【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪(ryure)

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114話 予感

 いやはや、ほんとにあるなんてね! え、何がって?!

 

 橋の下にいかにもな洞窟があったことが、だよ! これ見よがしに大口開けててさ、なのに上からは見えないんだよね! 良くやったよね! ていうか手口が堅気じゃないよね、ここって犯罪者の……海にあるんだから海賊のアジトだったんじゃない?

 

 なんで過去形かって? そりゃ、こんなに魔物の気配がうじゃうじゃしてるんだし、乗っ取られて滅んだか場所を変えたかのどっちかじゃないかな、普通は!

 

 海の魔物って陸の魔物より強いことが多いよね、かならずじゃないけどね。だから舐めてかかってたら襲われて全滅、とか珍しい話じゃないんだよ。手練の戦士が海で片腕を失うとか、命を落とすとか、仲間を死なせてくるとかよく聞くでしょう。

 

 あれ、別に物語の盛り上がりとかじゃなくて実際そんなものだからさ。それとか、伝説ならオリビア岬とか有名じゃない? 伝説の勇者様のお話でさ。レティスは出てこないけどラーミアっていう大きな鳥が出てくる話さ。

 

 にしてもここ、不気味な雰囲気。なのにワクワクするよ! 絶対中にお宝が眠ってそう! 剣士像の洞窟よりもよっぽどね! あ、だったらここって海賊の洞窟って名前かもしれないな!

 

「入口閉まってるけど」

「メディさんに鍵を頂いたから開けれると思うよ?」

「……ほんとだ」

 

 最後の鍵の効力で錠前が外れるのは理解できるんだけど、よくこんなもろに潮風を受けるようなところで明らかに長い間放置されていて開いたよね! 錆び付いて一体化してたら吹っ飛ばさなきゃいけないと思ったのに。錆止めの魔法とかあるのかなぁ?

 

 さぁて中の魔物もぶっ飛ばすぞと意気込んで剣を引き抜く。……この色は地味なくせに悪目立ちする衣装だと服が突っ張ったりしないし、本当に私にあつらえているからスムーズで、スムーズすぎて悪く言えなくってしょうがないね!

 

 後ろからなんか、覚えのある気配がするんだけど! えっと……私は互いに遭遇したくないから向こう側の扉の中になんかないか見てくるね! 大丈夫大丈夫、ここもちょーっと魔物出るけどさ、誰かを守りながらじゃないなら逃げるだけ! 跳んだり避けたりは得意だからね!

 

 ……ヤンガスのガールフレンドっていうか、ヤンガスの知り合いっていうか、ヤンガスと縁の深い人っていうか。ゲルダさん、だよね。宝の取り合いになっちゃうなぁ。

 

 お金や金銀財宝みたいなものは別に必要ないけど……もし必要なら私の魔物や暗殺者をぶちのめしまくった報奨金でも使えばいいし……眠っているものの中にレティスに会うために必要なものとか、暗黒神を弱体化させるものとか居場所を掴めるものとか、ものすごく強い武器や防具があるならあまり譲りたくないな。

 

 というかそうなったらヤンガスには悪いけど力ずくで奪うしかないからね……。

 

 あ、不思議な木の実見っけ。

 

 これ食べたら私も魔法が使えるかな……って既に試してるから無理だけどね。誰にあげようかな、やっぱり回復役のククール? それとも攻撃役のゼシカ? エルトでもヤンガスでも良さそうだよね。ま、後で考えよっと。

 

 よーし、みんなただいま! 競争だね? なら今すぐ突入だっ!

 

・・・・

・・・

・・

 

「最近新しい剣技を覚えたんだよ!」

「へぇ……」

「ほら、『ゾンビ斬り』!」

「ただ十字に斬ってるだけじゃねぇか?」

「あ、バレた?でも、倒せりゃいいの!」

 

 見えないぐらい速い斬撃が十字の軌跡を描いてボーンファイターを葬り去る。本人の言う通りただの隼切りなんだろうが、威力は普段と同じく果てしなく強力だ。

 

 残像がチラつき、時折松明の光にギラギラと反射して雰囲気は聖なる剣というよりも魔剣だな。

 

