Devil/Over Time   作:a0o

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 今回は二度の聖杯戦争を通して初めて魔王自身が戦います。





イレギュラー排除

 ―――二日目

 

 

 冬木市新都のマンションの一室で朝を迎えた魔王はコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。アサシンは命令待機状態で側に控えていたが魔王が新聞をたたみ立ち上がったのに合わせ口を開いた。

 

「いよいよですか。何から始めますか?」

 

「新聞の三行広告にメッセージを掲載する」

 

 疑問をもっても可笑しくない魔王の言葉にアサシンは粛々と返す。

 

「メッセージですか?」

 

「ランサーへの宣戦布告、掲載は明日で明晩には決戦だろうから気を引き締めておけ」

 

「それなら私が直接届けたほうが、より確実では」

 

「見せたいのが一人ならそうするが、今回は他にもいるのでな。気付くかどうかは未知数だが駄目だった時はお前の出番だ」

 

 時間を確認し新聞社に電話をかける。

 

 

***

 

 

 昼すぎ、新聞社に上乗せした広告料を振り込み目に付くところに掲載するよう依頼した後、魔王とアサシンは大手の服屋でスーツを新調していた。

 現在はアサシンが試着をしていて魔王は終わるのを待っている。しかし流石のアサシンもこの行動には困惑を隠しきれなかった。

 

「つまらないことを聞きますが、明日決戦であると言うのに何故にこの様な格好が必要なのでしょうか?」

 

「観客が来た場合の為だ、お前には立会人として宣誓して貰う。そうなれば高潔な英霊が来た場合は横槍を入れないだろうし、狡猾な輩なら漁夫の利を得ようとほくそ笑むだろう」

 

 アサシンは魔王の返答に驚愕しカーテンを一気に開けて飛び出した。

 

「まさか一対一で戦うのですか!無謀です、アナタの戦闘能力は私より―――――」

 

「準備は整えてある。勝算のない戦いに身を投じるほど愚かではないさ、心配するなら戦うより逃げる算段を考えてろ。

 それにしても中々に似合うな、その正装なら立会人としての格好も付くだろう」

 

 サラリとアサシンを受け流して今度は自分の服を試着、全く同じコートを三着(・・)選ぶ。 

 

「何故同じものを?」

 

「明日駄目になってしまうだろうからな、何度も買いに来るのも面倒だろう。

 さて、もう用は済んだ。支払いを済ませてくるから先に車で待っていろ」

 

 車の鍵を渡してレジに向っていく、アサシンは釈然としないも指示に従い店を出た。

 

 

***

 

 

 夕刻、冬木市の古い洋館。

 遠坂凛は口に手を当てながら目の前の状況を整理していた。魔術教会からマスターが派遣されると言う情報を事前に得て、いざ戦いを挑みに来たのだが、着いてみれば全く人の気配がなく、あったのは大量の古い血痕と治療したであろう道具が放置されている部屋だった。

 

「ねぇアーチャー、これどう思う?」

 

「短絡的に考えれば我々より前に誰かが来て一戦交え、此処を拠点にしたマスターが敗退した、その後一般人が来て応急処置をして病院にでも連れて行ったとするが・・・・」

 

「ええ、倒したマスターの息の根を完全に止めないなんて不合理だし、予想外の事で生き残ったとして一般人が発見したとしても騒ぎはおろか噂にすらなっていない、綺礼が情報工作をしたとしても近所が余りにも普通すぎて不自然よ」

 

 凛は床にしゃがみ改めて血痕を触る。

 

「それにこの血痕、一日二日のものじゃないわ。聖杯戦争開始は昨日の夜、明らかなフライングに不可解な現場・・・・・もしかして魔王が絡んでんのかな?」

 

 凛の行き着いた結論にアーチャーは眉をひそめる。そもそも彼女が戦いを急くのはサーヴァントを一騎討ち取れと言う魔王の挑発が基だ、それをストレートに指摘しても逆効果になりかねないし理論的に説いても通じるかどうかは疑問だ。

 故に簡潔かつ無難な言葉を口にした。

 

