Devil/Over Time   作:a0o

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 少々、相談したい事があるので、この話を読み終わったら活動報告に行って貰えるとありがたいです。


リタイア

――――八日目

 

 

 深見町衛宮邸、朝も早い時間から士郎は二人の少女、セイバーとイリヤに迫られていた。

 

「だから、お兄ちゃん。セイバーのマスター権をわたしに頂戴、凛も魔王もわたしが相手をするから」

 

「シロウ、私としても(マスター)が変わるのは本意ではありませんが、貴方はもう身を引いた方が・・・・」

 

 二人の言葉は士郎を思っての事だ。だが今の士郎にとっては、ありがた迷惑でしかなかった。

 

「イリヤ、セイバー、お前たちの言ってることは間違っていない。確かに俺は迷っている、自分がどうすべきなのか、どうしたいのか、全く分からない。

 でもやっぱり、今ここで引く訳には行かない。」

 

 士郎は魔王との会食での会話と昨日の凛の宣戦布告を思い出し、溜まっていた胸の内を吐き出していく。

 

「遠坂は魔王を仇だと言っていた。けど実行犯は切嗣(オヤジ)だと言う。魔王は十年も前からこの事態を想定していたのか?そもそも遠坂は本当に魔王を倒す気があるのか?俺のこの十年間は結局なんだったんだ?!」

 

 取り付く島のない独白に呆然とするセイバーとイリヤ、その様子に士郎は落ち着きを取り戻す。

 

「すまない、取り乱した。だけどイリヤ、君の事も含めて、キチンとした答えを出したいんだ」

 

「どうやら何を言っても無駄みたいね。でもお兄ちゃん、いいえシロウ、今夜の決闘はわたしも同行するから」

 

「イリヤそれは――――」

 

「するから」

 

 イリヤは意見を押し切り、その場は収まった。

 

 

 ***

 

 

 冬木市新都、マンションの一室で魔王は例によって電話で商談をしていた。

 

「ああ、無理を言って済まない。物は大至急、取りに行く」

 

 通話が終わるのを待って、アサシンが口を開いた。

 

「これで用意していた資金は底を尽きました。本当に良かったのですか?」

 

「金だろうと能力だろうと使うべき時に使わなければ意味がなかろう」

 

「されど武装の方はもう・・・・」

 

「ああ、慎重に使って二回、想定外を考慮すると一回が限度だろうな」

 

「ならば、やはり武装(そちら)に資金を回すべきではないのですか?」

 

 アサシンの言葉は真剣だ。それに対し魔王は含みを持たせた言葉を返す。

 

「言っただろう。全てのモノは使うべき時に使うと、仮に今の武装が打ち止めになったとしても、やり様(・・・)はある。分かるか?」

 

 魔王の言いたい事を悟ったアサシンは覚悟を込めて言う。

 

「はい、分かりました。

 元よりこの身は、そういう役割の為にあります」

 

「いい返事だ。では行こうか」

 

 魔王は車のキーを持って歩いていき、アサシンもそれに続いていく。

 

 

***

 

 

 そして夜が来た。冬木市の深見町と新都を分ける未遠川の河川敷で、セイバーとアーチャーの二つの陣営が対峙し、少し離れた所にアヴェンジャー(魔王)陣営がそれを傍観していた。

 

 夜とは言え彼ら以外には一切の人の気配はなく、人避けの魔術は申し分なく発動しており、役者も舞台も整ったことを確認した凛は口を開いた。

 

「今夜の戦いは遠坂家の長きに渡る悲願を達成する為、と同時に私自身の十年間の思いをぶつける私闘でもある。言いたい事があるなら今聞いてあげるわよ」

 

 士郎は士郎でイリヤを背にしながら、今の本心を言う。

 

「私闘上等だ。なにより今夜で全部に決着がつくなら、何だって良いさ。

 俺は俺で答えを出したい、だから全力を望む!」

 

 双方の(マスター)が意を決したことでセイバーとアーチャーは互いに剣を構える。

 見えない剣と白黒の双剣、切っ先や刀身を相手から外さず、ゆっくりと足を動かし出方を探る。

 

