Devil/Over Time   作:a0o

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 やっと兄妹が出会います。


聖杯入手(仮)

――――七日目

 

 

 深見町衛宮邸、士郎は魔王に渡された携帯電話を前にずっと考えていた。

 

『君が養父と同じになると言うのならそれも良い。だったら彼女に本来与えられる筈だったモノを衛宮切嗣に代わり与えてやれ』

 

 魔王が語った自分の知らない切嗣の過去、そして今突きつけられている命題。

 

(俺は奪ってしまったのか?その娘が本来得るはずだった幸せな時間を・・・愛情を・・・・)

 

 士郎には切嗣から良くして貰い、進む道を示して貰い、大事にされた記憶しかない。

 だがそれは自分ではなく別の誰かが享受するモノだったのか、悔やみとも自責とも言えない複雑な気持ちにさえなまれ士郎は丸一日悩み続けていた。

 

 勿論、士郎がそんな事を気にする必要はない。そもそもにおいて、士郎は被害者であり恨む道理こそあれ負い目を感じる必要など微塵もない。しかし士郎の生真面目な性格は、それを許すことが出来ず、されど有効な答えが浮かぶこともなく、ただ時間だけが過ぎていった。

 

 その時、携帯電話から電子音が鳴り響き、士郎は逡巡しながらもそれに出る。

 

「魔王か?」

 

『ああ、私の準備がようやく整った。昼頃にそちらに行って、その足でアインツベルンに会いに行く。それで君の方はどうだ、心は決まったか?』

 

「・・・・・・・・」

 

 魔王の質問に士郎は何も答えられない。その数秒の沈黙で彼の心中を測った魔王は嘆息しならも言った。

 

『じゃあ、取り合えず会って見るだけでもどうだ?実際に本人に会えば何か得られるかもしれないぞ?』

 

「・・・・・その前に一つ聞きたい。準備が整ったって言ってたけど、何をしたんだ?」

 

 魔王の提案に士郎は引かない姿勢を見せて呑まれないよう心掛けた。

 

『なぁに、君たちの学校でライダーを狩っただけだ』

 

「な!お前!!」

 

『誰も殺してないから安心しろ、マスターも含めてな。信用出来んと言うなら遠坂凛にでも確認を取れ。

 それで結局どうするんだ?』

 

「・・・・・ああ、行くよ。行かなきゃいけないのは分かりきっていたんだ」

 

『では昼頃そちらに伺う。門の前で待っていろ』

 

 電話が切れ、士郎は目を閉じて溜息をつく。

 

「あー、士郎」

 

 そこに控えていたセイバーが声を掛ける。

 

「大丈夫だ。それより支度をしよう」

 

 アインツベルンの森と城の話は既に聞いていた。大層な装備は入らないだろうが、これから会う者の事を考えると最低限の身なりは整えるべきだろう。

 立ち上がる士郎にセイバーは何を言えばいいか分からず黙って待つしかなかった。

 

 

***

 

 

 昼、士郎は普段のジャージのような服装から、白いシャツに青のパーカー、紺のカーゴパンツと地味過ぎず派手過ぎずの服装で魔王を待っていた。

 隣にいるセイバーは士郎を気にかけながらも油断はしまいと気を引き締めながら辺りを警戒していた。

 

 しばらくして一台の車がやって来て二人の前に止まる。運転席には魔王、助手席にはアサシン、二人ともスーツ姿で何も知らない者が見たら仕事中のビジネスマンにしか見えないだろう。

魔王は窓ごしに後ろを指し、二人は後部座席に乗り込み発車する。

 

 車の中で四人は終始無言だった。そうして、しばらくして冬木市郊外にあるアインツベルンの森の前に停車する。一同は車から降り、そこから徒歩で目的地であるアインツベルンの城、その主であるイリヤスフィール・フォン・アインツベルンに会うため足を進める。

 

 森の中の道なき道を歩いているのに、彼らの進みに迷いはなく森そのものが彼らを導くようにさざめき先頭を歩く魔王は()()()()()足を踏みしめる。やがて、大きな古城が見えて門の前には二メートル越えの大男と紫の帽子とコートを身に着けた銀髪の幼い少女が、やっと来たと言わんばかりに待っていた。

 

「久しぶりだね、お兄ちゃん。改めてわたしはイリヤ、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

 コートの両端をつまみ上げ丁寧に挨拶をするイリヤに士郎は目を見開いた。

 

