【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪(ryure)

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153話 推察

『じゃあ俺はこれで。なにか危ないことがあったらルーラでも使って逃げるんだよ。空が見えるところなら大丈夫だから』

 

 ククールの言葉通りならトウカの蹴りから逃れるためか、あまりにもタイミングのいい開き方をした開かずの扉をみんなで半ば呆然と眺めていると、なんとも言えない顔をしたルゼルがシュッと姿を消した。まぁ触媒の世界地図から見てるんだろうけど。

 

 というかここ、普通にルーラ効くんだ? 暗黒魔城都市では効かなかったのに、こっちは異世界なのに効くんだ……。これは案外重要な知見だ。

 

 とりあえず、行こうか。みんなを促す。

 

 おそるおそる足を踏み入れる。中からは魔物の気配はしなかった。ひとの営みがあるにしては静かで、誰かがいるようだった。ここは村なのだろうか。……そもそも人間なのかな、住んでるの。三角谷みたいに住人全部が人間じゃない場所かもしれない。もしかしたら全員人外かも。だって、異世界なんだもの。

 

 ここは、あの闇の世界と違って普通に色はあるけど空気が違うような気がした。

 

「異世界の村、か……」

「言葉、通じればいいけど」

 

 トウカがらしくもなく不安そうだった。そうだよね、当然だけど言葉も違うかもしれない。なんとか身振り手振りで意思疎通できればいいけど……。

 

 扉からちょっとだけ進んだ時、突然トウカが隣にいたククールとゼシカ、ついでに前の方にいた僕を巻き込んで後ろに猫のように飛び退いた。ヤンガスはもともと殿なので察知して自分で下がったらしい。

 

「驚くべき反射神経じゃな……」

 

 唐突なジャンプから立ち直って振り返ると、そこには耳のとがったご老人がいた。人の良さそうなおじいさん、だ。

 

「そう警戒せんでも良い。わしはグルーノ。ぬしたちの案内人じゃ。竜神族の里にようこそ」

 

 彼は僕たちを順々に眺め、最後に僕の顔をじっと見てから優しげに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁここは空が高い。空気もいいね」

「ホントだな」

 

 自分じゃ選べない生まれながらの種族が人間ってだけでなんだかとっても疎外感があるし、真面目にあれこれ聞いて回るのはエルトだけでいいやって気がした。エルトはなかなか真面目かつ妙に図太いのでその程度のことを気にしないから普通にやってるみたい。私に今更繊細さなんてないけど、人並みの感性くらいはある。

 

 そうやって、この滅びそうな里を救うことに否はなくとも「人間」ってだけでいちいち見下されるなら正直やってられない。全員じゃなかったけどね。グルーノさんと彼の家の使用人の竜神族はむしろ私たちに丁重なくらいだった。

 

 ここのひとたち……人ではなく竜神族だけど便宜上「ひと」と表現する……からしたら私もちゃんと人間らしい。忌まわしい過去の負の遺産、進化の秘宝がどうちゃらしても種族の壁は超えていないようで何より。超越的な存在にしてみれば誤差なのかもね。

 

 見下されるのにはみんなで顔を見合せたものだけど、結局ククール以外はみんなエルトについて行った。ヤンガスは今も愚直にエルトの徒弟だし、ゼシカはなんだかんだでお人好しだし。二人がついてるなら大丈夫でしょ。私は私で見晴らしのいい外の景色を楽しみながら、みんなを待っていることにしたら過保護気味なククールも着いてきたってのが正しいかな。

 

 それは違うか。自惚れかも。そういえば厭世気味なんだっけ? 全然そんな気はしなかったのだけど、仲間になる前、マイエラ修道院で噂されていた人物像的には「かったるい」のかも。

 

「何なんだろうねえ、あの夢。ここが不思議な世界なのは間違いないし、里の一族たちが無意識に外部に救いを求めていた可能性もあるけど……どうして私たちだったんだろ。私たち、じゃないか。呼ばれたのは私じゃない気がするよ。誰を呼んだんだろう」

「さぁな。俺でもない気がするな」

「確証はないけど消去法ならエルトかなぁ。エルトにしても状況証拠が少ないし意味不明だけど、エルト以外だとますます呼ばれた意味がわからない」

「確かにな。そろそろ我らがお人好しなリーダーはこの里をさびれさせた元凶を倒してきて欲しいと乞われてるんじゃないか?」

「いいね。神の名を持つドラゴン一族を弱らせる存在でしょ? 胸が踊るよ。いっぱい暴れられそうで」

「……無茶はすんなよ」

「しないしない」

 

 それはいい。戦うことは今も大好きだし。

 

 消去法とは言ったけど、エルトがこことなんの関わりがあるんだろう? 考えても答えは出ない。エルトは私の親友で、小さい時に私と一緒で捨てられた、記憶喪失の少年だった。

 

 もちろんエルトの耳がとんがっていることなんてない。髪の色も目の色も素朴な、身近にいる等身大のイケメンにして優しく時に図太い温厚な私の親友。私にとっては友情的な面で特別な人ではあるけれど、そして彼の能力は間違いなく高いけれど。

 

 いやー、異世界のドラゴン種族と関係あるの? それはちょっと眉唾かも。身体的特徴が人間と違う彼らを見ているとエルトはどこまでも普通の人なんだもの。消去法とはいえエルトを選んだのは間違いかも。まだ七賢者の末裔であるゼシカの方が……いやゼシカは出自、はっきりしてるしなぁ。

 

 そういえばヤンガスもずっと幼い頃、不思議な冒険をしたってこの前聞いたよ。ツボの中の世界だって。完全に異世界だよね、その関係だったりしないかな? 

 

 考えても答え出ないんだけどさ。明らかに怪しいグルーノさん、いいひと……いいドラゴンそうだし答えくれないかなぁ。

 

「トウカ、エルトもたいがい怪力だぞ」

「ククール、君の高速魔法技術は暗黒神を超えている説があるよ」

「……」

「強いのはいいことだよね」

「まぁな……」

 

 ククールはぐいっと伸びをすると、里の奥の方から戻ってきたらしいエルトたちに気づいた。

 

「行くか」

 

 自然に差し出した手には「ちょろちょろどっかに行くんじゃないぞ」という、エルトと同じような圧を感じたので大人しく握っておくことにした。

 

 手を繋いでいるのを見られても迷子の子どもを連行しているようなようにしか見えないのはちょっと悲しいところだった。十八歳は立派な大人なのにな。


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