 緊迫の空気の中で先に仕掛けたのはアーチャーだった。力強く踏み込み渾身の一撃をセイバーに打ち込む。セイバーは僅かに後退しながらも受けきり、反撃の一撃を放つ。

 それをアーチャーは飛び退くことでかわし、セイバーは追走する。そうして双方が走りながら並んだときアーチャーが手にしていた双剣をセイバーに投擲する。一撃目は身体を反ってかわし二撃目を跳躍することでかわす。その勢いのまま今度はセイバーがアーチャーに渾身の一撃を振り下ろす。ギリギリのタイミングで避けるが風王結界(インビジブル・エア)を纏った一撃は風圧も凄まじく吹き飛ばされる。

 

「流石は最優のサーヴァント、不完全な状態でも油断できんな」

 

 アーチャーが皮肉な笑みを浮かべて賞賛を送りながらも黒弓を片手にし、もう片方の手には螺旋を描く刀身を持つ剣が握られ、次の瞬間には矢となり射る構えを取る。

 初見の夜の再現を悟ったセイバーは自身も必殺の構えを取る。

 

「私も認めようアーチャー、貴方は強い」

 

 一触即発の空気が漂う中で、短いながらも最大の返礼にアーチャーは心底嬉しそうに笑みを深めるも直ぐに表情を引き締め矢に魔力を込める。

 

 

 ***

 

 

 時は戦闘開始に戻る。

 サーヴァント(人外)の戦いの外側でイリヤが士郎の手を引っ張り、訴えていた。

 

「シロウ、今直ぐにわたしにマスターを譲って、そうすればセイバーに宝具を使わせられる魔力を供給できる」

 

「ただし辺り一体の民家は薙ぎ払われて、更地になってしまうがな」

 

 しかし、返答は士郎ではなく、何時の間にか近くに来ていた魔王が答えていた。

 

「なによ、やっぱり凛とグルだったわけ?」

 

「そんな訳ないだろう」

 

 魔王は訝るイリヤを受け流して、士郎に視線を向ける。

 

「まだ迷いの中に居るようだな。

 ならばまだ衛宮切嗣と同じ道を選ばないと言う選択肢もある。そして、それを選ぶのが正道だと思うが・・・・()にはそれを言う資格はないな」

 

 一人称を私用に変えた魔王は剣を交えているセイバーとアーチャーを見る。

 士郎は黙ったまま戦闘を見ていたが、無意識的に魔王の言葉に耳を傾けていた。

 

「君が今ここに居るのは正義の味方になる為じゃない。君は過去と死人に囚われ、一本しかなかった道に新しい道を示され、決断しなければならないと悟ったからだ」

 

 話している間にも戦闘は動き、セイバーの一撃による暴風が吹き荒れる。魔王は宝具を展開し風圧を防ぐ。

 

「俺も生前は過去と死人に囚われていた、だからこそ、その道にある選択肢は一つじゃないと知っている。

 君は聖杯戦争(この戦い)や魔術からは縁を切り、その娘と共に生きる選択肢を見るべきだ」

 

 

 魔王の脳裏には過去を抱えながらも『生きる』選択をした自分に良く似た男の顔が浮かぶ。

 そして、士郎はその言葉に残っていた最後の意地を口にする。

 

「置き去りにしてきたものの為に、自分を曲げることは出来ない」

 

「ほぉう・・・では問おう。本当の君とは一体なんだ?」

 

 話しが大詰めに差し掛かると同時に戦闘の方も詰めに入り、弓を構えたアーチャーと同じく必殺の構えを取ったセイバーが睨みあう。

 

「ああ、分かってるさ。俺はずっと正義の味方になりたかった親父に憧れていた。でも、お前の話を聞いて親父が・・・切嗣が本当に望んでいたかもしれない願いを聞いて・・・・納得しちまったんだ。その可能性に惹かれちまったんだよ」

 

 正義の味方と家族との幸せ、士郎が憧れ成ろうとした切嗣が求めていた願い。前者は守る者が無いから歩める道ゆえに、どちらかを切り捨てなければならない。それが士郎の迷いの大元だった。