「君が・・・イリヤ、だったのか・・・・」

 

 士郎は一週間前に意味深な言葉を掛けたイリヤを思い出し、言葉を続けようとするが、どうにも出てこず、セイバーは再開したイリヤをただ暗い表情で見つめるしかなかった。

 場の空気が重くなりそうになるが魔王は気にせず切り出す。

 

「これで君との約束は、ほぼ(・・)果たした。いよいよ持って君の望みを叶える事が出来る証拠を示そう」

 

「その通りね。それでも、あくまでもほぼ。わたしが追加した条件を忘れたわけじゃないでしょうね?」

 

「忘れるわけがなかろう」

 

「ええ、それじゃあ、アナタの強さ証明してもらうわよ魔王、いやアヴェンジャー!」

 

 イリヤの宣言に背後に居たバーサーカーが斧剣を構え前に出る。

 

「ちょ、ちょっと待てよ。どういうことなんだ?」

 

 その突然の展開に士郎とセイバーは付いていけず説明を求める。

 

「なぁに、その娘を納得させる為に、私の強さを証明するのが条件に入っていてな。引き換えに君達には何もしないように取引きをしたのさ」

 

 先の会食で魔王がイリヤを待たせる為に、取引きを持ちかけていたのは分かっていたが、まさか自身の命まで賭けていたとは思ってもいなかった二人は驚愕の表情で魔王を見た。

 

「そうよ。だから、お兄ちゃんたちには何もしない、その代わり()()()()には一切合切、容赦しないわ。

 全力で戦いなさいバーサーカー!」

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

 号令と共にバーサーカーは跳躍し魔王に全体重を乗せた一撃を振り下ろそうとする。

 それに対し魔王は、一目散に背を向けて森の方に逃げ出した。一撃は空振りに終わり魔王の居た場所に凹みが出来たが、緊張感が漂っていた場面に余りにも合わない行動にアサシンとバーサーカー以外の全員の頭の中が真っ白になった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・って追いなさいバーサーカー!!」

 

 その中でいち早く立ち直ったイリヤは命令を下し。バーサーカーはその巨体では考えられない猛スピードで魔王を追い、士郎たちもその後に続き森の中に入って行った。

 魔王の走る速度は中々に速いが、所詮は常人レベルであり瞬く間に追いつかれ背後から振り下ろされた斧剣に捕らえられるが、命中した瞬間に魔王が黒い影となり消失した。

 それに呼応するように森一面が黒く染まり、木々の至る所に魔王の姿があった。

 

「これはエリア・エフェクト・・・まさか、森の結界を?」

 

 速やかに事態を察知したセイバーは武装を展開し士郎を守るように前に出る。そこに何処からともなく魔王の声が木霊する。

 

『この私が何もしないで森を歩いていただけだと思ったか?』

 

 その声には分かり易いほどに挑発が含まれており、一流(プロ)なら直ぐに受け流すだろうが、ド素人であり見た目通りに幼い精神のイリヤは易々と乗ってしまった。

 

「全て纏めて蹴散らしなさい、バーサーカー!!」

 

 そして理性なき狂戦士(バーサーカー)は、忠実に命令を実行し、闇雲に目の前の影に斧剣を振るい全く無意味な攻撃を繰り返していった。そうして目に映る最後の影を消し去ろうとした瞬間、影が爆発し斧剣が一瞬跳ね無防備な隙が生じ、バーサーカーの巨体に満遍なく黒い爆発が迸る。

 

「な!あれは?!」

 

 その攻撃を見たセイバーは魔王の攻撃の特性を理解した。

 

『そう。前のバーサーカー・・・サー・ランスロットと言ったか。奴の有していた宝具の真似だ。ちなみに爆弾の方は衛宮切嗣が残した物を拝借させて貰った』

 

「だからなによ!そんな攻撃、バーサーカーには屁でもないわ!!」

 

 魔王の説明にイリヤは益々、興奮しレディらしからぬ口調で喚く。

 その間にも()()()()は辺りを覆い、視界が悪くなる中で黒く染まった木々が一斉にバーサーカーの背後から倒れ掛かった。流石のバーサーカーも十本近くの大木に押し負け倒れこむが、イリヤがそれを許すはずもなく大声で叫ぶ。

 

「立ちなさい!!寝てるんじゃないわよ!!!」

 