「それは勘か?」

 

「ええ・・・私の心がそう言ってるだけで根拠はないわ」

 

 凛は立ち上がりアーチャーに向き直る。

 

「アンタの言いたい事はわかる、確かに早計は禁物だし私は魔王に固執しているわ。でもねアイツは天才的頭脳を持った最悪の犯罪者、その思考は私たちが測り知れないもの何をしてくるのか解らない。最大限、警戒するに越したことはない」

 

「成る程、私情が混じってる自覚はあるがそれで視野を狭める事ないか。改めて感服したよ凛、我がマスターよ」

 

 苦笑しながらも賛辞を送るアーチャーに凛は照れたようにそっぽを向く。

 

「と、兎に角もうここに用はないわ。別の所を見回りに行くわよ」

 

 

 

***

 

 

―――三日目

 

 冬木教会の私室で言峰綺礼は新聞の三行広告を凝視していた。

 〝輝く貌の後任へ、第一の霊地で、バゼット達が待っている〟

 この意味は綺礼にとって至極簡単だった。輝く貌は前回のランサー『ディルムッド・オディナ』の二つ名だ、その後任とは今回のランサーのことだ。第一の霊地とは柳洞寺を指し、バゼットは言うまでもなくランサーの本来のマスターだ。達と言う表現からして、この文は〝ランサーへ柳洞寺でマスターとサーヴァントが待っている〟と言うことだろう。

 

 しかし綺礼はその意味よりもやり口のほうが引っ掛かっていた。かつて自分を利用した魔王と名乗るマスター、当時も手紙と電話越しの声による迂遠なやり口で自覚する事無く誘導された。

 

(まさか、生きていたのか?いやそんな筈はない・・・・だが・・・)

 

 答えの出ないループに嵌りそうになるが、思考を切り替えて回避する。バゼットから奪ったランサー、その役割は敵の陣営を探ることにある。未だに接触できていないのは二組、新聞の挑戦状の主はそのどちらかの可能性が高い。ならばこれまで通り向わせて適当な所で切り上げるのが上々だが、万が一にも自分が思い浮かんだ相手なら最後までやらせてみたい。

 

(もしそうであるならギルガメッシュの戦意も高まる。ただの偶然だった場合でもバゼットと縁のある者なら捨て置けん)

 

 リスクとメリットを吟味し綺礼はランサーに掛けた令呪を解く決断をした。

 

 

 

***

 

 

 同じ頃、セイバーも新聞を凝視し首を傾げていた。

 

(輝く貌は前のランサー、霊地は柳洞寺で間違いないが最後のバゼットとは何者だ?)

 

 文面からすれば柳洞寺にランサーを呼ぼうとしているのは解るが、何の為に更に大衆に回る新聞を使うというやり方も解せなかった。

 

 直接柳洞寺に出向いて調査するのがベストではあるがマスターである士郎は今は不在であり、相手の意図がまるで見えてこない懸念に加え、この事を説明しようとしたら切嗣のことも説明しなければいけないかもしれない私情もあって行動を躊躇わせていた。

 

(士郎には柳洞寺で何かが起こる。それを主にして慎重に話をするべきか・・・)

 

 マスターとは言え、いやマスターだからこそ前回の聖杯戦争について何処まで話すべきか、セイバーは何ともいえないジレンマに陥りながらも思案を続けていた。

 

 

***

 

 

 夜、円蔵山。

 柳洞寺に続く石段の前でランサーは闘争心をみなぎらせていた。不本意にマスターを変えられ全力で戦うことが出来ない縛りを与えられていたが、今から始まるだろう戦いにはそれはない、出来ればセイバー級の敵であって欲しいと期待し軽々と石段を登っていく。

 途中、本来の召喚者であるバゼットが持っていたルーン石の耳飾がこれ見よがしに置いてあり、そこには柳洞寺から逸れた脇道があった。

 

(戦うのはこの先でって事か。面白れぇ)

 