 美しいと感じた前者の道は、切嗣が死に歩む決意が固まった、周りに多くの者が居ても揺らがなかったのは、他人であると言う一線が有ったからだろう。

 しかし、切嗣の娘(イリヤ)の存在を知り、出会った時、守らなきゃいけない者が現れた時に決意が揺らぎ、後者の道に美しさではなく(いと)おしさ感じてしまった。

 

 

 ***

 

 魔王が引き出した士郎の本心の声は大きくは無かったが、セイバーとアーチャーの耳にハッキリと届いた。

 その時、アーチャーに一瞬の隙が生じ、セイバーはそれを見逃さず風王結界(インビジブル・エア)で加速し一気に間合いを詰めて来た。アーチャーは弓を放つが、時既に遅くセイバーは紙一重にかわし弓ごとアーチャーを切り裂いた。致命的な深手を負い、膝を突くアーチャーだがセイバーは止めを刺そうとせず困惑の表情を浮かべた。

 

「アーチャー・・・貴方は、まさか・・・」

 

 なにかを悟ったセイバーに苦笑しながら蹴りをいれ間合いを取るアーチャー、そして詠唱を始める。

 

 

 ―――――― 体は剣で出来ている(I am the bone of my sword)

 

  血潮は鉄で 心は硝子(Steel is my body, and fire is my blood)

 

  幾たびの戦場を越えて不敗(I have created over a thousand blades)

 

  ただの一度も敗走はなく(Unknown to Death)

 

  ただの一度も理解されない(Nor known to Life)

 

    

  彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う(Have withstood pain to create many weapons)

 

  故に、生涯に意味はなく(Yet, those hands will never hold anything)

 

      

  その体は、きっと剣で出来ていた(So as I pray, unlimited blade works)

 

 瞬間、燃えさかる炎と、無数の剣が大地に突き立つ一面の荒野が広がり、空には回転する巨大な歯車が存在する異様な空間が現れる。

 

「固有結界、心象風景の具現化!?」

 

 

 驚くセイバーに構わずアーチャーは右腕を挙げ、それに呼応するように刺さっていた剣たちが空中に引き上げられる。

 セイバーは夥しい剣の群れを見て、己の宝具の解放する覚悟を決め風王結界(インビジブル・エア)を解き、聖剣を露わにするがアーチャーは腕を振り下ろして剣群を投下する。

 

 だが、剣群はセイバーではなく魔王に向かい、魔王は前方に黒いオーラを集中させ防御する。オーラに触れた瞬間に剣は消失し唯の一つも魔王に届くことは無かった。アーチャーは仰向けに倒れ、決着はついたかに見えた。

 

「まだ終わってないわよ」

 

 その時、凛が指鉄砲の構えで黒い塊(ガンド)を数発放った。今度の標的(ターゲット)は士郎とイリヤで何者も助けが間に合うことのない最悪のタイミングであった。

 刹那、イリヤが士郎を庇うように立ちはだかる。それを目にした士郎は頭が真っ白になり、次に一本の剣が脳裏をよぎり詠唱を口にした。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

 庇うように立つイリヤの前に踏み込んだ士郎の手には一本の剣が握られており、その黄金の一線は凛のガンドを全て切り裂いたが、その一振りで剣は消える。

 されどその間にセイバーが駆けつけ凛に切っ先を向ける。その時、固有結界が消えていき倒れていたアーチャーが大声で言った。

 

「どうやら答えは出たようだな!!衛宮士郎!」

 

「・・・・・・・?」

 

 嬉しそうな声を発し消えていくアーチャーを見ながら、士郎はセイバーを制して凛の前に立ち、右手を差し出す。

 

「シロウ?」

 

 その理解できない行動にセイバーを始め、全員が説明を求めた。

 

「遠坂、俺は聖杯戦争から降りる。お前が聖杯を求めるって言うなら、その権利は譲るし、父親の事で俺たちが許せないって言うなら、俺が出来る限りの事はする。

 でも、イリヤには手を出させない。この娘は俺の大事な家族だ!」

 

