【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪(ryure)

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125話 願3

・・・・

 

「あぐっ……」

 

 懐に飛び込んで、その上剣が効かなくて、流石にトウカは動揺したみたいだ。一瞬の気の緩みを見逃さなかったレティスはトウカを蹴り飛ばした。

 

 そしてそれは直撃、ガードする間もなく鈍い音を立てて吹っ飛んだ。いつもなら空中でも速攻体勢を立て直して着地できるのに、強烈すぎる一撃は、着地の瞬間の意識まで刈り取ったらしく、地面に体が叩きつけられた。トウカを中心に赤い血が真っ黒の大地に散る。

 

 すぐに起き上がろうとしているけれど、あれは……あの傷は。流石のトウカでも無理だよ。無茶だ、止めて。骨が無事か、内臓は平気か、と尋ねるどころじゃない、全身めちゃくちゃだ! 

 

 駆け寄ったククールがベホマを唱え、止血をする。追い打ちをかけられないよう、ヤンガスがレティスの気を逸らすのになんとか成功し、僕もそれに参加する。ゼシカもダメージが通りにくいと知りながらイオで気を逸らさせて羽根を幾らか散らした。

 

 ベホマは回復魔法の最上級。でも……骨が何本も折れてるようじゃ、呪文一発で何とかなるものじゃない。骨に一つ一つ魔法をかけて治していかなきゃいけない。もちろんその時点でトウカの体力が切れてたら治らない。そこは大丈夫なはずだけど!

 

 視界の端でトウカがククールの肩を借りて立ち上がるのが見えた。助かった、僕は盾を装備してても槍で退けるのに精一杯で攻撃をほとんどまともに食らっていたから、そろそろ失血でどうかなりそうだったんだ。この鳥、人間の生き血でも好んでるのかってぐらい突っついてくる!

 

 自分にベホマを唱え、狙われたゼシカを横からかっさらって、背中に思いっきり一撃をもらうも即ククールが回復してくれる。

 

「エルト!」

「!」

 

 でもこのままじゃちっともらちが明かない、そう思って舌打ちしそうになったその時、後ろからぽん、と軽く背中を叩かれた。頭から足の先までずぶ濡れの血まみれだけど、無傷になったトウカだ。

 

 ふと、目を合う。

 

 ……了解。

 

 次の瞬間、トウカがレティスの足に剣を叩きこんだ。同時にどれだけの力を込めたのか、地面にびしりとひびが入る。僕はそれに巻き込まれまいと槍を地面に突き刺して飛んだ。同時に槍は手放して。

 

 二撃目を叩き込み、完全にレティスの足場を崩壊させたトウカは大剣をぶん投げてレティスの片翼を切り裂き……損ねた。それでも虚を突かれてよろめいた姿に容赦なく僕の槍をぶっ刺す。僕じゃ到底通らなかったけれど、バイキルトのかかったトウカに少々の無茶は余裕なんだろう。

 

 完全にトウカに意識の向いたレティス。僕はレティスの斜め後方のところに突き刺してある槍を引っこ抜いた。

 

 重すぎだよね、これ。

 

 動かずの槍と謳われた、馬鹿みたいに重い槍。剣士ゆえにめったに持ち出してこない、トウカの私物。

 

 これの特徴は切れ味じゃなくて重くて頑丈ってことだよ。

 

 で、僕にもバイキルトはかかってる。

 

 僕も跳んだ。

 

 さっきまでのトウカみたいにレティスの背中に飛び乗って、バイキルトで倍増した力をもって、ただでさえ落とすだけで人間の足程度なら破壊するその重さをそのままに、そりゃあもう思いっきり、叩き込んだ。同時に突きあがるような下からの衝撃にうっかり振り落とされそうになる。トウカが剣か槍で追撃を加えたらしい。

 

「……ああ、やった」

 

 僕たちの勝ちだ。耐えきれないような悲鳴のような声とともに、重苦しいほどの殺気が一瞬にして四散していった。

 

 そして僕は信じられないほど丁寧に地面に下され……る前に、槍を抜いてくれないかとものすごく丁寧に頼まれ、了承した。レティスの腹部に僕の槍を突き刺したトウカの方は苦労して刺したのだからと少しばかり渋っていたけれど。

 

