【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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106話 冬国

「ありがとうございました!」

 

 見送ってくれるメディさんに頭を下げ、寒空の下手をぶんぶん振る。犬のバフも見送ってくれてなんだか幸先のいいスタートだよね。正直最近暗い出発ばかりだったから……。はやくレオパルドに追いつかなきゃね、どこ行ったんだあの犬。

 

 一晩経ってもヌーク草の効果は健在でみんなコートもなしに元気そう。寒くないから風を全身に浴びつつ大きく跳び、上から魔物に斬りかかろうが腕をぶん回してくるくる回るみたいに斬りつけても寒くない! うん最高!

 

 マヒャドフライのマヒャドはもう勘弁、だからちゃっちゃと羽根を半分に千切りキャベツみたいにして叩き落とし、からの縦に切り裂き! これのいいところは縦に切り裂きつつ反動で後ろのマヒャドフライも縦切りされるってことかな! 下から切り上げればいいんだよ! うんうん前も似たようなことした気がするけど! 背後に味方がいないか確かめてからやろうね!

 

 おっそろしく血色の悪い吹雪の魔女がテンションを上げていようがその扇子に飛び蹴りして首を狩るぐらい訳ないし、寒くないなら血を避けるのだって簡単だよね!調子いいから一太刀も食らってないし! お陰様で私にかかる魔法はもっぱらスカラだよ、いつもククール、ありがとう! ついでにバイキルトもお願いできるかな?

 

 人間っぽい見た目をしてるからって彼らは根本的に魔族という別の生命体、こっちの命を脅かしてくるなら容赦なんていらないよね!まぁ……見た目がそれっぽいから、あまり酷い斬りつけ方をするとショッキングになるから首狩りにしてるんだけど。

 

 当てつけじゃないけどブリザードのザラキが私を掠めたときは踏み潰したけど。え、物理は効きにくいはずだって?効きにくいだけで効くならレベルを上げて物理で殴ればいいじゃないか! 多分無意識にテンション上がってただけだけど! 核とでも言えばいいのか、それを雪に叩きつけつつじゃりっと踏み砕けば青い炎の体も消滅するし寧ろほかの魔物寄り倒しやすいんだよね!

 

 キラーマシンとかはそのまま斬ったら刃こぼれしそうな見た目だから継ぎ目をばきばき切り裂いてから蹴り砕くけどさ! 斧でド突くならともあれ、だよ! まぁ刃こぼれ覚悟で一回ね、頭っていうか本体にでっかい切れ目を入れたらキラーマシンってば回線まで切れたのかショートしたみたいで、すごくガションガション言いながら吹っ飛んでったけどさ! えっと、なんか言い残してったけど、口真似するなら……。

 

「モルスァ……?」

「トウカやめて、それ以上はいけない」

 

 私もなんか踏み入れてはいけない領域だって思った。……機械って狂ったら行動同じなのかな、うん。にしてもキラーマシン、誰が作ったんだろう。ラプソーン? なんとなくそういう工学より魔法系に特化してそうなんだけどなぁ……?

 

 もしかしたら古代人、かなぁ? それって私の先祖なんだけど! 古代人はロマンとスチームパンクが好きだったのかな? 船の浮遊石とかさ! ロマンに溢れてるよねぇ……ちょっと素敵じゃない?

 

 そうそう、キラーマシンって見た目はメタルハンターそっくりだし、同じ人が作ったのかも? メタルハンターって名前の割にははぐれメタルと共存してるし、共存できるならある程度考えることが出来るってことだし、もしかしたら目の前の冷たい機械兵にも心があるのかもしれないなぁ! 赤い警戒色のランプに温度はないけど、さ。

 

 でもでも、願わくば、私との戦いに心躍るトキメキを感じていますように! 私と同じように! 血湧き肉躍るって訳じゃないよね、君たちにとっては機械油湧き鋼装甲躍る戦いをしよう!

 

 なんか遠くの方でこっちをじっと見つめるだけで敵意の欠片もないキラーマシンもいたし、あながち間違ってないかもね! 赤じゃなくて青の光を灯したキラーマシン、何故か私が見ていることに気づくとそそくさと立ち去ったけど!なんだろね。

 

・・・・

 

 さてさてたどり着いたオークニス、ドーナツみたいに丸い建物がひとつの街になってる外気と触れ合わないようにした冬国らしい設計がなんとも素敵な街だよ。入口の氷のアーチも雪に反射した太陽光が煌めいてとっても綺麗。赤いレンガの情緒はトロデーンにもサザンビークにもアスカンタにもない雰囲気だよね!