 しばらく進んでいくと大きな空洞がありスーツ姿の褐色の女性が待っていた。付いて来いと無言のまま歩いていき、そのままに空洞に入ると程なくして黒いコートを着た男が待っていた。

 

「よぉ、お前が魔王か?色々と話は聞いてるぜ。サーヴァントだったのは以外だったな、見たところそっちの女もサーヴァントだな、ずっと探してた奴らと揃って会えるとはな」

 

 飄々とした口調で槍を構えるランサーに魔王も余裕で返す。

 

「随分と気合が入っているようだが、セイバーの時同様に途中退場したりしないよな」

 

「いいや、それはない。今の雇い主からはお前は絶対倒せと言われてるからな、だからお前には感謝してるぜ、二人掛かりで来ても文句はねぇ」

 

「残念ながら彼女は居るのは別の役割があるからだ」

 

 魔王の目配りにアサシンは右手を挙げ口ずさむ。

 

「私、静寂のハサンはこの場の戦いの立会人として存在し、どちらが勝とうと勝者の不利になる事は全力で阻止することを此処に誓います」

 

 その宣誓に目を見開きながらも益々気を良くしたランサーは改めて槍先を魔王に向ける。

 一方魔王は自然体のまま立っているだけで隙だらけだが、ランサーの本能が警戒を告げている明らかに何かが有ると見たほうがいいだろう。

 

(だがどう見ても力や技で戦うタイプじゃない、言峰から聞いた話だと謀略に長けた男だとのことだが、この決闘方式からして何かの罠か?)

 

 足を動かし魔王の周りを回りながら打って出るタイミングを窺うランサー、一方魔王は視線をランサーに定めるだけで一歩も動かない。嘘か真か強者の余裕が感じられる姿、ランサーの闘志は極限まで高まり、とうとう打って出た。

 

「ハァーーーー!!!」

 

 魔王に向かい真っ直ぐに槍を突き出すランサー、だが届く前の空間で爆発が起こり槍が跳ねる。そうして出来た隙に魔王はランサーに向けて指を鳴らす、その瞬間ランサーのいた場所が続けざまに三度爆発する。

 されど其処にランサーの姿はなく側面の壁に槍を突き刺し退避していた。

 

「面白れぇ真似するじゃねぇか。ただの爆発じゃねぇなドス黒い魔力を感じる、あれが貴様の宝具か?」

 

「いいや、とある魔術師が残した爆薬類を私の魔力でコーティングした武装だ。基本的には唯の爆弾と変わらないから対魔力は役に立たんぞ」

 

 再びランサーに向けて指を鳴らす魔王、唯の爆弾といいつつも付加された汎用性と底上げされた威力は凶悪の一言に尽きる。

 ランサーも縦横無尽に飛び回るも着地した瞬間に足元が爆ぜるのは神経を削り、おまけにパターンを読みきったのか誘導しているのか爆ぜるタイミングはどんどん早くなっている。

 

「どうした?このままではジリ貧だぞ」

 

 安い挑発を口にする魔王、その姿は隙だらけだが油断が感じられない。挑発に乗って突っ込んでいったらタダでは済まないだろう。しかしそんな危険(スリル)に満ちた現状は逆にランサーを興奮させた。

 

「いいねぇゾクゾクするぜ!ならばその心臓、貰い受ける!!」

 

 移動しながらもルーンを描き爆発の威力を軽減させながら速さを吊り上げ、空中に飛び散った岩の破片を足場にして一気に魔王に迫る。撃墜の為の爆発を起こすも間に合わずとうとう槍が魔王に届いた瞬間、魔王は不敵な笑みを浮かべ彼自身が爆発した。

 

(自爆!!?)