 

「■■■■■■■■■■!!」

 

 

 その声に押し潰している木々を粉砕し勢いよく立ち上がるバーサーカーだが、今度は砕けた木片が連結し黒い膜を形成し、再び押し込めようとバーサーカーに纏わり付く。

 今度の攻撃は先程の木々とは比べ物にならない程に力強く、バーサーカーも膝を突くが、その光景にイリヤの興奮は頂点に達し、魔力を全開に込めて命令を下す。

 

「狂いなさい!!!バーサーカー!!!!」

 

「■■■■■■■■■■!!!!!!!」

 

 膜をブチ破り、胸を張って大声で叫ぶバーサーカー、去れど雄叫びを上げ終わる前に上半身が爆発し、残った下半身が地面に倒れた。

 仕掛けを瞬時に理解したセイバーは慌てて士郎の口を押える。

 

「士郎、息をしないで下さい。黒煙の中に未使用の爆薬が混ざっています」

 

 その説明に士郎は息を飲み込みそうな、吐き出しそうなチグハグは行動をとりそうになるが、近くに居たアサシンが落ちつた声で言う。

 

「心配は無用です。限りある貴重な武装なので巻いたのはバーサーカーの周辺だけです」

 

 その説明に一先ず安心する二人だが、ワザワザ不利な情報を提示することに疑念の目を向ける。だがアサシンは取り合うつもりはなく淡々と戦況を観察する。

 

 黒い煙が晴れていく中で、魔王が姿を現しイリヤに向い合う。

 

「勝負ありだな。いかに強靭な鎧に身を包もうとも内部からの攻撃には全くの無意味、つまり私の勝ちだ」

 

 勝ち誇る魔王だがイリヤは全く動じず、また興奮が一気に冷めたのか余裕の態度を取って言った。

 

「それは早計ね。でも、たった一回とは言えバーサーカーを殺したのは褒めてあげるわ」

 

〝たった一回〟その言葉を反復した魔王は倒れているバーサーカーに眼を向ける。

 

 そこには吹き飛ばされた上半身が徐々に再生していく異様な光景が映った。

 

「ヘラクレスの宝具は肉体そのもの。生前、罪を償う為に十二の偉業を成し遂げた褒美として神々から与えられた不死の呪い。

 それがわたしのバーサーカーの宝具十二の試練(ゴッド・ハンド)なんだから、でもアナタの宝具も中々ね。強制的に蘇生させる呪いなのに進行速度が遅い、やっぱり何か神懸りがあるのかしら?」

 

 楽しそうに説明するイリヤに本来なら絶望の空気が包み込みそうだが、魔王は呆れたと言うか白けた表情で口を開く。

 

「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。種明かしをするなら、バレてもマイナスにならないものにしろ。ただ、それだけしかないものの種明かしなど攻略法を探る材料を自ら与える愚の骨頂でしかないぞ」

 

「負け惜しみ?だったら勝って見せなさいよ」

 

「ではお言葉に甘えて」

 

 魔王は蘇生途中のバーサーカーに右腕を向けて手を開く。

 

「強制的にと言うことは、発動も進行も自分ではどうにも出来ないと言う事、なにがあっても、その場で蘇生を開始する」

 

 バーサーカーの体から新たな黒煙が噴出すが蘇生はそのまま進行し、とうとう復活したバーサーカーは立ち上がるが――――――

 

「故に、その間に異物を混ぜ込み」

 

 その体には黒い斑点が点在し、次第に大きく侵食していく。

 

「蘇生失敗」

 

「■■!?」

 

 バーサーカーの全身は真っ黒に染まり、魔王は開いた手を握る。すると全身のあらゆる所から亀裂が生じ黒い砂塵崩れ去る。

 そして今度は蘇生する気配がなく、頼みの綱である宝具が破られたことを悟ったイリヤは驚愕による動悸が襲い真っ青になる。

 

「侵食した際、不死の呪いとやらを上書きさせて貰った。

 つまり、今度こそ完全に勝負あり、私の勝ちだ」

 

 魔王は宝具を解除し、黒く染まっていた辺り一体は元に戻り、それを見ていたアサシンは当然と言う表情で頷き、士郎とセイバーは呆然とするしなかった。

 自分達はイリヤの説明を聞いたときは言い様ない焦りと驚きに浸るだけだったのが、冷静にあっさりと欠点を見出し己の力を100%活かして勝って見せた魔王に、畏怖の念を抱き、同時に遠坂凛があらゆる意味で固執する理由を再認識した。

