【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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155話 花火

 おそるおそるというわけではないけれど、気持ち優しく地面を踏む。間違っても()()()()ことなんてないように。頑丈な金属でできたブーツの底がめり込んで足跡が付かない程度には気を遣って、地面を眺める。どこにも危なそうなヒビもないし、踏んだ感じはしっかりしているね。なんとなく大丈夫そうだけど、見た目はとっても不安。

 

「エルト、ここの地面も大丈夫かな?」

「それは大丈夫そう。ビクともしないね」

「こんなに薄っぺらいのにね! すごいや。崩れるよりはいいか!」

 

 吹き抜けていく風が髪の毛をめちゃくちゃにしていった。うーん、断崖絶壁よりなおひどいや。

 

 足元の、空中に浮かんだ曲がりくねった道。里の地下から出たらこうだったってことは、あの里自体も大きめの浮島にあったってことなのかな? ここにくるまでの洞窟でもこんな感じに空中に浮いていたものね。よく似ているけど、里までの洞窟の方よりもずっと細くて頼りないね。

 

 ほんっと、異世界だなぁ。重力はいつもと変わらずあるのにね。魔法がある世界に対して野暮なもんだけど、どういう原理なんだろう? 魔法な論理的にもどうなっているんだろうね。私、詳しくないからわかんないけどみんなもこういうのよりは戦闘特化な知識持ってそうだしわかんないよね。分からないことは怖いよねえ。

 

 魔法建築学とかもはや古代文明の範疇だよ。

 

「これって足踏み外したら終わりかな?」

「恐ろしいこと言うなよ……」

「あれ、ククールって高いところ苦手だっけ?」

「人並みだと思うが。それとこれは話が別だろ。下も見えないんだぞ……風も強いしな」

「ん、飛べたら大丈夫そうだよね。ククールにはルーラがあるから大丈夫大丈夫!」

「……そんなのとっさに唱えられるか……?」

「それに関しては普段から無意識レベルで回復魔法を乱射してるから大丈夫よ。今も無意識にスクルトが重がかっていってるわよ」

 

 ゼシカの言う通りだよね。大丈夫そう。私は……落下したら終わりかもね。どこかの「道」に足さえ引っ掛けられたら上がれる自信はあるけど。神鳥のたましいに縋るくらい?

 

「この世界、見た感じ空の上なんだね。でも落ちていってる感じはないし、空気は不思議だけど薄くはないし、植物は無いわけじゃないけど豊富じゃないのに不思議だね」

「そうだね……」

「魔物も強いし、いっぱいいる! 何を食べて強くなったんだろうね? 全部不思議だ。そんで……空気に魔力にも満ち溢れているし。私でも魔法が使えそうなくらい!」

「姉貴は魔法使えるでがすよ!」

「そうだった! あはは!」

 

 えーい! と気合いを込めて炎をイメージすると手からメラ系のなんか出た! 魔法ってすごーい! ちゃんと魔物も焦げたし効いてるね! でも斬った方が早いね! 気合を込める時間がもったいないね!

 

「落ちてないってことは実はどこかで固定されているのかな? あの洞窟、実は神鳥の巣みたいに塔みたいな構造で、ここも里も固定されてるとか……ね?」

「いいね、その方が精神的には安心だ」

「うん。まあ、その。トウカ、飛び出していって落ちないでね」

「もちろん!」

「魔物を突き落とすのはいいけど、自分まで落ちないでね。できれば投げること」

「合点!」

 

 槍を構えたままエルトはこれ見よがしに魔物をぶっすり突き刺して、それからブンと振った。見事なパワーだね!

 

 串刺しにされていた魔物はもちろん哀れにも落下していく。噴き出す血がナイスな放物線だね。流石エルト。芸術点まで高いとは!

 

「こんな感じにね。あんまり地面、踏み込まないでね」

「エルトの槍さばきは本当に教本に忠実でいつみても綺麗だね!」

「そうじゃなくて」

「了解了解。私だって落ちたくないよ、嫌だよそんな死因。ほらこうでしょ?」

 

 迫りくる太陽みたいな魔物を雑にいちょう切り。とは言いつつただの四等分か。もっと厳密に寄せるなら八等分の方がよさそうだけど、四等分で死んじゃったから仕方ない。こいつ、なんだか切り心地が悪かったから物理攻撃に耐性があるのかもしれなかったけど、()()()()()()()()()じゃないからね。ぶった斬れば斬れるんだよ。うん。

 

 そんで、四等分になった魔物の死体が青い光になって空気中に溶けて消える前に! バットみたいに剣を振って、死体を別の魔物に向かってシュート! ほどほどに踏ん張りはするけどがっつり踏み込まないのがポイント! 四匹の魔物が体のド真ん中に死体アタックを受けて体勢を崩し、そのまま落下! お陀仏!

