【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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ポルトリンク編
12話 活気


「これは活気がある街だ」

「お天道さまが眩しいでがす」

「海の匂いってこんなのなんだね」

「お主ら、感想はいいからさっさと行かんか」

 

 想像よりはポルトリンクは遠かった。海沿いにずっと進んで、潮の香りに胸をときめかせて、魔物を狩るのはちょっと手間だった。でも距離はトラペッタからリーザス村ほどじゃない。何より海っていうのは不思議なもんで、見ているだけで元気になったから、昨日いろいろ体調がおかしなことになっていたのを全部吹き飛ばす勢いで戦えたし、走り回れた。

 

 そして、やっと着いた頃にはおひさまはもう真上。ちょっと感慨深くてみんなで感想を並べ立てたら陛下に叱られてしまった。それをご覧になる姫様は、心なしか微笑んでいらっしゃった。

 

「はい。では聖水を」

 

 ボクとエルトで魔除けの聖水を辺りにまき、特に動くことなくそこにいれば魔物が近づかないようにした。全くこれは便利な代物だ。虫除けスプレーだってこんなに顕著じゃなかったのに。ファンタジーが入るとこんなに効果が凄いことになるなんてね。私、初めて知った時は感動しちゃった。

 

 それから少し、港町を散策することにした。エルトとヤンガスは買い物があるとかで二人固まって聞き込みをする。私は買い物は別に必要ないからぶらぶら歩きながら情報を集めようかな。ここの人たちはポルトリンクに住んでいる人だけじゃなくて、旅人も多いだろうから。朗報があるといいなぁ。

 

・・・・

 

「不気味な道化師の目撃ならあった。ただ目撃以上は特になかった。それから、ここからトロデーンに行ける荒野周りの道が土砂崩れで通れないとか言っていたね」

「僕が分かったのは、船が欠航してることぐらいかな……」

「じゃあゼシカさんを探そうか」

「え、なんで」

 

 大した情報もないし、トロデーンに戻れないのは現状、どうしようもないし、これからどうしようかと思ったら、何故だかトウカはゼシカさんを探すとか言い出す。

 

「だって目標が一緒なら、ゼシカさんが何か情報を掴んだかもしれないし。船、欠航してるなら彼女、まだポルトリンクにいるよ」

「なるほど、賢いね……」

「流石でがす」

「よせやい」

 

 少し頬を染めた照れ顔でトウカはそっぽを向いた。

 

 で、提案通りにしたら面倒ごとに僕らは巻き込まれたってわけだけどさ。

 

「だから! 何で船が出せないのよ!」

「いくらゼシカお嬢様のご命令でも……魔物が暴れていますので……」

「それぐらいアタシが退治してあげるって言ってるでしょ」

「しかし、ゼシカお嬢様の手を煩わせる訳にはいきませんし、万が一怪我でもあったら……」

 

 船の乗り場の近くでゼシカさんを発見した。どうやらトウカの予想通り、ゼシカさんも船の欠航に引っかかってこの大陸にとどまっていて、受付で欠航の説明をしていた船員さんに文句を付けてるみたいだけど……。これ、邪魔したらまずいのかな。

 

「え、なになに?魔物退治だって? なにそれ楽しそうだね、それ、ボク達に任せてくれない?」

 

 邪魔するのはよそうと思って、そっと身を引こうと思ったら、僕の隣でいきなりトウカが言い争いに口を挟んだ。怪訝そうな船員さんにトウカは身長ほどもある大剣を片手でやすやすと引き抜いてみせる。

 

 それを見せつけられた船員さんは驚いて後退りした。かわいそうな船員さんを尻目に僕はトウカの肩を叩く。それは、「驚かないほうが無理があるよ」「少しは自重してくれ」という意味だ。

 

「これでもボクは腕っ節には自信があるんだ。ゼシカさんも困ってるし、ボクたちも船に乗りたいんだ。魔物退治ぐらいで船に乗れるなら、是非ともやらせてよ」

 

 その時、いっそ清々しいぐらいにトウカは笑っていた。ああ、今、「僕達」って言ったね……僕らも巻き込んでまで、バトルしたいのかな……。勿論単騎で突入するんだって言われても着いて行くけどさあ……。

「この人もそう言ってるし、船を出してよ」

「……分かりました、ゼシカお嬢様」

 

 ええ……。結局、乗り気なのはトウカだけじゃないの……ってヤンガスまで、見てみればノリノリじゃないか。なんだか胃が痛い。

 

 ……そうだ、潔くスパッと諦めよう。諦めてしまおう……正直、ちょっと強い魔物程度なら僕もヤンガスも必要ないんだよね。それくらいトウカが強いから。勝率は聞くまでもなさそうだ。……でも心配だから絶対に行く。最高にテンションの上がったトウカほど、防御を顧みない人はいないから。

 

「準備はいいの?」

「ん? ボクは何時でもドルマゲスと戦えるつもりなんだよ? エルト、ヤンガス……準備は?」

「僕はいいよ……」

「あっしもいいでがす!」

 

 弾んだトウカとヤンガスの声と、若干げんなりとした僕の声が対照的だった。船出の準備をしながらこちらを見たさっきの船員さんが憐れむようにこっちを見ていて、余計にげんなりした。この、巻き込まれて戦いに連れて行かれる疎外感は結構身にしみた。

 

 

 僕はその海の魔物にダメージを与える為に尽力する必要はあまりない。ダメージソースはトウカとヤンガスだ。僕のやるべきことは最前線で戦うトウカとヤンガスにホイミを浴びせかけること。怪我した瞬間に治していけばいい。それ以外には最近覚えた攻撃呪文を試してみたいから、このチャンスにやってみよう、……そもそも魔法が効く敵なのかな……?

 

 船に揺られ、軽く現実逃避しながらも、新しく買った鉄の槍を構えた。まだ、海は穏やかだった。


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