Devil/Over Time   作:a0o

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 今回、少しだけ凛を弄ります。


肯定される願い

 ―――――五日目

 

 穂群原学園、昼休みの屋上で士郎は凛に昨夜の顛末を話し、魔王から受け取った招待状を渡した。

 

「衛宮士郎様御一行、一目瞭然で衛宮君を指名してる・・・・もしかして衛宮君も魔王に会ったことが――――」

 

「いやない。だからさ、俺の周りで魔王について知ってるのは遠坂しかしないし・・なんで俺に興味を持ったのか心当たりはないかと思って」

 

「単純に考えればセイバーのマスターだからだけど、手の込んだ迂遠なやり口も魔王の手口そのままだし、意味があるのかないのか見当も付かないわね」

 

 凛の当たり障りのない返答に士郎は予想通りだと思い本題に入った。

 

「それじゃ、魔王はどういう奴なのか教えてくれないか?相手について知るのと知らないのじゃ雲泥の差だ」

 

「ディナーの招待受けるつもり満々ね、まぁ、それはいいけど、只で情報貰おうなんて虫が良すぎるわよ」

 

「解ってる、引き換えに昨夜のセイバーとの戦闘で知った情報を全部提供する。それで駄目なら潔く諦めるよ」

 

「足りないわね。今夜のディナーに私も同伴させなさない、そうしたら衛宮君の知りたいこと全部教えてあげる」

 

「異存はないが、どうしたんだ昨日は慎重になってたのに?」

 

「今回私は招待されてない客だからね、何かされる可能性は低いと見ていいし、魔王の妨害や倒す手掛かりが手に入るかも知れないからね」

 

 即答で返す凛に士郎は改めて魔王への執着を思い知った。

 

 そうして情報交換を始める二人。

 士郎からは魔王自身の宝具、セイバーの攻撃を完璧に防御し封殺できる特性と従っている女のサーヴァントはアサシンで全身から吐息まで猛毒を宿した宝具を有している事を出来るだけ正確に伝えた。

 凛からは魔王は十年前にはマスターとして参戦し、当時は迂遠な策を用いて他のマスターを謀殺して周り自分もその為に利用された事、更に八年前〝広域封鎖事件〟を引き落とした首謀者であることを伝えた。

 

「広域封鎖事件って・・・あの?」

 

「そう。世間一般では浅井(アサイ)の方が通りがいいわね、魔王ってのは少し調べないと聞こえないだろうし・・・・とにかく、その事件の後に魔王は死んで現在は知っての通りサーヴァントとして参戦してるってわけ」

 

「そんな犯罪者がなんで俺なんかを・・・・?」

 

「それも今夜ハッキリさせればいいでしょ。学校が終わったら着替えて現地で待ち合わせましょう」

 

「え、一旦帰るのか?」

 

 てっきり、そのまま現地に向おうと言い出すと思っていたので少し予想外だった。

 

「制服のままでも問題ない店の様だけど一応ね」

 

 凛はあっさりした口調だが既に決めているようであり、士郎も家で待つセイバーと一緒に行く為に一度家に帰るつもりなので素直に頷いた。

 

 

***

 

 

 新都、夜の書き入れ時が近いと言うのに静まり返った料理屋で魔王とアサシンは苦笑しながら四人(・・)の客を出迎えた。

 うち二人の招待した覚えの無い客、凛とアーチャーは赤と黒を基調とした服装で、凛は長袖のシャツとスカートとニーソックスと格好は普通だが微かに石鹸の香りがしシャワーも浴びてきたことが伺える。本命の士郎とセイバーは青と白を基調とした服装で、前回男装していたセイバーが普段着でスカートを穿いている姿は中々新鮮に映った。

 店員には料理を並べるよう指示を出し全員、支度が整うのを待った。そして、料理が並べ終わり店の者が引っ込むと魔王が口を開いた。

 

「さぁ、今夜は私の驕りだ、遠慮なく食べてくれ」

 

 されど嬉々として箸を勧める者等いる筈もなく、重い空気の中で士郎が切り出した。

 

