【完結】剣士さんとドラクエⅧ   作:四ヶ谷波浪

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105話 憐憫2

 酷い吹雪の音を背景にメディばあさんの話や旅の話をしていた所、がくりとトウカが机に突っ伏した。……さっきかららしくもなく舟を漕いでるなとは思ってたんだが。

 

 隣の席に座っていたエルトが慌てて揺すろうとする手を止めて、そのまま寝かせてやれと言えばエルトはそっと借りた上着をトウカにかけた。……くそ、その立場は譲って欲しかった。ゼシカの小さなため息に、後手に回ってしまったのをさらに感じる。

 

「珍しいの」

「慣れない場所ですからね」

「……しかし、いつも気を張っているトウカが眠れば……やはりミーティアと同じぐらいの年頃の娘じゃの」

「おいおい、言われるまで気づかなかったくせに何を言っているんだ」

「それはお主らもじゃろうが」

 

 すやすやと穏やかな寝息に安らかな寝顔。……正直、これを見ていればちゃんと性別を見抜けていた気もするんだが。……待て、たしか俺は川沿いの教会で寝顔を見ていたような……やはり、先入観というのは厳しいな。

 

「疲れているようだね。さて、あなた達ももう寝なさいな。明日の朝にはこの吹雪も止んでることでしょうて」

 

 メディばあさんの言葉に頷いた俺達は、眠りこけたトウカを起こさないように注意しいしいヤンガスが背負い階下に連れていき、就寝した。

 

 ヤンガス曰くだが、あの重さの防具を身につけてあの速度で走れるのは流石だと。それは暗に俺が運べないだろうということなのか?

 

 一番起きるのが遅かったからかなかなか寝付けなかった俺だが、先程まで見ていた夢が頭にちらついて仕方なく、目をつぶって考え込んでいるうちに再び夢の世界に誘われたというのもなかなか見れたものではなかったと、思う。我ながらククールとあろう者がたったひとつの恋に腑抜けたにも、ほどがある。

 

 エプロン姿のトウカとか、本当に夢だった。まぁ夢の中でも鍋の中にいたのはスライムだった気がするが……。どこからか料理はできるよ失礼な! 食べたことあるくせに! と文句が聞こえてきた気も、する。

 

・・・・

 

「ねぇククール」

 

 変声器を通していない高いトウカの声が聞こえる。声色はどことなくはしゃいでいるみたいだな。大方、戦闘後何じゃないかと思ってしまうがその割には喉が痛くない。

 

 見れば戦闘用の剣も防具も身につけていないトウカが俺を見上げてにこにこ笑っていた。ドルマゲスとの戦いでざんばらになり短くされた髪も長く伸びていて、そういえばそんな話なんてとうの昔に終わったんだったと思い出す。

 

 丈の長い黄色のワンピース姿が良く似合う。

 

「今日は約束してたよねっ、私今からワクワクしてるんだよ!」

 

 笑顔が太陽みたいに眩しい。白く俺よりも小さく、どこからあの力が出てるのか全く理解出来ない華奢な手が俺の手をとる。そして彼女にしては優しい勢いで引っ張られた。

 

 それでもつんのめったのは仕方が無い。俺がキマってない訳では無い。いつものことだからだ。

 

「あっちの原っぱがいいかなぁ。終わったらピクニックにしようね!」

 

 ピクニック。一に戦闘、二に戦闘、三に戦闘、四に戦闘なトウカの口からそんな言葉が出るなんて……感動した。これは脈があるんじゃないか。家庭的なことに誘われたという事は。というか、トウカが女らしい姿で俺と笑っているという事は……。これは夢なんじゃないか?

 

「手合わせ! えへへ、今までエルトとばっかりだったからククールとやるのは新鮮! ククールはレイピアを使ってくれてもいいけど念のために私は素手でやるからね!」

 

 ……知ってたからな、畜生。夢の中でも夢を見れないなんて俺は……でもさっき見た夢では確かに食卓を囲んでいたんだが……? スライススライムの。

 

 ワンピースにサンダルの軽装で、見慣れた構えをとる姿。ノックアウト物理の数秒前。俺はなんとか夢から離脱することに成功する、のだが。夢から覚める寸前にとろけるほどの笑顔でトウカが言おうとしたことを聞き逃したのは、激しい失態だった。

