。姫の刃なり。身に宿すは力。邪を払う力。魔力。炎。雷。竜の加護なり。彼は人間である。彼は魔物ではない。彼は人間でない。彼は光なり。彼は世を救う勇者なり。

 

 一人、トロデーンの兵士にして、トロデーンの者でなく。王家の盾なり。身に宿すは力。圧倒的なる力。魔力。光。闇の加護なり。流れる血は古く、流れる血は人間にあらず。彼女は人間である。彼女は魔物ではない。彼女は人間でない。彼女は魔なり。彼女は光である。彼女は歪みから出(いづ)る者なり。

 

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林檎「解せぬ」

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