「魔王、まさか本当に食事をする為に呼んだわけじゃないだろう。一体何が目的なんだ?」

 

「なぁに、君と話しがしたかったのさ」

 

「そうかよ。だったら聞いてやる二回にも渡って聖杯を求めて何を願うつもりなんだ?」

 

「その辺りは、やはりセイバーから聞いてないようだな。前回、私は巻き込まれて参加しただけだ。当時は聖杯には疑念があったし、それ以上に己自身に託す望みがあったからな」

 

「広域封鎖事件か・・・今、この国じゃ知らない人間は居ない」

 

「ああ、結局本当の望みは叶わずじまいだったがな」

 

「だから聖杯の力で-----」

 

「いいや、今回の望みは受肉して、そこに居る遠坂凛を娶ることだ」

 

 魔王の台詞に場の空気が固まった。

 少しして当の凛は顔どころか体中を真っ赤にして叫び散らした。

 

「ななななな、なに言ってのよ!!うううう、嘘ついてんじゃないわよ!!!」

 

「勿論嘘だ」

 

 あっさりと肯定する魔王に凛はテーブルをひっくり返しそうになるが、士郎とアーチャーに抑えられる。

 興奮した凛を落ち着かせながら士郎は仕切り直す。

 

「・・・・・改めて聞くが一体なにが望みなんだ?」

 

「なぁに、恵まれなかった〝坊や達〟の為に学校を建ててやろうと思ってな」

 

「どうやら本心を語る気はないようだな」

 

 ちゃっかり箸を進めながら言うセイバーに魔王は不敵な笑みを浮かべて返す。

 

「本心だよ。そういう君は聖杯にどんな願いを託すつもりなんだ、アーサー・ペンドラゴン?」

 

 マスターである士郎ですら知らなかったセイバーの真名を言った魔王に残り全員が面食らいながら当人達を交互に見る。

 セイバーは予想範囲内だったので淡々と語る。

 

「私は祖国の救済を願う。聖杯の力でブリテンの滅びの運命を変える」

 

「運命、つまり過去を変えるということか?」

 

「そうだ。国を守るのは王の責務、ましてやアレは私の責、だからこそ許せないのだ」

 

 セイバーの宣言に場は新たなる静けさが舞い降りた。

 

「セイバー、それは―――――」

 

「ワハハハハハハ」

 

 士郎が反駁しようと声を上げようとしたとろこに乾いた笑いが響く。

 その主である魔王にセイバーが苛立ちを抑えながら問う。

 

「なにを笑う魔王?」

 

「えらく神妙な顔して語るものだから、どんなご立派な口上が聞けるかと期待してたのだが、何てことはない見苦しい役人の責任転嫁か」

 

「な!」

 

 余りの感想にセイバーの顔に怒りが灯るが、お構い無しに魔王は畳み掛ける。

 

「それでジャンケンの後出しみたいなセコイ真似に縋って、自らは王の責務だと悦に嵌る。

 格好悪いにも程があるぞ」

 

「外道風情が、私の願いをいや私自身を侮辱するか!!」

 

 セイバーはテーブルを叩き立ち上がり今にも斬りかかりそうな剣幕だが、魔王は涼しい顔で続ける。

 

「その通り侮辱している。そして、それは君自身もそうではないか」

 

「なんだと?」

 

「自ら王を名乗り、国を統べながらも結末が気に入らないから変えてしまおうなんて、王である己を侮辱している以外のなんだと言うんだ」

 

 魔王は一度言葉を切り、コップに注いだあった日本酒を煽る。そして全員が魔王の次の言葉を待った。

 

「君を侮辱しているのは他でものない君の願いだ、その理論から言えば私は君の願いを肯定すらする。

 王であることを自ら否定する小娘など、綺麗さっぱり消し去ってマシな王を据えた方が、国の為、民の為だ。君の望みどおり少しは救いがあるかも知れないな」

 

 セイバーは屈辱に顔を歪めながらも、どう反論していいのか言葉が出なかった。

 そこにパチパチとアーチャーが手を叩き可笑しそうに言った。

 