 士郎の目には全てを受け入れ守る覚悟が篭っていた。

 

「とか言ってるけど、セイバーはいいの?」

 

「正直、少し残念が思いはありますが、それ以上に今のシロウの意志を尊重したい思いが有り余るほどにあります。

 ただ凛、一つ聞かせて下さい。貴女はアーチャーのことを?」

 

「薄々だけどね。って言うかセイバーも?」

 

「私もハッキリとではありませんでしたが」

 

 意味不明な会話に士郎は困惑するが、二人の間には共通認識が芽生えたようだ。

 そして凛は士郎と目を合わせる。

 

「シロウ、一つだけ約束しなさい。絶対にその娘を手放さないって」

 

「約束するまでも無い。イリヤは俺が幸せにする」

 

 即答する士郎に凛は気を良くして右手の令呪に触れる。それで契約は解除され、士郎とセイバーの繋がりは切れた。

 そして、凛はセイバーに向き直り手を向ける。

 

「告げる、汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に。聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うなら――――我に従え、なればこの運命、汝が剣に預けよう」

 

「セイバーの名に掛け誓いを受ける。貴方を我が主として認めよう、凛」

 

 新たなる契約は成り充分な魔力を得たセイバーは最後の敵である魔王に向き直るが、魔王は士郎に近づきA4サイズの封筒を差し出す。

 

「県外にペンションを借りてあるからそこに三日避難していろ、中に鍵とその娘と一緒に暮らす為に必要な書類が入っているから目を通しておけ」

 

 魔王の用意周到さは今更なので驚かないが、一つ解せない疑問があり士郎が問う。

 

「なんで三日なんだ?」

 

「避難していろ」

 

 されど魔王は有無を言わさず強引に話を終わらす。士郎とイリヤは釈然としないものを感じながらも、手を繋ぎ駅の方向へ去って行った。

 そして完全に彼らが見えなくなった所で凛が魔王に疑問をぶつける。

 

「あいつらには随分と親切ね。なんでそこまでするのかしら?」

 

「なぁに、俺は子供が好きでね」

 

 その返答に凛とセイバーが一歩引く。

 

「そう言う意味じゃない。それに一番の理由はマスターの意を尊重しているからだ」

 

「マスターの?」

 

「そうだ。俺のマスターは自らの不幸な境遇を一片も恨まず、世界の平和を望む心優しい少年でな、現在は意識の無い状態なんだが、それでも殺戮に走れば止めようとして来る困った奴だ」

 

 言葉とは裏腹に嬉しそうに語る魔王に凛は溜息をつきながらも納得する。

 

「だから今回は誰も殺さなかったって訳ね。なんだかアンタにしては妙に温いなと思っていたわ。

 でも、そのマスター、アンタとはどんな因縁があるのかしら?聞いてる限りではアンタとは真逆の人物に思えるけど」

 

「ああ、アイツは聖者と呼ぶに相応しい人格の持ち主だ。俺とは究極的に正反対、だから()()()んだ」

 

 〝選んだ〟その言葉を反復し、その意味を問おうとするが、魔王は土手の上に向き直り叫んだ。

 

「今度はだんまりは無しだぞ、()()()()()!」

 

 するとその瞬間、黄金の光が煌き輝く甲冑の立ち絵として現界した。その金髪と赤い目をした容貌にセイバーは驚愕し、存在しない八人目のサーヴァントの登場に凛は思考が追いつかなかった。

 

「久しぶりだな。騎士王(セイバー)、魔王いや今はアヴェンジャーか」

 

 現れた八人目、黄金の英霊は傲然とした態度で言い放つ。

 

「ああ、やっと十年前の続きが出来る。前回は負けなかっただけだが、今回はそうは行かないぞ。ギルガメッシュ!」

 

 魔王も負けじと挑発で返し、更に真名を呼ばれたことで、ギルガメッシュは背後に無数の宝具を展開した。

 




 本来の主人公、衛宮士郎はここで一旦降板で次の出番は聖杯戦争決着後です。

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