【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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120話 止木

 走るのって気持ちいいよね! 小さい頃はそんなに足も動かなかったし、すぐ口の中が鉄の味になったものだけど慣れて鍛えた今なら平気さ! 大地を踏みしめ前へ飛ぶように進んでいけばひゅんひゅん風を切って進んでくんだ。それがたまらなく気持ちいいんだよねぇ。翼はないけど飛んでるみたいさ!

 

 超低空飛行って感じかな! 今更ながら説明するけれど、この世界の人間っていうのは……魔法が使えなくても、基本的に前世でいう「人間離れ」してるからさ! 例に漏れず私も十メートルや二十メートル、助走がなくてもジャンプ出来るんだよね!

 

 ヤンガスとか凄いよ、溜めは一瞬で相手の頭をカチ割る一撃をぶちかます脚力……と、もちろん腕力を魅せてくれるから! もちろん魔力を使わずにね! 私はあんなクレーター作れな……出来るかもしれないけどさ! ていうかできると思うけど! いやいやすごいと思うことに自分ができるかどうかはあんまり関係ないね!

 

 あ、私かい? 彼みたいに常に瞬発力と重力を利用して叩きつける……一撃が重いタイプじゃなくて進みながら切り裂き、細切れにするタイプだね! 一撃は軽いんじゃない? 骨まで断つけど! 軽い理由は普段からクレーター作ってないから! 体力に自信はあるけどスタミナは温存するに限るからね! あ、こうやって走るのは別! とってもとっても楽しいから!

 

 剣も防具も決して軽くないけれど、気持ちいい速度で走る分にはまったく問題ないね! もちろん外したらもっともっと羽根のように軽々と走り回れるだろうけど! 体重が減った分、慣性の法則の影響で逆にしんどいかもしれないけどね! 一度飛び立てば何もしなくたって前に進んでいくのが今の普通なんだから!ほーら、魔物が今みたいにいないなら両手を広げて飛んでいきたいぐらいさ! 大空高く飛べるなら楽しいだろうねえ、翼がほしいな!魔力の次に!

 

 お、目の前の丘の、そのまた遠くになんか見えてきた! うわあ、でっかい!

 

「止まり木ってあれかなぁ!」

「こりゃまたでかいな……」

「登ったらすっごく景色がいいだろうね!」

「……あれに登らないって約束してくれるか?」

 

 なにさククール……私だって分別のつかない子供じゃあるまいし、登らないさ! 今のこんな時間の無い時に登ろうなんて思わないよ! せいぜい、当主を継ぐとかなんとか、どうせトロデーンに平和な感じに戻れてもさ、周りも私もばたばたするんだから! 登るとしたらその時のどさくさ紛れにもどって来てから登るから! 責任感は継いだ後から!

 

「それならいいが……」

「登っても落ちたりしないのに、心配性だね?」

「……」

 

 なんで胃薬を求めてるの? もしかして一緒に、よりも一人で登りたいのかな? ククールは……かっこよくムーンサルトは出来ても木登りとかはできないのかな?それなら背負って連れていってあげるけど。にしては反応が違うような?

 

 あ、実は高所恐怖症とか? ……ルーラはできるのに? 魔法は大丈夫、とかなのかな? ああ、それとも見てるだけで怖いってやつかな? ああ、それはあるある! というかよくいる! 私の鍛錬を見に来てからどうのこうの怯える人とかね! 刃物が怖いとか、慣れてない物を見てつい恐怖が出ちゃうなら来ないほうがいいんだけど、な!精神衛生上!

 

「トウカにしては正解にたどり着いたみたいだけど……」

「見てるだけで怖いのは仕方ないね! だったら見てない時に登るよ!」

「知らされたら怖いと思うわよ」

「あ、そっか」

 

 そりゃそうだよね! うーん、じゃあ残念だけど辞めとくしかないね。ククールって見た目通り繊細なんだなぁ。黙って微笑まれたら天使みたいじゃない?

 

 顔も、カラーリングも。いやぁ私には欠片もないやつだよ。儚い感じっていいねえ、庇護欲が……というにはククールは体格が良すぎるか。身長の差が頭一つ分はあるからね。腕も足もちゃんと筋肉がつく体質みたいでうらやましいし。私はあまりつかないからね。性別のせい? 男性のボディービルダーみたいな筋肉が欲しいわけじゃないけどさ、強そうにはなりたいんだよね! 舐められるのは愉快だけど……嫌いだね。

 

「そうね……繊細な男でしょうね」

「私は図太いことを自覚してるから、なんか……いい、というか」

「真似した方がいいのは確かよ」

 

 え、そこまで? 繊細ということは……もっと衛生的な戦い方をしろとか? 先手をとるためならいつでもそこらへんにある泥沼にでも突っ込む気概なの、バレてた? そこらへん、この前まで雨降ってたのか水たまりばっかりだし。なんか汚く濁ってるけど。もっと汚染がきついところなら毒の沼地になってるだろうなってくらい。

 

 うん、キアリーの手間を省いた方がいいよね。

 

 とかまぁ、昨日ある程度魔物たちを駆逐したからこそできるおしゃべりも終わり。目の前にはもう、超巨大な止まり木……と言わざるを得ない建造物がどーん。多分人工だろうけど、どうやって作ったんだろうね?

 

 ピラミッドみたいにめちゃくちゃたくさんの人を動員しなきゃ出来そうにないね。の割には……レティシアはお世辞にも人口が多いとは思えないし、この隔絶された台地には他に人間が住んでるところがあるとは思えないし。うーん、謎だ。もしかして、こういうの、魔法でパパッと作れちゃうのかな?ゼシカの魔力と才能を建築系に偏らせたらいけそうだなあ。

 

 一番乗りに駆けつけ、首が痛くなるぐらいの建造物を見上げる。近くで見たらなおさらとんでもない大きさだね。登って、そんでてっぺんから落ちたら……うーん、それでもちゃんと然るべき着地をしたら怪我しないと思うけどな。

 

 体重込めて、ものすごい速度で私は剣を振り下ろした上にもちろん、自分もすごい勢いで地面に着地、とかよくあることだし。その高さは身長の三倍ぐらいだけど。正直塔のてっぺんから落ちても衝撃を分散させる余裕と時間があるなら怪我で済む気がするんだよね。猫みたいにやればさ。ライドンの塔レベルなら両足は折れるだろうけど。

 

「……レティスのお出ましだな」

「あ、昨日のやつ」

 

 長いこと見とれる暇もなく、音もなく現れたのは見覚えのある大きな鳥の影。それは私たちの周りを旋回した後、ゆっくりと羽ばたきながらあらぬ方へ進み始めた。着いてこいと言わんばかりに。ていうか着いてこい、ってことだよね?

 

 よーし、あの速度だとそこそこ走らなきゃ置いていかれちゃうね! みんな、走ろうか! いっぱい走れるね!

 

 にしても相変わらず魔法が使えるみんなの方が気づくの早いね。探知できなかったら最悪奇襲で死んじゃうんだから……ああ、なおさら魔力が欲しい。欲を言うなら魔法を使ってみたい!

 

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