Devil/Over Time   作:a0o

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 王と王が会合します。


闘争心と冷静

 ――――四日目

 

 深見町の商店街で車を停車させ魔王は近くの公園に向いながら電話を掛けていた。柳洞寺に客が来るのは、まず夜と見ていいし今来たとしてもアサシンを残しているから直ぐに駆けつけられるだろう。

 

「入金は済ませた。では明日の夜、そちらに伺うのでその時に」

 

 用件を済ませ公園のベンチに腰を掛けて思案する。目当ての相手が直ぐ近くに居るのは感知できていたので堂々としていれば向うから食いついて来る筈だ。

 

(アーチャーかセイバー。今夜、来るかどうかは微妙だがその時は俺が直接・・・・以前は人づてが当たり前だったのにな)

 

 フッと自嘲しながら買っておいた缶コーヒーを口にする。そうしていると一人の幼い子供が声を掛けてきた。

 

「・・・それって余裕の笑み?だとしたら随分、気味が悪いわね・・・・」

 

 イリヤの皮肉に対し魔王は気負いもなく正直に返す。

 

「いや、生きていた時と死んでる今を比べてたら可笑しくなってな」

 

 イリヤは怪訝そうな顔をしながら魔王の隣に座り単刀直入に話を切り出す。

 

「昨夜、早速一人倒したようね。ひょっとして明日には約束が果たされるのかしら?」

 

「いやそれはもう少し先になる。明日は衛宮士郎と話をする予定だ」

 

 サラッと聞き流せないことを言う魔王にイリヤは詰め寄る。

 

「ちょっと、どういうこと?まさか貴方、お兄ちゃんに―――――」

 

「彼には知る権利があるだろう。何より全てを話して置かなければ約束は果たせない、何なら同席して君から話すか?」

 

「・・・・いい遠慮しておくわ。けど改めて言っておくけど上手くいかなかったら容赦しないわよ」

 

 不機嫌な顔で去って行くイリヤを微笑ましく見ながら魔王はコーヒーを飲み干し車に戻って行く。

 

 

***

 

 

 穂群原学園、昼休みの屋上で遠坂凛は衛宮士郎と対峙していた。その顔は不機嫌の一言に尽き士郎は只々困惑するしかなかった。

 

「貴方ってホント危機感無いのね。この際だから今ここで倒されてみる?」

 

「ちょっ、ちょっと待て!真昼間の学校でそんな騒ぎ起こしたらまずいだろ!!」

 

 殺気が漏れ出してくる凛に正論で納めようとするも、どうにかなるとは思えず士郎は彼女の姿を見て屋上に来たのを後悔していた。

 

「ああそう、なら見逃してやる代わりに私を手伝いなさい。学校に結界を張ってるマスターを見つけ出すのよ」

 

 予想に反してあっさり引き下がるが、出てきた言葉に新たに困惑する。

 

「マスターがこの学校に?それに結界って・・・・」

 

「直接張ったのはサーヴァントでしょうね。まだ張っている途中みたいだけど発動したら死人が出てもおかしくない物騒なものよ。一刻も早く倒さないと」

 

 凛の言葉は落ち着いたものだが込められた気合は、ひしひしと伝わってくる。その様子に士郎は感心すると同時に大いに共感した。

 

「分かった。そう言う事なら全力で手伝う!

 それにしても学校を守る為に俺を見逃すなんて、遠坂って以外に良い奴なんだな」

 

 士郎は惜しみない賞賛を送るが、凛は顔を顰めながら反論する。

 

「それは勘違いよ。衛宮君を見逃すのはいつでも倒せそうだから、そしてそれ以上に私のテリトリーで嘗めた真似した奴に相応の報いを受けさせるほうが優先ってだけ・・・・そんな甘い姿勢で居たなら結界の犯人の次はアンタを討つから覚悟しときなさい」

 

 楽観的見たら忠告の範囲だが、先日の闘争心を滾らせた凛を思い出した士郎は、遅かれ早かれ戦うのは避けられないと悟り、諦めが混じりながらも気合いを入れ直した。

 

「分かった。でも今は先に倒す相手が居るんだろう?早く戦うとしてもそれからだ」

 

 覚悟を決めた士郎に満足しながら凛は犯人探しの手順を教えていった。

 

 

***

 

 

 放課後、結界の基点をそれなりに壊した凛と士郎は弓道場の前に居た。今日を含め凛が暇を見つけては学校中を練り歩き導き出した最も怪しい場所との事で、ここに至る執念と言うか根性に士郎は最早言葉もなかった。