「流石は祖国に反旗を翻した最悪の犯罪者、言うことが違うな。されど君が本当に話しがあるのは彼女ではなく、そっちの小僧の方ではないのか?」

 

 それで話しを一旦手打ちにして、話題を切り替えようとする。

 

「ああ、そうだな。

 では本題に入ろう、衛宮士郎、君はなにを思って聖杯戦争に参加している?」

 

 突然話しを振られた士郎は戸惑いながらも正直に答えた。

 

「俺はただ巻き込まれて参加しているだけだ。聖杯に託す願いはない、ある意味前回のお前と同じだ」

 

「そんな事は分かっている。私が聞きたいのは願いが無いのに命を張る理由だ?」

 

 その言葉で〝やはり調査は怠っていないか〟と凛は目を細めながらも会話を見ていた。

 

「そんなの簡単だ。前回の結果、あの大火災みたいな結末を防ぐ為だ。

 と言うか、あれはお前が―――――」

 

「違う。遠坂凛にも言ったが、あれは断じて私ではない、私は最後の最後でサーヴァントを失い、一応聖杯には触れたが拒まれた」

 

「あっ、言峰が言ってた、戦いを放棄したマスター」

 

「そこは知っているのか。では衛宮切嗣のことは?」

 

「なんで親父が出てくる?」

 

「魔王、貴様!」

 

 セイバーがいきり立つが一向に構わない。

 

「約束があるんだ、アイツベルンとのな。それに彼には知る権利があると思うが」

 

 その言葉に押し黙るセイバーに魔王は話し始める。

 アインツベルンは聖杯戦争を始めた魔術師一族の一つで、前回の聖杯戦争に衛宮切嗣はその陣営にセイバーのマスターとして参加していた。

 そのセイバーは今ここに居るセイバーであり、最終決戦において彼らも参戦していた。

 そして自分は衛宮切嗣と少し因縁があり、彼と戦う為に策を駆使して聖杯戦争に参加し結果的に切嗣を下したことを偽らず包み隠さずに説明した。

 

「・・・・・・親父がセイバーのマスター・・・本当なのか?」

 

 士郎の問いにセイバーは重い表情で頷くしかなかった。

 

「なんで、そんな大事なことを・・・」

 

「申し訳ありません士郎、私は・・貴方の過去を見てしまった。貴方の知っている切嗣と私の知っている切嗣はとても懸け離れていて、どんなマスターだったのか話すのは気が進まなかった」

 

 俯くセイバーに士郎は言葉が出ず沈黙の空気が漂いそうになるが魔王が咳払いして話しを進める。

 

「改めて問おう衛宮士郎、君だって心の何処かで養父が君から全てを奪った大火災に関わっているかもしれないと気付いていた筈、そして今、確証が示された。君を助け育てたのは都合のいい罪滅ぼしだったと考えるのが普通だ。

 それにも関わらず何も恨まず、悲劇を防ぐなどと言う建前で命を賭けるのか?」

 

 魔王の問いにその場に居た全員、特にアーチャーが士郎を凝視する。

 

「ああ戦う。真偽がどうアレ、俺は正義の味方になるって決めたんだ、その理想を曲げられない!」

 

 力強く答える士郎に魔王は〝正義の味方〟と呟きながら手を顔の前に組む。

 

「衛宮士郎、正義なんてものは所詮、大多数にとって都合のいいモノか当人の価値観に沿っているかだ。そして大多数にとって都合のいい正義は簡単に掌を返す、それを弁えないと絶対に後悔するぞ」

 

「俺は絶対に後悔なんかしない!」

 

 何故なら―――――

 

「あの日」

 

 地獄のような惨劇の中、次々と助けを求めて死んでいく人々の中 死ぬはずだった自分を見つけて。

 

「憧れたのは―――――」

 

 涙を浮かべて自分を助けてくれた衛宮切嗣。

 その顔があまりにも幸せそうで、憧れた。

 その時、憧れたのは―――――

 

「絶対に間違いなんかじゃない!!」

 

 士郎の言葉、眼には迷いが無かった。それでも魔王の眼は冷めていた。

 