 そして牙もとい爪を収めたレティスはとても恐縮しているように見えた。

 

・・・・

・・・

・・

 

「普通にあり得ない。焼き鳥にしてやりたいんだけど」

 

 目撃者のいない空の彼方、風を切って進む影の少年はぶつぶつと文句を言っているようだった。

 

「力を試すとか言っていきなり殺しにかかるとかありえない。どんな大きなもふもふでも一発殴ってやらなきゃ気が済まない……」

 

 彼はキッと前を見据える。すると影の姿をしていた少年にゆっくりと色がついていく。()()()()の目には闘志が宿っていた。誰かによく似た、そんな闘志が。

 

「特に欠片も助太刀しなかったミシャ……ない、本当にそれはない。絶対にない。騎士道ってものの欠片もないみたいだね、後でお話が必要だね。……やっぱりついてけばよかったな」

 

・・

・・・

・・・・

 

――今の戦いはあなた方の力をためすために仕掛けさせてもらったものです……

 

「なんか言ったか?」

「ククール、先に自分の怪我を治したほうがいいと思うんだけど」

「一番の重傷患者は黙って治療を受けとけ」

「はぁい……」

 

――私も痛かったんですよ……結構……

 

 死屍累々といった様相でほうぼう、地面にぶっ倒れているけど、個々の回復はなんとかやっていっているところ。僕がゼシカとヤンガスを診ている……といっても詳しいことは分からないので見える傷を治していくだけ……間に腱やら骨やら内臓やらがめちゃくちゃになっておきながら、よくぞあんなに動けたものだと感心されたトウカがもはや主治医のククールにひたすら治されている。

 

 結構失血してたわりにはトウカ、元気そうだ。あれかな……女性の方が失血に強いって言うやつかな。僕なんてもうふらっふらだよ。え、ゼシカもしんどい?ただ単にトウカが元気すぎ? なんだ、平常運転か。

 

 え、レティス? うーん、知らないな。目の前になんかいるけど、あれは聖水みたいに魔物を寄せ付けない機能があるってだけでしょ、ねえ?僕はもう疲れたんだ。いきなり襲い掛かってくる相手にはちょっと日を改めてもらいたい。いや本当に、こっちも急ぎだけどこれ以上動いたらぶっ倒れそうっていうか……。

 

「その、皆さん、大丈夫ですか……?」

「大丈夫なわけあるかっ」

「あはは、ははっ! 結構痛いよ!」

「しばらく夕食は焼き鳥がいいわね!」

「賛成でがす!」

「僕も賛成だよ!」

「それは、その、えっと、迂闊なことを言ってすみません……」

 

 しばらく動きたくもない僕たちの代わりにミシャがレティスの前へ出た。すると何故かすでに新品同様といった様子に回復した翼を広げたレティス。焼き鳥の応酬のせいでこっちまでは回復してくれないみたいだ。していらないけど、元凶にされるくらいならいらないけど!僕の魔力は残ってるし! ククールの犠牲によって!

 

――あなた方を試したのには、訳があるのです。

 

「わけ、ですか? 神の鳥とあろう方が?」

 

――ええ、この世界に、呼んだ理由です。影の住民のあなたはここに自分で来たようですが。

 

「影の住民……」

 

 なぜかショックを受けた顔をしたミシャ。押し黙った姿にも関係なくレティスは続けた。なんとなく、切羽詰まった声色……声なのか微妙なとこだけど……だ。

 

――私の赤ちゃんを助けてくださいませんか。

 

 ……そんな緊急事態なら僕たちをここまで疲弊させる前に言ってくれればよかったのに! ぽかんとした僕たちは顔を見合わせ、一も二もなくうなずいた。

 

 いきなり襲い掛かってきたレティスは正直気に食わなかったけど、元凶の魔物と渡り合えるか確かめるためだったとのこと。それを言われても結構死にかけたし簡単に許せるわけじゃないけど、今は済んだことだし、あとだよ。取り合えず僕たちは明日の朝にはレティスの巣へ向かい、赤ちゃん……卵の安全を確保しに行くことを約束した。

 

 ミシャの切なる訴えも、僕たちの願いも、レティスが気が気じゃない状態では何ともならない。卵を何とかした暁にはレティスもその力を貸してくれると約束してくれたのだった。

 

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・・・

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