 

「・・・いい?念押ししておくけど、サーヴァントが出てきたら直ぐにセイバーを召喚なさい。私も一対一に拘るつもりはないから確実に仕留めるの」

 

「おいおい、随分と物騒だな」

 

 背後からの声に振り返る凛と士郎、そこには二人の共通の知人である間桐慎二の姿があった。

 

「やぁ、遠坂がマスターなのは既知だったが衛宮までとは意外だったな」

 

 クスクスと笑いながら話しかける慎二の背後の気配を察知し凛は臨戦体制を取った。

 

「落ち着け遠坂!!いくらなでも問答無用は無いだろ!」

 

 今にも挑みかかりそうな凛を慌てて宥める士郎に慎二は愉快そうに口を開いた。

 

「いやぁ、やっぱり衛宮だ。そうすると思ったよ」

 

「邪魔するんじゃないの!こいつは結界を張った最有力の容疑者よ!!そうでなくてもマスターは戦うのがセオリー・・・・って言うか庇うなら二人共ここで倒すわよ」

 

「おお~、怖い。それなら今すぐ結界を発動させて色々道連れにしなきゃな」

 

「慎二!!?」

 

 今度は士郎が激昂するが慎二はシレッとした態度を崩さない。

 

「だって結界(アレ)はそう言う時の為の物、いわば保険だ。命の危険が迫ってるなら迷わず使わないと」

 

「脅迫のつもり?だとしたら逆効果よ。たった今、アンタの死刑は確定したんだから」

 

「ん~、だったら別の命乞いを考えなきゃね。そうだな、僕ら全員の共通の敵に関する情報はどうだろう?」

 

「他のマスターの情報を持っているって言うなら交渉には不足よ。少なくとも今この場に居るアンタを倒すことの方が私にとっては値が重いわ」

 

「同じ場に二体のサーヴァントが居るとしたらどうだい?しかも単純に組んでるとかでなく確実に一方に服従している関係だとしたら?」

 

 話の流れが変わり凛の戦意が収まっていく、士郎はホッとしながら話に混ざった。

 

「つまり利害の一致とかじゃなくて完全な主従関係、二体で一つの戦力として戦ってるってことか?」

 

「僕のサーヴァントはそう言ってる、そうだろライダー」

 

 瞬間、慎二の後ろから紫の長髪に眼帯をした美女が現れる。されど戦意は放っておらず事務的に言葉を発す。

 

「少なくともあの二人は対等な関係ではなかった。どう懐柔したかは解りませんが明らかに女の方は男の部下と言う印象を受けるやり取りでした」

 

 男と聞いて凛には直感が走った。

 

「ねぇ、もしかして男の方は魔王って名乗らなかった?」

 

「知ってるんだ。なら話は早い、彼は相当手強い相手だ、昨夜もランサーと決闘して宝具を完封して倒したそうだ。しかも部下の女は立会人として見てるだけだった、揃って戦うとなったら不利どころの話じゃない。だからまずはアイツ等を倒すべきだと思うんだが、どうかな?」

 

 ランサーが殺られたと言う情報は士郎を驚かせたが、凛は冷静に何かを考えに耽っていった。

 

「それは協力の申し出か?俺たち三人でそのマオウってのを倒そうって言う」

 

 士郎の問い返しに満足そうに頷き慎二は畳み掛けるように言った。

 

「その通り、見るまでもなく君達は組んでる訳じゃないようだし、三人で戦うにしても今ここでより、まずはアイツ等を倒してからの方が遥かに良いと思わないかい?」

 

 慎二の提案は理に適っているが凛は引っ掛かりを感じ問いかけた。

 

「慎二、そもそも魔王がランサーを倒したのをどうやって知ったの?偶然通りかかったなんて言うんじゃないでしょうね」

 

「ちょっとした触れ込みがあってね。様子を見に行かせたのさ、君達には無かったのかい?」

 

 得意そうな顔をする慎二を無視して凛は考えを纏めた。

 魔王なら事前にマスターの素性など調べているだろう。

 それに謀殺を得意とした魔王が決闘染みたやり方で相手を倒すのはそうする意図があったと考える方がしっくり来る。

 加えて自分と接触して来たり、わざわざ挑発して敵意を高めようとした事を重ね合わせると・・・・・

 

「慎二、悪いけどその提案承諾しかねるわ」

 

「な、なんで?!強敵な上にもう一体サーヴァントが居るんだぞ」

 