 

 今までとは段違いの威力にランサーも吹き飛ばされ辺り一面を爆煙が覆う。体勢を立て直そうとした瞬間に背後から気配を感じ振り向くと魔王が正拳突きを放ってきた。されどその突きは常人のレベル、かわすのは造作もないが魔王は拳が届く寸前に手を開き瞬間、ランサーの顔面が爆ぜた。

 

「がぁあああ!」

 

 右目が殺られるも戦意は衰えず残った左目の端で捕らえた人影に槍を振るうが切り裂いたのはコートだけで段違いの爆発がダイレクトにランサーを包んだ。

 

 煙が晴れていく中、スーツ姿の魔王はワザとらしく嘆息した。

 

「せっかく奮発して二着もコートを駄目にしたと言うのに、中々にしぶといな」

 

「オレの命がコート二着だってか?笑えねぇ冗談だな」

 

 右目を押えつつもそれ以外は致命傷を負っているようには見受けられない。ランサーの周りには移動中に描いてたものとは違うルーン文字が輝いていた。

 

「あの一瞬でよく間に合ったな。それとも切り裂く前には描き終わっていたのかな?」

 

「さぁ、どっちだろうな?貴様こそ自爆したと思った時は驚いたが全くの無傷とは恐れ入ったぜ」

 

「自分の能力で殺られるような馬鹿じゃないさ」

 

 お互いに飄々とした口調だが戦闘、会話共に魔王が主導権を握っている。ランサーは敗走が許されないアトゴウラのルーンを描き次で勝負に出る覚悟を決める、それ以外に勝機はない。

 

「ハッ、言うねぇ。だったらオレの宝具(ちから)で殺ってやるぜ!!」

 

 覚悟と殺意と魔力を槍に込め構えるランサー、一方魔王は相変わらず隙だらけでありながらも余裕の態度を崩さない。あくまで受けに回る魔王にランサーは真名解放し宝具を発動させた。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 紅い槍が妖しく輝き『心臓を貫く』と言う結果が作られ、槍は寸分の狂いもなく魔王の心臓を貫く筈だった。されど心臓の手前で槍は止まり紅い槍は黒く変色していく、この予想外の展開にランサーは声もなく驚愕する。

 

「・・・・・・!!!」

 

 そして、そんな決定的な隙を見逃す魔王ではなく左手でランサーの腕を押え、喉下に右手の二本指をつき立て爆ぜる。

 今度こそ致命傷を負わされ倒れるランサー、その表情は〝何故だ?〟と訴えており冥土の土産に種明かしを始める。

 

この世全ての悪(アンリ・マユ)。それが私の唯一の宝具、力の正邪を問わず全てを真っ黒に塗りつぶし封殺する能力、君の槍の呪い程度どうとでも押さえ込める。

 それと事のついでに教えておこう。君の本来のマスター、バゼット・フラガ・マクレミッツは安全な所に匿っておいたから安心しろ」

 

 魔王の説明が終わるとランサーは驚愕から挑戦的な笑みを浮かべ完全に消えた。それと同時に何者かが一人去っていくのを感知していた。

 魔王はアサシンから最後のコートを着せられながら尋ねた。

 

「去っていったのは何者か解るか?」

 

「紫の髪が一瞬見えたのでライダーのサーヴァントかと」

 

「そうか意外だな。あのメッセージの意味が解るのは言峰とセイバーくらいだと思っていたのだが、ライダーは間桐のサーヴァントだったな。そこに前回の事を知っている輩が居たということか」

 

 その時、魔王は前回キャスターが間桐邸には人間以外の何かが居ると言う話を思い出したが、代理マスターの件を考慮すると積極的に関わるつもりはないだろうと判断し最低限の警戒を怠らないように留めながらも利用できるかどうかを検討していた。

 

「アサシン、ライダーの代理マスターは確か遠坂と衛宮と同じ学校に通っているんだよな?」

 

「はい、その通りです」

 

「・・・・そうか。アサシン、しばらくこの近くに留まるからお前は周辺を見張れ、もし休んでいる間に客が着たら丁重に俺の前に通せ」

 

 魔王の命令が出された瞬間に霊体化し離れていくアサシン、自身は客が来た時に持て成す物を買いに行く。

 

(とりあえず明日一杯は待つが、それが過ぎたら予定通り次のイレギュラーを始末するとしよう。そうすれば後は――――――――――)

 

 

 




 力押しの意味は全てを宝具で押さえ込んでしまうと言う事で了承してくれるとありがたいです。



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