「子供騙しにすらなっていない信念だな、お前が言っているのは聞こえの良い言葉を笠にした破滅願望だ。

 衛宮切嗣が君にどんな正義と理想を語ったのかは察しが付く、彼の願いは前回の最後に知ったからな。

 だから言おう、衛宮切嗣を真似て同じ道をなぞり切っても未来永劫、報われることなどない」

 

「俺は現実に挫けたりしない。お前が親父の何を知っているのか知らないが、その理想の美しさは誰にも否定させない!!」

 

 

 士郎の心からの叫びに誰もが言葉を失う。

 だが魔王にはその内容よりも、そうする姿勢に望む答えが得られた。

 

「そうか、衛宮切嗣は良い父親だったのか。いい事を聞いたな」

 

 魔王は心底嬉しそうな表情になり、士郎が疑問の表情をつくる。

 

「最初から説明しよう。

 今回の聖杯戦争には衛宮切嗣の実の娘がアインツベルンのマスターとして参戦している。当然ながら衛宮士郎、彼女は君に興味を持ち当初は殺そうとしていたが〝ある条件〟を出して説得して現在待って貰っているんだ」

 

「まさかイリヤスフィールが?」

 

 セイバーの脳裏にアイリスフィールとよく似た銀髪の少女がよぎる。

 

「親父に・・・・娘が・・・・ある条件って?」

 

「衛宮士郎とずっと一緒に、だ」

 

 士郎は突然の話に呆然としていた。

 

「君が養父と同じになると言うのならそれも良い。だったら彼女に本来与えられる筈だったモノを衛宮切嗣に代わり与えてやれ・・・・・・ここから先は私の推測だが、彼が本当に求めていたのは家族との幸せで、正義だの世界の平和だのは引っ込みが付かなくなっただけじゃないのか?ならば我が子達には共に幸せになって欲しいと望んでいると思うのだがな」

 

 魔王の表情は真剣そのものだ、それに対し士郎はなんとも言い表せない困惑に陥り言葉が出なかった。

 そこにアーチャーが皮肉な顔で言った。

 

「魔王と呼ばれるものが説教とはな。それともこれは奈落の底に導く為の甘い罠の類かな?」

 

「当たらずとも遠からずだな、私は目的を達成する為により確実でより効率的な手段を取っているだけだ」

 

「この小僧を説得して人の道に導くことがか?」

 

「一応言っておくが、私がしているのはアインツベルンの少女との約束の為の説得だ。

 そうして彼女からは〝ある物〟を譲って貰い、願いを叶える為に今この場を設けたのだ」

 

 つまりは自分の為、そう理解しアーチャーは納得し無言のまま『良し』と認めた。

 

「さて私の話は以上だ。これから先は一つ用を済ませ、アインツベルンに会いに行く。

 衛宮士郎、それまでに彼女との事をどうするかを決めておいて貰いたい」

 

 そう言って士郎に携帯電話を差し出す。

 

「彼女に会うつもりなら共に来い、その時になったら連絡する。行き先はセイバーも知っているから、なんなら待たずに先に言っても構わない」

 

 もう一度、コップに日本酒を注ぎ飲み干し、席を立つ。アサシンもそれに続く。

 

「私達はこれで失礼する。料理は勿体無いから思う存分食べてくれて」

 

 去ろうとする魔王に凛が立ち上がり宣言する。

 

「待ちなさい、私もここ言っておくわ。

 魔王、私の目的はアンタを生涯コキ使ってやる事、覚悟しておきなさい!」

 

「・・・つまり一生君の側に・・・・逆プロポーズか、それは?」

 

「さっさと帰れ!!」

 

 魔王の解釈に顔を真っ赤にして凛が怒鳴った。

 

 

***

 

 

 料亭を出て少しして魔王は上に眼をやり、建物が密集している所を定め誰も居ないはずの空間に声を掛ける。

 

「まずは君達を狩る。マスターの少年にも首を洗って待っていろと伝えておけ」

 

 魔王は去って行き、建物の影からは紫の髪が一瞬揺れ消えていった。

 




 ちなみに料理は残さずきれいさっぱり(セイバー)が食べました。

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