 凛の否定は慎二ばかりか士郎まで驚かせた。

 

「アンタ、魔王を出し抜いてやろうとか考えてるんだろうけど甘いわ。

 魔王ならとっくにお見通し、いやランサー戦だってアンタにワザと見せて私達を誘き出そうって作戦なんでしょ・・・余ほどの罠か自分に有利な何かがあるのか、兎に角そんな所にのこのこ出向くのは得策じゃないわ」

 

「意外だな、相手は遠坂が言ってた仇敵だろう?慎重に構えるにしても、もっと攻勢になると思ってたんだが・・・」

 

 士郎の指摘に凛は冷静に答える。

 

「だからこそよ。十年たったとは言え魔王より格上なんて自惚れるつもりはないわ、そんな相手の術中に自ら飛び込むなんて漫画じゃあるまし・・・・戦うならせめて魔術師(こっち)の土俵に上げないと」

 

 先程までの闘争心を滾らせていた姿と今の冷静な分析をする姿は本当の強者に見え、そんな凛にここまで言わせる魔王という相手を戦うかは別にして会って見たくなった。

 

「そんな訳で私はパス。挑むなら止めないけど、決死の覚悟はして置きなさい・・・だから今回は見逃してあげる」

 

 去って行く凛を見送りながら士郎は呆然と慎二は溜息をついた。

 

「あれって遠坂なりの忠告か?何にせよ協力を断られた以上、僕もしばらくは様子見に徹するよ。ああ、結界の方は仕掛けてこない限り発動しないから安心しくれ」

 

 そうして慎二も去っていき士郎も釈然としないものの帰路に着いた。

 

 

***

 

 

「そうですか、ランサーが・・・」

 

衛宮邸にてセイバーに学校での顛末を話したのだが反応はひどく冷めたものだった。

 

「驚かないのか?」

 

「・・・実は士郎、何者かが柳洞寺にランサーを呼び寄せようとしていた節が――――」

 

「柳洞寺って!一成の家にか、なんでそれを言わなかったんだ!」

 

「話そうかと思ったのですが・・・どうにも解らないことだらけで、どう切り出せはいいいのか掴めず・・・・・申し訳ありません」

 

 素直に頭を下げるセイバーに士郎も落ち着きを取り戻す。

 

「まぁいい、過ぎたことだ。それに相手は遠坂が格上だと言い切る奴だ、手を出さなくて良かったんだろう」

 

 その意見にセイバーは反論する。

 

「士郎、それは違う。相手の正体がサーヴァントであり呼び出した意図もハッキリした以上は速やかに打って出るべきだ」

 

「待てよ、話聞いてたか?ランサーを倒した上にもう一人サーヴァントが居るんだぞ、無策で挑むなんてただの特攻だ」

 

「聖杯を手に入れる為です。多少のリスクは覚悟の上、まだ留まっている可能性があるなら取り逃がす前に倒すべきです」

 

「駄目だ。明日、一成に話を聞いて探りを入れてみるから今は待て」

 

 士郎は反論を許さず話を打ち切りセイバーは不満を残したままその場は引き下がった。

 

 

***

 

 

 夜の土蔵で士郎(マスター)が眠ったのを確認したセイバーは武装を纏い柳洞寺に向った。

 

 

(貴方が戦わないなら、それでいい)

 

 夜の街を銀色の疾風が駆ける。柳洞寺に居る敵は前回の聖杯戦争に関わりがあり遠坂凛が格上と豪語する者だ、無傷で勝利は出来ないだろうし返り討ちにされるかもしれない。

 だが、この程度の無茶を押し通せなくてないが英雄か、敵がハッキリしているのに傍観するなど誇りが許さない。勝機は自らの剣で切り開くのみだ。

 

 そして山門に続く石段の中腹辺りに髑髏の仮面を付けた黒衣の女が立っていた。その風体からアサシンと察するが暗殺者たる者が堂々と威で立つ姿はとても奇妙だ。それに士郎の話ではもう一体サーヴァントが居るはず、周りを警戒しながらも不可視の剣に戦意を込める。

 

「待っていましたセイバー、我が(マスター)が貴方に会いたがっていました」

 

 セイバーの戦意になんの反応もせず事務的な言葉でアサシンは後方に潜んでいた魔王を紹介した。

 魔王は霊体から実体となって現れ、それを目の当たりにしたセイバーは驚愕で目を開いた。

 

「マスターがサーヴァント!?」

 