 

 ただひとつ気になるのはもし火事になったら大変なことになりそうだなってことだけ。レンガだからちょっとは安心だけど……それでも木のものってあるでしょう。空気も乾燥してるし……暖炉はあるだろうし。まぁ、大丈夫なら大丈夫なんだろうなぁ。換気も気になるところだけど私みたいな一介の旅人は気にしないで全部片付けることとして。

 

 そうだ、最初は何するんだっけ、エルト。

 

「メディさんに頼まれてたことでしょ」

「そうだった。グラッドさんだっけ? 袋を渡さないと」

 

 私としたことが戦闘にかまけてたからかな、うっかり。最重要事項を忘れるなんて。いけないいけない。たしかグラッドさんって薬師さんだよね。

 

 立ち位置的にはお医者さんみたいな役割もするだろうし、有名でもおかしくないから聞き込みする? それとも、もはや地図にのってたりして。どれどれ……うーん、なかったけど。

 

「ちょっと見ただけでも迷いそうな街でがすなぁ」

「そうよね、いつもみたいに手分けして探したら二度と会えなくなりそう……」

 

 入口で貰った地図を見て溜め息。ヤンガスとゼシカの言うとおりにも程がある。もしこのややこしそうな地下も赤レンガで似たような場所ばっかりなら……うう恐ろしい。方向音痴なパーティメンバーはいないけど、特別野生の勘があるわけじゃないし……。え、何エルト。私の顔になんかついてる?溜め息吐かないで、なんなの?

 

「離れて行動しないようにしよう。今日はみんな一緒に動こう、みんないいよね?」

 

 エルトの言葉に神妙に頷いた私たちは五人でぞろぞろととりあえず酒場という情報の宝庫に向かうことにした。ぐるぐる回っているらしい行商さんの二の舞にはなりたくないから手にしっかり地図を握りしめて。彼に幸あらんことを祈る。

 

 ……冬国だし、お酒であったまりたい人も多いはずだし、昼間だけど人がいますように。

 

・・・・

 

「おっと……留守とは」

 

 エルトの三度に渡るノックに返事が無く、結局勝手に入ったものの誰もいない、と。これはどうしようもないか。でも渡さないわけにもいかないよな。だが我らがお人好しのリーダーエルトは近くの男から彼の行っていそうなところを突き止めた。

 

「この街からちょっと離れたところに薬草園があるらしいよ。そこに行ってみようか」

 

 薬師ならそりゃ薬草を育てることもあるか。納得して俺達はまた外に向かう。朝からハイテンションなトウカは外に出る前から戦闘に浮かれているから今のうちからスカラを重ねがけしておく。

 

 背の関係上見上げながら終わるのを待っている様子は待てをされた子犬かなにかにも見えるし、大きな目でまっすぐ見てくるのは可愛らしい以外の感想はないしで平常心という呪文まで唱えることになっちまったが。

 

「……終わりだ。怪我はなるべくしないように」

「うん、分かってるって! あ、これあげる。いつもありがとうね!」

 

 真っ先に外に飛び出しトロデ王に頭を下げに行く様子は見慣れたもので、それはまぁいい。両手を重ねられ、握らされたものがどちらかというと気になる。近くで見ていたゼシカがこちらをのぞき込む中恐る恐る開いてみる。そしてそこにあったのは。

 

「エルフの飲み薬……」

「……ま、頑張りなさい」

 

 ぽんと肩を叩かれ、ぐっと、それを握る。最初は魔法の聖水だった、それが今はエルフの飲み薬だ。信頼は築けたんじゃない、か?そうも考えることができる。

 

「単に魔力が増えたからじゃないかしら……」

 

 ゼシカの言葉は聞こえない。聞こえないからな。

 

 とりあえず持ち物に入れておくがほかの持ち物を魔法の聖水にすることでお守り扱いに……待て、ダンジョンに入るなら今までの経験上これも飲み尽くすことになるんだが……。




ロビン「こわ……近寄らんとこ……」

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