 

 そんな彼らを尻目に魔王はイリヤに近づき、手を取って自分の近くに引っ張り止せ胸に手を置いた。

 その行動に士郎は畏怖を怒りに切り替えて叫ぶ。

 

「おい!お前、何する気だ!!」

 

「先日言っただろう。願いを叶える為に必要な物を譲ってもらうのさ」

 

 そう言うとイリヤに黒いオーラが包み込み、心臓の辺りに一旦集中し魔王に還っていく。

 イリヤは意識を失い崩れ落ちそうになるが、魔王が受け止め抱き上げる。そこに士郎が興奮した顔で近づいてイリヤの小さな体をひったくる。

 

「一体何をした!!」

 

「その娘に憑いていた業を私に移しただけだ。少し休めば時期に目を覚ますから安心しろ」

 

 大人の余裕で士郎を諭す魔王だが、今現在の興味は別の所にあり語気を強めながら言った。

 

「そこに居るんだろう。()()()()()

 

 すると直ぐ近くの木陰から凛とアーチャーが姿を現した。

 

「と、遠坂!?なんで・・・・?」

 

「アイツベルンの拠点は昔から知っている。悪いけど森で待ち伏せて後を付けさせて貰ったわ」

 

 狼狽する士郎にあっさり答える凛、普段なら魔王に視線を移しそうだが、今回は士郎及びイリヤに敵意の篭った視線が固定されえいる。

 彼女の意図が全く分からない士郎にセイバーが近づき守るように構える。そこに魔王が声を掛ける。

 

「今ここに残ったサーヴァントは全て出揃った。彼らと組んで二体二で戦おうと言う腹か?」

 

「そんな訳ないでしょ。寧ろ逆よ、っとその前に確認したいことあるんだけど」

 

「どうぞ」

 

「魔王、アンタは十年前に〝最大の障害であるセイバーのマスターを始末する為、私を誘拐しお父様が襲撃する様に仕掛けた〟って言ってたわよね」

 

「ああ、その通りだが」

 

「そして当時のセイバーのマスターは、今私の目の前にいる奴らの父親」

 

 凛の言いたいことを悟った士郎はイリヤを抱きしめる力を強めた。

 それを見ながら凛は堂々とした態度で切り出した。

 

「遠坂家六代目頭首、遠坂凛はセイバーのマスター、衛宮士郎に決闘を申し込むわ」

 

「・・・・俺たちが仇の子供だから、許せないって事か?」

 

「さあ、どうかしらね。どうであろうとアナタ達が倒すべき敵であることには変わらないわ。だからまず、アナタを倒す。

 そして、その後で魔王、アンタと決着を付けるわ」

 

 

 凛の申し出に魔王もホゲーとなるが間を置かず切り返す。

 

「悪いが今日は断る。魔力が枯渇する心配はないが流石に連戦(・・)は堪えるのでな」

 

「なに、弱みを見せて見逃してもらおうって訳?」

 

「そう取って貰って構わない。尤もどうしても我慢できず今直ぐに戦いたいと言うなら、こちらも形振り構わずに応じるがな」

 

 魔王の前に戦闘装束のアサシンが短刀を構えて立ちはだかる。

 

「ふん、いいわ。今日は私がアンタの意を汲んであげる。じゃあ、決闘は明晩、場所には人避けの準備はこっちで遣っとく、頃合のいい時間になったら迎えに行くから逃げるんじゃないわよ」

 

 士郎たちの意見を無視して話が進んでいくが、元より士郎には断るつもりはない。と言うか断ってはいけないと言う思いが心にあり、深くうずいていた。

 

 昨日とは逆に去って行く凛を見送りながら、魔王はイリヤを抱きとめ続けている士郎に近づく。

 

「車で家まで送ってやる。それと、その娘の安全を思うなら絶対に教会に保護を求めるな。言峰綺礼は信じてはいけない。君が匿ってやるのが一番安全だろう」

 

 どういう事のなのかと聞くべきなのだろうが、士郎には何故か聞く気が起こらず黙って頷き、魔王の後に着いて行った。

 

 

 

 

 




 ちなみに家に帰った後も士郎はイリヤの事をどうするのか決められませんでした。

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