 

 的確に鳩尾を狙われたのだから、判断は決して間違っていなかったと信じたい、が。ベホマで傷やダメージは治ってもがんがん響く痛みまでは取り除けない、だろ。

 

「ねぇ、ククール! 私ね、君を……」

 

・・・・

 

「守るから!」

 

 朝。僕はトウカの声で起きた。何、守ってあげたいって。結構な大声だったけど……え、寝てるし。寝言なの? 夢の中でもみんなを守ってるのか……面目丸潰れだけど、いつも前線でありがとうね。

 

 と、ククールも今ので起きたのか飛び起きる。え、こっちは何なの。汗びっしょりって、ヌーク草効きすぎじゃない?

 

「……おはようククール」

「あぁ……」

「魘されてたの? 大丈夫?」

「……悪夢ではなかったから気にするな」

 

 ならいいんだけど。なんかククールって現実主義の癖に夢の内容に執着してそうって思うのは偏見かなぁ。

 

 トーポに朝のチーズをあげながら、綺麗な銀髪を纏めて結ぶククールをじっと見る。うーん……本人の自負も納得のイケメンって奴だよね、羨ましい。背も高いし……身長くれないかな……。

 

「なんだジロジロ見て」

「別に……」

 

 でも本人に言ってやる事は何もないね。高身長のイケメンはある種の敵だよ。しがない僻みはさておき僕も着替えようかな……女の子二人が起きないうちに。うち一人はその扱いをされたくなさそうにしても。

 

「……おっはようー!」

 

 で、なんで上着脱いだ瞬間にトウカはガバッと起き上がるのかな。気遣いが台無しになってしまった。まぁいまさらなんだけどね。トウカのことをずっと男だと思ってたから上半身裸で剣の稽古をしてたこともあるし、着替えを見られたこともある気がする。

 

 みんなが汗だくで訓練していて服とかめちゃくちゃにしていた時でもトウカは一糸乱れぬ様子だったからやっぱり貴族なんだなぁって思ってたけど、理由が違ったとは思わなかったよなぁ……。

 

 ……思い出したら早く取り戻したくなるね。

 

「おっと失礼。ボクは紳士的にそっぽ向いておくから安心してね」

「……うん」

 

 なんか立場が逆だった気がするけど今更気にするものか。貴族の令嬢に気を遣わないといけないにしても。姫にするような対応をしたらどんな反応するんだろうな。うう、想像したら真顔で紳士対応される未来しか予想できない。

 

「あ、ククールもおはよう。さっきククールが夢に出てきたからさっきぶりって感じ」

「あら、どんな夢を見ていたの?」

 

 さっさと着替えてるうちにゼシカも起きたみたい。僕も話に入ろうとまだイビキをかいているヤンガスを尻目にみんなに向かい合う。

 

「ククールと手合わせしにピクニックする夢かな!」

「……ッ?!」

「気がついたらドラゴン系の魔物に囲まれてたから撃破する夢に変わってたけど。ククールの背後にドラゴンブッシュだよ、もう守るしかなかった」

 

 しみじみとトウカは言い、ちゃんと倒したから!とにこにこ笑う。脱力したククールは夢の中でも……とぼそぼそ言う。その点においてはもう仕方がないと諦めておとなしく守られてたらいいと思うんだけど……ククールは後方支援型で、ククールがいなければここまで来れなかったんだからそこまで落ち込まなくても。

 

 というか最近の僕なんて攻撃はトウカに、回復はククールに、魔法はゼシカに、前衛としての防衛力はヤンガスにそれぞれ負けてて何もできてないし……。

 

「そ、そうか……」

 

 なんか、ククールの笑みが痛々しいんだけど。でもこうやって笑い合ってる姿は何の違和感もないってこと、教えてあげた方がいいのかな。ただしお姫様抱っこされてるイメージならククールはされる方。

 

「あ、私メディさんにお手伝いすることないか聞いてくるね!」

 

 あ、それ僕も行こうかな。




夢が繋がっていたかどうかはご想像にお任せします。

個人的にマホカンタで固めたククールが庇いでもしたらすごくかっこいいと思うんです。というか扱いはこの小説でもタンバリン扱いでも酷いですがククールって本当にかっこいいと思います。歴代のキャラクターの中でも。もっとかっこよくできないものか……。

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