【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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165話 歓待

 トロデ王のことを今更疑っていた訳じゃないが、大国トロデーンの王であることや幾度となく自慢されてきた国力は本物で、今まで受けてきた中で最も素晴らしい歓待を受けることになった。もはや懐かしいアスカンタの食事会が単なるホームパーティに見えるくらいだ。

 

 あれからひょっこりとトウカは宴の前に戻ってきたが、城の懐かしい人間によってたかってもみくちゃにされてまたどこかに行ってしまった。それはエルトも似たようなもんだろう。あの山吹色はよく目立つから探せば見つかるだろうが、トウカはいつも通り白黒の衣装を着ているものだからわかったものではない。

 

 トウカがいないならせっかくの大歓待も魅力が半減だ。俺はゼシカのように大陸が同じゆえのどちらかといえば地元という訳でもないし、肉にがっつくヤンガスのように腹いっぱいにごちそうを詰め込みたいわけでもなかったので少し離れたところから見ていることにした。

 

 長い旅の終わりのフィナーレに相応しい騒ぎだなこれは。つまるところ止まっていた時間が動き出したというわけで、うやむやにしていた一切合切と向き合わねばならないという意味でもある。

 

 俺はマイエラに戻れない。今更戻りたくもないが、これからのことを考えなくてはならないし、トウカは大貴族の令嬢としてあれこれ忙しくやるだろう。今更彼女を諦める気にもならないが、改めて大きな壁がそびえ立った感覚だ。

 

 なんてな。どう考えてもトウカと両想いになる方が難易度高かっただろ。そう思うことにしておく。

 

 取り留めもないことを考えているとゼシカがやってきた。

 

「ククール、そんなところにいたんだ。さっきトウカが探してたわよ」

「ありがとな、それでどっちに行った?」

「さぁ、ちょっと人が多くてもう分からないけれど。舎弟みたいなのを何人か連れてたから分かりやすかったわよ」

「おや、ボクの舎弟はヤンガスだけだよ」

 

 噂をしているとなんとやらだ。真後ろから声をかけられた。確かに舎弟に見えなくもない兵士の格好をしたレディを二人連れていた。その辺にいるトロデーンの兵士たちとは服装が違う。胸元の紋章はトウカの剣についているものと同じ。

 

 要するにモノトリアの私兵ってことなんだろうが、マークが同じだとますます舎弟に見える。ヤンガスには言わないでおこう。

 

 にしても……レディには失礼だが、二人ともいかにも屈強そうだ。

 

「探してたよククール。ゼシカも楽しんでいるところにわざわざ探してくれて助かったよ。ちょっと先に顔を覚えてもらおうと思って……舎弟じゃなくて、うちの私兵たちに、だけど」

「私どもはトウカ様の護衛でございます」

「……なぁトウカに護衛、いるか?」

「もちろん必要ありません! ご当主たってのご命令で、形式上のものでございます」

「有事の時はこれまで役立たずでありました私どもを囮か肉壁にでも使っていただければ!」

 

 命をなげうっても良いと言い切れるほど心酔しきった恐ろしい目をした女たちをトウカは華麗にスルーした。ゼシカのドン引き、分かるぜ。

 

「ボクは旅の途中で近衛兵ではなくなったじゃないか? だから今の立場は陛下の臣下ではあるのだけど、兵として勤務中でないなら貴族として護衛のひとりやふたりはいなくては示しがつかないとか言われてしまって、大仰ですまないね。これでも暗殺未遂は何度もあったんだ」

「これまでは返り討ちにしてきたのね」

「じゃなきゃピンピンしてないさ。レディゼシカはよくご存知だろう?」

「そうね。そういうのはククールの方が詳しいと思うわ」

「同じだろ……」

「おっと、これは祝いの場に相応しくない話だったね」

 

 大袈裟な動作で一礼したトウカの口調を考えるに男装中らしい。真実を知った身としては何をやっていてもただ可愛い訳だが、何も知らなければ華奢な体躯で女兵士を侍らす箱入り貴族の一人息子に見えるだろう……か。背丈ほどもある大剣さえ見なければ。

 

 やっぱり分かってりゃ可愛らしいショートカットのお嬢さんにしか見えない。分かってなければ貴族令息に見えるのか? もう昔の分かってなかった頃の感覚がない。令嬢に女の護衛がついているなんて別に不思議でもなんでもない。

 

「銀髪の彼が騎士ククール。ゼシカ・アルバート嬢はさっき紹介したね。もし彼らが屋敷に来たら問答無用で通すように。あとはヤンガスも……彼はどこだろうか……あっちの料理のところに居そうだな」

「はっ」

「それで、ククール。ゼシカにも声をかけたのだけど、トロデーンに滞在している間に是非うちに遊びに来て欲しいんだ。……他にも紹介したい人がいるから」

 

 それはもしかして両親に紹介ということ……なのか?

 

 一気に心拍数がとんでもないことになっているのがバレちゃいないか心配だが、爆弾発言をした側のトウカはすまし顔をしている。だがよく見ると耳が少しばかり赤い。

 

 ……今、可愛らしいレディ扱いするとあとあと何か言われそうだな。

 

「こちらに些細な問題が沢山あって、ちょっとククールが思っているものとは違うと思うけど、とりあえずはね。

 こほん。我がモノトリア家はトロデーン王家が恩義のあるあなたがたを未来永劫歓迎しますので。正式な招待状は後ほどお渡ししましょう。ね、ボクの……私の可愛い人」

 

 大きな黒い瞳がぱちんとウィンクし、颯爽と立ち去っていく背中を見送るのみに留めておく。きらきらと掲げられた街灯の光がさして、きびきび歩いている背中に白い羽根が生えているようにさえ見える。

 

 まさに俺の天使ってか? 脳みそが沸騰しかけているみたいだ。あー、まぁ、俺の天使には違いない。そういや男装時代はキザなキャラやってたな、と昔を懐かしく思い出しつつ。

 

「……あなたたちも大変ねえ。あの二人はトウカの本当のことを知らないか、少なくとも知らないふりをさせられているんでしょうし」

 

 しみじみ言うなよ、ちょっとばかり見積もっていたよりも壁が分厚かったみたいだが。

 

「さっきお屋敷の前を通ってきたけど、あれ、小国の姫みたいなものよね」

「あっちの世界のミーティア姫らしいからな……心酔している従者があんなに分かりやすくいるなんて思わなかったが」

「どっちかっていうとトウカの方が王家に心酔している従者だったものね。でもトウカならそういうしがらみは大丈夫だって何故か思えるのよね。お兄さんもあの通りだし、妹の幸せを諦めさせるようなことは無いみたいだし。

 ならこれからはエルトの方が大変かもしれないわ。ま、これまで通り応援してるから。じゃ、またあとで」

 

 ゼシカもいなくなって、ひとり残され。料理の席の方を目で探せば直ぐに山吹色の服にオレンジのバンダナを発見したのでエルトに絡みに行くことにした。この感情はエルトにしか真に理解はしてもらえないはずだ。

 

 「高嶺の花」のご両親に対する挨拶をどうすべきか、とかな。エルトの場合はほぼ自分の父親みたいなものだろうが。


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