「聖なる力で攻撃! とかとてもワクワクするよね、ククールとお揃いになるし。信者でも聖職者でもなんでもないから出来そうにないけどね!」

「信じてねぇのかよ……」

「存在は信じてる! 助けちゃくれない!」

「……あぁそうだな」

 

 さっぱりとした明るい口調で神の救いを斬り捨てたトウカは祈りなんかよりも確実に効果のある剣をぶんぶん振るって道を切り開き、仲間を奥へと導くように立つ。

 

 なんとも男前な後ろ姿を守りたいと思わない訳でもないが、もはや俺は諦め気味に怪我を負っているようなら治すということに特化してじっくり見つめていた。大丈夫そうだと思いながらもほぼ常に呪文を詠唱するくせでスカラをトウカにかける。……別にスクルトでも良かったな。

 

 ……トウカ以外の誰かからの視線が突き刺さるのを感じるんだが。ゼシカはともかく野郎二人は頑丈なんだからアタッカーで前衛の癖に守備が弱めの……回避率は高いが……トウカに回すぐらい贔屓でもなんでもないだろ。

 

「ありがと!」

 

 薄暗くてジメジメとしている洞窟の中でもきらきらと眩い笑顔が一瞬向けられて、俺はスカラの重ねがけを決意する。単純?言ってろ、トウカはな、こういうデレは多めでも意識してくれる事はまずないから、ひとつひとつが大事なんだぜ。

 

 最後尾の俺の背後から襲い来る魔物どもに左手でバギクロス、右手でスクルトを唱えつつも何度見ても頭の中にはトウカと笑顔が焼き付くものだと自分の想いように感心、だ。ここまで手応えがなくてよく続いてるもんだよな、と。

 

 左手に馴染んでいるのが杖でなきゃもう少し前向きになれたと思うんだがな……。俺は、というか一応俺も騎士だぞ? レイピアを持っていて邪魔になることはないが杖の方がいろいろ便利だ、とそれだけの理由でこのザマかよ……。

 

 ひらりひらりと魔物どもをすり抜け舞う姿にあの酷すぎる怪我の名残は何も無い。それどころか仕掛け扉の仕掛けすら解かずに扉ごと吹っ飛ばしてグイグイ先に進む姿はひょっとするといつもよりワクワクしているように見える。はぁ……脳内麻薬でテンションを上げられると怪我が増えるから勘弁して欲しい。

 

「謎解きは?!」

「どうしようもないなら考えよう! そうじゃなきゃ吹っ飛ばそう!」

「製作者泣いてるよ……」

「そりゃ失礼!」

 

 ムーンサルトで俺達を攻撃しようと身構えた瞬間にオーシャンクローは葬られ、キングマーマンの無念の断絶魔はいちいち構えるものでもない。うっかり迷い込んだらしいしびれくらげがそそくさと逃げるのを見逃して、通路の狭さからいつものように槍を使えずに不貞腐れたエルトにバイキルトを唱える。

 

 ……エルトの剣はどことなくトウカに似てるな。遠心力を使うところは違うが、流石は昔馴染、か。

 

 得意武器を封じられた上にムーンサルトを防ぎきれずに腹に食らったエルトがギガスラッシュをぶっぱなし、余波に巻き込まれないように後衛側に下がってきたトウカはなんで槍使いなんだろうと呟く。

 

 あぁ、全くだよな。

 

「私もあぁいう技使いたいなぁ」

 

 俺もやろうと思ったらジコスパークを使えるんだぜ?

 

 と一応アピールしておく。槍でエルトがジゴスパークを撃っているのは知っているだろうが。

 

「ほんとに?! 今度見せてよ!」

 

 いいぜ。

 

「やった! みんなかっこよくて強い技使えるんだね、私も編み出さないとなぁ!」

 

 ……ジゴスパークよりも強い五月雨剣でバッタバッタと殺しながら言うセリフではないだろ……。

 

「水門見っけ!」

「ちょ、ちょっと早いから、待ってよ!」

 

 いつもと同じような騒がしさに妙に安心する。なのになんで……レティスと聞いてから胸騒ぎがするのだろう。目の前の笑顔、仲間に向けられる微笑み。それらが全部奪い取られてしまいそうな……。

 

 ただの予感に女々しいこった。奪われる? まさか。むしろうちのパーティのたくましさなら毟るだろ、こっちが。


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