「そう驚くことでもあるまい。前回、君もキャスターのサーヴァントにさせられたんだ、同じ事が出来る輩がいても不思議じゃあるまい」

 

 その説明でセイバーは目の前の男、もしくは背後居るマスターの正体に心当たりが浮かんだ。

 

「私はアヴェンジャーのサーヴァント、前回はキャスターのマスター、魔王と名乗っていた者だ」

 

 予想通りの答えにセイバーは全てが繋がった納得と今ここで絶対に倒さなければならないと断固たる決意を得て、言葉を返す事無く斬りかかった。

 

 

 その前にアサシンが短刀を投擲し自身も魔王を庇うように立ちはだかる。

 しかし、最優のサーヴァントにその程度の事が通じるはずもなく短刀は軽くはじかれアサシンも横一文字に一刀両断される・・・・筈だった。

 

「なぁ!」

 

 セイバーの不可視の剣はアサシンに届かず、その間には黒いオーラが阻んでいた。

 アサシンはその僅かな隙に一歩踏み出し吐息を吹きかける。

 

「く!」

 

 本能的にそれを危険と感じたセイバーは風王結界で薙ぎ払い間合いを取る。吹き飛ばされた吐息は木の枝に当たり、枝は変色して崩れ落ちた。

 

(腐食、いや毒か。宝具を二つ持っている・・・・・・訳では無さそうだな)

 

 石段の上方にいる魔王が同じ黒いオーラを纏っているのを見て二人が役割分担をしていると読んだ。

 

「守の宝具、保身に長けた貴様らしい能力だ。前回、全く姿を現さなかった貴様が今堂々と姿を晒しているのは、この裏付けがあるからか」

 

「惜しいな。悪くない読みだが若干ズレている、前回は巻き込まれただけで今回姿を晒しているのは望んで参戦しているから、望みがある以上は相応のことはする・・お前と違ってな」

 

「私が手を抜いていると」

 

「ああ、言い直そう。そうせざる得ないんだな、だが全力を出せないなら私達には触れることすら出来んぞ」

 

 魔王の挑発にセイバーは〝やってみなければ〟と言う気合いで攻めるが阻むアサシンはビクともせず、息どころか体そのものが毒の宝具であると悟り反撃の全てを避けざるえなく活路が見出せない。

 一方、魔王は座り込んで全く参戦せずアサシンも正面対決は本来の戦い方でない為に決定打に欠ける。

 

 膠着状態に陥るかに思えたが、セイバーはフェイントを織り交ぜてアサシンを抜き、魔王に渾身の一撃を振り下ろすが全く届かず密度を増した黒いオーラに逆に弾き飛ばされた。

 飛び退き体勢を立て直すが、その間に不動の魔王の前にアサシンが構えていた。

 

(同じ手は通じないか・・・あの守りを突破するなら、それ以上の一撃を持って望むしかない)

 

 セイバーは覚悟を決め風王結界を発動、不可視の刀身から台風の如き暴風が吹き荒れる。

 そこで魔王が口を開いた。

 

「もう一つの間違いを指摘する、私の宝具は守りの宝具ではない」

 

 魔王が指を鳴らし、セイバーの剣から黒いオーラが噴出し剣はおろかセイバー自身を包み込んだ。

 

「な!これは?!」

 

 もがき振り払い逃れようとするも一向に収まらず、セイバーは剣自身の力を解放せざる得ないかと焦りが浮かんだが唐突に黒いオーラは収まり消えた。

 訳が解らず周りを見ると下段の方で魔王と士郎がなにか話していた。

 

「やっと会えたな、衛宮士郎」

 

 魔王は懐から封筒を取り出し士郎に渡す。

 

「え?一体何、この状況・・?」

 

 セイバーを止め来たのに和やかに接せられた士郎は困惑した。

 

「明日のディナーの招待状だ。貸切りにしておいたから、じっくり話が出来る」

 

 中身を確かめるとそれは確かに新都にある懐石料理の店だった。

 

「さて、もうここに用はない。行くぞアサシン」

 

 困惑が抜けきらない士郎を置いて去ろうとする魔王、そこにセイバーが駆けつけ声を上げた。

 

「待て!逃げるのか!!」

 

「もとより私にはお前を倒す気はない。言いたい事があるなら明日聞いてやる、今日はここでお開きだ」

 

 セイバーは尚も言い募り追おうとしたが士郎が慌てて止めに入り、その間に魔王達は車に乗り込み去って行った。

 




 今回は凛を弄くるところまで持って行きたかったのですが、それはまた次回に伸ばします。

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