 

「楽だね。とても楽だね!」

「戦った後もスプラッタにならなくて僕としても結構いいね。防具も汚れないし、戦闘時間も短くていい」

「ね! 陛下もお喜びになるよ!」

「それは……どうだろう……」

「御心を図ろうとするのは不敬だったかもね!」

「陛下は姫と同じくらいの年頃の娘さんにお優しいから大丈夫だよ」

「そういえば私もそうか!」

 

 でも私は陛下の剣だから! その範囲に入っていなくていいけどね!

 

 あぁ戦うってたーのしいね! 笑顔が止まんない!

 

「やっぱりあの二人って幼なじみの親友ってだけのことはあるわよね」

「まあな……」

 

 そりゃあ一緒にいた時間が長いんだから趣向が似てくることはあるともさ! エルトは私よりいつだって実用的で、教本のような無駄のないことを好む。私は派手に戦うのが好きだから、いっそ魔物のサイコロステーキ打ち上げ花火パーティくらいはしてもいいと思うけど、それって結構踏み込まなきゃ打ち出せない気がするし、これくらいでいいんだよね!

 

 ということで出来る範囲で戦ってみて、エルトと私の好みが一致したってわけさ! うーん変わった戦闘もたまにはいいものだね!

 

 ククールを捕まえて先行していくのは禁止されてるし、私はただ先頭に立って敵をバッタバッタと斬り倒しては打ち出していく。そんでどんどん上の方に進んでいって……。

 

 終着点は案外あっさりと分かった。分かりやすいんだもの、権威的で。

 

「いかにもな扉が見えるね! あの向こうに竜神王がいるっぽいね!」

「そうだね。何か聞こえる……」

「あれは叫び声か? 唸り声ともとれるな」

「獣みたいでがすね。竜神王とかいうヤツはあの里の連中みたいに耳のとんがった外見じゃなさそうでがすよ」

「空気が嫌な感じに震えてるわ……気を付けましょう」

 

 めいめい好き勝手感想を言い合って。それから傷を癒したり魔力を満たしたり。戦いの準備を手早く終わらせて、みんなで顔を見合わせる。

 

 そうだ、まだ言いたいことがあったよ!

 

「こんな強そうな相手だし、広い足場があればいいな!」

「そうだね……」

 

 まあ、あんな大きな声が出るくらいなんだから巨体でしょう! でっかいドラゴンがいるってことは足場もそれなりに大きいんでしょう! とは思うけどね!

 

 二本のドラゴンスレイヤーをしっかり握りしめて、にっこり笑う。

 

 ああ! 楽しみだ! しがらみのない戦いなんて!

 

 背中に翼が生えたんじゃないかってくらい心が浮き立ってる!

 

 ククールのバイキルトが私を包み込む。パワー二倍でやる気は無限大だね!

 

 私は扉を体当たり気味に開いて、眼前に広がった階段に向かって駆け出した。みんなも走っていって、それで。

 

「一応最初は話し合いのつもりでね!」

「敵影目視! ねえエルト、もう向こうは見るからに牙を剥きだしているんだけど!」

「じゃあ突撃していいよ!」

「やったああああああ!」

 

 地面はさっきとは比べ物にならないくらい分厚くて、頑丈そうで、しかも広い! だから思いっきり踏み込んで私は階段を飛び越える。赤っぽいドラゴンが私を見て咆哮する!

 

「さあ戦おう! 私かあなたが倒れるまで!」

 

 あいさつはそれだけで十分だよね! エルトだって槍を地面に突き刺してかっとんできて、迷うことなく攻撃したんだもの! 

 

 さあ初対面の怒り狂えるドラゴンさん! あなたのことはなあんにも知らないけれど! 戦ってぶちのめしていいことになってるみたいだし! 戦おう!


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